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第173話 怨念①
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道路に抉られた溝を飛び越して車が落ちてくる。
――――ドガッシャァァァァァァァンッ!!!!
派手な衝突音とともにSUV車が私の目の前に着地した。
衝撃でバンパーは外れかかり、ボディーは凹んでしまっているが走りには問題無さそうである。
「――――ふう、さすがに撃ち疲れたようじゃ……」
汗を拭いながらくたびれたように呟く百恵ちゃん。
後続車を断ち切るために自ら抉った溝をよじ登り、フラフラと帰ってきた。
「ご苦労。いい働きだったわね、後は中で寝てていいわよ」
車のキーを回し、エンジンをかけながら死ぬ子先生は妹に労いの言葉をかける。
「そうさせてもらおうか……」
トロンとした目をして電池切れ寸前の百恵ちゃんはそのまま助手席へと入って行った。
車を破壊された私たちは、代わりを手に入れるべく、せき止めていた一般車を拝借することにした。
ガルーダの爆発で溝を飛び越えさせ手元まで運んでもらったのだが、いまの一発で百恵ちゃんの精神力は底をついたようである。
彼女はすでに助手席シートで寝息を立てていた。
私は頭を打って意識のない菜々ちんを引きずって後部座席に乗り込んだ。
能力で回復しようとした私だったが先生に止められた。
まだいつ敵が襲ってくるとも限らないし、私の回復能力は出来るだけ温存しておきたいらしい。同じ理由で先生は自分の怪我の回復も断った。
今の体型から予測するに、回復を使えるのはおそらくあと一回。
手頃に吸収できる人間が近くにいれば話は早いのだが、ここは高速道路上。そんな人間などはいない。
なので虎の子の一回はおいそれと使ってしまうわけにはいかないと言う判断だ。
「脳しんとう程度だと思うからじきに目が覚めるわよ。それまで寝かせておきなさい」
「わかりました……」
そして先生の運転で車は走り出す。
正也さんや渦女の死体が遠ざかっていく。
後ろ髪引かれる思いでそれを見送る私だが、全ては仕方がない事だったのだ。
一歩間違えたらあそこに倒れていたのは私たちだったのかも知れない。
今は考えるな。そしてもっと強くなろう。
私はその思いを胸に置き、視線を前に戻した。
しばらく走って高速道路を下りようとする先生。
「え? 下りるんですか??」
「高速道路よりも下道のほうがあなたにとって都合が良いと思って」
「???」
「いざとなったら適当な店にでも突っ込んであげるから、そこで精気を補充出来るでしょ?」
「あ、悪魔か!?」
「いざとなったら、よ。所長側の追っ手も私たちを探しているでしょうから、こちらから目立った行動をするつもりはないわ」
「追っ手って……私たちが追われるんですか?」
むしろ所長とその一派がJPAから追われる立場なはず。そんな彼らが私たちを追ってくるとはどういう事だろう?
「あの二人を殺した私たちを……所長はどう考えているかわからないけども、それ以外の者たちは恨みに思うはずよ。弔い合戦の警戒はしとくべきだわ」
「………………」
私は正也さんの部下として現われた元JPASの人達の顔を思い出す。
私たちにしてみれば裏切り者の彼らだが、重い事情を抱えた者同士の結束はきっと緩いものではないだろう。
彼らやその仲間たちはきっと私たちを許さない。
所長に加担している人間がどれほどの数いるのかわからないが、彼らからしてみれば私たちはもう仲間の敵ということか。
「もう一つは、宝塚さん、あなたの存在ね」
ミラー越しに先生が私と目を合わせてきた。
「え? わ、私? なんで私が所長に追われるんです?」
「追われるというか、手に入れたがってると言った方がいいわね」
「なんで私なんかを??」
そんな私のとぼけた返事に先生は苦笑いで呆れる。
「あのねぇ……あんたまだ自分の能力の価値を理解して無いのかしら?」
「あ、いや……理解はしていますよ。でも私……回復能力って言ってもいろいろ条件が邪魔してそんなに活躍出来てないっていうか……いまだって結局、先生や菜々ちんを回復させてあげられてないし……」
「それでも十分すぎる能力よ。あなたがいなければ、今頃この子はここにはいないわ」
そう言って助手席で眠る百恵ちゃんの頭に手を置く先生。
「JPAS戦闘員の一部が所長についたようだけど、私たちにとっての脅威は、実質あの片桐一人と思っていいわ。……今のところはね」
それを聞いて私はゴクリと生唾を飲む。
敵の戦力は片桐さん一人……しかし彼女はあのアマノウズメをまるで相手にしないほどの戦闘力を持ったJPAきってのエース監視官。
たとえ一人でも、その存在はまさに一騎当千。
並みの能力者が束になって捕らえに行っても返り討ちにされるだけろう。
「でもそれは逆に言うと彼女に何かあったら、その瞬間、所長は丸腰同然になると言うことよ?」
「そ……そうですよね……」
「でも、向こうにあなたがいたらどう?」
どうもこうも、速攻で回復してすぐ戦線に復帰させる。
「わかるでしょ? あなたがいるだけで、最強のPK能力者の残機が無限増殖するも同然なのよ。追われる身の上、戦力も乏しい所長があなたを欲しがらないわけがないわ」
片桐さんの姿を幾つも想像してゾッとなる私。
あんな人が、倒しても倒しても起き上がってくるような存在になったら、それこそ何かのホラー映画のようだ……。
「だから所長はきっと、どこかのタイミングであなたをさらいにやってくると思うわ。正也や渦女を暴走させて戦わせたのも、あなた以外の三人を排除するのが目的だったんじゃないかしら?」
「そ、そんな……」
しかし、そう言われると何も返せない。
「だから私は一刻も早くあなたを安全なところに避難させるように女将から指示を受けたのよ」
「避難ってどこに?」
「場所……じゃないわね。人ね」
「人?」
「私たちはいま料理長と合流しようとしているわ」
――――ドガッシャァァァァァァァンッ!!!!
派手な衝突音とともにSUV車が私の目の前に着地した。
衝撃でバンパーは外れかかり、ボディーは凹んでしまっているが走りには問題無さそうである。
「――――ふう、さすがに撃ち疲れたようじゃ……」
汗を拭いながらくたびれたように呟く百恵ちゃん。
後続車を断ち切るために自ら抉った溝をよじ登り、フラフラと帰ってきた。
「ご苦労。いい働きだったわね、後は中で寝てていいわよ」
車のキーを回し、エンジンをかけながら死ぬ子先生は妹に労いの言葉をかける。
「そうさせてもらおうか……」
トロンとした目をして電池切れ寸前の百恵ちゃんはそのまま助手席へと入って行った。
車を破壊された私たちは、代わりを手に入れるべく、せき止めていた一般車を拝借することにした。
ガルーダの爆発で溝を飛び越えさせ手元まで運んでもらったのだが、いまの一発で百恵ちゃんの精神力は底をついたようである。
彼女はすでに助手席シートで寝息を立てていた。
私は頭を打って意識のない菜々ちんを引きずって後部座席に乗り込んだ。
能力で回復しようとした私だったが先生に止められた。
まだいつ敵が襲ってくるとも限らないし、私の回復能力は出来るだけ温存しておきたいらしい。同じ理由で先生は自分の怪我の回復も断った。
今の体型から予測するに、回復を使えるのはおそらくあと一回。
手頃に吸収できる人間が近くにいれば話は早いのだが、ここは高速道路上。そんな人間などはいない。
なので虎の子の一回はおいそれと使ってしまうわけにはいかないと言う判断だ。
「脳しんとう程度だと思うからじきに目が覚めるわよ。それまで寝かせておきなさい」
「わかりました……」
そして先生の運転で車は走り出す。
正也さんや渦女の死体が遠ざかっていく。
後ろ髪引かれる思いでそれを見送る私だが、全ては仕方がない事だったのだ。
一歩間違えたらあそこに倒れていたのは私たちだったのかも知れない。
今は考えるな。そしてもっと強くなろう。
私はその思いを胸に置き、視線を前に戻した。
しばらく走って高速道路を下りようとする先生。
「え? 下りるんですか??」
「高速道路よりも下道のほうがあなたにとって都合が良いと思って」
「???」
「いざとなったら適当な店にでも突っ込んであげるから、そこで精気を補充出来るでしょ?」
「あ、悪魔か!?」
「いざとなったら、よ。所長側の追っ手も私たちを探しているでしょうから、こちらから目立った行動をするつもりはないわ」
「追っ手って……私たちが追われるんですか?」
むしろ所長とその一派がJPAから追われる立場なはず。そんな彼らが私たちを追ってくるとはどういう事だろう?
「あの二人を殺した私たちを……所長はどう考えているかわからないけども、それ以外の者たちは恨みに思うはずよ。弔い合戦の警戒はしとくべきだわ」
「………………」
私は正也さんの部下として現われた元JPASの人達の顔を思い出す。
私たちにしてみれば裏切り者の彼らだが、重い事情を抱えた者同士の結束はきっと緩いものではないだろう。
彼らやその仲間たちはきっと私たちを許さない。
所長に加担している人間がどれほどの数いるのかわからないが、彼らからしてみれば私たちはもう仲間の敵ということか。
「もう一つは、宝塚さん、あなたの存在ね」
ミラー越しに先生が私と目を合わせてきた。
「え? わ、私? なんで私が所長に追われるんです?」
「追われるというか、手に入れたがってると言った方がいいわね」
「なんで私なんかを??」
そんな私のとぼけた返事に先生は苦笑いで呆れる。
「あのねぇ……あんたまだ自分の能力の価値を理解して無いのかしら?」
「あ、いや……理解はしていますよ。でも私……回復能力って言ってもいろいろ条件が邪魔してそんなに活躍出来てないっていうか……いまだって結局、先生や菜々ちんを回復させてあげられてないし……」
「それでも十分すぎる能力よ。あなたがいなければ、今頃この子はここにはいないわ」
そう言って助手席で眠る百恵ちゃんの頭に手を置く先生。
「JPAS戦闘員の一部が所長についたようだけど、私たちにとっての脅威は、実質あの片桐一人と思っていいわ。……今のところはね」
それを聞いて私はゴクリと生唾を飲む。
敵の戦力は片桐さん一人……しかし彼女はあのアマノウズメをまるで相手にしないほどの戦闘力を持ったJPAきってのエース監視官。
たとえ一人でも、その存在はまさに一騎当千。
並みの能力者が束になって捕らえに行っても返り討ちにされるだけろう。
「でもそれは逆に言うと彼女に何かあったら、その瞬間、所長は丸腰同然になると言うことよ?」
「そ……そうですよね……」
「でも、向こうにあなたがいたらどう?」
どうもこうも、速攻で回復してすぐ戦線に復帰させる。
「わかるでしょ? あなたがいるだけで、最強のPK能力者の残機が無限増殖するも同然なのよ。追われる身の上、戦力も乏しい所長があなたを欲しがらないわけがないわ」
片桐さんの姿を幾つも想像してゾッとなる私。
あんな人が、倒しても倒しても起き上がってくるような存在になったら、それこそ何かのホラー映画のようだ……。
「だから所長はきっと、どこかのタイミングであなたをさらいにやってくると思うわ。正也や渦女を暴走させて戦わせたのも、あなた以外の三人を排除するのが目的だったんじゃないかしら?」
「そ、そんな……」
しかし、そう言われると何も返せない。
「だから私は一刻も早くあなたを安全なところに避難させるように女将から指示を受けたのよ」
「避難ってどこに?」
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「人?」
「私たちはいま料理長と合流しようとしているわ」
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