【完結】ターニャの歌

彩華(あやはな)

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人形師

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*****

 ターニャは時計台の一番上まで登り、時計の裏がに置いてあるに魔力を込めた。
 美しい男性のドール。だが関節部分は壊れ、はいつ壊れてもおかしくないほど脆くなっている。それでも彼女は壊れるのがなるよう修理しながら魔力を補充する。
 ドールは時間が来ると歌い出した。歌詞はない。オルゴールのような音色で歌う。

、ファロットが王都に行ったよ。5年は帰れないんだって。寂しいね」

 ターニャは呟いた。
 昨日、幼馴染みのファロットが王都にある魔術学園に行ったのだ。十五歳以上の優秀な者だけが行ける場所。
 美しい青年は選ばれて街の期待を一身に背負い旅立った。
 彼はターニャに「待っていてね」と言葉を残して。
 
 彼女はドールの目の前に座ると、の口ずさむ音色に歌詞をつけ、小さな声で歌った。
 それは今では歌われる事の無い恋人を思う歌。
 歌う事禁じられた恋の歌だった。

 誰にも聞かれないよう、小さく小さく歌いつづけた。



*****


 2年。早2年、されど2年。
 ファロットからの手紙は初めの頃はあったものの、今では来ることもなくなった。それでも、ターニャはファロットに手紙を送り続けた。
 カジェロの歌は、もう聴けなくなっていた。魔力を送ろうとも、修理をしようとも動かない。命が尽きたのだ。
 それでも、毎日時計台に登り彼に会いに行く。毎日の出来事を語り、歌を呟きながら彼が朽ちていくのを見つめていた。


「ターニャ、帰って来たよ」

 懐かしい声にターニャは顔を輝かした。師匠であるエスタニアが帰ってきたのだ。
 この数年、他の地方にいる人形師のところを巡っていたのだ。しばらく見ないうちに、赤茶の髪には白髪が増え、琥珀の瞳の目尻には皺が見えている。

 
「師匠おかえりなさい。どうでした?」  

 生気のない顔色に不安を感じながら聞く。

「だいぶ、人形師は減ってたよ。ドールの扱いも悪くなってきてるし、魔核が手に入らなくなって来てるようだ。国が独占して、魔術機械に使用しているらしい」

 ドールの命として魔核と呼ばれるのを使う。色もさまざまあり、その色によって、ドールの性格や体力見た目も変化する。
 魔核の質によって、ドールは生きた人形になるのだ。
 彼らは人間の娯楽のために初めは作られた。それが次第に、人間にはできない仕事を任されるようにもなった。
 だが、それは、ドールがどんなに感情を持とうとも、生きていようとも、人として認めてもらえないと言うことにままならなかった。
 人間以下の存在。奴隷として扱われた。
 人形師が減って来たのはそのためだった。
 そのかわり、魔術技師が増えてきたのだ。人形師の技術を持って便利な物を作り出す。魔核にそれを補助する力がある。国はそれに目をつけて兵器を作り出していると言うのだった。

「師匠、戦争が起こるの?」
「そう言う、噂もある・・・」
「まだ、大丈夫ですよね」
「ああっ。・・・変わったことは?」
「ファロットが王都の魔術学園に行きました。あと・・・カジェロが声を、止めました」
「・・・そうかい。見送ってくれたんだね」
「はい。最後まで歌っていました」
「ありがとう」
「いえ、当然のこと、です」

 エスタニアの顔に哀しみが広がる。彼女がカジェロを思っていたか、はかりしれない。

「・・・ターニャ、縛られるものはなくなった。あんたも魔術学園に行ってみるかい?」
「どうして、です?」

 意外な言葉だった。かつて、自分をこの地にとしたはずだ。

「わたしも、こうやって外に出た。知らないことがまだまだあった。このまま、あんたを縛りつけたままではいけないんじゃないかと、思ったんだ。外を見るべきだとね。
 幸い、父の親友が手伝いに来て欲しいと、手紙をもらってね。ターニャ。わたしはもう歳だ。このまま、彼の側でいさせて欲しい・・・」

 カジェロの側で・・・。
 彼女の一番の願いはそれなのだ。
 ターニャには、エスタニアの気持ちが痛いくらいにわかった。

「わかりました・・・。
 なんの手伝いですか?」
「あぁ、魔術技師の開発だよ。彼は一流の腕の持ち主だ。ターニャには学ぶことも多いだろう。それにファロットにも会えるだろうしな」

 そう、王都にいけば、彼に会える。
 ターニャは寂しい反面嬉しく思えた。

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