【完結】金木犀の香る頃

彩華(あやはな)

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「ラッキーさん
 
 私には婚約者がいます。ですが、会ってお話をしたことはありません。彼がどんな気持ちで、いるのかわかりません。 
 私は幼い頃に一度だけ、その方にお会いしました。たった一度。一目惚れでした。初恋でした。
 お父様に相談したところ、私の我儘を聞いてくれたのです。私はその方と婚約できて嬉しいのです。   
 ですが、きっと彼は私を愛してくれることはないかもしれません」




「スマへ

 僕にも婚約者がいるよ。君と同じで会ったことはない。僕の家に出資をしてくれるということで婚約をしただけで、愛などのない政略結婚なんだ。

 それに、僕には叶わないけれど、好きな方がいる。
 彼女には優秀な婚約者がいるんだ。叶うことはないけど、彼女が幸せになるのを見届けたい。
 それを見てから、叶わない想いにケジメをつけてから婚約者と向き合いたい。

 スマは、いい子だから、その婚約者に手紙を書くといい。きっと君のことをわかってくれるよ」




「ラッキーさん

 ありがとうございます。
 大丈夫です。
 彼のことを信じてみようと思います。

 ラッキーさんに思われる方は幸せですね。羨ましいです。
 私も、そんな恋をしてみたかった。

 できるなら彼とたくさん話してみたいです。
 もう少しだけ待ってみます」


 幾度も文通を進めるなか、スマから婚約者の話がでた。
 僕はそれを見てため息をついた。


 僕には婚約者がいた。
 今まで一度も会ったことはない。手紙のやり取りもしたことさえない。


 これは政略結婚だ。
  

 この婚約は我が家への資金援助の見返りだった。

 僕は伯爵家。婚約者は公爵家の令嬢。宰相の娘。我儘な女性。傲慢な女性。そう噂されていた。
 げんに、よくドレスを購入してはすぐに古着屋に出すと噂されてる。贅沢三昧の生活をしていると聞く。

 我が家は、数年前に領地が寒冷に襲われ不作に陥った。その事で多額の借金を背負ったのだ。それを助けてくれたのが、婚約者の公爵家だった。
 未だに援助をしてくれている。
 恩義があった。

 つまり僕は売られた同然なのだ。
 婚約者の方が身分も高い。
 結婚を逃げ出せば、両親に迷惑をかけるのが、目に見えていた。

 学園を卒業後、すぐに結婚をすることが決まっている。
 今更変えることも断ることもできない。


 それに好きな女性がいても・・・その恋は叶わない。諦めるしかないものだから。

 想い人はそれこそ手の届かない高嶺の花なのだ。

 
 身分の差もあれば、彼女はすでに婚約者もいた。母の大親友の人の息子で身分も遥かに高い。

 諦めなければと思っても、無理だった。自分に振り向いてくれなくてもいい。彼女の側にいたかった。彼女の笑う姿を見ていたい。

 

 学園でいる間、結婚するまででいいから、彼女の側で笑って過ごしたい。
 彼女を見守らせて欲しいかった。
 勝手なことを言っているのは、重々承知している。

 自分を偽ることができず、婚約者に手紙に書けば、了承する手紙がきたので驚いた。

 きっと、婚約者からすれば些細なことだったのだろう。結婚すれば僕は言いなりになるのだろうと思ったのかも知れない。
 僕の将来は下僕のような生活になるだろう。それでもいい。
 将来より今が大事なのだ。

 だから今は、それに僕は甘えることにした。


 婚約者のことを学園にいる間は忘れた。

 結婚したら、絶対に愛することを努力するから、今は、今だけは忘れさせて欲しい。今だけは・・・。




 朝、学園に着き、金木犀の木のところへ行けばすでに手紙は置いてあった。その場で返事を書いて置いておけば、昼にはなくなっている。
 誰が運んでいるのかはわからない。

 だが、そんなことはどうでもよくて、僕の楽しみの一つになっていた。

 内容は好きなもの紹介があれば、世間話のようなものもある。

 だが、身分や、名前などは書かれていなかったし、書かなかった。
 その為なのか、自然に悩みのような内容になることもある。
 
 スマも同じなのか、悩みを打ち明けてくることもある。

 相手からの知って欲しいと言う気持ちが伝わってくる。
 僕が苦しんでいることも理解して欲しかった。
 否定や、肯定でなくていい。
 ただ、知って欲しくて、知らない相手に手紙で語っていた。
 
 
 

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