超能力者の私生活

盛り塩

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第128話 隠された記憶㉕

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 ギギギ……と鈍い動きで破壊された右腕を見つめる瞬。

 先生の結界弾すら跳ね返した硬い骨格に自信があったのか、彼は意味がわからないとばかりに百恵ちゃんを見返した。
 対して百恵ちゃんは冷ややかな目線のまま語る。

「……吾輩のガルーダをそこらの爆薬と同じに考えておるとしたら、それは大きな間違いじゃぞ……」
 そして手を天に掲げ、

「――――ガルーダ」
 振り下ろす。

 と、――――ズドドドドドドムッ!!!!
 今度は瞬の左足が吹き飛んだ。

「貴様の骨格がどんなに頑丈だろうと、吾輩のガルーダは――――、」

 ――――ズドドドドドドムッ!!!!
 さらに右足が爆発する。

 ガシャンッ。
 両足を破壊された瞬は壊れた人形のように崩れ落ちる。

「その組織の内部――――細胞の隙間隙間に入り込んで種を植え付ける事が出来る」

 ――――ズドドドドドドムッ!!!!
 そして左腕。

「……内側から無数の爆破を食らっては、自慢の装甲もたまらんようじゃなぁ!!」

 ――――ズドドドドドドドドドドドドドドドムッ!!!!
 そして腰骨と肋骨が爆発。

 残ったのは頭部とそこから伸びる背骨だけになった。

「…………ふん、また元の姿に戻ったのう? ……じゃが、もう油断も容赦もせん……」

 そう言って冷ややかな目の奥に炎を灯す百恵ちゃん。
 一番硬い頭蓋骨に覆われた瞬の頭部だが、彼女のガルーダにはまるで意味がない。

「――グルゥギギギィ!!!!」

 ――――シュッ!!!!

 能力で浮き上がり、逃げようとするが、しかしガルーダはテレポート属性。速さで逃げられるものでもない。
 中にある脳、眼球、肉組織――――全ての隙間にガルーダは爆弾の種を植え付ける。

「貴様への借りはこれで返すぞ、消えてなくなれぃっ!!!!」
 両手を掲げ――――、

「怒れっ!! ガルーダァァァァァァァァァッ!!!!」
 叫び、振り下ろす!!

 ――――ボッ!!!!
 一瞬だけ、瞬の頭が膨れ上がったかと思うと、

 ――――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドムッ!!!!

 小さな、しかし無数の炸裂が残った全身を襲った。
 その爆発は繋がり、大きな爆発へと変わる。

 ゴバァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 炎の無いその爆発は、彼の肉体が粉々に砕け散り霧散する様子を鮮明に伝えてくれる。
 そうして瞬は文字通り、塵となって空に消えて行った。



 ――――どしゃっ!!
 百恵ちゃんが力尽きて倒れた。

「百恵さん!!」
 そこへ菜々ちんが走っていき、彼女を抱きかかえる。

「…………ぐ、すまんのぉ……いまので一気に精神力を使い切ってしまった」

 さっきの技――――無数の極小爆発を作り出すのはやはり相当な負担なのだろう。
 全回復で復活したはずの百恵ちゃんが、もうすでに満身創痍である。
 連発は出来ない、彼女の奥の手だったのだろう。

「いいえ、百恵さんのおかげでみんな助かりました、ありがとう御座います!!」
 涙を浮かべて菜々ちんがお礼を言う。

「……ふん、なにを言うか、吾輩は戦闘班の隊長じゃぞ? むしろおヌシらに怪我をさせてしまった落ち度を謝りたいくらいじゃ」
 そして彼女は私に顔を向けて、

「ヒロインもすまなかった……助けられたな。この借りはいつか必ず返そうぞ……」

 彼女には珍しく素直な表情でテレたように私にそう言ってくれたが、残念な事にその顔を私はあまり覚えていなかった。
 その時にはすでに私は安堵で気を失っていたからだ。

 結局、この戦闘で無事だったのは菜々ちんと426番さんだけだった。
 それだけ瞬は――――いや、彼に掛けられた謎の能力が強力だったという事である。
 瞬を倒してしまい、能力も消えて謎だけが残ったが、きっとこの黒幕とは因縁が繋がっているだろう。

 根拠はないが直感でそう感じた。




「――――て、起きろ~~~~~~~~いっ!!!!」
 落ちた私を強制的に引き戻す百恵ちゃん。

「な……あが、あが、だめ……もう寝かせて……」
 虚ろな目と、ヨダレを垂らした口で弱々しい抗議をするが、

「まだじゃ!! まだ治してほしい人間がいるんじゃーーーーっ!!!!」
 そうして彼女は姉と323番さんを指差す。

 ――――あ、ホントだ。

 先生もマズいが、323番さんがヤバい。
 首を半分くらい切断されて、すでに流れる血も尽き意識も無くなっている。
 しかし今のうちならラミアの回復できっと助けることが出来る。
 問題は、私の精気の補充だが――――、
 ジト……と菜々ちんを見つめる私と百恵ちゃん。

「……う……」

 一瞬もの凄く嫌そうな顔をした彼女だが、仲間の人命が掛かっているのだ、拒否はしなかった。

「……では、頂きます。ぐふふふふふ……」
「あ、あの宝塚さん、せめてそのいやらしい表情はやめて貰えますぅぅぅぅ~~~~~~~~ーーーーーーーーっ!!!!??」

 掴んだ腕から精気を強制吸引する。

「おほほほほほほほ♡ やっぱりむさ苦しいオジさんより、べっぴんさんの養分は美味ですなぁ~~~~~~~~♡」

「へ……変なこと言わないでくだ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーぐふっ!!」

 そうして無傷で残ったのは426番さんだけとなった。
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