超能力者の私生活

盛り塩

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第171話 杭①

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「ラミアっ!!」
 障害は排除した。後は彼女を回復させ、暴走を治めるだけだ。

「きゅうぅぅぅぅっ!!!!」

 ラミアの回復が始まる。
 私の手を伝って黄金の光が渦女を包んだ。

 ――――よし、これでもう彼女は大丈夫だっ!!
 問題は私の精力がほとんど残って無いことだが、それも大丈夫、この騒ぎで辺りはとっくに野次馬で溢れかえっている。

 吸収の蛇を飛ばせば、彼らから充分な精気を持ってこれるだろう。
 罪もない一般人をむやみに攻撃するのには抵抗があるが、しかし緊急事態だ。それに殺すわけじゃない。になってもらうだけ。
 危険な場所に興味本位で近寄った自業自得と諦めてくれ。

 ピシピシと音を立てて乾いてくる皮膚。
 彼女の回復を代償に私のミイラ化が始まる。

「ラミア、収取よっ!!」
「ぎゅううぅぅぅっ!!!!」

 同時に私の髪の毛が蛇へと変わる。
 この蛇が一体一体独立し、周囲の者から精気を奪ってくるのだが、欠点が一つ。

「百恵ちゃん、これ制御出来ないから出来るだけ避けてねっ!!」
「な、なに!? おい、ちょっと待て」

 そして放たれる無数の蛇!!
 解き放たれた蛇たちは敵味方関係なしに襲いかかり、私に精気を運んでくる。

「くそ、この……薙ぎ払えガルーダッ!!!!」
 どかんどかんと襲いかかってくる蛇を撃退している百恵ちゃん。

「痛い痛いっ!!」

 蛇が潰される度に私にも痛みが伝わってくる。
 身を守る為だから仕方ないとはいえ、元は髪の毛なんだぞ、禿げたらどうしてくれる!!

「お、おい何だこの蛇っ!! おいやめろ!! 来るなっ!!!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 野次馬たちは突然襲いかかってきた謎の光る蛇に騒然となっていた。
 噛みつかれた者はみな精気を吸い取られ地面に倒れていく。

 それを見て毒蛇だと勘違いし逃げ惑う者。
 身の危険より承認要求を優先して動画を取り続ける者。
 どうするつもりか知らないが捕まえようとする者までいる。

 吸収を完了した蛇から順に戻ってくる。
 その度に私の体力は回復していき、みるみる肉付きも戻っていった。

「よしっ!!」

 これで正也さんも回復させられる!!
 充分な精気を吸収した私は、次の目標を彼に変えて渦女から手を離そうとした。
 でも。
 ――――だらり、ごすっ。
 と、なぜか彼女は糸が切れた人形のように頭から地面に崩れ落ちる。

「――――え?」

 意味がわからず彼女を見下ろした。
 渦女のベヒモス化は解除され、もとの人間の姿に戻っている。
 消滅した腕も回復して身体は全回復しているはずだ。
 しかし、私の目の先に倒れている彼女からは生気が感じられなかった。

「ねえ、ちょっと……」

 真っ青な顔に手を当てる。
 息も、脈も、体温も、何も何じられなかった。
 つまり……彼女は死んでいた。

「な……んで?」
 呆然とする私に、野太い声がかかった。

『は……はははははは、宝塚くん……キミも大胆な事を……してしまったな』

 それは真唯さんのファントム『アマノウズメ』から発せられたあの声と同じもの。
 それが今度は正也さんから発せられていた。
 背骨が折れ、皮一枚だけで地面に引きずられている上半身。
 半分が破壊され脳味噌がはみだしているその頭部の口がぎこちなく動く。

『彼女の話を……聞いていなかったか……? ……彼女の命は……我が、マステマと同化していたと……』

 それを聞いてハッとする。

(そうや……成約は二つ。一つは『マステマ』に己の支配を委ねること。もう一つは……その贄として命を差し出すことや)

 支配を委ね……命を差し出す……?

 戦闘中だったこともあって、深く考えていなかった。
 成約に従い、差し出された彼女の命がどこにあったかなんて。
 回復術を届かせるため邪魔なマステマを破壊した……。
 まさか……まさかそこに――――?

『宝塚くん……キミも……僕と同じ……』
 野太い声が――――いや、所長が嬉しそうに言葉を続ける。

『仲間ごろ――――』

 ――――グドムッ!!!!
 言葉が終わらぬうちに正也さんは四散した。

 飛び散る肉片と血しぶきが私に降り注いだ。
 百恵ちゃんがこちらに手を向けて険しい顔をしていた。
 ゴロリと転がってくる正也さんの頭部。
 首だけになってもソレは口を動かした。

『殺したのは……キミだよ』

 声は出てなかったが、そう動いていた。
 そして正也さんの頭はもう二度と動くことは無かった。

「私……が、殺した……渦女を…………」

 跪き、自分の手をみて呟く。
 そんなつもりじゃなかった。
 私は彼女を助けようと……。
 
 ――――ポツポツポツ。
 
 雨が降ってきた。
 やがてそれは大粒の雫となり、私を責めるように叩いてきた。
 横たわる渦女の顔が雨に濡れて泣いているように見える。

「ご……ごめんなさい」

 呆然としたまま、私は彼女に謝っていた。
 手を震わせたまま。

「おい、ヒロイン」
「……………………」
「おい!!」
「……………………」

 ――――ごすっ!!

「痛っっっっつっ!!」

 百恵ちゃんのゲンコツが脳天に打ち下ろされた。
 私は彼女を泣きそうな顔で見上げる。

「おヌシが殺したのはっ!?」

 答えてみろとばかりに睨みつける百恵ちゃん。
 私は目を踊らせながら蝋人形のように動かなくなった渦女を見る。

「う……うずめ――――」

 彼女の名を口にしようとすると、ガッと頬をつまんで百恵ちゃんがそれを言わせまいとする。

「敵じゃ! 異端者じゃ!! ベヒモスじゃっ!!!! お前が倒したのはそうするべき相手だったのじゃ!! 惑わされるなっ!!」

 大粒の雨に叩かれながら、私は彼女が伝えたいことを理解する。

 しかしそんな理屈とは全く関係なしに、手の震えは治まらなかった。
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