458 / 470
番外編~世界を見よう! 家族旅行編~
カーバンクル
しおりを挟む
「あれは何故あんなにも激しく争っているのですか? 人間という種は国という大きな群れで争う事はありますが、個々人での縄張り争いなどあるのですか?」
「あれは別に縄張り争いをしているでないわ。主を取られたくない者と奪いたい者との熾烈な戦いだ」
「……異性の奪い合いですか、不毛ですね。こちらの雄にはそれほど他の雌を惹き付けるものがあるのですか?」
ステラは心底訳が分からないといった様子で冷めた目を俺に向けている。雄とか雌って言うのやめてくれ…………。
「ククク、主の良さが分からぬとはお子様だな。主、儂を抱け」
ミュウの事とか自分の在り方とか色々言われてちょっと寂しくなったようだ。
抱き上げると身を刷り寄せて満足げにステラを見下ろしている。優越感に浸るクーニャは古い記憶よりも今が大事だと笑って見せた。
まぁ当然やきもきを焼いたティナとナハトに引き剥がされてしまったが、それでもそれはそれで家族のスキンシップとして楽しんでいる。
彼女は混乱する。ずっと謎だった同族の、理解の及ばない未知の感情に。
彼女は困惑する。自分達とは違う同族に、感情を隠す事ないクーニャに。
彼女は焦燥する。家族を謳歌する同族に、それが正しいと言う俺たちに。
第一回戦、雪合戦結果――。
時間切れ、双方生き残り二人――二回戦へと縺れ込んだ。
「二回戦のお題は……イチャイチャ出来る素敵なかまくら作りです」
復活したエルスィがお題を告げると全員顔が曇った。どうやら全員物作りは得意ではないようだ。
「では私たちはかまくらの中で食べる物でも準備していましょうか。皆さん頑張ってくださいね」
クロと娘たちの期待の眼差しを受けて退けなくなった者たちは渋々雪を集め始めた。
クロの無邪気さは酷だ……うちの人間全員が入れる規模を作ろうと思ったら結構な重労働だろうに……そこを承知しているリュン子とミシャはフィオ達に同情的な視線を向けている。
「クロよ、寒い時はおでんだよな?」
「えー? 寒い時はラーメンじゃありませんか?」
どちらもお気に入りの料理を譲る事はしないだろう。恐らく両方出てくる。
重労働と言えどしかしまぁそこは超人、フィオが引っ張り出してきたアル・マヒクを使って雪を大量に集めてアリス達が踏み固めて大きなドームを作っている。
アマゾネスチームはといえば、アルが風で雪を巻き上げて水を混ぜて固めた物をロフィアとイェネが裁断してブロックを作っている。それをエピがせっせと積み上げている。
娘たちと遊んでくれていた事を考えるといくらか細かい作業が出来るようだ。
「不毛ですね」
「そうかしら? 取り合いになる程の男の魅力をあなたが理解出来ないだけじゃないかしら?」
アスモデウスの言葉に彼女は不服そうだ。
「パパ見て、おっきい雪だるま!」
「おー、フィアが作ったのか。よーし、じゃあパパは……雪もさ」
「わぁ、お父さんこれちょうだい」
「いいけどチビ達居るだろ」
「っ!? ちょっと待ってください。特殊個体があなた方と一緒に居るんですか!?」
雪で作ったもさを指差してステラが慌てふためいている。もしかしてカーバンクルも何か特別な役目のある生き物なのか?
「ああ、ほら、そこでティリアがぬくぬくもこもこしてるだろ」
カーバンクル十四匹を纏って暖を取っている娘を指差すと声にならない叫びを上げてステラの顔が青ざめた。
「事象補正結晶生成体がこんなにっ!? しかもこれ稀少種……あなた達何故アーヴ大陸から出ているのですか!」
「動物にそんな怒鳴っても分からないだろ……というかもさは七年以上前から俺たちに付いて色んな所に行ってるぞ」
あんぐりと口を開けて停止してしまわれた。そこまでマズい事なんだろうか。
「この……この生物はっ、スペリオルに次いで造物主が注力した生き物でその額の結晶は所持者の都合の良いように事象を補正する特別なものです! 本来その情報や使用は重大な危機に瀕した時穏やかなリィテ種にのみ許されていて――」
「それ言っていいのか?」
「ああっ!?」
うっかり口を滑らせたようだ。口を塞いで今のは聞かなかった事にしてくれるならもさ達をクオリア大陸の野に放すだけで許しますとか言っている。
「もさ達には何回も助けられてるし、何より家族だから今更別れるなんて無理だぞ」
「また家族ですか……なら分かりました。結晶の回収だけで今は許しますので取り外した結晶を出してください」
「カーバンクルの宝石の事か? もさ達のは外した事ないし他のは今は持ってないぞ? 世界移動が無くなってからはその効力が混乱を招くかもしれないからってティナの父さんが回収して砕いてカーバンクルの棲みかに撒いたって聞いてる」
「そうですか、賢明なリィテ種です。しかし生成体の稀少種が一ヶ所にこんなにも……取り外して悪用を考えれば滅ぼしますよ?」
じろりとドラゴンの瞳で睨む彼女はマジだ。命を尊重する彼女がこんな事を言うということはカーバンクルに頼るのはよほどアウトだったのかもしれない。
「さっきから稀少種と言ってるけどカーバンクルに種類なんてあるの? 違いなんてないように思うんだけど」
「あなたはリィテ種なのに無知ですね。生成体が生成する結晶の大きさで簡単に分かるじゃないですか。通常種はあまり大きな結晶を生成出来ません」
無知呼ばわりされて震えているティナを落ち着かせるがロリっ娘に無知と言われたのがよほど悔しいようで恨めしそうに睨んでいる。
「なんだ、大きさの違いは年齢ではなかったのか。道理でもさ達以外のカーバンクルの宝石が小さかった訳だ」
「…………リィテ種には使用が許されていますが、そんなに多用したのですか?」
彼女はナハトの言葉で頭痛でもしたのか頭を抱えて踞ってしまった。
「んん? 大きさで補正が変わるのは知っていますよね? 何故稀少種のは外していないのですか?」
「え? だって外さなくても効果あるし――」
「そんなはずありません! 事象補正は結晶を持たなければ効果はありません。外していなければ生成体が生きる為にしか効果は現れません。そもそも稀少種はリィテ種であっても捕らえるのは難しいはずなのにどうして――」
「あぁ、もさは降ってきたのを拾った」
固まり、そして震え出す。
「拾った!? あなたは何をやっているんですか!? 人間にあっさり捕まるなど稀少種の誇りはないんですか!? そもそも生成体は他生物を恐れる習性を付加されているはずでしょう!?」
彼女は混乱したように叫びながらもさを振り回している。ステラにとってうちの家族はイレギュラーの塊のようだ。
もさの方は心底迷惑そうにか細い声で鳴いている。
「落ち着いたか?」
「すいません、取り乱しました。しかし、本当に事象補正の効果が現れていたのですか? そのような現象は予期されていないのですが」
「もさが飼い主のフィオの幸せを願って引き起こしているって考えられないの?」
それはさも当然の事なのだとティナは言うがステラはどうにも納得出来ないようだ。命を公平に見る彼女からしたら個に執着するというのが理解出来ないんだろう。
「そのような事……そもそも生成体は他生物と馴れ合いません」
「あなたあれを見て同じこと言ってみなさいよ」
ティナが指差すのは娘たちの服に潜り込んでもこもこしているもさの子たち、完全に懐いとるな。
鳴くぬいぐるみのようにきゅぅきゅぅ鳴いてもぞもぞ出たり入ったり、エリスはくすぐったそうに身体を捩っている。
「あ、あなたっ! 事象補正結晶生成体に何をしたんですか! 通常種でさえ警戒心が強いはずなのに稀少種があんなにもこもこもふもふしているはずがありません!」
ステラの中で全て悪いのは俺になりつつあるようだ。服を掴んでだだっ子の如く身体を揺すってくる。やだ可愛い、でもうちの娘の方が上だな。
「何を和んでいるのですか、質問に答えてください」
「何したって言われても……もさ」
『きゅぅ~』
「こうした」
もさの首を掴んでぶら~んと持ち上げる。もさは慣れたもので尻尾を振っているが、ステラはその光景を見てわなわなと震えだした。
「何故それを知っているんですか!? 生成体は子育てを他生物に見せたりしないはずです」
「いや猫を持つ要領でやっただけなんだけどな、大人しくさせるにはこれが良いんだってな。まぁ今更関係ないよなぁ~?」
『きゅ~う~?』
肩に乗せて手を放すとそのまま首に巻き付いてマフラーになっているもさを見てステラはうちひしがれている。
「いやでもおかしいです。大人しくなるのは一時的なもの、そのように好意的にもふもふもこもこと…………さ、触ってもいいですか?」
もさに興味を惹かれてしまったようだ。女の子らしい所もあるようでなんか安心してしまった。
「完成! どうだワタル、評価するなら中で乳繰り合ってやってもいいのだぞ」
完成させたブロック式のかまくらの上で威張り誇っているロフィアは勝ちを確信しているようだ。
「おいおい、お前らまだやってんのかよ。しかも歪だな、そんなんで大丈夫かぁ?」
イェネの挑発の無視して嫁姉妹は作業を急いでいる。フィオ達は雪を盛って掘り進んでいたはずだが……何故かドームに二本の塔が、どんな造形だ?
「はーい、そろそろ時間切れですよー」
エルスィの声で作業スピードは加速する。何か飾り付けをしているようだ――ここまでくれば何をしていたのかは一目瞭然だな。
「完成、どうワタル? よく出来てるでしょ?」
ドームの上で作業していたアリスが腕の中に飛び込んできたのを受け止める。アリス達が作っていたのは子供にウケが良さそうなカーバンクルベッドなかまくらだった。
「まだまだ造形が甘いな」
「そうじゃな、この辺とかもっと改善出来そうなのじゃ」
お遊びに対してもクリエイター二人は厳しい。娘たちは喜んでるし良いんじゃないだろうか。
「この短時間でよく作ったな…………」
どちらもここに居る全員がギリギリ入れる大きさだ。アマゾネスチームはいくらか内装も作ったようでテーブルも設置してある。
「さて評価ですが……お題のイチャイチャ出来るが完全に忘れ去られているので判断はお嬢様方にお任せします」
エルスィがそう言った瞬間かまくらカーバンクルが崩れた。突き出た耳の造形をくり貫かれたドームでは支えきれなかったようだ。
全員が慌てて娘たちの救出を行うが本人たちはけろっとした様子で自分で這い出てきた。
「作品がなくなりましたのでアマゾネスチームの勝ち、ですが……」
地面に沈んで行きそうな勢いで落ち込んでいる四姉妹を見てエルスィが引いている。
「ま、まぁ勝数=人数なのでまだ一人じゃないですか。続けるなら取り戻せますよ!」
あぁそういうシステムなんだ。我が事ながら全く理解していなかった。娘たちは娘たちでアマゾネスチームの勝利を喜んでるし……あんまり喜ぶとママ落ち込みますよ!
「さぁさぁ、続きは後にして温かいうちに食べましょう」
「いつも思うけどこの量を普通に作るの凄いなぁ」
分担しているとはいえうちの家族は一食分だけでも大仕事だ。それを毎日こなしていたリオ達には頭が下がる思いだ。綾さんとレヴィが増えて人手は増えているがそれでもな量、育ち盛りの娘たちはよく食べるしホント凄い。主婦の鑑だ。
「ほらほらステラちゃんも座ってください」
そう言ってリオが彼女を座らせたのは俺の膝の上……勝負に夢中でステラに気付いていなかったフィオ達は大変ご機嫌斜めだ。そしてクーニャは呪い殺しそうな感じで凝視してくる。
「ステラちゃん、お聞きしたい事があるんですけど――」
フィオ達の不機嫌はお構いなしにリオが切り出した。
「あっ、私もです。何故異界者が覚醒者になれるのかステラさんはご存知ですか?」
「外来種の特殊能力ですか……私が直接観測していないので確証はありませんが推測は出来ます。箱庭ミウルの周囲には造物主が箱庭を作った際の力の余りが多く漂っていると考えられます。ですので箱庭を訪れる際にそこを通過して力が定着して特殊能力という形として発現するのかと」
つまり異界者が使うどの能力も神様の力の一端だと?
「ですがっ、それだと……その、変です。私たちも世界の移動を経験しているのに発現していません。もし力があれば私たちだってもっと家族を助けてあげられるのに…………」
クロの語った思いはリオとシロも抱えていたんだろう、いつも待つ側だった三人の悔しさが滲んでいた。
「人間は特殊な役割は与えられていない通常生物です。特殊な力が発現する事はありません。特殊能力を受け入れられるように出来ていないのです。それは例え造物主の力に触れた所で同じです」
「ならば異界者で発現する者とそうじゃない者はなんだ? それに能力の強さも」
ロフィアはステラに詰め寄り覚醒者になる為の方法を探ろうとしている。
「容量と親和性の問題でしょう、力を取り込める相性の良さがあるのだと思います」
「ならば子は!? 父親が異界者の場合身体が強靭に、母親が異界者であれば発現の可能性があるが」
強い子をと望むロフィアにとってこの情報は重要事項なのだろう。
「ふむ……子孫への能力の受け渡しの問題でしょう、雄は一度きりで不十分ですが雌の場合その母体で育みながらゆっくりと受け渡す事が出来ます。その場合でも親が受け入れていた力の総量に依るんでしょうが」
だから雄雌発言はやめてくれと…………。
能力の強化についてもステラなら分かるだろうか? 幾度と俺の能力は強化されて変化してきた、どんなものかも理解しないまま状況に流されて――。
「ステラちゃん能力の強化についても分かりますか? ワタルの能力が強くなった時にワタル自身を蝕んだんです。もしこれ以上強化されてしまったらと心配で…………」
エリュトロン戦の後の事だろう、当時を思い出してしまったようでリオは表情を曇らせた。
あの時は本当に心配させたから申し訳ない。
「強化、ですか? ……それはどのような時に起こるのですか?」
「まぁ主にぶちキレた時とか」
「…………あなたは何度も世界移動をされているのですよね?」
ステラは顎に手を当てて唸っている。
「ああ」
「だとすれば箱庭の周囲に漂う力との間に何らかの繋がりが出来てしまっているのでしょう。それで感情の高まりに合わせて許容量以上の力を取り込んでしまっている、のかもしれません。ですが本来箱庭の力は箱庭のもの、外来種に適したものではないと思います。もし取り込み続ければ寿命を縮めますよ」
ステラの発言に皆動揺して楽しい食事どころではなくなってしまった。
俺自身は何らかのマイナスはあるかもしれないと思っていたしそれでも必要だった。そうでなければ守れなかった、だから後悔は感じていない。
それでも、これからの時間を大切にしていきたいから今後無理は控えようと密かに誓った。
まぁ、戦乱も終わったしそんな必要もないだろうけど。
「あれは別に縄張り争いをしているでないわ。主を取られたくない者と奪いたい者との熾烈な戦いだ」
「……異性の奪い合いですか、不毛ですね。こちらの雄にはそれほど他の雌を惹き付けるものがあるのですか?」
ステラは心底訳が分からないといった様子で冷めた目を俺に向けている。雄とか雌って言うのやめてくれ…………。
「ククク、主の良さが分からぬとはお子様だな。主、儂を抱け」
ミュウの事とか自分の在り方とか色々言われてちょっと寂しくなったようだ。
抱き上げると身を刷り寄せて満足げにステラを見下ろしている。優越感に浸るクーニャは古い記憶よりも今が大事だと笑って見せた。
まぁ当然やきもきを焼いたティナとナハトに引き剥がされてしまったが、それでもそれはそれで家族のスキンシップとして楽しんでいる。
彼女は混乱する。ずっと謎だった同族の、理解の及ばない未知の感情に。
彼女は困惑する。自分達とは違う同族に、感情を隠す事ないクーニャに。
彼女は焦燥する。家族を謳歌する同族に、それが正しいと言う俺たちに。
第一回戦、雪合戦結果――。
時間切れ、双方生き残り二人――二回戦へと縺れ込んだ。
「二回戦のお題は……イチャイチャ出来る素敵なかまくら作りです」
復活したエルスィがお題を告げると全員顔が曇った。どうやら全員物作りは得意ではないようだ。
「では私たちはかまくらの中で食べる物でも準備していましょうか。皆さん頑張ってくださいね」
クロと娘たちの期待の眼差しを受けて退けなくなった者たちは渋々雪を集め始めた。
クロの無邪気さは酷だ……うちの人間全員が入れる規模を作ろうと思ったら結構な重労働だろうに……そこを承知しているリュン子とミシャはフィオ達に同情的な視線を向けている。
「クロよ、寒い時はおでんだよな?」
「えー? 寒い時はラーメンじゃありませんか?」
どちらもお気に入りの料理を譲る事はしないだろう。恐らく両方出てくる。
重労働と言えどしかしまぁそこは超人、フィオが引っ張り出してきたアル・マヒクを使って雪を大量に集めてアリス達が踏み固めて大きなドームを作っている。
アマゾネスチームはといえば、アルが風で雪を巻き上げて水を混ぜて固めた物をロフィアとイェネが裁断してブロックを作っている。それをエピがせっせと積み上げている。
娘たちと遊んでくれていた事を考えるといくらか細かい作業が出来るようだ。
「不毛ですね」
「そうかしら? 取り合いになる程の男の魅力をあなたが理解出来ないだけじゃないかしら?」
アスモデウスの言葉に彼女は不服そうだ。
「パパ見て、おっきい雪だるま!」
「おー、フィアが作ったのか。よーし、じゃあパパは……雪もさ」
「わぁ、お父さんこれちょうだい」
「いいけどチビ達居るだろ」
「っ!? ちょっと待ってください。特殊個体があなた方と一緒に居るんですか!?」
雪で作ったもさを指差してステラが慌てふためいている。もしかしてカーバンクルも何か特別な役目のある生き物なのか?
「ああ、ほら、そこでティリアがぬくぬくもこもこしてるだろ」
カーバンクル十四匹を纏って暖を取っている娘を指差すと声にならない叫びを上げてステラの顔が青ざめた。
「事象補正結晶生成体がこんなにっ!? しかもこれ稀少種……あなた達何故アーヴ大陸から出ているのですか!」
「動物にそんな怒鳴っても分からないだろ……というかもさは七年以上前から俺たちに付いて色んな所に行ってるぞ」
あんぐりと口を開けて停止してしまわれた。そこまでマズい事なんだろうか。
「この……この生物はっ、スペリオルに次いで造物主が注力した生き物でその額の結晶は所持者の都合の良いように事象を補正する特別なものです! 本来その情報や使用は重大な危機に瀕した時穏やかなリィテ種にのみ許されていて――」
「それ言っていいのか?」
「ああっ!?」
うっかり口を滑らせたようだ。口を塞いで今のは聞かなかった事にしてくれるならもさ達をクオリア大陸の野に放すだけで許しますとか言っている。
「もさ達には何回も助けられてるし、何より家族だから今更別れるなんて無理だぞ」
「また家族ですか……なら分かりました。結晶の回収だけで今は許しますので取り外した結晶を出してください」
「カーバンクルの宝石の事か? もさ達のは外した事ないし他のは今は持ってないぞ? 世界移動が無くなってからはその効力が混乱を招くかもしれないからってティナの父さんが回収して砕いてカーバンクルの棲みかに撒いたって聞いてる」
「そうですか、賢明なリィテ種です。しかし生成体の稀少種が一ヶ所にこんなにも……取り外して悪用を考えれば滅ぼしますよ?」
じろりとドラゴンの瞳で睨む彼女はマジだ。命を尊重する彼女がこんな事を言うということはカーバンクルに頼るのはよほどアウトだったのかもしれない。
「さっきから稀少種と言ってるけどカーバンクルに種類なんてあるの? 違いなんてないように思うんだけど」
「あなたはリィテ種なのに無知ですね。生成体が生成する結晶の大きさで簡単に分かるじゃないですか。通常種はあまり大きな結晶を生成出来ません」
無知呼ばわりされて震えているティナを落ち着かせるがロリっ娘に無知と言われたのがよほど悔しいようで恨めしそうに睨んでいる。
「なんだ、大きさの違いは年齢ではなかったのか。道理でもさ達以外のカーバンクルの宝石が小さかった訳だ」
「…………リィテ種には使用が許されていますが、そんなに多用したのですか?」
彼女はナハトの言葉で頭痛でもしたのか頭を抱えて踞ってしまった。
「んん? 大きさで補正が変わるのは知っていますよね? 何故稀少種のは外していないのですか?」
「え? だって外さなくても効果あるし――」
「そんなはずありません! 事象補正は結晶を持たなければ効果はありません。外していなければ生成体が生きる為にしか効果は現れません。そもそも稀少種はリィテ種であっても捕らえるのは難しいはずなのにどうして――」
「あぁ、もさは降ってきたのを拾った」
固まり、そして震え出す。
「拾った!? あなたは何をやっているんですか!? 人間にあっさり捕まるなど稀少種の誇りはないんですか!? そもそも生成体は他生物を恐れる習性を付加されているはずでしょう!?」
彼女は混乱したように叫びながらもさを振り回している。ステラにとってうちの家族はイレギュラーの塊のようだ。
もさの方は心底迷惑そうにか細い声で鳴いている。
「落ち着いたか?」
「すいません、取り乱しました。しかし、本当に事象補正の効果が現れていたのですか? そのような現象は予期されていないのですが」
「もさが飼い主のフィオの幸せを願って引き起こしているって考えられないの?」
それはさも当然の事なのだとティナは言うがステラはどうにも納得出来ないようだ。命を公平に見る彼女からしたら個に執着するというのが理解出来ないんだろう。
「そのような事……そもそも生成体は他生物と馴れ合いません」
「あなたあれを見て同じこと言ってみなさいよ」
ティナが指差すのは娘たちの服に潜り込んでもこもこしているもさの子たち、完全に懐いとるな。
鳴くぬいぐるみのようにきゅぅきゅぅ鳴いてもぞもぞ出たり入ったり、エリスはくすぐったそうに身体を捩っている。
「あ、あなたっ! 事象補正結晶生成体に何をしたんですか! 通常種でさえ警戒心が強いはずなのに稀少種があんなにもこもこもふもふしているはずがありません!」
ステラの中で全て悪いのは俺になりつつあるようだ。服を掴んでだだっ子の如く身体を揺すってくる。やだ可愛い、でもうちの娘の方が上だな。
「何を和んでいるのですか、質問に答えてください」
「何したって言われても……もさ」
『きゅぅ~』
「こうした」
もさの首を掴んでぶら~んと持ち上げる。もさは慣れたもので尻尾を振っているが、ステラはその光景を見てわなわなと震えだした。
「何故それを知っているんですか!? 生成体は子育てを他生物に見せたりしないはずです」
「いや猫を持つ要領でやっただけなんだけどな、大人しくさせるにはこれが良いんだってな。まぁ今更関係ないよなぁ~?」
『きゅ~う~?』
肩に乗せて手を放すとそのまま首に巻き付いてマフラーになっているもさを見てステラはうちひしがれている。
「いやでもおかしいです。大人しくなるのは一時的なもの、そのように好意的にもふもふもこもこと…………さ、触ってもいいですか?」
もさに興味を惹かれてしまったようだ。女の子らしい所もあるようでなんか安心してしまった。
「完成! どうだワタル、評価するなら中で乳繰り合ってやってもいいのだぞ」
完成させたブロック式のかまくらの上で威張り誇っているロフィアは勝ちを確信しているようだ。
「おいおい、お前らまだやってんのかよ。しかも歪だな、そんなんで大丈夫かぁ?」
イェネの挑発の無視して嫁姉妹は作業を急いでいる。フィオ達は雪を盛って掘り進んでいたはずだが……何故かドームに二本の塔が、どんな造形だ?
「はーい、そろそろ時間切れですよー」
エルスィの声で作業スピードは加速する。何か飾り付けをしているようだ――ここまでくれば何をしていたのかは一目瞭然だな。
「完成、どうワタル? よく出来てるでしょ?」
ドームの上で作業していたアリスが腕の中に飛び込んできたのを受け止める。アリス達が作っていたのは子供にウケが良さそうなカーバンクルベッドなかまくらだった。
「まだまだ造形が甘いな」
「そうじゃな、この辺とかもっと改善出来そうなのじゃ」
お遊びに対してもクリエイター二人は厳しい。娘たちは喜んでるし良いんじゃないだろうか。
「この短時間でよく作ったな…………」
どちらもここに居る全員がギリギリ入れる大きさだ。アマゾネスチームはいくらか内装も作ったようでテーブルも設置してある。
「さて評価ですが……お題のイチャイチャ出来るが完全に忘れ去られているので判断はお嬢様方にお任せします」
エルスィがそう言った瞬間かまくらカーバンクルが崩れた。突き出た耳の造形をくり貫かれたドームでは支えきれなかったようだ。
全員が慌てて娘たちの救出を行うが本人たちはけろっとした様子で自分で這い出てきた。
「作品がなくなりましたのでアマゾネスチームの勝ち、ですが……」
地面に沈んで行きそうな勢いで落ち込んでいる四姉妹を見てエルスィが引いている。
「ま、まぁ勝数=人数なのでまだ一人じゃないですか。続けるなら取り戻せますよ!」
あぁそういうシステムなんだ。我が事ながら全く理解していなかった。娘たちは娘たちでアマゾネスチームの勝利を喜んでるし……あんまり喜ぶとママ落ち込みますよ!
「さぁさぁ、続きは後にして温かいうちに食べましょう」
「いつも思うけどこの量を普通に作るの凄いなぁ」
分担しているとはいえうちの家族は一食分だけでも大仕事だ。それを毎日こなしていたリオ達には頭が下がる思いだ。綾さんとレヴィが増えて人手は増えているがそれでもな量、育ち盛りの娘たちはよく食べるしホント凄い。主婦の鑑だ。
「ほらほらステラちゃんも座ってください」
そう言ってリオが彼女を座らせたのは俺の膝の上……勝負に夢中でステラに気付いていなかったフィオ達は大変ご機嫌斜めだ。そしてクーニャは呪い殺しそうな感じで凝視してくる。
「ステラちゃん、お聞きしたい事があるんですけど――」
フィオ達の不機嫌はお構いなしにリオが切り出した。
「あっ、私もです。何故異界者が覚醒者になれるのかステラさんはご存知ですか?」
「外来種の特殊能力ですか……私が直接観測していないので確証はありませんが推測は出来ます。箱庭ミウルの周囲には造物主が箱庭を作った際の力の余りが多く漂っていると考えられます。ですので箱庭を訪れる際にそこを通過して力が定着して特殊能力という形として発現するのかと」
つまり異界者が使うどの能力も神様の力の一端だと?
「ですがっ、それだと……その、変です。私たちも世界の移動を経験しているのに発現していません。もし力があれば私たちだってもっと家族を助けてあげられるのに…………」
クロの語った思いはリオとシロも抱えていたんだろう、いつも待つ側だった三人の悔しさが滲んでいた。
「人間は特殊な役割は与えられていない通常生物です。特殊な力が発現する事はありません。特殊能力を受け入れられるように出来ていないのです。それは例え造物主の力に触れた所で同じです」
「ならば異界者で発現する者とそうじゃない者はなんだ? それに能力の強さも」
ロフィアはステラに詰め寄り覚醒者になる為の方法を探ろうとしている。
「容量と親和性の問題でしょう、力を取り込める相性の良さがあるのだと思います」
「ならば子は!? 父親が異界者の場合身体が強靭に、母親が異界者であれば発現の可能性があるが」
強い子をと望むロフィアにとってこの情報は重要事項なのだろう。
「ふむ……子孫への能力の受け渡しの問題でしょう、雄は一度きりで不十分ですが雌の場合その母体で育みながらゆっくりと受け渡す事が出来ます。その場合でも親が受け入れていた力の総量に依るんでしょうが」
だから雄雌発言はやめてくれと…………。
能力の強化についてもステラなら分かるだろうか? 幾度と俺の能力は強化されて変化してきた、どんなものかも理解しないまま状況に流されて――。
「ステラちゃん能力の強化についても分かりますか? ワタルの能力が強くなった時にワタル自身を蝕んだんです。もしこれ以上強化されてしまったらと心配で…………」
エリュトロン戦の後の事だろう、当時を思い出してしまったようでリオは表情を曇らせた。
あの時は本当に心配させたから申し訳ない。
「強化、ですか? ……それはどのような時に起こるのですか?」
「まぁ主にぶちキレた時とか」
「…………あなたは何度も世界移動をされているのですよね?」
ステラは顎に手を当てて唸っている。
「ああ」
「だとすれば箱庭の周囲に漂う力との間に何らかの繋がりが出来てしまっているのでしょう。それで感情の高まりに合わせて許容量以上の力を取り込んでしまっている、のかもしれません。ですが本来箱庭の力は箱庭のもの、外来種に適したものではないと思います。もし取り込み続ければ寿命を縮めますよ」
ステラの発言に皆動揺して楽しい食事どころではなくなってしまった。
俺自身は何らかのマイナスはあるかもしれないと思っていたしそれでも必要だった。そうでなければ守れなかった、だから後悔は感じていない。
それでも、これからの時間を大切にしていきたいから今後無理は控えようと密かに誓った。
まぁ、戦乱も終わったしそんな必要もないだろうけど。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる