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終章~人魔大戦~
過去との邂逅
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『埒が明かぬな。人間の身でよくも食らいつくものだ。流石は同質の存在……クク、目的の成就間近でなければもう暫し遊んでもいいのだが、なッ!』
剣戟を響かせ続けて既に一時間近く、それでもどちらも膝を突かない。持久戦じゃ勝ち目はないってのに……攻めきれない。
振り下ろされた剣を踏み台に飛び上がり空中回し蹴りの二連打を打つが手で払われ回避された。
『鬱陶しいわッ!』
返しに回し蹴りをもらい玉座へと突っ込んだ。薄幕を引っ掛け玉座を破壊し尚勢いは止まらず壁を破り玉座の裏にある部屋にまで到達した。
「うっ!?」
吐き気を催す悪寒に思わず口を塞いだ。なんだここは? 酷い空気だ。城中の不快な空気を更に濃縮したような気持ちの悪さがある。刺さるような視線に絡み付かれ身体を悪意が撫で回しているみたいだ。
「気持ち悪い……ここは駄目だ。出ないと――」
瘴気に耐えられずふらつきながら立ち上がったが足下に転がる物体に足を取られた。
倒れ込んだ際に物体の正体を知り驚愕した。
「ドゥルジ……?」
悶え苦しみ絶命した状態が張り付いたような表情と体勢だ。ナハトの聖火からは逃げ出したはず、ここで殺されたのか? ここに渦巻く怨念の原因はこいつ――。
『そこは心地良いだろう? 何せ悪神とはいえ神の怨念が渦巻いているのだからな』
「仲間を殺したのか?」
『殺した? 殺したのはお前たちだろう? 戻ってから随分と長く苦しみ俺の役に立ってくれた。たった一人でこの大陸を悍ましき病で幾多の怨念に溢れさせた。そしてその怨念をも凌駕する怨念を残していった――ドゥルジの死は計算外ではあったが最高の置き土産を残していった。それに、俺の配下に死は終わりではない――喋り過ぎたな。貴様が最後の鍵だ』
逃げ出すまでに受けた聖火に蝕まれたのか? ナハトは勝っていたんだ。だが結果的にドゥルジの死はディーの有利に働いているらしい。この渦巻く怨念を使って何をする気だ?
俺が鍵……? どこかの世界に繋ぐ気なのか。だが入り口がなければどうにもならない、ティナを置いてきたのは正解だった。
渦巻く不快を晴らせれば更にいいんだろうが……この類いはナハトの聖火でこの場所ごと焼き清めるかアリシャの能力で散らすくらいしか思い付かない。どっちみち俺じゃ対処出来ないならディーを倒すしかない――。
「たす――助けてくれぇ……」
部屋の壁を破り身を隠しながらディーを撹乱しようと踏み出した足を部屋の隅に転がっていたボロ雑巾に掴まれた。
「ッ!? お前は――」
『あぁ、そういえばそんな物も置いていたな。アスモデウスが消え、世話をしていたアマゾネスも負の想念に飲まれ狂ったというのにまだ正気を保っているか……大したものだな。お前が俺と同類ならさぞかしそれを殺したいのだろうな……ククク、くれてやってもいいぞ。存分に殺せ』
煽られるままにレーヴァテインを握る右手に力がこもる。
何でこんな場所に糞親父が居るんだ……日本に帰ってればいいものを、何で留まりこんな敵地に……あぁくそっ! なんとなく理解した。
こいつはしょっちゅう借金をこさえていた。返済から逃げたくてヴァーンシアに留まり、女好きの馬鹿がアスモデウスの色香に釣られてここに居るんだ。
我知らず振り上げたレーヴァテインには荒れ狂う黒雷が宿り、触れずとも傍にある存在を破壊ししかねない程に力が収束している。
こいつは俺と母さんを身勝手に捨てた。
逃げ出した事で自分の親に見放され金を借りる相手を無くし、恥知らずにも母さんの気持ちを利用して金を無心して苦しめた。
俺の人生を狂わせた。
それでも尚のうのうと新しい世界を生き、金の為に俺を売った。
殺したい理由は無数にあっても救うべき理由は見つけられない。こんな大事な状況で俺の心を乱した。それだけでも万死に値する――このまま振り下ろしてしまえ――。
「わた、る……」
っ!? うるさい黙れ……母さん……俺はっ――過去の記憶が頭を過る。やめろ、これ以上俺を乱すな。
「憎い憎いって、そうは言ってもねぇ、あの人だって悪いところばかりじゃなかったでしょう? 小さい頃あんなに一緒に遊んでもらって、仕事で遠くに出掛ける度にあんたにお土産買って帰って来てた時の笑顔覚えてるでしょう? あの人は期待と仕事に押し潰されて間違えてしまっただけ、冷静になったらいつか帰って――」
笑顔? お土産? 帰ってくる? そんなの偽物だ。笑顔もお土産も自分が隠したい事の、罪悪感を薄める為の行為、帰ってくるなんて言葉は期待を抱かせて金を毟り取りやすくする為、こいつは俺たちの事なんてこれっぽっちも想っていなかった。そういうクズだ。だから俺の事も売った。
なら――もういいだろ。これ以上乱されてディーに不利を晒すくらいなら、今ここで憂いを断つべきだ。
暗い感情に支配されて俺は男を見下ろす。痩せ細り纏う物は襤褸同然だ。こんなものが父親……。
「あ゛あ゛ッ! 鬱陶しい――思い出捨てられたら――」
『殺さぬ、か。腑抜けだな』
ディーが初めて接触してきた時に俺は幻を見た。なら糞親父もその可能性は? 俺の感情を煽って能力を利用する。
奴が考えそうな事だ。糞親父が違う人間の場合もある、そう自分に言い聞かせて襤褸クズを瘴気渦巻く部屋から投げ出した。
「少しはマシになるだろ、俺に関わるなッ!」
『そんなものでいいのか貴様は! 愚かな父親を赦せるのか! 殺意を思い出せ、全てを狂わせた愚か者を断罪しろ。お前にはその権利がある』
父親は家族じゃない……大切なものだけを想え、冷静に、目の前の敵を見ろ。
踏み込み、ディーの喉元に斬り付ける。これはフェイント――反応した。だが冷静に見ている、回り込んで殺気を叩き付け刃が振り抜かれる時には更に後ろへ――まだだ、まだこいつは対応出来る。
見える。
か細い糸のような軌跡、こんな極限の戦闘中に目を凝らさなければ見えないほどの微かな可能性。
辿れ、掴め、手繰り寄せろ! この戦いの終わりを! 加速加速加速、極限の更に向こうへ。
常に背後に回り打ち込み、時に殺気と気迫をぶつけるだけのフェイントを織り混ぜて休みなく斬り込む。
身体が悲鳴を上げている、限界を超えた強化には耐えられないと、完全な許容オーバー。骨が軋む、動く度に破滅が近付くような感覚――それでも止まるな! 止まればもう動けない、次はないんだ!
「ここで、これで、終わらせる。大切な人たちの所に帰るんだ!」
『ッ! 人間風情がッ――』
冷静に斬り結んでいたディーが一瞬苛立ちを表面に出した。振るう軌道は見えていた、限界を超えた速度で飛び上がった俺はディーの目には消えたように見えたんだろう。
何度となく回り込む動作を繰り返していた俺が消えた事で動揺し一瞬硬直した。ここしかない、俺の最大の一撃を撃ち込んだ。
黒い閃光が室内を埋め尽くし玉座の間の天井を崩落させた。
「あれを耐えるかよ……」
『ああ耐えるとも、俺には達成すべき目的がある。それを目前にして死ねるものか……ククク、それにしても、人間でありながらなんという能力か……貴様はそれだけ――攻撃に傾倒しているとはいえ十分だ、これで遂に死界の門が開ける』
絶対的な死であったはずの一撃をディーはアダマンタイトの剣で打ち返した。疲労を見せながらも喜びに打ち震え纏う力が鳴動している。
『さぁ開け死界、渦巻く怨念よ、自らの肉体を求め世界を繋げ、お前たちの無念はここに在るぞ! お前たちが生きたかった世界はここに在るぞ!』
ディーの呼び掛けに応じて負の想念が崩れた玉座を中心に集まり凝り固まって闇の門を形作った。
死界の門は駄目だ……ドゥルジ以上の不快さと恐怖を感じる。死が形を成したかのようだ。
『開け』
闇が、ゆっくりと広がり口を開けた。溢れるのは夥しい数の魔物、怪物が空に向けて噴き上げている。
っ!? ディアボロス!? 外法師にニーズヘッグ、他にも戦場で見た覚えのあるものが溢れ廃都へと散らばっていく。
死界の門――あの世の出入口、これを作る為に俺を呼び寄せぺルフィディでこの大陸を滅ぼし多くの怨念と無念を作り出したっていうのか!? 死者が溢れる――今までの戦いが無意味であったかのように。
『邪魔だ。門を作ったのは貴様らの為ではない、道を開けろ。世界から締め出し完全に消滅させるぞッ!』
ディーの咆哮で死者の流れが割れて門の中央部分が開けた。奴はそこへ腕を突っ込み女を一人引っ張り出し抱き寄せた。
神々しいエルフ――いや、纏う空気はレヴィリアさんに近い――あれはハイエルフ、だとすれば、母親……?
『ご無沙汰しております母様、お会いしたかった。随分と長く待たせてしまい――』
門の中に自分の罪を見た。
ディーの母親だとか、犇めく死者だとか、復活する魔物だとか、死界の門の先の世界に対しての畏怖も憐憫も、全てが抜け落ちた。
今度こそ、躊躇わない――今の俺ならば彼女を救える――助けなければいけない。もう二度とあんな思いをしない為の力のはずだから。
門の前に立つディー達を押し退け溢れ出す化け物の流れに逆らい闇へ手を伸ばす。
縋り付き、絡み付き、纏わり付き、掻き付き、組み付き、噛み付き調子付く死者を斬り裂き薙ぎ払い押し退け振り払って奥へ奥へと手を伸ばし――掴んだ!
「もう大丈夫だ! 俺が、お父さん達の所に帰してやる! 絶対にだ!」
助けられなかった女の子を死が満ちた世界から連れ出した。
「お兄ちゃん誰? 日本の人? ――助けて! 怖い人たちとお化けがいっぱい私をいじめるの、やめてって言っても痛い事をいっぱいするの。苦しくても辛くてもずっと笑っててずっといじめてくるの、もう苦しいのも気持ち悪いのも嫌だよぉ。お家に帰りたい」
「絶対に帰してやる。過去の罪を全て打ち砕く」
ティナと俺が開く入り口ならそろそろ閉じる、これも俺の能力が利用されているなら――闇が縮み始めた。狭まる門に死者が詰め寄り押し合い流れが滞る。
「しっかり掴まってろよ」
黒雷を使えば却って門を広げかねない、だが普通の少女をつれたままここで能力も無しに大量の魔物と戦い続ければミスが出た場合が怖い。
一旦引くしかない、せめてティナの所までこの子と――あの屑も運ばないと――。
「これはあなたがやった事なのですか!? なんという事を……これでは過去の過ちの再現――今すぐ、今すぐやめなさい! 母はこんなこと望んでなど!」
『お優しい方だ。母様を見捨てた世界の事など放っておけばいいものを……まぁいいでしょう。復讐対象は他に在る、母様が望まれるなら閉じましょう』
ハイエルフの嘆きを聞き入れたディーが手を翳すと門は霧散して掻き消えた。
「キャハハハハハハハハッ、ボク復活! いやいやいや~穢れそのもののボクが死に穢れるなんて全く笑えない。まぁでも残した念は役に立ったみたいだねぇ?」
『ああ、お前の働きが最も大きい』
「それはそれは、お褒めに預り光栄です。なら次はもう一つの目的かな? 不死身の魔王をどうやって殺すのかな? 負の想念はかなり消費しているよね――もうひと働きしてあげようか?」
『クク、お前を召喚出来たのは俺にとって最たる幸運だったな』
「魔神よりも如月航よりも?」
『ああ』
ドゥルジは瞳を愉悦に染めて恍惚に浸った顔で崩落した天井から飛び去った。
「お兄ちゃん怖いよぅ」
「大丈夫、ちゃんと安全な所に連れていくから――」
「わ、航、俺も連れていってくれ」
少女を背負った俺に縋り付くみすぼらしい父親を睨み腕を取る。
『まぁ待て貴様ら、世にも珍しいものを見せてやる。死ぬ前に見物していけ……ドゥルジめ、早速殺し回っているな、いい仕事だ。復活した魔物の怒りと怨みも丁度いい――刮目して見よ! 異空に隠れし幻想郷、のうのうと外側から覗く貴様らを引き摺り出してやる――現出せよ、浮遊島、リル・ディ・アカーハ!』
ディーの放つ力が空を歪めたと思ったら夜が訪れた――否、空に大陸が現れた。
廃都を覆う程の質量――崩れた壁から窺える外はかなり先まで暗くなっている。
「ディー、これ以上何をすると言うのですか――もうやめてください。こんな悍ましき世界私は見たくありません、どうかあの頃のあなたに――」
『母様、俺はあの頃から変わってなどいません。あなたが世界の全てであり、それを害するもの全てを滅ぼしたいだけです。行きましょう、あなたには是非見ていただきたい』
ディーは母を連れ浮遊島の底からこの王城にまで到達するほどに伸びた塔へと入っていった。
最悪の事態だ。押していた形勢は復活した魔物に逆転され、ハイエルフが封印しか出来なかった化け物まで復活させられそうになっている。
「ティナ! この子頼む」
城内に留まっている魔物を蹴散らして辿り着いたエントランスで少女と襤褸クズをティナに渡す。
「ワタル無事だったのね――ってこの子誰!? どうして子供がこんな場所に? それにどういうことなの、さっきから魔物が溢れ返ってるわよ!?」
「あの世に繋がって死者が溢れ出した。門は閉じたが次は魔王復活だ、悪いが話してる暇もない。外に惧瀞って女の人がいる、事情は既に伝えてあるから保護してもらえ」
まだ目覚めていないみんなを確認して脱出をさせる事にした。城内は外より魔物が少ないが起きているのがティナ一人だと守りきれないだろう、記憶消失の原因がディーならここはもう安全のはずだから籠城でもいいかもしれないが、とにかく合流はした方がいい。
「ちょ――ワタルはどうするの!?」
「そりゃ魔王復活を止めるんだよ」
利用された挙げ句に魔王まで復活させられてたまるか。
「一人で行く気なの?」
「みんなまだ寝てんだろ、時間がないんだ。余裕があれば西野って人の所まで案内してもらって天明を治してもらってくれ。目覚めたらきっと助けになってくれる」
「お兄ちゃん行っちゃうの……?」
「悪いな、今はここまでだ。このお姉ちゃんと一緒に居れば大丈夫だから――優しそうだろ? 大丈夫、ちゃんと守ってくれる。怖いお化けやっつけてくるからちょっと待っててな」
「うん、早くね」
少女を撫でて落ち着かせると背を向けた。
剣戟を響かせ続けて既に一時間近く、それでもどちらも膝を突かない。持久戦じゃ勝ち目はないってのに……攻めきれない。
振り下ろされた剣を踏み台に飛び上がり空中回し蹴りの二連打を打つが手で払われ回避された。
『鬱陶しいわッ!』
返しに回し蹴りをもらい玉座へと突っ込んだ。薄幕を引っ掛け玉座を破壊し尚勢いは止まらず壁を破り玉座の裏にある部屋にまで到達した。
「うっ!?」
吐き気を催す悪寒に思わず口を塞いだ。なんだここは? 酷い空気だ。城中の不快な空気を更に濃縮したような気持ちの悪さがある。刺さるような視線に絡み付かれ身体を悪意が撫で回しているみたいだ。
「気持ち悪い……ここは駄目だ。出ないと――」
瘴気に耐えられずふらつきながら立ち上がったが足下に転がる物体に足を取られた。
倒れ込んだ際に物体の正体を知り驚愕した。
「ドゥルジ……?」
悶え苦しみ絶命した状態が張り付いたような表情と体勢だ。ナハトの聖火からは逃げ出したはず、ここで殺されたのか? ここに渦巻く怨念の原因はこいつ――。
『そこは心地良いだろう? 何せ悪神とはいえ神の怨念が渦巻いているのだからな』
「仲間を殺したのか?」
『殺した? 殺したのはお前たちだろう? 戻ってから随分と長く苦しみ俺の役に立ってくれた。たった一人でこの大陸を悍ましき病で幾多の怨念に溢れさせた。そしてその怨念をも凌駕する怨念を残していった――ドゥルジの死は計算外ではあったが最高の置き土産を残していった。それに、俺の配下に死は終わりではない――喋り過ぎたな。貴様が最後の鍵だ』
逃げ出すまでに受けた聖火に蝕まれたのか? ナハトは勝っていたんだ。だが結果的にドゥルジの死はディーの有利に働いているらしい。この渦巻く怨念を使って何をする気だ?
俺が鍵……? どこかの世界に繋ぐ気なのか。だが入り口がなければどうにもならない、ティナを置いてきたのは正解だった。
渦巻く不快を晴らせれば更にいいんだろうが……この類いはナハトの聖火でこの場所ごと焼き清めるかアリシャの能力で散らすくらいしか思い付かない。どっちみち俺じゃ対処出来ないならディーを倒すしかない――。
「たす――助けてくれぇ……」
部屋の壁を破り身を隠しながらディーを撹乱しようと踏み出した足を部屋の隅に転がっていたボロ雑巾に掴まれた。
「ッ!? お前は――」
『あぁ、そういえばそんな物も置いていたな。アスモデウスが消え、世話をしていたアマゾネスも負の想念に飲まれ狂ったというのにまだ正気を保っているか……大したものだな。お前が俺と同類ならさぞかしそれを殺したいのだろうな……ククク、くれてやってもいいぞ。存分に殺せ』
煽られるままにレーヴァテインを握る右手に力がこもる。
何でこんな場所に糞親父が居るんだ……日本に帰ってればいいものを、何で留まりこんな敵地に……あぁくそっ! なんとなく理解した。
こいつはしょっちゅう借金をこさえていた。返済から逃げたくてヴァーンシアに留まり、女好きの馬鹿がアスモデウスの色香に釣られてここに居るんだ。
我知らず振り上げたレーヴァテインには荒れ狂う黒雷が宿り、触れずとも傍にある存在を破壊ししかねない程に力が収束している。
こいつは俺と母さんを身勝手に捨てた。
逃げ出した事で自分の親に見放され金を借りる相手を無くし、恥知らずにも母さんの気持ちを利用して金を無心して苦しめた。
俺の人生を狂わせた。
それでも尚のうのうと新しい世界を生き、金の為に俺を売った。
殺したい理由は無数にあっても救うべき理由は見つけられない。こんな大事な状況で俺の心を乱した。それだけでも万死に値する――このまま振り下ろしてしまえ――。
「わた、る……」
っ!? うるさい黙れ……母さん……俺はっ――過去の記憶が頭を過る。やめろ、これ以上俺を乱すな。
「憎い憎いって、そうは言ってもねぇ、あの人だって悪いところばかりじゃなかったでしょう? 小さい頃あんなに一緒に遊んでもらって、仕事で遠くに出掛ける度にあんたにお土産買って帰って来てた時の笑顔覚えてるでしょう? あの人は期待と仕事に押し潰されて間違えてしまっただけ、冷静になったらいつか帰って――」
笑顔? お土産? 帰ってくる? そんなの偽物だ。笑顔もお土産も自分が隠したい事の、罪悪感を薄める為の行為、帰ってくるなんて言葉は期待を抱かせて金を毟り取りやすくする為、こいつは俺たちの事なんてこれっぽっちも想っていなかった。そういうクズだ。だから俺の事も売った。
なら――もういいだろ。これ以上乱されてディーに不利を晒すくらいなら、今ここで憂いを断つべきだ。
暗い感情に支配されて俺は男を見下ろす。痩せ細り纏う物は襤褸同然だ。こんなものが父親……。
「あ゛あ゛ッ! 鬱陶しい――思い出捨てられたら――」
『殺さぬ、か。腑抜けだな』
ディーが初めて接触してきた時に俺は幻を見た。なら糞親父もその可能性は? 俺の感情を煽って能力を利用する。
奴が考えそうな事だ。糞親父が違う人間の場合もある、そう自分に言い聞かせて襤褸クズを瘴気渦巻く部屋から投げ出した。
「少しはマシになるだろ、俺に関わるなッ!」
『そんなものでいいのか貴様は! 愚かな父親を赦せるのか! 殺意を思い出せ、全てを狂わせた愚か者を断罪しろ。お前にはその権利がある』
父親は家族じゃない……大切なものだけを想え、冷静に、目の前の敵を見ろ。
踏み込み、ディーの喉元に斬り付ける。これはフェイント――反応した。だが冷静に見ている、回り込んで殺気を叩き付け刃が振り抜かれる時には更に後ろへ――まだだ、まだこいつは対応出来る。
見える。
か細い糸のような軌跡、こんな極限の戦闘中に目を凝らさなければ見えないほどの微かな可能性。
辿れ、掴め、手繰り寄せろ! この戦いの終わりを! 加速加速加速、極限の更に向こうへ。
常に背後に回り打ち込み、時に殺気と気迫をぶつけるだけのフェイントを織り混ぜて休みなく斬り込む。
身体が悲鳴を上げている、限界を超えた強化には耐えられないと、完全な許容オーバー。骨が軋む、動く度に破滅が近付くような感覚――それでも止まるな! 止まればもう動けない、次はないんだ!
「ここで、これで、終わらせる。大切な人たちの所に帰るんだ!」
『ッ! 人間風情がッ――』
冷静に斬り結んでいたディーが一瞬苛立ちを表面に出した。振るう軌道は見えていた、限界を超えた速度で飛び上がった俺はディーの目には消えたように見えたんだろう。
何度となく回り込む動作を繰り返していた俺が消えた事で動揺し一瞬硬直した。ここしかない、俺の最大の一撃を撃ち込んだ。
黒い閃光が室内を埋め尽くし玉座の間の天井を崩落させた。
「あれを耐えるかよ……」
『ああ耐えるとも、俺には達成すべき目的がある。それを目前にして死ねるものか……ククク、それにしても、人間でありながらなんという能力か……貴様はそれだけ――攻撃に傾倒しているとはいえ十分だ、これで遂に死界の門が開ける』
絶対的な死であったはずの一撃をディーはアダマンタイトの剣で打ち返した。疲労を見せながらも喜びに打ち震え纏う力が鳴動している。
『さぁ開け死界、渦巻く怨念よ、自らの肉体を求め世界を繋げ、お前たちの無念はここに在るぞ! お前たちが生きたかった世界はここに在るぞ!』
ディーの呼び掛けに応じて負の想念が崩れた玉座を中心に集まり凝り固まって闇の門を形作った。
死界の門は駄目だ……ドゥルジ以上の不快さと恐怖を感じる。死が形を成したかのようだ。
『開け』
闇が、ゆっくりと広がり口を開けた。溢れるのは夥しい数の魔物、怪物が空に向けて噴き上げている。
っ!? ディアボロス!? 外法師にニーズヘッグ、他にも戦場で見た覚えのあるものが溢れ廃都へと散らばっていく。
死界の門――あの世の出入口、これを作る為に俺を呼び寄せぺルフィディでこの大陸を滅ぼし多くの怨念と無念を作り出したっていうのか!? 死者が溢れる――今までの戦いが無意味であったかのように。
『邪魔だ。門を作ったのは貴様らの為ではない、道を開けろ。世界から締め出し完全に消滅させるぞッ!』
ディーの咆哮で死者の流れが割れて門の中央部分が開けた。奴はそこへ腕を突っ込み女を一人引っ張り出し抱き寄せた。
神々しいエルフ――いや、纏う空気はレヴィリアさんに近い――あれはハイエルフ、だとすれば、母親……?
『ご無沙汰しております母様、お会いしたかった。随分と長く待たせてしまい――』
門の中に自分の罪を見た。
ディーの母親だとか、犇めく死者だとか、復活する魔物だとか、死界の門の先の世界に対しての畏怖も憐憫も、全てが抜け落ちた。
今度こそ、躊躇わない――今の俺ならば彼女を救える――助けなければいけない。もう二度とあんな思いをしない為の力のはずだから。
門の前に立つディー達を押し退け溢れ出す化け物の流れに逆らい闇へ手を伸ばす。
縋り付き、絡み付き、纏わり付き、掻き付き、組み付き、噛み付き調子付く死者を斬り裂き薙ぎ払い押し退け振り払って奥へ奥へと手を伸ばし――掴んだ!
「もう大丈夫だ! 俺が、お父さん達の所に帰してやる! 絶対にだ!」
助けられなかった女の子を死が満ちた世界から連れ出した。
「お兄ちゃん誰? 日本の人? ――助けて! 怖い人たちとお化けがいっぱい私をいじめるの、やめてって言っても痛い事をいっぱいするの。苦しくても辛くてもずっと笑っててずっといじめてくるの、もう苦しいのも気持ち悪いのも嫌だよぉ。お家に帰りたい」
「絶対に帰してやる。過去の罪を全て打ち砕く」
ティナと俺が開く入り口ならそろそろ閉じる、これも俺の能力が利用されているなら――闇が縮み始めた。狭まる門に死者が詰め寄り押し合い流れが滞る。
「しっかり掴まってろよ」
黒雷を使えば却って門を広げかねない、だが普通の少女をつれたままここで能力も無しに大量の魔物と戦い続ければミスが出た場合が怖い。
一旦引くしかない、せめてティナの所までこの子と――あの屑も運ばないと――。
「これはあなたがやった事なのですか!? なんという事を……これでは過去の過ちの再現――今すぐ、今すぐやめなさい! 母はこんなこと望んでなど!」
『お優しい方だ。母様を見捨てた世界の事など放っておけばいいものを……まぁいいでしょう。復讐対象は他に在る、母様が望まれるなら閉じましょう』
ハイエルフの嘆きを聞き入れたディーが手を翳すと門は霧散して掻き消えた。
「キャハハハハハハハハッ、ボク復活! いやいやいや~穢れそのもののボクが死に穢れるなんて全く笑えない。まぁでも残した念は役に立ったみたいだねぇ?」
『ああ、お前の働きが最も大きい』
「それはそれは、お褒めに預り光栄です。なら次はもう一つの目的かな? 不死身の魔王をどうやって殺すのかな? 負の想念はかなり消費しているよね――もうひと働きしてあげようか?」
『クク、お前を召喚出来たのは俺にとって最たる幸運だったな』
「魔神よりも如月航よりも?」
『ああ』
ドゥルジは瞳を愉悦に染めて恍惚に浸った顔で崩落した天井から飛び去った。
「お兄ちゃん怖いよぅ」
「大丈夫、ちゃんと安全な所に連れていくから――」
「わ、航、俺も連れていってくれ」
少女を背負った俺に縋り付くみすぼらしい父親を睨み腕を取る。
『まぁ待て貴様ら、世にも珍しいものを見せてやる。死ぬ前に見物していけ……ドゥルジめ、早速殺し回っているな、いい仕事だ。復活した魔物の怒りと怨みも丁度いい――刮目して見よ! 異空に隠れし幻想郷、のうのうと外側から覗く貴様らを引き摺り出してやる――現出せよ、浮遊島、リル・ディ・アカーハ!』
ディーの放つ力が空を歪めたと思ったら夜が訪れた――否、空に大陸が現れた。
廃都を覆う程の質量――崩れた壁から窺える外はかなり先まで暗くなっている。
「ディー、これ以上何をすると言うのですか――もうやめてください。こんな悍ましき世界私は見たくありません、どうかあの頃のあなたに――」
『母様、俺はあの頃から変わってなどいません。あなたが世界の全てであり、それを害するもの全てを滅ぼしたいだけです。行きましょう、あなたには是非見ていただきたい』
ディーは母を連れ浮遊島の底からこの王城にまで到達するほどに伸びた塔へと入っていった。
最悪の事態だ。押していた形勢は復活した魔物に逆転され、ハイエルフが封印しか出来なかった化け物まで復活させられそうになっている。
「ティナ! この子頼む」
城内に留まっている魔物を蹴散らして辿り着いたエントランスで少女と襤褸クズをティナに渡す。
「ワタル無事だったのね――ってこの子誰!? どうして子供がこんな場所に? それにどういうことなの、さっきから魔物が溢れ返ってるわよ!?」
「あの世に繋がって死者が溢れ出した。門は閉じたが次は魔王復活だ、悪いが話してる暇もない。外に惧瀞って女の人がいる、事情は既に伝えてあるから保護してもらえ」
まだ目覚めていないみんなを確認して脱出をさせる事にした。城内は外より魔物が少ないが起きているのがティナ一人だと守りきれないだろう、記憶消失の原因がディーならここはもう安全のはずだから籠城でもいいかもしれないが、とにかく合流はした方がいい。
「ちょ――ワタルはどうするの!?」
「そりゃ魔王復活を止めるんだよ」
利用された挙げ句に魔王まで復活させられてたまるか。
「一人で行く気なの?」
「みんなまだ寝てんだろ、時間がないんだ。余裕があれば西野って人の所まで案内してもらって天明を治してもらってくれ。目覚めたらきっと助けになってくれる」
「お兄ちゃん行っちゃうの……?」
「悪いな、今はここまでだ。このお姉ちゃんと一緒に居れば大丈夫だから――優しそうだろ? 大丈夫、ちゃんと守ってくれる。怖いお化けやっつけてくるからちょっと待っててな」
「うん、早くね」
少女を撫でて落ち着かせると背を向けた。
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……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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加藤あいは高校2年生。
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皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
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