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第172話 杭②
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「姉貴っ!! 大丈夫か!? 起きろっ!!」
クシャクシャにひしゃげた運転席と助手席。
正也さんによって引きちぎられ、アスファルトに叩きつけられたその車の前半分には死ぬ子先生と菜々ちんが乗っていた。
「……何とかね……死んじゃいないわ……」
割れて波打つフロントガラスと屋根の鉄板に挟まれながら先生は返事をした。
100キロを超える速度で落下した車体の変形は酷く、普通なら中の人間は生きていないだろう状態の酷さだが、先生が結界の盾を張ったのだろう、何とか二人は生きているようだった。
とはいえ一人ならまだしも、二人分の結界を張るのは無理があったらしく、完全にダメージを消したわけではなく、先生の頭からは血が流れていた。
「菜々、おい菜々っ!! しっかりするのじゃっ!!」
百恵ちゃんがぐったりしている菜々ちんを運転席から引っ張り出そうともがいている。彼女にひどい怪我はなかったが、先生と同じく頭から血を流して意識を失っていた。
「おいっ!! ヒロイン、ボサッとしとるでないわ!! 菜々を出すのを手伝え、足が抜けんのじゃっ!!」
「――――……あ……」
私はまだ渦女の側に座って動けないでいた。
正也さんの頭も目の前に転がっている。
知っている顔の死体に囲まれて、私はいままで麻痺していた年相応の感覚を思い出していた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ガタガタと震えながら二人の躯を見ていた。
え? なんで? どうして正也さんが首だけになって私を見ているの?
ついこの間まで一緒に柔道やってたよね?
私……ボヤいてたけど……まんざらでもなかったし――ちょっと好きだったし。
その彼を百恵ちゃんが殺した。
そして私は……正也さんの……たぶん恋仲だったんだろう渦女を殺した……。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!
こんなのは違う!! こんなのは現実じゃない!! だっておかしいじゃないか!? どうして仲間同士で殺し合っているの!??
所長が異端者になったから? 正也さんたちが裏切ったから??
違う違う!! それで殺し合うなんておかしい。意味がわかんない!!
閃光が瞬いた。
見ると、こっちに向かってカメラや携帯を構える一般人たちの姿があった。
私に奇異な目を向けながら、みんな私の姿を記録している。
まるで大罪悪人でも裁くかのように。
(敵じゃ! 異端者じゃ!! ベヒモスじゃっ!!!! お前が倒したのはそうするべき相手だったのじゃ!!)
百恵ちゃんが言ってくれた言葉が頭に繰り返される。
それにすがり付いている私と、その言葉が届かず、震え続けている私がいる。
「やめて……やめて……撮らないで……やめてーーーーーーーーっ!!」
気がつけば、私はその人たちに向けて叫んでいた。
必死に自分の罪を隠すように。無様に。
そこに――――、
――――ガンガンガンガンッ!!!!
突然いくつもの銃声が響いた!!
音と供に血を吹き、倒れる野次馬たち。
振り返るとそこに先生が立っていた。
両手に拳銃を持ちながら。
騒然となる周囲。
逃げる者が数名。しかしほとんどの者はその場にとどまり動画を回し続ける。
その彼らに歩み寄り、途中で私の頭をどついて先生は私を隠すように前に立った。
そしてゆらりとその両腕を持ち上げると、
――――ガンガンガンガン!! ガンガンガンガン!!
野次馬にむかって引き金を引きまくった!!
ちゃりんちゃりんと薬莢が散らばり転がる。
途中――ガコンッとマガジンを落として代わりを差し込みまた撃つ。
逃げ惑う一般人たち。
それでもまだ、恐怖よりも興味と手柄の魅力に取りつかれている者はカメラを回し続ける。その頭を容赦なく突き抜ける弾丸。
バタバタと車のドアが締まり逆走して逃げようとするが、いつの間にか道路は渋滞が出来ていてすぐにつっかえてしまう。
そんなパニックになっている連中に先生は無表情のまま弾丸を撃ち続けた。
みな車を捨てて走って逃げていく。
やがて数十体の死体を作り上げ、人がいなくなったとき、先生が振り向いた。
そして私に聞いてきた。
「どう?」と。
…………どうもこうも。
私のキャパを超える惨劇に答えを失っていると、
「自分が馬鹿みたいに見えたでしょ?」
嘲笑ってきた。
「いまので何人殺したかしらね……二十人くらいかしら? 私、大悪党よね?」
「そ……それは……」
その通りなのだが、しかし今のは私たちの秘密を守るのに仕方のない行為だったのだろう。一般人と超能力者の共存がいかに難しい事かは、自分自身の経験と仲間たち過去を聞いて、私にもそろそろわかってきた。
彼ら一般人に、私たちの情報を与えてしまうと言うことは、その量に比例してトラブルも増えるという事だ。そしてそのトラブルは、お互いの立場と生活を守るために大量の血を流すことになる。
なのでそうならない内に少人数を殺し、情報を遮断するというのは結果的に最善の行動なのだろう。
それは正義か悪かなどの物差しで測れないことなのだと思う。
「さ、立ちなさい。悩むななんて言わないから。いまこの場に私たちが留まっていると、もっと殺さなきゃいけないことになるわよ?」
遠くから緊急車両のサイレンが聞こえてきた。
私はその言葉に引っ張り上げられて、何とか立ち上がることが出来た。
クシャクシャにひしゃげた運転席と助手席。
正也さんによって引きちぎられ、アスファルトに叩きつけられたその車の前半分には死ぬ子先生と菜々ちんが乗っていた。
「……何とかね……死んじゃいないわ……」
割れて波打つフロントガラスと屋根の鉄板に挟まれながら先生は返事をした。
100キロを超える速度で落下した車体の変形は酷く、普通なら中の人間は生きていないだろう状態の酷さだが、先生が結界の盾を張ったのだろう、何とか二人は生きているようだった。
とはいえ一人ならまだしも、二人分の結界を張るのは無理があったらしく、完全にダメージを消したわけではなく、先生の頭からは血が流れていた。
「菜々、おい菜々っ!! しっかりするのじゃっ!!」
百恵ちゃんがぐったりしている菜々ちんを運転席から引っ張り出そうともがいている。彼女にひどい怪我はなかったが、先生と同じく頭から血を流して意識を失っていた。
「おいっ!! ヒロイン、ボサッとしとるでないわ!! 菜々を出すのを手伝え、足が抜けんのじゃっ!!」
「――――……あ……」
私はまだ渦女の側に座って動けないでいた。
正也さんの頭も目の前に転がっている。
知っている顔の死体に囲まれて、私はいままで麻痺していた年相応の感覚を思い出していた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ガタガタと震えながら二人の躯を見ていた。
え? なんで? どうして正也さんが首だけになって私を見ているの?
ついこの間まで一緒に柔道やってたよね?
私……ボヤいてたけど……まんざらでもなかったし――ちょっと好きだったし。
その彼を百恵ちゃんが殺した。
そして私は……正也さんの……たぶん恋仲だったんだろう渦女を殺した……。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!
こんなのは違う!! こんなのは現実じゃない!! だっておかしいじゃないか!? どうして仲間同士で殺し合っているの!??
所長が異端者になったから? 正也さんたちが裏切ったから??
違う違う!! それで殺し合うなんておかしい。意味がわかんない!!
閃光が瞬いた。
見ると、こっちに向かってカメラや携帯を構える一般人たちの姿があった。
私に奇異な目を向けながら、みんな私の姿を記録している。
まるで大罪悪人でも裁くかのように。
(敵じゃ! 異端者じゃ!! ベヒモスじゃっ!!!! お前が倒したのはそうするべき相手だったのじゃ!!)
百恵ちゃんが言ってくれた言葉が頭に繰り返される。
それにすがり付いている私と、その言葉が届かず、震え続けている私がいる。
「やめて……やめて……撮らないで……やめてーーーーーーーーっ!!」
気がつけば、私はその人たちに向けて叫んでいた。
必死に自分の罪を隠すように。無様に。
そこに――――、
――――ガンガンガンガンッ!!!!
突然いくつもの銃声が響いた!!
音と供に血を吹き、倒れる野次馬たち。
振り返るとそこに先生が立っていた。
両手に拳銃を持ちながら。
騒然となる周囲。
逃げる者が数名。しかしほとんどの者はその場にとどまり動画を回し続ける。
その彼らに歩み寄り、途中で私の頭をどついて先生は私を隠すように前に立った。
そしてゆらりとその両腕を持ち上げると、
――――ガンガンガンガン!! ガンガンガンガン!!
野次馬にむかって引き金を引きまくった!!
ちゃりんちゃりんと薬莢が散らばり転がる。
途中――ガコンッとマガジンを落として代わりを差し込みまた撃つ。
逃げ惑う一般人たち。
それでもまだ、恐怖よりも興味と手柄の魅力に取りつかれている者はカメラを回し続ける。その頭を容赦なく突き抜ける弾丸。
バタバタと車のドアが締まり逆走して逃げようとするが、いつの間にか道路は渋滞が出来ていてすぐにつっかえてしまう。
そんなパニックになっている連中に先生は無表情のまま弾丸を撃ち続けた。
みな車を捨てて走って逃げていく。
やがて数十体の死体を作り上げ、人がいなくなったとき、先生が振り向いた。
そして私に聞いてきた。
「どう?」と。
…………どうもこうも。
私のキャパを超える惨劇に答えを失っていると、
「自分が馬鹿みたいに見えたでしょ?」
嘲笑ってきた。
「いまので何人殺したかしらね……二十人くらいかしら? 私、大悪党よね?」
「そ……それは……」
その通りなのだが、しかし今のは私たちの秘密を守るのに仕方のない行為だったのだろう。一般人と超能力者の共存がいかに難しい事かは、自分自身の経験と仲間たち過去を聞いて、私にもそろそろわかってきた。
彼ら一般人に、私たちの情報を与えてしまうと言うことは、その量に比例してトラブルも増えるという事だ。そしてそのトラブルは、お互いの立場と生活を守るために大量の血を流すことになる。
なのでそうならない内に少人数を殺し、情報を遮断するというのは結果的に最善の行動なのだろう。
それは正義か悪かなどの物差しで測れないことなのだと思う。
「さ、立ちなさい。悩むななんて言わないから。いまこの場に私たちが留まっていると、もっと殺さなきゃいけないことになるわよ?」
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私はその言葉に引っ張り上げられて、何とか立ち上がることが出来た。
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