【完結】悪女を殺したわたしは・・・

彩華(あやはな)

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3.セシル

 わたしの友人がおかしい。

 数週間前まで彼女は、鋭い目つきで、自身の婚約者を見ていた。
 いや、婚約者とその横にいる女性を。

 今にも襲いかからんばかりの様子だったが、必死で我慢していたのを知っている。
 右手の親指の爪を噛み、血を滴らせていた。

 わたしが、彼のに依存しないように声をかけても、聞き入れてはくれなかった。

 彼女は彼を愛していた。
 でも、彼はそんな彼女を疎ましく思い、近寄らせようとはしなかった。
 きっとプレゼントの一つもしたことはないだろう。デートさえしたことは、ないのではないだろうか。

 彼女が哀れだった。

 わたしは力になりたかった。

 でも、彼女は拒んだ。
 一人で抱え込んだ。


 しばらく休んだ彼女が久しぶりに登校して来たと思えば、雰囲気も態度も変わっていた。

 本来の彼女がいた。
 優しくて、聡明な・・・。
 いや、違う。何が違う。

 笑みが違うのだ。
 形だけの笑み。
 心の底から出て来ているものではない。
 上面だけのもの。

 どうして?

 彼の話を振っても、以前のような反応は見せなかった。
 どこか他人事のような態度。
 あの彼女が、ここまで変わるのはおかしい。

 彼女は

 「・・・セシルだけに言うわね。森の魔女にわたしの中の悪女を、殺してもらったの」

 と言った。

 森の魔女。

 噂では聞いたことがある。

 対価さえ渡せばなんでも願いを叶えてくれると言う魔女。

 そんな魔女に会いに行ったのか・・・。

 
 わたしは魔女に会いに行った。
 
 深い森の中。魔物や獣が出てきそうな雰囲気がする上、ジメジメした空気に胸が圧迫されそうになる。
 靴も服も、草や木々についた雫で濡れ、泥が撥ねて汚れ、足が取られて歩きにくい。
 彼女はこの道を歩いたのか・・・。

 彼女の覚悟を思い知る。

 魔女のもとにどうにかいけば、怪しげな美女がいた。
 老婆とばかり思っていたのだから、拍子抜ける。いや、拍子抜けるどころか、青筋が立ちそうになる。
 知っている。
 この魔女を。

「何か用?用がないなら帰りな」

 ぞんざいないいようだ。
 わたしだからだろう。
 だが、帰るわけにはいかない。

「何をされているのですか?」
「『魔女』よ。用がないなら、お帰り」

 質問には答えてくれないらしい。
 仕方なく本題を言う。

「・・・先日、怒りと嫉妬を対価にした女性が来たはず。それを返していただきたい」

 その言葉に、魔女は真っ赤な唇の端をクッと上げた。
 怪しげな笑いに、ぞくりとする。

「無理よ。あの子の願いを叶えるためにはあの対価が必要だったのよ。あの子は自分の中の悪を殺したがってたのよ。あのままではあの子は全てを失っていたから。今更返してどうするの。あの子に死ねと言うの?」

 彼女が死ぬ?
 それほどまでに、苦しんでいたのか。

 では、どうすればいいのか・・・。
 
 前までの彼女であって欲しいのに・・・。

 悩むわたしに魔女はなぞめいた笑みを向ける。恐ろしいほどの美しさを魅せる。

「そうね、対価をくれれば、考えてあげてもいいわよ」

 白い指がわたしの頬をなぞった。

「対価はこの金色の髪でいいわよ」

 その目が怪しく光った。

 
 

 
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