超能力者の私生活

盛り塩

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第193話 一人戦う⑫

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 しゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……。

 白い蒸気が上がり、身体が回復していく。
 代わりに片桐さんの精気が消耗される。
 彼女の体がどんどん痩せていき、肌の水分も無くなってくる。
 髪の毛が白髪に変わり、シワだらけになった顔はまるで老婆のよう。

「ぐがあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 私の背中を掻きむしり、抵抗しようともがく。――が、すでにその力も並みの人間以下に弱くなってしまっている。

 ――――よし、勝てるぞ。

 ギリギリの戦い。

 一つ判断を狂わせれば負けていたのは私のほう。
 もし背を向け逃げていたら、いまごろ跡形もなく消されていただろう。
 苦しむ片桐さんの声を聞きながら、でも躊躇いなく吸収を続ける。

 このチャンスを逃したら逆に殺されるのは私の方なんだから!!
 ――――だから、頼むから横槍はやめてほしい!!

 そう願ったとき。
 やはりというか、当然のごとく――――、

『――――そこまでにしてやってくれるかい宝塚くん』

 頭に届いてきた。

 所長の念話が。

 同時に、

 ――――バンッババババババリバリッ!!!!
 結界が破壊され、能力がかき乱された!!

「があぁあぁっ!???」

 反応のショックで仰け反る私。
 途切れる吸収能力。
 その隙きをついて片桐さんが両腕を解いて転がり離れた。

「はぁはぁはぁ……ぐっ……!!」

 よろよろと立ち上がり、忌々しげに睨みつけてくる片桐さん。
 シワだらけの顔に落ち窪んだ目。
 その顔は怒りと恥辱に歪んでいた。

「……くぅうぅ…………」

 私は四つん這いになって憎々しげに所長を睨みつけた。
 その視線に所長は運動会観戦パパのように朗らかに手を振ってくる。
 ふ、ふざけるんじゃねぇ。
 せっかく掴みかけた勝ちをひっくり返しやがってっ!!
 こうなることはわかっていたが、しかし実際にやられるとやはり頭にくる!!

「すまないねぇ~~片桐くん。手出しするつもりは無かったんだけどもねぇ~~、でも萎《しお》れていくキミをこれ以上黙って見ているのは辛くてねぇ~~。まぁ……オールドミスなキミもステキだとは思うけどもねぇ……」
「……………………」

 そんな所長の言葉に何も返さない片桐さん。
 余計なことをするなと言っておいて、されたのだ、文句の一つでも言うのかと思ったが、彼女は何も言わずにただ私を睨んでいた。

 所長の横槍が無かったら危うかったと彼女も理解しているのだろう。
 チャンスを潰された私はかなり窮地に立たされていた。
 疲労している片桐さん、しかしまだ立ち上がれるほどの体力が残っているのならば、おそらくあと数発のアスポートは放てるだろう。
 また同じように彼女に掴みかかろうとしても、もう警戒されている。
 たぶんもう捕まえるのは不可能。
 そして所長も加わって来るとなれば、もう絶対勝ち目は無くなる。

 じゃあどうする? 

 逃げる??

 ――――考えろ考えろ考えろ!!

 しかしいくら考えてもこの窮地を脱する妙案は浮かばない。
 ならば道は二つ。

 諦めて殺されるか、諦めて屈服するか、である。

 どっちをとっても諦める道しか無い。
 悔しさに拳を握りしめる。

『ぐるうぅぅぅぅ……』

 ラミアの威嚇の唸りが聞こえてきた。
 まだ、彼女は戦う気でいる。

「――――ラミア……」

 そんな彼女を見て、私は一つだけ可能性があるのに気がついた。
 ――――そうか……その手が……。
 いや、でもこれは危険な賭けだ……下手をすれば…………。

「……………………?」

 ガラスに映った自分の姿を見る片桐さん。
 そこにいる、山姥のような自分の枯れた姿をみて彼女の体は震えた。
 そして静かに所長の方へと向き直ると、

「……全力を出させてもらっていいかしら?」
 完全にキレた目で所長にそう言った。

「……止めたほうがいいんじゃないかなぁ~~? 下手するとキミ……戻って来れなくなっちゃうよぉ~~?」

 困ったような、それでいて面白がるような表情でニヤける所長。

「このまま僕がサポートし続けてあげるからさ、それで宝塚くんをやっつけちゃえばいいじゃない?」
「……それだと意味は無いわ。私が主だと、この娘に教えてやらなければならないのよ。だから手助けはいい。代わりに
「……ふ~~む……しょうがないなぁ、じゃ、ちょっとだけだよ?」

 所長がそう言うと、片桐さんの身体にスッと何かが入り込んだ。
 その不気味なシルエットは忘れようがない。
 正也さんや渦女を暴走させたあのファントム――――マステマだった。

 ――――ドンッ!!!!

 マステマの憑依を受けた片桐さんは身を跳ねらせた。
 仰け反り、そして地面に両膝をつく。
 四つん這いになった彼女はやがてうなり始め、髪を逆立てる。
 そして次に顔を上げたときには、もうそこにはさっきまでの彼女はいなく、血走った目を吊り上げて、裂けた口から涎を垂れ流す化け物がいた。

「……30秒だ、それ以上はもう戻ってこれなくなる。それまでに決着を着けなければ――――僕が出ていくからね?」

 そんな所長の言葉を聞いているのかいないのか、とうとう完全体のベヒモスとなった片桐さんはドンッっと地面を蹴ると一瞬で間を詰めてきた!!

「――――――――っ!!」

 まさか向こうから詰めて来るとは!?
 咄嗟にその体を掴もうと腕を伸ばすが――――ぼひゅっ!!

「――――なっ!??」

 掴みかかろうとした腕が消えた!!
 アスポート――――いや、違うっ!!

 彼女はそんなもの撃ってはいない。
 にもかかわらず、彼女の体に触れようとした途端、私の腕は消し飛んだ。
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