超能力者の私生活

盛り塩

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第152話 決意と結束

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「マユっち…………」
 真唯さんのお墓の前で先生が悔しそうに肩を落とした。
 親友の死に、死ぬ子先生にいつもの覇気はなく、ただ静かにお線香を上げるだけ。

 ゆらめく煙がより一層寂しさを強くした。

 あまりに突然で、そしてあっけない死。
 どうしてこんな事になっているのだろう? 

 真唯さんのお墓を眺めながら実感なく私は立っていた。
 真唯さんの死については片桐さんが先生に全て説明した。
 それでも先生は彼女を責めることはなく、むしろ苦痛なく殺してくれた事に感謝していたが、それでも片桐さんは直接手を下した罪悪感からか、真唯さんの葬儀には現れなかったと言う。

 それを聞いて、あらためて私たち超能力者が如何に危うい存在なのかを痛感する。
 そしてその事態を回避させられなかった自分を不甲斐なく思った。

 「……仕方ないわよアマノウズメの能力を考えたら、あなたの回復を使うわけにはいかないものね……。それにマユっちを処分すると言ったのは私よ、あなたが気に病む必要は全く無いわ」
 そう言いながらも先生は、膝の上に置いた拳を強く握りしめる。

 理屈と感情が整理出来ないでいるのだろう。
 私も同じだからその気持は手に取るようにわかった。

 真唯さん……私にとってはほんの一日足らずの付き合いだったが、刑事の内藤さんといい、診療所に集まった患者さんといい、彼女を慕う人達の顔を見ていかに真唯さんが人格者だったのかがわかる。
 かつて先生が「正義の味方気取りの物好きがいる」と語った事があったが、それはもしかして真唯さんの事だったのかもしれない。

「――――さて、」

 線香を上げて、手を合わせると先生はすぐさま立ち上がり大きく深呼吸をした。
 そして私を見下ろし宣言する。

「これで、私とあの封印の男との因縁は解けないものになったわ。私はこれから命をかけてこいつの命を取りに行く。――――だから、あなたとの師弟関係もこれでお終い。後任は所長に頼んでおいたから。短い間だったけど楽しかったわ」
「え……?」
「生徒を抱えながら敵討ちなんて、器用なマネは出来ないからね」

 おどろく私を置き去りに、先生は「それじゃあ」と寂しく微笑むとその場を去っていく。

 私はその後ろ姿をただ黙って見ている事しか出来なかった――――と、思わせて、

 ――――ずどっ!!!!
 指カンチョーを先生の下《しも》の蕾《つぼみ》に食らわせてやった!!

「はうぁっ!!!! ば、ばかやろぉーーーーっ!???」
 衝撃で20センチは飛び上がる死ぬ子先生。

「なに一人でカッコつけてんですか気持ち悪い」

 指を拳銃に見立ててフッと息を吹く私。
 ケツを押さえ、芋虫のように地面を這いつくばる先生に足を乗っけて言ってやる。

「ベヒモスを消滅させるのが私の目標だって言いましたよね? その男が真唯さんや瞬のベヒモス化に関与していると言うのなら、当然私も付き合います。それに先生一人でどうやって戦うって言うんですか? 今回だってほとんど死んでたくせに!!」

 私の指に片方の操《みさお》を奪われた先生は涙顔で叫び返す。

「これから先は実習じゃないの!! JPA監視官の威信を賭けた本気の捕物が始まるのよ。生徒のあなたを巻き込む訳には行かないでしょうが!!」
「もう充分巻き込んでますよ!! あんたのおかげで私、三回は死にかけてるんですからね!! それ以上に危険だって言うならなおさら私の能力が必要でしょう??」
「う……で、でも生徒の力を教師が当てにするわけにはいかないわ!!」
「残念でした~~~~!! 私はもう先生の生徒じゃありません~~~~だってたったいま本人からクビって言われたもんね~~~~!!」

 ベロベロバーと屁理屈を言ってやる。

「――――くっ……だ、だからってあんた――――っ!!」
 まだ何か言おうと先生が口を開こうとしたとき、

「オジサマの許可なら取ったぞ?」

 知っている声が聞こえた。

「宝塚さんがやるって言うんなら私たちもやらないと、だってチームって言われましたしね、先生にね?」
 そしてもう一つ知っている声。

 ――――百恵ちゃんと菜々ちんだった。
 喪服代わりの制服を着込んだ二人がお墓の間を並んで歩いてくる。

「あ……あんたたち……」
「今回の事件は私たち訓練生にとっても他人事じゃありません。もうすでに事情に深く関わり過ぎています。ならばどのみち危険性は大差ないだろうと所長が先生に付いていく許可をくれました」
「と、言うわけで我等三人は今から訓練生改め、七瀬監視官指揮下の新人捜査員(仮)に任命されたぞ。姉貴、よろしくな」

 そう言って二人は死ぬ子先生に握手を求める。

「よ……よろしくってあんた……」
「吾輩もあの黒幕には借りがあるからの、たっぷり礼を返さねばならん」
「私は宝塚さんに借りがあります。でも無くたって協力しますよ? チームですからね?」
 そう言って再び先生に笑いかける菜々ちん。

 私たちをチームに任命したのは先生だ。それを今更無かった事になど――――まぁ、この先生ならやりかねないが、しかし私たちはそれを受け入れるつもりはない。
 そんな決意の目を見て諦めたか、先生は大きなため息を吐いて頭を掻きむしった。

「あ~~~~もう、わかったわよ!! でもその変わり途中で泣き言いうんじゃないわよ。ついてくるからには馬車馬のようにこき使ってやるからね? 危険手当も出ないわよ!!」
「望むところじゃっ!!」
「私も片桐さんの元で鍛えられましたから大丈夫です」

 二人が先生と固い握手を交わした。
 私も、慌ててその輪に入って行った。

 だが、この輪の結束は、思いも寄らない人物によって揺るがされる事になるのを私はこの時点で想像すら出来ないでいた。
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