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 次の日教室に入ると、わたしを遠巻きにみながら、内緒話が始まった。

 昨日のうちにブライド伯爵家から、謝罪を受けた。
 うちの侍女は仕事が早い。

 彼は除籍が決まった。
 当然よね。

 
 机には水がこぼれていた。花瓶ごと。
 花瓶には死者を悼む菊があった。


 ふふっ・・・。

 まだ、わかってないのね。


 わたしは水を花瓶にもどした。
 座ると一人の女子生徒がきて、わたしを平手打ちした。

「よくも、ケニー様を!!」
「誰?」
「シモニー伯爵家のアイリス・シモニーよ。ケニー・ブライド様はわたしの婚約者よ。アンジェリーナ様!!」
「人違いです、わたしはアンジュです」

 また間違えられる。
 どうなってるのかしら?


 それはそうと、この方婚約者だったのね。
 除籍になって、婚約解消されたわけか。

「自業自得で除籍になってだけよ。わたしのせいだけではないわ」
「何したの?あんたのごときが!!」

 わたし如き?
 わたし如きなんだ。
 馬鹿な子ね。

「わたしに非礼を働いたの。それで除籍。正当なことよ。ブライド伯爵からも直接謝罪があったの。あなたがどうこう言おうが、これは正式なものなの」
「うそよ!」
「あなたは彼が何をしたか知って、言ってるの?」
「えっ?」
「わたしの教科書を破ったの。貰ったばかりの新品を」
「それだけ?」
「あなた、頭大丈夫?教科書を破るのがそれだけの事?じゃあ、働きなさい。自分の手で働いて本を買いなさいよ。働いたこともなく、親のお金で買ってるから価値がわからないの?平民が買うのに3日は働かないといけないのよ。なのに、彼はやってないと嘘までついた」
「彼が・・・やった、しょうこ、は?」
「知っていて隠した。立派な証拠よ」
「なに、それ?」
「誰も否定しなかったようよ」

 周りを見る。

 次々に目を逸らした。

「ブライド伯爵にはね、『わたしの教科書が破られました。子息が教えてくれましたが、犯人は知らないと言うのです。しかしながら『どうかされましたか』と笑いながら聞いてきたので、もしかすると何かご存知かもしれません。犯人がわかりましたらその方に請求しますが、今の段階で初めに気づかれた子息に請求させていただきます』と連絡しただけなの」

 正式な書面でね。

 あとは、あっちが判断しただけ。
 きちんと裏取りもしたんじゃないかしら。
 ちらほら青ざめた方々がいるもの。
 自分の身が可愛くて押し付けたのかもしれないけど。

「アイリスさんでしたかしら。あなたも覚悟していてね。わたしに手をあげたのだから」 
「ひっ・・・」

 彼女の顔は真っ白。
 人間ってこんなに色が変わる者なのね。
 
 ぐるりと見渡します。

「綺麗な花をありがとうございます。直接お礼が言いたいわ。ぜひ会いたいわ」

 ふふふっ。

 
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