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細い指が私の首を絞めた。
目の前には大粒の涙を流す母の顔があった。
「あなたさえ生まれなければ・・・」
母は、いつも酔うとこうして私の首を絞めた。
細い指に、これほどまで力があるとは信じられなかった。
息ができなくて、もがくこともできなかった。苦しいのに、まだ幼く非力な私には、立ち向かうことも反抗することもできなかった。
「エリー!なにやってんだい!やめな!」
仲間の娼婦が母を引き剥がすように止めてくれた。
「あんたが!あんたがいるから!」
泣き叫ぶ母を忘れた事はない。
あぁ、私は生まれていけなかったのか・・・。
当時、幼いながらも理解していた。
酔っていない時は私を優しく包んでくれたが、酔うといつも悪態をついた。憎むような目で私を見た。
私は娼館の奥まった場所で暮らしていた。まだ幼かったのもある。だが、目が隠れるほど伸ばし、髪を染めて音も立てないようにして静かに生活していた。
きっと、身分違いの知られてはいけない子供だからなのだと思っていたから、我儘一つ言ったことはなかった。
母は次の日になると、毎回私に謝った。
毎朝、優しく抱きしめてくれた。キスしてくれた。
仕事が終わった後は近づいてはくれなかった。
母が遠い存在に思えた。
ある時、母は一枚の紙と一通の手紙を見せて言った。
「セシリア。これから、そこに書いてある教会に行ってこれを渡してきて。そして、二度と帰って来ないで」
それは冷たい声だったのを覚えている。
「どうして?」
「あんたの顔をもう見たくないの。私は私の人生を歩みたいの。幸せになりたいの。あんたがいると幸せになれないのよ!!!」
ショックだった。
母にそこまで恨まれているとは思っていなかった。
だから、泣いた・・・。
どんな親であろうと、母は母。私のお母さんだった。どんなに冷たくされようと、首を絞められようと、同じくらい抱きしめてくれた。笑ってくれた。愛してくれた。だからー、愛していた。
お母さんだから。
私を産んでくれた大事な人。
憎んでも憎みきれない人、だから・・・。
そんな母は、私を見ようともしなかった。
私は馬車に2日揺られて、一人教会へ行った。
母から持たされた一通の手紙をぐしゃぐしゃに握りしめて。家であった娼館から何一つ持ち出すことなく。
教会に着くと併設している孤児院の院長である、マザーに手紙を差し出した。
マザーは、その手紙を読み涙を流した。
「あなたはエリザの娘なのね・・・」
「エリザ?」
母の名前はエリーのはず。
マザーは、私に手紙を読んでくれた。
初めて知る真実。
母の気持ちを知る。
涙が止まらない。
駆け出した。だが、マザーに抱きしめられ止められた。
今すぐにでも母に会いたかった。叶わなかった。
「いけません。エリザの気持ちを無駄にしてはいけません。きっと、きっと皆さんもエリザの気持ちを知って、あなたを送り出したはずです。だから、だから、あなたはここで生きていかなくてはならないのです」
マザーの言葉が胸に突き刺さった。
私は母に何もしてあげれていない。
ありがとうも言えなかった。
八歳に満たさない私には、その時何も出来ず泣くばかりだった。
目の前には大粒の涙を流す母の顔があった。
「あなたさえ生まれなければ・・・」
母は、いつも酔うとこうして私の首を絞めた。
細い指に、これほどまで力があるとは信じられなかった。
息ができなくて、もがくこともできなかった。苦しいのに、まだ幼く非力な私には、立ち向かうことも反抗することもできなかった。
「エリー!なにやってんだい!やめな!」
仲間の娼婦が母を引き剥がすように止めてくれた。
「あんたが!あんたがいるから!」
泣き叫ぶ母を忘れた事はない。
あぁ、私は生まれていけなかったのか・・・。
当時、幼いながらも理解していた。
酔っていない時は私を優しく包んでくれたが、酔うといつも悪態をついた。憎むような目で私を見た。
私は娼館の奥まった場所で暮らしていた。まだ幼かったのもある。だが、目が隠れるほど伸ばし、髪を染めて音も立てないようにして静かに生活していた。
きっと、身分違いの知られてはいけない子供だからなのだと思っていたから、我儘一つ言ったことはなかった。
母は次の日になると、毎回私に謝った。
毎朝、優しく抱きしめてくれた。キスしてくれた。
仕事が終わった後は近づいてはくれなかった。
母が遠い存在に思えた。
ある時、母は一枚の紙と一通の手紙を見せて言った。
「セシリア。これから、そこに書いてある教会に行ってこれを渡してきて。そして、二度と帰って来ないで」
それは冷たい声だったのを覚えている。
「どうして?」
「あんたの顔をもう見たくないの。私は私の人生を歩みたいの。幸せになりたいの。あんたがいると幸せになれないのよ!!!」
ショックだった。
母にそこまで恨まれているとは思っていなかった。
だから、泣いた・・・。
どんな親であろうと、母は母。私のお母さんだった。どんなに冷たくされようと、首を絞められようと、同じくらい抱きしめてくれた。笑ってくれた。愛してくれた。だからー、愛していた。
お母さんだから。
私を産んでくれた大事な人。
憎んでも憎みきれない人、だから・・・。
そんな母は、私を見ようともしなかった。
私は馬車に2日揺られて、一人教会へ行った。
母から持たされた一通の手紙をぐしゃぐしゃに握りしめて。家であった娼館から何一つ持ち出すことなく。
教会に着くと併設している孤児院の院長である、マザーに手紙を差し出した。
マザーは、その手紙を読み涙を流した。
「あなたはエリザの娘なのね・・・」
「エリザ?」
母の名前はエリーのはず。
マザーは、私に手紙を読んでくれた。
初めて知る真実。
母の気持ちを知る。
涙が止まらない。
駆け出した。だが、マザーに抱きしめられ止められた。
今すぐにでも母に会いたかった。叶わなかった。
「いけません。エリザの気持ちを無駄にしてはいけません。きっと、きっと皆さんもエリザの気持ちを知って、あなたを送り出したはずです。だから、だから、あなたはここで生きていかなくてはならないのです」
マザーの言葉が胸に突き刺さった。
私は母に何もしてあげれていない。
ありがとうも言えなかった。
八歳に満たさない私には、その時何も出来ず泣くばかりだった。
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