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六章~目指す場所~
逃げない
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今はさいたま市に向かって飛ぶヘリの中に居るわけだが…………同行している自衛隊員の視線が刺刺しい。俺、何かしたか? 別に変な言動をした覚えはないんだけど、なんでこうも見られてるんだ? 一番離れた位置に座ってる少しガラの悪そうな隊員なんて完全に俺の方を向いて睨みつけてきている。まるで何かの恨みの対象であるかのような、そんな睨み方…………あの少女の父親がこんな目をしていたかもしれない。あの人に恨まれるのは理解できるけど、この人は俺に対して何を怒ってるんだ? 会った事は無いはずだけど、惧瀞さんの時みたいに俺が覚えてないだけで、会った事があって何か怒らせるような事をした?
「あの、館脇さん、俺物凄く睨まれてるんですけど、何か悪い事とか変な事をしましたか?」
考えても分からず、隣に居るおっさん隊員に聞く事にした。他の人とは喋った事ないし、唯一嫌な視線を向けてきていない人だからこの人以外に話しかけられそうにない。
「いえ……遠藤、いい加減にしろ失礼だろう。それにこれから同じ戦地に行くんだ妙な私情を持ち込むな」
「なに言ってんすかっ! おやっさんだってヘリに乗るまでは目ぇ吊り上げて憤慨しまくりだったじゃないですかっ! それにここに居る全員がこいつに対して鬱憤が溜まってんですよ? 手を出してないだけマシじゃないですか。許可さえ出るなら今ここで殴り倒してますよ」
えぇ……どれだけ恨まれてんだよ。あの人だけでも分からないのに、館脇さんも含めてここに居る全員に恨まれる事ってなんだ? 自衛隊に対してした事…………結城さん丸坊主事件かっ!? いや、仲間意識があったとしてもそこまで恨まれる事か? 酷い怪我はしていないし、全員というのは違和感が……居ても仲の良い数人じゃないのか? ホモが多いとか? …………嫌だ。日本を守る自衛隊がホモ集団とか、そんなの絶対に嫌だ。
「えっと、全く身に覚えがないんですけど、皆さんはなんでそんなに怒ってるんでしょうか?」
「あ゛あ゛っ!? 身に覚えがないぃ? ふざけんなっ! 俺たちのアイドルの綾ちゃんに付け込んで手ぇ出しやがったくせに、その上結城が言うには状況的に異世界の美女と美少女を含めて4Pなんて羨ま――色情狂な事をしておいて身に覚えがないなんてどの口でほざきやがるっ! 大体、なんでこんなひょろっちくて女みたいな長髪したガキがモテて女誑しみたいな事が出来てんだよ! 羨ましいっ!」
最後めちゃくちゃ本音が出たな…………てか、なんでそんな変な噂が流れてるんだよ。俺は誰にも手を出してないぞ!? そんな事が出来る度胸があればこんなに悩むような性格をしてないし、引きこもりにもなってなかったよ。
「惧瀞、一人だけじゃないのか…………? 三人も同時にだと? あんな幼い少女にまで手を出す外道に協力を求めてたのか俺は?」
おぉう、外道って言われた!? 館脇さんにまで睨まれ始めたんですけど、周囲から殺気が…………戦場に行くまでに俺死ぬんじゃないの? 味方のはずの自衛隊が全員敵になってる! 惧瀞さんの人気って凄いのな…………。
「あ、あの……俺は誰にも手を出してないです。それに見た目はあれでも、フィオは十八なんで幼いって言えるほど幼くないですよ? 結城さんが見た状況は三人が酔っ払ってああなってただけで、俺は何もしてない――」
「てめぇに感謝してる綾ちゃんの気持ちに付け込んだ挙句に酔わせて抵抗も出来ない状態にしやがったのか!?」
何を言っても悪い解釈しかしてもらえんな…………殺気が増して収拾がつかなくなってきてる、これから死地に向かうっていうのにこんなので大丈夫なのか? もう何を言っても無駄そうだしほっとこ……早く着いてくれ――。
「落ち着けお前ら! これから化け物退治に行こうって時に足並みを乱してどうする、この話は無事に戻った後できっちり説明してもらいますよ、如月さん」
ギロリと睨んできてかなり怖いよ、いいおっさんかと思ってたのにめちゃくちゃ怖いよこのおっさん。館脇さんと惧瀞さんじゃかなり歳が違うと思うんだけど、館脇さんも惧瀞さん好きなのか?
「まぁ……惧瀞を娘みたいに可愛がってたおやっさんが言うなら――」
「そうだな」
娘か、なるほど……今度は逆にそこまで歳が離れてるのかって疑問が出てきた。一応の収束に向かってるけど、帰った後を考えると憂鬱なんですが…………。
「間も無くさいたま市上空です」
パイロットからそう告げられてなんとなく窓から外を見たら、眼下には異常な光景が広がっていた。なんだよこれ? ここだけ大地震が直撃でもしたのか? 広範囲の建物が圧し潰されたみたいに倒壊している。それに――。
「なんだよあれ、どうなってるんだ? 赤いのは血なのか? あそこの道路一帯が真っ赤じゃないか、魔物の血なのか、それとも…………それに倒壊した辺りが真っ黒になってる部分はなんなんだ? 埼玉に出たのは普通の魔物と銃が効かないってだけの奴のはずだろ? これ程の被害が出るものなのか?」
それともって、人間の血だとでも言いたいのか? だとしたらどれだけの人が死んだ事になるんだよ……被害者を出したくないとか言いながら俺は間に合ってすらいないのか?
「それに今回出没した量も気に掛かるな、今までは同時に現れたとしても精々四体までだった。大抵は単体で現れてくれてたから処理も楽だったのに、今回は都内と周囲の四県同時に、しかも大量に現れている」
多くて四体? それでニュースなんかで被害の話が出てなかったのか……なら何で今回は違う? ――っ!?
『グォォォオオオオオオオオオオ!』
空気を大きく、ビリビリと振動させるほどの雄叫びが響き渡った。どこから聞こえたのかと窓の外を覗くと、小さなビルのような大きさの物が移動してい――。
「なっ!? なんなんだよありゃあ!? こんな上空に向かって瓦礫を飛ばしてきたぞ!?」
「付近の学校のグラウンドに緊急着陸します」
無茶苦茶だ。飛んできた瓦礫はヘリの半分くらいの大きさはあった。それを上空まで投げ飛ばす程の怪力、明らかに異常、現れたのが普通のオークとかと銃の効かない物だけなのだとしたら、あれが銃の効かない奴って事になるんだろう、銃が効かないだけ? 全然そんな事ないじゃないか。ははは…………震えてやがる、やると啖呵を切ったくせに今更何を怯えている。あれを殺すんだろ? 覚悟を決めろ! 建物を倒壊させて大きな瓦礫を投げ飛ばす怪物だ。確実に仕留めないと、被害はこんなもんじゃ止まらない。
付近の、と言っても『あれ』からは結構離れた場所に着陸した。ここは避難所になっているのか? グラウンドと学校の敷地の外の通りにはバスや自衛隊、警察の物と思われる車両が複数止まっている。通りを隔てた向かい側にも学校があってそこも同じような状況だった。避難は上手くいっている? あの赤かったのはやっぱり魔物の血か?
「増援の部隊、ですよね? あの化け物に対処できる方が来てくださるとの事でしたが――」
駆け寄ってきた自衛隊員が俺を見て少し落胆したような表情をした。確かにフィオやティナの方が強いし、確実にあれを処理できるって言えるだろうけど、聞いた情報で判断して分担したらこうなったんだからしょうがないじゃん。
「状況はどうなっている? 上空から確認したところ広範囲の建物が倒壊して路面が赤く染まっている箇所があったが、住民への被害等は? それに情報では以前に出現した小火器が通じない物と同じような物との事だったが、上空から見た限りでは以前の物よりも巨大に見えた。情報と現状では違いがあり過ぎる、建物の倒壊はあれに依るものか? 瓦礫をヘリに向かって投げる程の異常な怪力の様だったが」
「赤く染まっていたのは魔物の血によるもので、住民への被害は今のところはありません。現れた当初は動く事も無く銃に依る攻撃が通じなかった為同種の物と判断して報告されていたようなのですが、動き出したら次々に周囲を破壊し始め、少なくとも警官十数人が犠牲になりました。それでも通常の魔物の討伐は完了させたのですが、あの化け物が魔物を作り出すかのように『あれ』の周囲から魔物が湧き出してきて……黒く染まっている所はご覧になりましたか?」
犠牲者が出ている…………俺のせいか? ヴァーンシアから魔物を引き連れて戻ってきた俺のせい……故意じゃないんだ! …………だったら赦されるのか? 魔物が現れなかったら死ぬ事はなかったはずの人たちだぞ? ……動悸が酷い、息苦しい。
それに、魔物が湧き出す? 硬いのと怪力だけじゃないのか? 能力持ち……俺に対処できるか? いや、無理でもなんでもやらないと……これ以上被害者を出すなんて…………。
「ああ、あれはなんだ?」
「湧き出した魔物の血です。湧き出した物は血が黒いのです。湧き出し始めた当初は応戦して、通常の物と同じように討伐出来ていたのですが湧き出す量に際限がなく、倒したところですぐに代わりが湧き出してくるので、原因を倒す為にLAMとコブラ二機からのTOWで攻撃が開始されたのですがほぼ躱されて、躱しきれなかった一発は腕で受けたらしいのですがよろめく程度で殺す事にまでは至らなかったそうです。その上倒壊させた建物の瓦礫で反撃をされ、投げつけられた瓦礫が命中してコブラ二機は墜落、対処のしようがないという事で周辺の住民の避難に専念しているという状態です」
分からん単語が出てきた。ラム? コブラ? トウ? コブラは二機って言ってるんだからたぶん乗り物なんだろうけど、他は? 武器の名称かなにかか? それがどんな武器なのかは分からんけどヤバい状態なのは話を聞いていた自衛隊員の険しい表情で察しがついた。
「避難は、周辺住民の避難は完了しているのか?」
「いえ、まだ完全には終わっていないのが現状です。他の部隊が応戦している間に我々と警察が誘導しているのですが『あれ』の移動が速く、その上魔物が湧き出しているので上手くいかず、動かずに隠れている方が却って安全だと判断して息を潜めて自宅に籠っている方なども居る為住民全員の避難が完了しているとは言えない状態です」
まだ逃げれていない人が居る……まだ戦っている人が居る。
「行かないと…………」
早く終わらせないと、被害者を一人も出さないなんてもう出来ないけど、一人でも被害者を減らさないと――。
「おい! お前勝手にどこに行く気だ?」
遠藤と呼ばれていた隊員に呼び止められそうになるが構わず走り出して、路上に転かされていたバイクを起こして走り出した。鍵が付いててよかった、乗ったことはなかったが見様見真似でどうにか乗っている。市内から人がどんどん逃げ出しているからだろう、道路には車は走っていないから事故る事もない。
早く行かないと――っ! またあれの叫び声が聞こえて空気が震える。俺自身も震えていた、怪物に対する恐怖か、それとも自分のせいで人が死んでいく事への恐怖か…………。
居た……あれがこの騒ぎの原因か? 明らかにオーガなんかよりも巨体をした怪物が居る。頭がビルの三階辺りの高さにあって、その頭にはヤギの様な曲がりくねった太い角が二本生えている。肌は赤黒く、図太い腕の先には妙な意匠の描かれた手甲を付けていて、下半身は黒ずんだ緑色の様な体毛に覆われている。手は人の様に五本指なのに足はドラゴンなんかみたいな三本指で鋭く長い爪が生えている。
それの周囲には薄黒い肌をしたオークやオーガが複数居る。普通のオークは人間より少し赤みがかった肌で、オーガは緑や青みがかった肌なのにここに居る物は全て黒い……あれが湧き出した魔物って事なんだろう。
乗っていたバイクから飛び降りて、走ってきた勢いのままバイクを魔物の群れにぶつけた。映画なんかみたいに爆発して一匹でも巻き込めればと思ったんだけど、上手くいかないもんだな。映画とかの派手な爆発ってやっぱり過剰な演出なのかな――っ!? 自分たちに害をなそうとした異物に向かって来ていたオーガが銃声と共に黒い血を噴き出して倒れ伏した。
「おいっ! 何やってるんだ! そんな事をしてないで早く逃げるんだ。そいつらに立ち向かっていくら殺したところですぐに湧いてくる。魔物を発生させている原因のあっちのデカブツを殺さない限り何をしても無駄なんだ! だから早くこっちに来るんだ。戦車の出動要請も済んで後は周辺住民を避難させるだけなんだ」
建物の陰から自衛隊の車両が出てきた。そういえば応戦している人たちがまだ居たんだったか。逃げろ、か…………逃げても赦されるなら逃げたいかもなぁ……でもそんな事が赦されるはずもない、魔物をこっちに連れてきてしまった俺が逃げて安全な場所でのうのうとしていていいはずがない。俺には戦う以外に他の選択肢は無いんだ! 逃げない、原因を排除する。これ以上好き勝手されてたまるか。
「あの、館脇さん、俺物凄く睨まれてるんですけど、何か悪い事とか変な事をしましたか?」
考えても分からず、隣に居るおっさん隊員に聞く事にした。他の人とは喋った事ないし、唯一嫌な視線を向けてきていない人だからこの人以外に話しかけられそうにない。
「いえ……遠藤、いい加減にしろ失礼だろう。それにこれから同じ戦地に行くんだ妙な私情を持ち込むな」
「なに言ってんすかっ! おやっさんだってヘリに乗るまでは目ぇ吊り上げて憤慨しまくりだったじゃないですかっ! それにここに居る全員がこいつに対して鬱憤が溜まってんですよ? 手を出してないだけマシじゃないですか。許可さえ出るなら今ここで殴り倒してますよ」
えぇ……どれだけ恨まれてんだよ。あの人だけでも分からないのに、館脇さんも含めてここに居る全員に恨まれる事ってなんだ? 自衛隊に対してした事…………結城さん丸坊主事件かっ!? いや、仲間意識があったとしてもそこまで恨まれる事か? 酷い怪我はしていないし、全員というのは違和感が……居ても仲の良い数人じゃないのか? ホモが多いとか? …………嫌だ。日本を守る自衛隊がホモ集団とか、そんなの絶対に嫌だ。
「えっと、全く身に覚えがないんですけど、皆さんはなんでそんなに怒ってるんでしょうか?」
「あ゛あ゛っ!? 身に覚えがないぃ? ふざけんなっ! 俺たちのアイドルの綾ちゃんに付け込んで手ぇ出しやがったくせに、その上結城が言うには状況的に異世界の美女と美少女を含めて4Pなんて羨ま――色情狂な事をしておいて身に覚えがないなんてどの口でほざきやがるっ! 大体、なんでこんなひょろっちくて女みたいな長髪したガキがモテて女誑しみたいな事が出来てんだよ! 羨ましいっ!」
最後めちゃくちゃ本音が出たな…………てか、なんでそんな変な噂が流れてるんだよ。俺は誰にも手を出してないぞ!? そんな事が出来る度胸があればこんなに悩むような性格をしてないし、引きこもりにもなってなかったよ。
「惧瀞、一人だけじゃないのか…………? 三人も同時にだと? あんな幼い少女にまで手を出す外道に協力を求めてたのか俺は?」
おぉう、外道って言われた!? 館脇さんにまで睨まれ始めたんですけど、周囲から殺気が…………戦場に行くまでに俺死ぬんじゃないの? 味方のはずの自衛隊が全員敵になってる! 惧瀞さんの人気って凄いのな…………。
「あ、あの……俺は誰にも手を出してないです。それに見た目はあれでも、フィオは十八なんで幼いって言えるほど幼くないですよ? 結城さんが見た状況は三人が酔っ払ってああなってただけで、俺は何もしてない――」
「てめぇに感謝してる綾ちゃんの気持ちに付け込んだ挙句に酔わせて抵抗も出来ない状態にしやがったのか!?」
何を言っても悪い解釈しかしてもらえんな…………殺気が増して収拾がつかなくなってきてる、これから死地に向かうっていうのにこんなので大丈夫なのか? もう何を言っても無駄そうだしほっとこ……早く着いてくれ――。
「落ち着けお前ら! これから化け物退治に行こうって時に足並みを乱してどうする、この話は無事に戻った後できっちり説明してもらいますよ、如月さん」
ギロリと睨んできてかなり怖いよ、いいおっさんかと思ってたのにめちゃくちゃ怖いよこのおっさん。館脇さんと惧瀞さんじゃかなり歳が違うと思うんだけど、館脇さんも惧瀞さん好きなのか?
「まぁ……惧瀞を娘みたいに可愛がってたおやっさんが言うなら――」
「そうだな」
娘か、なるほど……今度は逆にそこまで歳が離れてるのかって疑問が出てきた。一応の収束に向かってるけど、帰った後を考えると憂鬱なんですが…………。
「間も無くさいたま市上空です」
パイロットからそう告げられてなんとなく窓から外を見たら、眼下には異常な光景が広がっていた。なんだよこれ? ここだけ大地震が直撃でもしたのか? 広範囲の建物が圧し潰されたみたいに倒壊している。それに――。
「なんだよあれ、どうなってるんだ? 赤いのは血なのか? あそこの道路一帯が真っ赤じゃないか、魔物の血なのか、それとも…………それに倒壊した辺りが真っ黒になってる部分はなんなんだ? 埼玉に出たのは普通の魔物と銃が効かないってだけの奴のはずだろ? これ程の被害が出るものなのか?」
それともって、人間の血だとでも言いたいのか? だとしたらどれだけの人が死んだ事になるんだよ……被害者を出したくないとか言いながら俺は間に合ってすらいないのか?
「それに今回出没した量も気に掛かるな、今までは同時に現れたとしても精々四体までだった。大抵は単体で現れてくれてたから処理も楽だったのに、今回は都内と周囲の四県同時に、しかも大量に現れている」
多くて四体? それでニュースなんかで被害の話が出てなかったのか……なら何で今回は違う? ――っ!?
『グォォォオオオオオオオオオオ!』
空気を大きく、ビリビリと振動させるほどの雄叫びが響き渡った。どこから聞こえたのかと窓の外を覗くと、小さなビルのような大きさの物が移動してい――。
「なっ!? なんなんだよありゃあ!? こんな上空に向かって瓦礫を飛ばしてきたぞ!?」
「付近の学校のグラウンドに緊急着陸します」
無茶苦茶だ。飛んできた瓦礫はヘリの半分くらいの大きさはあった。それを上空まで投げ飛ばす程の怪力、明らかに異常、現れたのが普通のオークとかと銃の効かない物だけなのだとしたら、あれが銃の効かない奴って事になるんだろう、銃が効かないだけ? 全然そんな事ないじゃないか。ははは…………震えてやがる、やると啖呵を切ったくせに今更何を怯えている。あれを殺すんだろ? 覚悟を決めろ! 建物を倒壊させて大きな瓦礫を投げ飛ばす怪物だ。確実に仕留めないと、被害はこんなもんじゃ止まらない。
付近の、と言っても『あれ』からは結構離れた場所に着陸した。ここは避難所になっているのか? グラウンドと学校の敷地の外の通りにはバスや自衛隊、警察の物と思われる車両が複数止まっている。通りを隔てた向かい側にも学校があってそこも同じような状況だった。避難は上手くいっている? あの赤かったのはやっぱり魔物の血か?
「増援の部隊、ですよね? あの化け物に対処できる方が来てくださるとの事でしたが――」
駆け寄ってきた自衛隊員が俺を見て少し落胆したような表情をした。確かにフィオやティナの方が強いし、確実にあれを処理できるって言えるだろうけど、聞いた情報で判断して分担したらこうなったんだからしょうがないじゃん。
「状況はどうなっている? 上空から確認したところ広範囲の建物が倒壊して路面が赤く染まっている箇所があったが、住民への被害等は? それに情報では以前に出現した小火器が通じない物と同じような物との事だったが、上空から見た限りでは以前の物よりも巨大に見えた。情報と現状では違いがあり過ぎる、建物の倒壊はあれに依るものか? 瓦礫をヘリに向かって投げる程の異常な怪力の様だったが」
「赤く染まっていたのは魔物の血によるもので、住民への被害は今のところはありません。現れた当初は動く事も無く銃に依る攻撃が通じなかった為同種の物と判断して報告されていたようなのですが、動き出したら次々に周囲を破壊し始め、少なくとも警官十数人が犠牲になりました。それでも通常の魔物の討伐は完了させたのですが、あの化け物が魔物を作り出すかのように『あれ』の周囲から魔物が湧き出してきて……黒く染まっている所はご覧になりましたか?」
犠牲者が出ている…………俺のせいか? ヴァーンシアから魔物を引き連れて戻ってきた俺のせい……故意じゃないんだ! …………だったら赦されるのか? 魔物が現れなかったら死ぬ事はなかったはずの人たちだぞ? ……動悸が酷い、息苦しい。
それに、魔物が湧き出す? 硬いのと怪力だけじゃないのか? 能力持ち……俺に対処できるか? いや、無理でもなんでもやらないと……これ以上被害者を出すなんて…………。
「ああ、あれはなんだ?」
「湧き出した魔物の血です。湧き出した物は血が黒いのです。湧き出し始めた当初は応戦して、通常の物と同じように討伐出来ていたのですが湧き出す量に際限がなく、倒したところですぐに代わりが湧き出してくるので、原因を倒す為にLAMとコブラ二機からのTOWで攻撃が開始されたのですがほぼ躱されて、躱しきれなかった一発は腕で受けたらしいのですがよろめく程度で殺す事にまでは至らなかったそうです。その上倒壊させた建物の瓦礫で反撃をされ、投げつけられた瓦礫が命中してコブラ二機は墜落、対処のしようがないという事で周辺の住民の避難に専念しているという状態です」
分からん単語が出てきた。ラム? コブラ? トウ? コブラは二機って言ってるんだからたぶん乗り物なんだろうけど、他は? 武器の名称かなにかか? それがどんな武器なのかは分からんけどヤバい状態なのは話を聞いていた自衛隊員の険しい表情で察しがついた。
「避難は、周辺住民の避難は完了しているのか?」
「いえ、まだ完全には終わっていないのが現状です。他の部隊が応戦している間に我々と警察が誘導しているのですが『あれ』の移動が速く、その上魔物が湧き出しているので上手くいかず、動かずに隠れている方が却って安全だと判断して息を潜めて自宅に籠っている方なども居る為住民全員の避難が完了しているとは言えない状態です」
まだ逃げれていない人が居る……まだ戦っている人が居る。
「行かないと…………」
早く終わらせないと、被害者を一人も出さないなんてもう出来ないけど、一人でも被害者を減らさないと――。
「おい! お前勝手にどこに行く気だ?」
遠藤と呼ばれていた隊員に呼び止められそうになるが構わず走り出して、路上に転かされていたバイクを起こして走り出した。鍵が付いててよかった、乗ったことはなかったが見様見真似でどうにか乗っている。市内から人がどんどん逃げ出しているからだろう、道路には車は走っていないから事故る事もない。
早く行かないと――っ! またあれの叫び声が聞こえて空気が震える。俺自身も震えていた、怪物に対する恐怖か、それとも自分のせいで人が死んでいく事への恐怖か…………。
居た……あれがこの騒ぎの原因か? 明らかにオーガなんかよりも巨体をした怪物が居る。頭がビルの三階辺りの高さにあって、その頭にはヤギの様な曲がりくねった太い角が二本生えている。肌は赤黒く、図太い腕の先には妙な意匠の描かれた手甲を付けていて、下半身は黒ずんだ緑色の様な体毛に覆われている。手は人の様に五本指なのに足はドラゴンなんかみたいな三本指で鋭く長い爪が生えている。
それの周囲には薄黒い肌をしたオークやオーガが複数居る。普通のオークは人間より少し赤みがかった肌で、オーガは緑や青みがかった肌なのにここに居る物は全て黒い……あれが湧き出した魔物って事なんだろう。
乗っていたバイクから飛び降りて、走ってきた勢いのままバイクを魔物の群れにぶつけた。映画なんかみたいに爆発して一匹でも巻き込めればと思ったんだけど、上手くいかないもんだな。映画とかの派手な爆発ってやっぱり過剰な演出なのかな――っ!? 自分たちに害をなそうとした異物に向かって来ていたオーガが銃声と共に黒い血を噴き出して倒れ伏した。
「おいっ! 何やってるんだ! そんな事をしてないで早く逃げるんだ。そいつらに立ち向かっていくら殺したところですぐに湧いてくる。魔物を発生させている原因のあっちのデカブツを殺さない限り何をしても無駄なんだ! だから早くこっちに来るんだ。戦車の出動要請も済んで後は周辺住民を避難させるだけなんだ」
建物の陰から自衛隊の車両が出てきた。そういえば応戦している人たちがまだ居たんだったか。逃げろ、か…………逃げても赦されるなら逃げたいかもなぁ……でもそんな事が赦されるはずもない、魔物をこっちに連れてきてしまった俺が逃げて安全な場所でのうのうとしていていいはずがない。俺には戦う以外に他の選択肢は無いんだ! 逃げない、原因を排除する。これ以上好き勝手されてたまるか。
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