黒の瞳の覚醒者

一条光

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一章~気が付けば異世界~

異世界のこと

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 意気消沈して元の滝のある場所に戻ってきた。
「迷惑かけてごめん、あとこれ少ししか見つけられなかった……」
 そう言って頭を下げる。こんなつもりじゃなかったのになぁ。この位の事もままならないのか俺は……。

「迷惑、じゃなくて、心配かけてごめん、でしょう? それに薬草はこれで十分です。この薬草はなかなか見つからないから多いくらいです」
 リオはそう言ってくれるけど気を使われてる気がしてならない。
「本当に? 気を使ってるとかじゃなく?」
「本当です。ほら、私はこれだけですし」
 鞄から取り出した葉を十枚ほど見せてくれる。でも――
「あ! 鞄にまだ入ってるとかじゃないですからね」
 俺の考えを先読みして鞄の中を見せてくれる。確かに他には入ってないみたいだった。少しは役に立てたんだろうか?

「それで?」
 …………? それで? と言われても……あぁ。
「心配かけてごめん」
「はい。手伝ってくれるのは嬉しいですけど、自分の身の安全を一番に考えないとダメですよ」
 そう言って笑顔を向けてくれる。不意にさっきの事を思い出して、また心臓がバクバク鳴りはじめる。

「用事も済みましたし休憩しましょう? 聞きたいことがあるんですよね?」
 リオが石の上に座って見上げてくる。あー、慣れた気がしてたけどさっきの件でダメになった。やっぱり見られると落ち着かない……。
「うん。この世界の事色々教えてもらおうと思って」
 顔を背けながら俺もその場に腰を下ろす。リオが少しムッとしてる気がする。まぁ、普通顔を背けながら話されたらいい気分はしないよな……。顔は戻しつつ視線は外す。これで勘弁してくれ、さっきの記憶が鮮明過ぎて目なんて合わせられないんだ。

「それで何が聞きたいんですか?」
 とりあえず許してくれるようだ。
「魔物とか……化け物って存在してる?」
「魔物、ゴブリンとかの事でしょうか?」
 あっさり名前が出てくるってことはやっぱりいるのか……流石異世界。ん? でもこっちに来てから俺一度もそういったものに遭遇してないな。遭遇したらしたでヤバいけど。

「そう、そういう人間に害がありそうな生き物、やっぱりいるの?」
「いるにはいますけど、人里近くでは見ることはありませんよ」
 あれ? 見ることないの? もしかして絶滅危惧種な感じなのか? 

「三百年くらい昔に、エルフの方たちに封印されたので、今存在してるのはごく少数だと言われています。この大陸だと砂漠にリザードマン、人の近寄らない山奥にゴブリンがいるそうです。私も聞いた話なので、本当かどうかはわからないんですけどね」
 おぉ、エルフがいるのか~、ファンタジーっぽくなってきた。でも魔物は封印されてるのか……。
「ドラゴンは? ドラゴンは存在してる?」
 ちょっと興奮気味になってしまった。
「は、はい。いますよ。他の国で馬の代わりにしている国もありますから」
「おぉー、乗れるんだ、いいなぁ。でも馬の代わりって? 俺が知ってるドラゴンって四本足で、でかい翼があってーって感じなんだけど」
 下手くそなりに地面に絵を描いて説明してみる。

「馬の代わりにされてるのはレッサードラゴンって呼ばれていて,こんな感じの姿らしいです。大きさは馬より少し大きいくらいで翼はあっても飛べないそうです」
 リオも絵を描いて説明してくれる。レッサードラゴンてのはティラノサウルスを小型化して翼が生えたような姿をしてるらしい。
「他にもワイバーンと皇帝級というのもいるそうです」
「ワイバーンは多分わかるかな……。二本足で翼があって、こんな感じで、こっちは飛べるよね?」
 また絵を描いてみるけど、俺絵心ないなぁ。これで理解してくれるリオはすごいと思う。

「はい。私が見た絵もこんな感じでした」
「そっか、じゃあ皇帝級ってのは?」
「皇帝級は昔話に出てくるだけなので本当にいるのかどうかはわからないんですけど、絵本で見る感じだと、とても大きくて、ワタルがさっき描いた四本足で大きな翼をもっている姿で描かれることが多いですね。あとはレッサードラゴンの様に二足歩行する姿で描かれることもありますね」
 ドラゴンはいるのかぁ。乗ってみたいー。
「絵で見たって言ってるけど、実物は見たことないの?」
「この大陸には生息してないので……」
 いないのか……。どうせなら乗れる国に来たかったよ……。

「え~っと、じゃあエルフは? やっぱり魔法使えるの?」
「魔法、かどうかはわからないですけど一人ひとつずつ不思議な力があるって昔話では言われてますね」
 言われてる? もしかしてエルフもいるかどうかわかんない感じ? それに一人ひとつなのか……。魔法って感じじゃないのか?
「エルフもこの大陸にはいない?」
「はい。この世界は、えっと……」
 またなにか地面に描いてくれてる。でも、なんだこれ? うにょうにょした何かが縦に二本、縦のは太い感じ、横に二本、横のは細長い、で横長な長方形? の様なものができて、でも辺と辺が繋がってないから頂点がない。その中に今度は横長な菱形、わからん。


「これ、ヴァーンシアの大まかな地図なんですけど」
「え? これ世界地図? 世界地図があるの?」
「はい、エルフから伝わってきた物だそうですよ。それでこの西にある縦長の大陸が、今ワタルの居る大陸ですよ」
 縦の辺の左のやつを指してそう教えてくれる。
「この大陸は全部帝国のものなんだっけ?」
「ええ、このアドラ大陸はすべてアドラ帝国の領土になります。そしてこっちの北の大陸にはエルフと獣人だけがいて、他の大陸にはいないんです。今は交流が全くないそうなので、エルフや獣人のことはよくわからないんです」
 大陸にも国の名前がついてるのか……。
「ふ~ん、獣人っていうのは?」
 聴けば聞くほど聞きたいことが増えるな……。

「獣人は獣の耳やしっぽをもった人たち、らしいです。あと獣人の方たちも異界者なんですよ」
 異界者ならどこに現れるとか決まってないんじゃないのか?
「エルフと獣人は北の大陸だけって言ってたけど、異界者ってどこに現れるか決まってるの?」 
「いいえ、決まってないと思います。ただ獣人は魔物が封印される以前にヴァーンシアに来た方たちで、迫害されて北の大陸に追いやられたそうです。魔物が封印されてからは獣人の異界者は現れなくなってて、今はワタルの様に黒い瞳と黒い髪をもつ方だけになってるそうです。最近ではたまに髪の色が違う方もいるみたいですけど」
 あ~、現代の日本人で髪染めてる人結構いるもんなぁ。というか、異界者は日本人ばっかりなのか? わからんなぁ。

「リアスの町? だっけあそこで黒い目だって騒がれたけどこの世界には黒い目とか髪の人はいないの?」
「はい。ヴァーンシアの住人には黒い目の人はいません。だから黒い目は異界者の証みたいになっちゃってますね。黒い髪の人は多くはないですけど、この国にも他の国にもいますよ。私も黒髪でしょう?」
 確かにリオは艶やかで長く美しい黒髪だ。騒ぎになったのは目を見られてからだったし。眼帯か何かで目を隠したら町に入れたりするだろうか?

「そうだ、覚醒者ってなに?」
「たまに異界者の方で不思議な力をもつ方がいてそういう人を指す言葉ですね」
「元々そういう能力がある人達ってこと?」
「元々なのかはわからないですけど、この世界に来て使えるようになったって人はいるそうですよ。異界者がもつ力も一人ひとつずつらしいです」
 こっちに来て異能を得てるってことなのか? だとしたら俺も異能を得ることが出来るのか? わからんことばっかりだな……。

「この世界の、ヴァーンシアの人たちはそういうの使えるの?」
「私たちこの世界の人間にはそういう力はありませんね。だから特別な力をもつ可能性がある異界者を妬んで、自分たちより下の存在に、奴隷にしたがる人が多いのかもしれません。この国には古くから奴隷制がありますし……。そのせいで昔は他国から人を攫ってくることもあったみたいです」

 奴隷制……。嫌な国だ。

「異界者を受け入れてる国もあるんだよね?」
「ありますよ。特にこの国、クロイツ聖王国は積極的に異界者を受け入れてるって聞きます」
 さっき描いた菱形を指して教えてくれる。積極的に受け入れてくれる国、ね。積極的に受け入れてくれるっていってもいる大陸が違うんだからどうにもできないよな。

「港町の場所も教えてもらいたいんだけど」
「流石にこの地図じゃ説明は出来ないので、明日ちゃんとした地図を持ってきますね」
「方角だけでいいんだけど、どうせ俺土地勘ないし」
「方角は、あっちの東北東になりますね」
 リオが住んでる町がある方か……。
「結構近かったりする?」
「いいえ、ここからならかなり距離がありますよ。歩きだと――」
「あー! いい! かかる日数とかは聞きたくない。向かおうと思ったとき挫けそうだから」
「そうですか? ふふふ」
 笑われてしまった……。情けないやつだと思われたんだろう。でも、知らない方が頑張れるということもある。何日間も歩かないといけないとか知ってたら途中で絶対嫌になる。

「他に聞きたいことはありますか?」
「ん~、今はもういいかな。それにリオ、そろそろ帰った方がいいでしょ? ここから町までどのくらいあるのかはわからないけど、日が暮れたら危ないし」
 色々教えてもらってるうちに結構時間が経った気がする。
「そうですね。それじゃあそろそろ帰りますね。また明日も食べ物持ってきますから」
 そう言って微笑んでくれる。やっぱり綺麗だよねぁ。じゃなくって。
「時間取らせてごめん、色々教えてくれてありがとう」
「このくらい全然平気ですよ。こちらこそ、手伝ってくれてありがとうございました。それじゃあ、また明日」
「また明日……」
 また明日、また明日、ねぇ。誰かとこんな挨拶する日がまた来るとは思ってなかった。ん~、変な感じ!
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