黒の瞳の覚醒者

一条光

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六章~目指す場所~

血塗れの勝利

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「たっ、助けてくれーっ!」
 はいはい、今行きますよ、っと。スーツ姿のおっさんを殺そうと斧を振り上げているオークの首を飛ばして、飛んだ頭部を真っ二つに裂く。う~む、身体が軽いしよく動ける、オークの動きも見えているし、それに対する反応も問題ない。ないんだけど…………さっきあれだけ気持ち悪いと思ってたのに、今、殆ど躊躇が無かったような気がする。おっさんが危なかったから? それとも、別の理由か? 剣で肉を斬る時の不快感みたいなものはほぼ感じない、剣自体の出来の良さと紋様の切れ味強化で変な引っ掛かりもなく刃が滑る様に通るから、斬っているという感覚が無い。まぁ一々不快感を感じながら倒さないといけないより全然いいんだけど、これでなんの躊躇も無くなってしまうのは、それはそれで問題な気も――。
「お、お前! なんて事してくれるんだ! 高いスーツが化け物の血塗れじゃないかっ! これから出張だったんだぞ!」
 死にかけて服の心配かよ……さっき助けてくれって言ったじゃん。だいたい、俺だって返り血で血塗れだよ! ティナじゃないけど、買ったばかりで汚れるというのは気分が悪い、それも豚の血だ。
「おい! 聞いて――」
 無視むし、まだ後二十二匹も居る。おっさんの癇癪に付き合ってられるかよっ! ……こんな事を言われてまで助ける必要があるのか? …………いやいや、オークとかがこっちに来ちゃった原因の一端は俺にあるんだから、それで死人が出るとか……これ以上誰かの死なんて背負えるかっ! 絶対に死人は出さん。

『ニンゲン、オカス!』
「きゃぁあああああ! 来るなっ、来るなぁっ! なんで私なのよっ!」
 女性にのしかかっている奴の首へ剣を突き込み、動きが止まったところで体を蹴って転がして女性の上から退かす。その後首を落として処理する。やっぱり躊躇が無い、視覚による気持ちの悪さはあるけど。
「あ、あ、あ…………」
 オークに組み敷かれていて、下に居たせいで血を被った女性は目の前で起こった惨状に意味のある言葉を発せなくなってる。これだと周りの目が変わるどころか更なる悪評が付きそうだ。
『グゴーッ』
 自分たちの邪魔をしている者が居る事が気に入らなかったのか、武器を振り上げて俺に向かってくるオークが六体、誰かを襲われるより向かって来てくれる方が楽でいい。それにしても――。
「豚はぶひー、だって言っただろうがっ! 豚らしくしやがれ、ぐごーとか意味分からん!」
 向かって来た奴らの攻撃を躱しながら、流れる様な動きで連続で首を刎ねてやった。六連撃! うーん! 気分いいかも! 技術があるわけでも、フィオみたいに目にも止まらぬ速さってわけでもないけど、こう、思った通りに身体が動いて、連続でスパッと決まるのは結構快感かもしれない…………駄目だな、ゲームじゃないんだ。魔物とはいえ殺すのが楽しいとか感覚が壊れてる。
 ふぅ、落ち着いて、何も考えずに、冷静に淡々と熟せ。残りあと十五体。

「電撃が撃てればなぁ」
 離れた位置に居るのを狩りに行くのは結構手間だ。悲鳴が上がってる所から優先してるから行ったり来たりになっちゃうし。
「っと、これで残り十」
 首を刎ねられて、それでも尚動こうとする胴体も斬り刻んで絶命させる。はぁ、こんな事出来るようになっちゃったんだなぁ…………元引きこもりが随分と変わったもんだ。
「嫌っ、嫌ぁぁぁあああっ! 放してっ! こんな化け物なんかに、いやぁぁぁあああ! 誰かっ! 誰かぁっ!」
 オーク四匹が一人の女性に群がって、繁殖活動を開始しようとしていた。ああ、胸糞悪い。なんでこっちの世界に帰ってきてまでこんなもん見にゃならんのだ。だいたい、なんでわざわざ他種族を狙う?
「チッ」
「いやああああ――え?」
 ムカついたのと不快感が酷かったせいで、女性を囲っていた個体は念入りに解体した。首を飛ばし、頭部は四分割、四肢を削ぎ落して、残った胴体も八つ裂きにした。なんでこんな生き物が存在してるんだよ。繁殖活動なら同族でやってろ。
「あ、あ、あの?」
 この人も血塗れになってしまった。思うんだろうなぁ、この男も化け物だ、こいつが殺人犯だって……わざわざ罵声を受ける趣味は無いので無視して次を狩りに行く。残りは六体、死者は……見たところ、たぶんまだ出てはいない、残り六体なら処理しきれる。誰も死んでない、間に合う。

『アイツヲサキニコロセ、バラバラニシテ、クウ!』
 そうだ、俺に向かって来い。その方が他に気を回さなくていいから楽でいい。それにしても、こいつらは食人の習性まであるのかよ。益々虫唾の走る生き物だ。おかげでお前らを殺す事に一切の躊躇いが無い! さっさと死にさらせ。
「ああ?」
 さっきまでの個体よりこいつらは動きが少し速い、それに俺が斬ろうとした奴を護るように他の奴が動いて上手く連携している。豚でもこんな事するのか?
「ああ、もう、めんどくせぇ!」
 避けられない程の速さじゃないけど、攻撃しようとしたら一々他の奴から邪魔が入る。俺、豚さんに翻弄されちゃってますよ…………。
 ムカついた、普通は人間が勝てない相手だとしても、豚に弄ばれてる状態ってのは不快極まりない。
『グヒッ』
「鬱陶しい!」
 振り抜いてきた棍棒に向かって切りつけたらあっさり切れた…………そうか、強化されてるから特殊な金属じゃなきゃ武器でも切れるんだ。打ち合いを避けてたけど、打ち込んで武器ごと両断すればいいのか。
『コロセ』
 こんな所で死んでられるかっ! まだ俺の生きる目的は消えてない、やらないといけない事が残ってる。それを果たすまでは死んでやらん。
「お前らが死んでろ!」
 利き手じゃない左手でも剣を抜いて、回転する様に跳んで俺を囲んでいるオークを武器ごと切り裂いて首を刎ね飛ばした。利き手じゃなくて、上手く扱えなくても切れ味が凄ければ当てるだけでもどうにかなると思ったけど、正解だった。ん~、雑魚相手なら二刀流もありか? これでこっちの片付けは終わり。

「酷い状況…………」
 殺したのは最初の奴と合わせてオークが二十四体とティナがやったハイオーク一体、ハイオークは多少長身って事以外は人間と大した体格差は無い。でもオークは結構な巨体だ、それから噴き出した血で辺りが真っ赤に染まっている。殺す事に必死になっていたから、それの巻き添えを食って返り血を浴びた人も結構な数が居るみたいだ。俺自身も全身オークの血で臭い、伸ばし放題伸ばしている髪にも血が付いて固まっている。風呂、入りたい、それと着替えと…………はぁ、今日家に帰るはずだったんだけどなぁ。
「ていうか俺臭っ! めっちゃ臭っ」
 早く風呂に――。
「居ました! 如月容疑者です。ご覧いただけるでしょうか? 辺りには如月容疑者に殺害された豚の様な頭部だったであろう謎の生物のバラバラにされた頭部や胴体、四肢が点々としており、酷い血の匂いが充満しています! 血で汚れた凶器を手にし、血に塗れた如月容疑者がその死体の上に立っている様子は、宛ら殺戮者のようです。周囲に居る方々はこの状況に脅え、戸惑い身動きが取れない状態です。あれが異世界の生物だったとして、異世界の存在が証明されたとしても、それをこうも無惨に殺害する如月容疑者を本当に少女誘拐殺人の犯人ではないと言えるでしょうか? 私には彼が惨虐な性格の持ち主に思えてなりません」
 お~、お~、早速言いたい放題言われてるよ。ていうかこの惨状ってテレビで流していいのか? カットじゃないの? …………でもあれって中継っぽいなぁ。全国に今の俺の状態が流されてんのか……はぁ、鬱だ。能力、本当に戻るかなぁ? リオの事、心配なんだけどなぁ。

「ワタル! そっちに一匹行ったわ! 気を付けて!」
 っ!? ああ! 邪魔臭い!
「ご覧ください! 異世界人だという女性と少女も凶器を手にして何かと戦っていま――なっ!? なにを?」
「さっさとどっかに行けよ! 死にたいのか!?」
 デカい声出してリポートしてるから目立ってハイオークに狙われたのをどうにか間に入って剣で受けた。こいつの剣は壊れないな、同じミスリルかもっと硬い金属なのか? 能力が使えれば感電させて終わりなのに、力比べじゃ分が悪い。
『この世界でも人間は雑魚ばかりだと思ったが、反応出来るのか?』
 喋った……って、これはエルフの血が入ってるから普通に喋れるのか。
「しゃ、喋りました! 謎の人型生物が喋りました! 彼らとは言葉を交わす事が可能です。如月容疑者たちは意思疎通が可能な相手を殺害しています!」
 あぁ、ややこしい。もうほっといてもいいかな? イライラしてきた。今さっき自分たちが殺されそうになったのを理解してないのか? 言葉が喋れようが、武器を持って突っ込んで来る相手と話なんか出来るはずがない。
『なら、これには対応出来るかな?』
「っ!? な、これ…………」
 鍔迫り合いの様な状態から片手を伸ばして俺に触れて来た。その途端に身体から力が抜けていって膝を突いた。これって、ナハト母、レイアさんと同じ?
『死ね』
 剣が振り上げられて……ヤバ――。
『がぴゅっ』
「駄目、ワタルは殺させない」
 フィオが降ってきて、ナイフでハイオークの脳天を突き刺した。お前どっから降ってきたんだよ!?
「ワタル、無事?」
 血で汚れても尚綺麗な銀色の髪を靡かせてそう聞いて来る。
「一応――」
「ひぃっ、み、見ましたか!? ちゃんと映したか? ご覧いただけましたか!? 殺害しました! 異世界人の少女が、同じく異世界の存在だと思われる方をいとも簡単に殺害しました! 異常です! やはり彼らは共謀して異世界で鈴木真紀さんを殺害しているのではないでしょうか!? この状況を見て本当に彼らは無実と言えるでしょうか!? 他者をこれ程簡単に殺害する彼らの惨虐性を考えれば、あり得ない事ではないと思えます!」
 今の光景にビビッて、混乱も入っているのか、完全に主観的な事を言ってる。フィオは俺が殺されそうになってるのを助けてくれたんだろうが! だいたい、犯人が俺から俺たちになってるし…………あんたら俺たちの事をそんな風に思ってるのに、よくこんな近くで撮影してられるな、俺はあんたらにビビるわ。

「あれ、煩い」
 そうだね~、俺もそう思うよ。どうにかならんかな…………。
「もう! 無茶苦茶ね、空間跳躍が出来る私より先にワタルの所へ行けるなんて反則じゃない」
 ティナもこっちに来た。比較的汚れてはいないけど、やっぱり少しは返り血を浴びてるし、最初のハイオークの返り血はもろに受けてたしなぁ。三人とも風呂と着替えが必須だな。
「そっちも終わり?」
「ええ、もう嫌な気配も殺気も無いわ。臭いは酷いけれど」
 それは同意、身体に付いた返り血が臭くてしょうがない。
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