黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

船旅ゆらゆら

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「――」
「――」
 話し声? うるさい、まだ眠い…………突かれてる、鬱陶しい。噛んだら無くなった、もう少し寝る。
「おい、フィオ、起きろー、お前もう丸一日寝てるぞー」
 一日…………でもまだ眠い、問題が起こったり着いたんじゃないならまだ寝てても問題ない。
「起こすんですか?」
「動き続けて疲れたのも分かるけど、丸一日寝たら充分だろ、それに何か食べた方が良いだろうし」
 頬を摘ままれて遊ばれてる。声が近いからたぶんワタルがやってる。馬車での移動中はあんなに休めって言ってたくせに、今はする事がないんだから寝かせて。
「もう少し寝かせてあげてもいいんじゃないですか?」
 リオの声が聞こえて頭を撫でられる。これはリオ、ワタルとは少し撫で方が違って柔らかい。
「甘いよお母さん」
 お母さん? リオの事? 町では姉だったのに……それでも嬉しいって思いそうになったけど、そんなに歳離れてないっ。
「お母さん?」
「あ~、フィオの頭を撫でてるリオが子供を慈しんでる母親みたいに見えたからつい…………」
「ふふふ、姉妹じゃなくて親子ですか?」
 そう、姉妹が普通、リオとは二つしか違わないから親子は変。
「あ~、うん、俺兄弟いないから親子って印象だった」
「でも私、まだそんな歳じゃないですよ」
 っ! 今ワタルが小さいって思ってる。
「あら、フィオちゃんおはようございます」
 もう少し寝ていたかったのに、むかむかして目が覚めちゃった。
「は、腹空いてないか? お前一日中寝てたんだぞ」
「食べる」
 別に一日位食べずに寝てても死にはしないのに、それでも起きたからには空腹を感じるから食べるけど……ワタルにパンと干し肉を渡されて口に入れていく。
「そういえばフィオは気分悪かったりしないか?」
「? なんで気分が悪くなるの?」
 小さいって思われたから少しむかむかするけど、ワタルだから諦めた。それ以外では特に気分が悪くなることなんてない。
「船の揺れのせいで体調が悪くなる事があるんだよ。紅月はそれで今死んでる、優夜と瑞原はマシになったみたいだけどな」
「ふ~ん」
 この、船がゆらゆらしてるので気分が悪くなる? 変なの、こんなのなんともないのに、普通の人間は弱い。でも二人は平気そう、ワタルとリオが平気なら私はそれでいい、他は……問題を起こさないなら気にしない。
「なぁフィオ、どの位で別の大陸に着くか分からないか?」
「ふへにのふのなんへはひめてだはらわふぁらなひ」
 船旅なんてした事ないから分かるはずないのに…………そういえば、地図を買ってた。掛かる日数は分からないけど、地図を見せればワタルの気分も少し違うかもしれない。そう思って荷物を漁って地図を引っ張り出した。
「なんだそれ」
「ちぶ」
「は? …………一先ず口の中の物を食い終われ」
「ん」
 ワタルが地図を見て不思議そうに首を傾げてる。見てるのは黒丸で囲ってある部分?
「その黒丸の所が私たちが船に乗り込んだ港、赤い点は港で黄色いのは王都」
「ほ~、なら一番北の大陸に近い港から出たのか」
「そう」
 地図上ではそんなに離れてる感じはしないけど、船での移動なんて初めての事だから大体の日数も分からない。

「せっかく地図があるんだし、他の国の事とか教えてくれよ」
 しばらく地図を眺めてたワタルにそんな事を言われた。私は何かを教えられるほど世界の事を知らない。それどころかワタル達が普通だと思ってる事すら知らなかったりするのに。
「私はアドラの事しかしらない」
「なら私が説明しますね、私も人から聞いた程度で詳しくはないですけど少しは分かりますから」
「ああ、よろしく、先生」
 せんせい? 先制攻撃? ……違う、本で見た気が…………何かを教えてくれる人? リオが今からしてくれるのは、教えてくれるって事……たぶん合ってる。
「せ、先生ですか? 私も詳しいわけじゃないんですけど…………がんばります。ではまず、この西にある大陸が私たちの居た大陸でアドラ帝国ですね。帝国はワタルたちも知っての通り奴隷制がある国です。悲しい事ですけど異界者を奴隷扱い、奴隷人種と呼ぶ人が多いです。それに昔は他の国の人も奴隷人種としていた事もあって、他国のと交流はありますけどあまり上手くはいってないみたいです」
 これは知ってる……リオは悲しいって思うんだ。やっぱりリオも他と違う、変わってるけど、そんな二人だから一緒に居たい。
「次に地図の中央にある大陸がクロイツ聖王国です。ワタルが行こうとしてた国ですね」
「そうなの?」
 …………行き先を知らずに船に乗るつもりだったの? ……そういえば、私も確認しなかった。二人して間抜け…………。
「はい、そうですよ。知らずに行こうとしてたんですか?」
 ワタルがリオの言葉に頷いた。やっぱり知らなかったんだ…………変な場所へ行く船だったらどうするつもりだったの?
「前にも言ったかもしれませんけど、クロイツは異界者の受け入れに最も積極的です。それに魔物封印の際にエルフと一緒に戦った史実もあって他国、南の大陸にある四国とは特に親交が深いそうです。クロイツと南の大陸の四国は同盟を結んでいて、クロイツがまとめ役の様な立場にあるみたいです」
 同盟…………? これは聞いた覚えがあるかもしれない。あの時の任務は同盟に対抗する為のものって言われたような…………? よく覚えていない。
「まとめ役って事は南の四国への影響力も強かったりするの?」
「はい、南の大陸の西と東の端の国ハイランドとバドには昔奴隷制があったそうですけどクロイツの影響を受けて廃止になったくらいに影響力があるんですよ。それにクロイツの働きかけで南の四国、西からハイランド、マーシュ、ドラウト、バトって言うんですけど、この四国も異界者を受け入れてるんですよ」
 奴隷制が無い国? それを無くさせる国……そんなものが本当にあるの? そこだったら混ざり者も普通に暮らせてた? …………少しだけ、そんな場所に生まれたかったって思うけど、私はアドラでよかった。二人に会えたから、それまでがつまらないものだったとしても、今は充分に楽しいと思えるから。

「あ、それとこのマーシュは前に話したレッサードラゴンを馬代わりに使ってる国ですよ」
「えぇえええー!」
 っ!? なに? リオの話を聞いたワタルが大声を上げた。そんな事したら見つかるかもしれないのに……何にそんなに驚いたの?
『っ!?』
「航急になに騒いでるの?」
「そうだよ、見つかったらどうすんの!」
 ワタルはミズハラに怒られた。これは間違ってない、でも怒ってるミズハラの声も大きかった。
「いや、だって、ドラゴンに乗れる国に行ってみたかった…………」
 …………そんな物に乗りたいの? 本で見た絵では大きいトカゲみたいな姿だった。ワタルはあんな者に乗りたい? …………変なの。
「え!? そんな国あるの?」
 ユウヤも驚いた声を上げてこっちに寄ってきた。
「この国では馬代わりにドラゴンを使ってるらしい」
「へぇ~、なんかファンタジーっぽい感じ、僕も行ってみたかったなぁ」
「だよな、異世界でドラゴンに乗るとかロマンだよなぁ」
 ワタルとユウヤが凄く悔しそう。ろまんってなに? …………コウヅキとミズハラは反応しないから異界者の男だけがしたい事?
「えっと…………続き、いいですか?」
「あ、うん、どうぞ」
 リオの他国の説明が続く。
「次は東の大陸ですけど、東の大陸の北側がディア王国、南側がデュースト王国となってます。元々は一つの国だったそうなんですけど、内乱で二つに分かれてしまったそうです。ディアは他国との交流が殆どなくて、奴隷制がありますけど異界者は見つかり次第処刑されてしまうって聞きました」
 見つかり次第処刑……ワタルがそんな場所に行かなくてよかった。ワタルがアドラに来なかったら私はリオとも一緒に居なかったかもしれない…………ううん、きっと出会ってもヴァイス達の玩具の一つくらいにしか思わなかった。ワタルに会えてよかった、私を変えてくれてよかった。おかげでリオとも一緒に居られる。

「それで、南のデューストですけど、ここも奴隷制があるらしいんですけど、異界者の受け入れもしているらしいんです」
 受け入れをしてるのに奴隷制? ……受け入れたふりで奴隷にしてる?
「東の大陸の国は同盟に入ってないの?」
「はい、ディアとデューストは緊張状態にあって、近くの国、バドとクロイツとは不可侵条約を結んでいるそうです」
「最後に北の大陸ですけど、ここはクオリア大陸と言われていて、フィオちゃんも言ってましたけど、ここには人間は居なくてエルフと獣人だけが暮らしているって言われてます…………すいません、北の大陸については昔話に出てくる程度なのでこのくらいしか分からないんです」
 謝る事ないのに、北の大陸の情報を持ってる人間が居る方が不思議。
「この大陸が半分位黒いのはなんでか分からない?」
「それは魔物が封印されている場所だって言われてます。本当の事は分からないんですけどね」
 魔物が封印されている場所…………もし魔物が居てワタル達に害成すなら全部殺す。人間じゃないなら殺してもワタルは怒らないはず、絶対に二人を傷つけさせない。
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