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第177話 怨念⑤
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「なっ――――っ!??」
その菜々ちんの言葉を聞いた瞬間――――、
パッと目の前の景色が変わり、私たちは我に返った。
「――――……こ、ここは?」
ハンドルを握る先生の声が震える。
私も外に映る景色と自分の目が信じられなかった。
そこに広がっていた光景は、いま菜々ちんの言った通り、私たちが渦女と戦っていたあの場所だったからだ。
走っていたと思っていた私たちの車は走ってなく、追跡してきているはずのパトカーも消えていた。
「やっぱり……幻覚だったようね」
してやられたと言う顔で先生が呟いた。
車を奪って再出発したつもりが、そこから先は夢を見せられていたのか?
一体誰に?
そんな事はわかりきっていた。
私たちは寝ている百恵ちゃんを残し、ドアを開けて車から下りた。
そして倒れている二人の元へとゆっくりと近づく。
生気無い顔で渦女が倒れている。
私はその顔を見るのが辛かった。
その隣には正也さんが伏していたが、彼は百恵ちゃんの爆発によって四肢が千切れてすでに人間の形は保っていなかった。
半分抉れた頭部が渦女と寄り添うように転がっている。
いくらベヒモスと言えどもそんな状態では、とても生きているとは思えなかった。
しかし先生が銃を抜いて油断なく結界を充填する。
「二人とも油断しないで……正也は、まだ生きているかも知れない」
私たちを幻覚に陥れた犯人がいるとすれば、正也さん以外考えられない。
菜々ちんも頷いて銃を構える。
私は結界術を拳に込めた。
そして油断なく正也さんの頭部へと近づく、
と、――――ボワァ!!
その頭部からいきなりファントムが姿を現した。
カラスの顔を持ったその霊体は頭以外は人形で、修験者の着物に小刀、背中には黒い羽を生やして私たちを見下ろしてきた。
「……烏天狗《からすてんぐ》」
それを見上げて菜々ちんがその名を呼んだ。
「烏天狗!?」
「はい……正也さんのファントムです。能力は『認識阻害』です。――――が」
現われたと思った烏天狗はすぐにその形を歪め、姿が変わっていく。
カラスの顔はぐにゃりとその形を変えて、整った長い顎髭を持つ美青年に変わる。
着物も変化し色鮮やかな装飾が飾られ、足には赤く大きな高下駄が現れる。そして手には特徴的な八手の葉が握られる。
「……これは……やはり進化していたようね」
苦々しくその霊体を睨みつける死ぬ子先生。
しかし本体である正也さんはとても生きているようには見えない。
なのにファントムがいまだ彼の体に憑いているというのはどういう事なんだ!?
と、その霊体の口が開いて私たちに向け言葉を発してきた。
『やあやあごきげんようキミたち、元気してたかな?』
その野太い声は、正也さんを操り語りかけてきたあの声、つまり所長の言葉だった。しかしその調子はいままでの演技がかったものではなく、いつものとぼけた口調のままだった。
「……もう誤魔化すつもりもないようね、化け烏さん?」
皮肉めいた目で応える先生。
と、そのファントムはぎこちなく口端を上げて笑った表情を作ってみせる。
『まぁ、いまさらだからね。ほんとはもうちょっと謎めいたキャラでいたかったんだけど七瀬くん相手にそんな茶番はやはり通用しないと思ってやめたよ』
「残念ね。あなたの三文芝居、聞いてて面白かったんだけど?」
『ああ、勘弁してくれ、黒歴史になっちゃたよもう~~』
「心配しないでも、あなたのやっていることはもっと黒歴史になるから大丈夫よ」
『怖いこと言うねえ……なんだい、僕を殺しにでも来るつもりかい? この二人を殺したようにね?』
ニコニコ笑って正也さんと渦女の死体を指差すファントム。
「真唯を殺した黒幕があんたならそうするわ」
『僕だよ』
「ならここからは殺し合いね」
まるで感情を揺らせず、先生はそう返した。答えなどとうにわかっていたからだ。
『いいのかい? 監視官がそんな私的な理由で動いても? それじゃ僕たちと同じ穴のムジナだよ~~?』
「程度の問題よ。あなたは百歩、私は五十歩。百歩の方がたちが悪いに決まっているでしょ?」
『ははははは、そう言われちゃね、返す言葉がないや。悪同士だからね僕たちは、やり易いんだか、難いんだか』
「私たちを幻覚にかけたのも、あなたね?」
『ん? そう思うかい?』
「彼のファントムを操って会話している時点でそう思うわよ。正也はもう死んでるわね、でもファントムだけは消えていない。それもあなたの『マステマ』の仕業かしら?」
『ん、ふふふふふ~~七瀬くんの洞察力は怖いねぇ、このままじゃ会話だけで僕、丸裸にされそうだよ?』
「もう、下着くらいには剥いてるわよ?」
『ま、お察しの通り正也は死んでいるよ。そして彼のファントムはいま僕の手に内にある。……いや、あったと言うべきかな?』
所長の言葉と同時にファントムの姿が壊れた映像のようにブレ始めた。
『烏天狗から進化した『大天狗』……手放すのはおしいんだけどね。ま、精気の元が死んじゃったらね、維持も難しいさ。この子の『認識操作』なかなかの面白さだったんだけどねぇ~~。……でも、キミたちを足止めすることには成功したからそれで良しとするかな?』
その声を終えるとファントムのブレは大きくなる。
「足止め?」
「……さて、もう少し話していたいけども、彼の精気もそろそろ尽きるようだ、続きは直接会って話したいものだね。彼女が許してくれればね。じゃあね~~♪」
そして電源の切れたモニターのように呆気なくその姿を消すファントム。
同時に所長の気配も無くなり、正也さんの体も灰になり風に流されていった。
その菜々ちんの言葉を聞いた瞬間――――、
パッと目の前の景色が変わり、私たちは我に返った。
「――――……こ、ここは?」
ハンドルを握る先生の声が震える。
私も外に映る景色と自分の目が信じられなかった。
そこに広がっていた光景は、いま菜々ちんの言った通り、私たちが渦女と戦っていたあの場所だったからだ。
走っていたと思っていた私たちの車は走ってなく、追跡してきているはずのパトカーも消えていた。
「やっぱり……幻覚だったようね」
してやられたと言う顔で先生が呟いた。
車を奪って再出発したつもりが、そこから先は夢を見せられていたのか?
一体誰に?
そんな事はわかりきっていた。
私たちは寝ている百恵ちゃんを残し、ドアを開けて車から下りた。
そして倒れている二人の元へとゆっくりと近づく。
生気無い顔で渦女が倒れている。
私はその顔を見るのが辛かった。
その隣には正也さんが伏していたが、彼は百恵ちゃんの爆発によって四肢が千切れてすでに人間の形は保っていなかった。
半分抉れた頭部が渦女と寄り添うように転がっている。
いくらベヒモスと言えどもそんな状態では、とても生きているとは思えなかった。
しかし先生が銃を抜いて油断なく結界を充填する。
「二人とも油断しないで……正也は、まだ生きているかも知れない」
私たちを幻覚に陥れた犯人がいるとすれば、正也さん以外考えられない。
菜々ちんも頷いて銃を構える。
私は結界術を拳に込めた。
そして油断なく正也さんの頭部へと近づく、
と、――――ボワァ!!
その頭部からいきなりファントムが姿を現した。
カラスの顔を持ったその霊体は頭以外は人形で、修験者の着物に小刀、背中には黒い羽を生やして私たちを見下ろしてきた。
「……烏天狗《からすてんぐ》」
それを見上げて菜々ちんがその名を呼んだ。
「烏天狗!?」
「はい……正也さんのファントムです。能力は『認識阻害』です。――――が」
現われたと思った烏天狗はすぐにその形を歪め、姿が変わっていく。
カラスの顔はぐにゃりとその形を変えて、整った長い顎髭を持つ美青年に変わる。
着物も変化し色鮮やかな装飾が飾られ、足には赤く大きな高下駄が現れる。そして手には特徴的な八手の葉が握られる。
「……これは……やはり進化していたようね」
苦々しくその霊体を睨みつける死ぬ子先生。
しかし本体である正也さんはとても生きているようには見えない。
なのにファントムがいまだ彼の体に憑いているというのはどういう事なんだ!?
と、その霊体の口が開いて私たちに向け言葉を発してきた。
『やあやあごきげんようキミたち、元気してたかな?』
その野太い声は、正也さんを操り語りかけてきたあの声、つまり所長の言葉だった。しかしその調子はいままでの演技がかったものではなく、いつものとぼけた口調のままだった。
「……もう誤魔化すつもりもないようね、化け烏さん?」
皮肉めいた目で応える先生。
と、そのファントムはぎこちなく口端を上げて笑った表情を作ってみせる。
『まぁ、いまさらだからね。ほんとはもうちょっと謎めいたキャラでいたかったんだけど七瀬くん相手にそんな茶番はやはり通用しないと思ってやめたよ』
「残念ね。あなたの三文芝居、聞いてて面白かったんだけど?」
『ああ、勘弁してくれ、黒歴史になっちゃたよもう~~』
「心配しないでも、あなたのやっていることはもっと黒歴史になるから大丈夫よ」
『怖いこと言うねえ……なんだい、僕を殺しにでも来るつもりかい? この二人を殺したようにね?』
ニコニコ笑って正也さんと渦女の死体を指差すファントム。
「真唯を殺した黒幕があんたならそうするわ」
『僕だよ』
「ならここからは殺し合いね」
まるで感情を揺らせず、先生はそう返した。答えなどとうにわかっていたからだ。
『いいのかい? 監視官がそんな私的な理由で動いても? それじゃ僕たちと同じ穴のムジナだよ~~?』
「程度の問題よ。あなたは百歩、私は五十歩。百歩の方がたちが悪いに決まっているでしょ?」
『ははははは、そう言われちゃね、返す言葉がないや。悪同士だからね僕たちは、やり易いんだか、難いんだか』
「私たちを幻覚にかけたのも、あなたね?」
『ん? そう思うかい?』
「彼のファントムを操って会話している時点でそう思うわよ。正也はもう死んでるわね、でもファントムだけは消えていない。それもあなたの『マステマ』の仕業かしら?」
『ん、ふふふふふ~~七瀬くんの洞察力は怖いねぇ、このままじゃ会話だけで僕、丸裸にされそうだよ?』
「もう、下着くらいには剥いてるわよ?」
『ま、お察しの通り正也は死んでいるよ。そして彼のファントムはいま僕の手に内にある。……いや、あったと言うべきかな?』
所長の言葉と同時にファントムの姿が壊れた映像のようにブレ始めた。
『烏天狗から進化した『大天狗』……手放すのはおしいんだけどね。ま、精気の元が死んじゃったらね、維持も難しいさ。この子の『認識操作』なかなかの面白さだったんだけどねぇ~~。……でも、キミたちを足止めすることには成功したからそれで良しとするかな?』
その声を終えるとファントムのブレは大きくなる。
「足止め?」
「……さて、もう少し話していたいけども、彼の精気もそろそろ尽きるようだ、続きは直接会って話したいものだね。彼女が許してくれればね。じゃあね~~♪」
そして電源の切れたモニターのように呆気なくその姿を消すファントム。
同時に所長の気配も無くなり、正也さんの体も灰になり風に流されていった。
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