(完結)泡沫の恋を人魚は夢見る

彩華(あやはな)

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1.はじまり

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 ◇◇◇◇◇

 そこはとても静かだった。
 じっとしていると自分がいなくなりそうだった。泣きたくなった。無音が怖くて音が欲しかった。
 だから歌った。
 自分の声で自分がいる証を作ろうと思った。

 深い闇の色。
 光の届かない真の闇。
 幻想的な光はあれど、それは共存しているだけ。
 暖かな光が欲しかった。
 だからに憧れた。
 光は思っていた以上に明るかった。眩しくてそこに自分の知らない世界があった。

 そこは、本当に美しかった。


 ◇◇◇◇◇



 私の名前はフィー。
 海に面した丘の上に建てられたアトラス城のメイドとして3ヶ月前から働いていた。

 私はずっと流れものとしていろんな国や街を旅してきた。
 私はいつどこで生まれたかわからない。
 気づけば1人で旅をしていた。
 たくさん旅をしてきたせいか記憶があやふやなところもあったが、なんとか生きていくことができていたので苦になったことはない。

 私がアトラス国にきた理由をあげるならば、この国は人魚伝説の発祥の地であることである。

 私は人魚伝説を調べている。

 確かに、私の旅した国にもたくさんの人魚の伝説や逸話が存在していた。
 子供の寝物語として話され人々の口伝になっている。

 その中でもこの国の人魚伝説が1番儚く美しかった。
 
 海のない内陸部まで伝わる悲しく切ない恋物語。
 話を拾ってゆけば、脚色されているものもあった。それでも、人々は魅せられて泡となる恋の行く末を見守っているのがわかる。

 私はもっと知りたかった。
 だから、この国に来たのだ。
 いや、戻ってきたのかもしれない。伝説の真実を知るために導かれたのだと私は思っている。

 潮風が私の髪をなぜる。ふと、立ち止まり海を眺めた。海が太陽に照らされキラキラと反射をしているのを見て綺麗だと思った。
 ただ、こうして塩の香りを嗅ぐと懐かしく思える。忘れている何かを思い出させてくれる気がした。

 だが・・・、時期が悪かった。

 この国に来て働き口を探していると、臨時メイド募集の張り紙を見つけ、すぐに面接に行けば、その場で採用された。

 喜んだのも束の間、臨時でメイドを募集した理由を知り私は後悔する。

 それは、この国の王子であるロイド殿下の誕生日パーティーがあるからだった。

 私はゆっくりメイドの業務に慣れながら、人魚伝説を調べるつもりだった。なのに、忙しい。
 右に左にとやることが多すぎて、自由になる時間も誰かに人魚についての話を聞く暇さえない。こんなつもりではなかったのに!と叫びたかったが、元来の真面目な性格が災いとなって、忙しく働いていた。

 
 第二王子であるロイド殿下の16歳の誕生祭は船上パーティーのため、城と船との行き来が激しかった。
 料理内容の照らし合わせに食材の仕入れチェック、腐りやすい食材の納入確認。料理機材や食器類の運び入れ。お客様用の部屋の用意など仕事はいくらでもあった。
 てんてこ舞いしながら一日が過ぎていく。

 夜になれば、与えられた自分のベッドに倒れこんだ。

「今日も疲れたわね~」

 同室の女性がやれやれと呟くと、みんなで笑い合い、1日の愚痴大会が始まる。あまり広くない一室に4人がいるので、プライベートもない。そのたも自然と会話することも多かった。

 窓から運んでくる塩の香りと、波の音に混じり女性らしき高い声が聞こえ、誰もが口を閉ざす。

「人魚が歌ってるわね」
「明日は嵐かしら?」
「人魚が歌うと嵐になるのですか?」

 聞いたことはあったが本当なのだろうか?

「そう言われてはいるわね。人魚の歌声には不思議な力があるらしいわ。人魚の歌声は船に乗る男たちを誘うのよ。そしてよってきた男を食べちゃうらしいわ。だから、嵐になると言って船は出さないのよ」
「人魚もねぇ・・・」
「そうそう。この国ではいくら人魚の話があっても800年も前の伝説があれば、敬遠されるわよね~」
「800年前?何があったのですか?」
「ふあぁ、その話はまたね。明日も早いんだから、寝ましょう」
「そうそう、おやすみ~」

 この部屋で一番古株の女性が蝋燭の火を吹き消した。

 余程疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてくる。

 わたしは、窓から入ってくる月明かりを眺めた。

「人魚が人を食べる・・・。そんな訳ないじゃない・・・」 

 膝を抱えて呟いた。
 
 
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