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番外編~フィオ・ソリチュード~
見つからない宝物
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私とナハトが冷静さを取り戻して静かな怒りを纏い始めた頃、天明の使いが船の準備が整いつつある事を伝えに来て港へ向かう。
「まったく……手助けをしに来たはずの人間がどうして誘拐なんてされているのかしら」
「姫よ、すまない……全ては私の不徳の致すところだ。ワタルにはなんの非もないのだ、責めは私が受ける」
不満を漏らしたソフィアにナハトが深々と頭を下げた。
「どうなさるのですか姫様? ダークエルフの長の御令嬢にこのような事をさせたとなれば――」
「な、ナハト様頭をお上げください、わ、私は……」
老騎士の言葉に慌てたソフィアは言葉を詰まらせて喘ぐようにしながら視線を彷徨わせる。
一緒に居る事があまりにも当たり前になってたから忘れてた。
ティナも、そしてナハトもエルフの土地では立場のある存在だって事を、そして交流のなかった人間たちからしたらエルフは魔物を封じて平穏を守っていた存在、だからこその慌てよう。
「ナハトさんすいません、ソフィアも色々あってあまり余裕が無いんです。航の救出には最大限助力するのでさっきの事は聞き流して貰えると助かります」
「元より問題にするつもりなど無い、全ては私の不注意が招いた事だ。お前達にはお前達の都合があるのにすまない」
ナハトは冷静さを取り戻した分自分の責任に押し潰されそうになってるみたいで微かに震えてた。
「うにゅ~……やっぱり妾だけ留守番なのじゃ?」
出港準備が整って船に乗り込んだ私達を見たミシャが寂しそうに俯く。
「ごめんねミシャちゃん、今は少し増援を頼めない状況なんだ。だから出来ればもしもに備えて集団を拘束出来る能力を持ってる君には俺の代わりにソフィアの護衛を頼みたいんだ」
「ふみゅ……仕方ないのじゃ、旦那様の親友の頼みを無下にする訳にはいかぬのじゃ! リオも姫も纏めて妾が守るのじゃ」
不逞の輩ってものはどこにでも居る、でもチンピラ程度ならあの老騎士が簡単に退けるはず、だって天明を鍛え上げた人だから。
老いてるとは言っても纏う空気が他と違うのは簡単に分かる、相当の実力者。
だからこそソフィアの傍に控えてるんだろうし、そんな騎士が居ても尚ミシャにも護衛を頼む理由……思い付くのは旅の前に聞いた王族同士の争い――もしかしたら、私たちは既にその争いの中に居るの?
「フィオちゃん……絶対に無茶をしないでください、フィオちゃんに何かあったらワタルが――」
「ん、分かってる。ワタルに苦しいのなんか与えない、ちゃんと連れて帰って来るね」
耐えるようにして目を伏せたリオから視線を外して海の先を睨む。
冷静に、今の自分の出来る範囲の最大を敵に叩き付ける。
出港して一日、日が完全に昇る頃に引き返してきたティナと合流した。
「おい……ワタルは、どうしたんだ……?」
戻って来たのはティナ一人、そこから最悪の事態を想像したナハトが震えながら縋り付く。
「居なかったわ」
「そんなはずないだろ! ――寄越せっ! ――ほら見ろ、印は消えてない。ワタルは生きている、生きてるじゃないか……無事な、はずだろう?」
生きているのは間違いない、なのにティナはワタルを連れていない。
それが何を意味するのか……ナハトの頭の中には嫌なものが広がったんだと思う。
声は上ずり、震えはもはや誰が見ても明らか、そして涙が溢れ出す。
それを冷めた私が見つめてる。
違う、考えたくなくて、必死に平静を保とうと抗ってる。
ティナは顔を伏せて表情を読み取れない。
「ティナさん、居ないというのは?」
天明の質問に私とナハトが大きく震えた。
「言葉通りよ、地図が示す場所まで行ったけれど船の影も形もなかったのよ。その周囲も回ってみたけれど島らしきものなんかも見当たらないし能力の限界も考えたら一度戻ってワタルに直接連絡を取ってみる方が良いと思ったの」
生きてるけど、見つからない……?
だとしたら確実に覚醒者が関わってる、それを破る方法の無いまま進んでも無駄な時間を使うだけになる。
「天明……船を戻して」
「そうだね、少し人員を整える必要がありそうだね」
今の私やナハトは少しの事でも簡単に動揺してしまうからこうやって冷静に判断してくれる天明が来てくれたのは助かった。
途中まで船で戻って残りは回復したティナの能力で天明より一足先に港町に戻ってそこから陣を経由してナハトの故郷へ向かう。
「おぉナハト、よく戻ったな。それでどうだ? そろそろ婿殿と良い仲になったりは――」
「父様……助けて、ください……」
「っ!? ど、どうした? 何があったというのだ? お前が涙を流すなど!? もしや婿殿の身に何かあったのか?」
帰郷に同行してるのが私たちだけって事に気付いた族長が慌て始める。
「ワタルは、悪い人間たちに攫われて……」
「ミトス様、今すぐにワタルに声を送って欲しいの。地図で確認する限り生きてはいるみたいなのだけど示された場所には居なかったの。覚醒者の能力で隠れているのか、或いは能力で海中に潜んでいるのか、どちらにしてもワタルの状況を確認したいの」
「ふむ、状況はおおよそ察した。婿殿に繋いだら私の手を取りなさい、そうすれば皆も交信出来る」
娘と私たちの表情から状況を察した族長はすぐにワタルとの交信を始めてくれた。
(婿殿、婿殿ー……ふむ、通じておるはずなのだが)
族長と手を繋ぐと頭の中に声が響き渡る、そしてその声がワタルの元へ送られているのが感覚的に分かる。
これが能力を使うって事……なんだろう、今までに無い感覚で落ち着かない。
(この声、族長? なんですか?)
っ! 今度はワタルの声が頭の中に響いた。
良かった、声の感じからしても衰弱してる風じゃない。
(おぉ、婿殿。今どこに居る? ナハトが泣きながら帰って来おったぞ)
(ワタル! ワタル無事なのか!? 無事だと言ってくれ、頼む)
私もティナもワタルの声で一応の無事は理解したけど自責の念で冷静さを失ったナハトは叫ぶようにして声を送ってる。
(無事ではないな、人形状態だ)
人形……あの女が私から身体能力を抜き出した事を考えれば、もしかしたら身体の自由すら奪うことが可能なのかもしれない。
(人形状態!? 一体何が――)
(ナハト煩い)
奴隷の話をして脅かしたせいか混乱して騒がしいナハトを族長の方に押しやる。
無事は分かった、なら次にすべき事は助け出す為に必要な情報を貰うこと、取り乱してる時間すら惜しいんだから。
(この声はフィオ? フィオもそこに居るのか? 無事か? 身体の調子とかは大丈夫か?)
攫われたのは自分なのにすぐに私の心配をしてくれる、そんなワタル気遣いに胸が熱くなる。
そして同時に悔しさが溢れ出した。
(平気……ワタル、ごめん)
(何で謝ってるんだよ、謝る事なんかないだろ)
(油断したせいでワタルもワタルの能力も奪われた)
(しょうがないって、あんな能力が二つもあるなんて思わないし、フィオだけでも逃げられて良かったよ)
大切なものを奪われておいてしょうがないじゃ済まされない、今回は命は無事だったけど、もしこれが命の奪い合いだったら?
助けるなんて機会すら無いまま終わってた。
(それで婿殿、どこに居る? 地図上では何も書かれていない場所に居る事になっているのだが、もしや海の中か?)
(地図? って、ああっ! そうか、地図があるから追って来れるじゃん。早く助けてくれ)
(ワタル、行ったのよ。フィオに話を聞いてすぐに私の能力で追ったのだけど、地図が示す場所には何も無かったのよ。それで能力の限界が近くなって、どうしようもなくなって引き返したの。そこはどういう場所なの? 海の中?)
(いや、普通の島だ。能力者が隠してるから普通には辿り着けないらしいけど……そういえば航海中の船も隠してるとか言ってたかも)
やっぱり覚醒者の能力による隠蔽……能力の無効化に関しては天明に心当たりがあるらしいから手配は任せてあるけど……港町に戻る頃に準備が出来てるといいけど……。
(そう、なら能力を無効化させる必要があるのね)
(ああ、あとこっちに来たら船長と副船長の能力には気を付けてくれ。あれから能力以外にも視覚やら触覚、声なんかも奪われてる)
それで人形……。
冷静でいよう、そう思ってた決意があっさり崩れて怒りが溢れてくる。
ワタルから奪った敵……ワタルから奪われた愚かな私、もうどっちに対しての怒りかも分からない。
絶対に元に戻す――もし戻せなかったら――。
(じぇったい、じぇったいすぐに助けに行くからもう少しだけ我慢してくれ)
感情の枷が外れたのかナハトは嗚咽が止まらなくなってる。
(ナハト泣き過ぎだ…………)
(私が目を離したせいだ、ってずっとこの調子なのよ。大勢連れて跳ぶわけにもいかないから船を調達してからになるけど必ず行くから待っててね)
安心させるように努めて柔らかい声音で話しかけるティナだけど――目は笑ってない。
族長すらも顔を強張らせる程の怒気を孕んで拳を握り締めてる。
「さぁ行きましょ、ほらナハトもいつまでも泣いてないの! そんなんだとワタルが心配しちゃうでしょ? さっさと助け出して謝る、そして思いっきり抱き締める。これが今すべき事よ!」
「ああ……その通りだ。私は、何があろうとももう止まらないぞ――っ!? なんだフィオ」
炎を纏い立ち上がったナハトの足を踏み付けた。
「殺すのは駄目、忘れたの? 覚醒者が死んだらワタルを戻せなくなるかもしれない」
「わ、忘れるものか」
「…………」
「……すまない、落ち着いた。もう大丈夫だ」
はぁ……みんなそれぞれワタルの事が好きだけど、ナハトはのめり込み具合が違うというか、猪突猛進みたいな……私もあんまりナハトの事言えないけど。
「じゃあ行きましょ、ふらふらして危なっかしい旦那様を迎えに」
不敵に笑うティナに頷いてナハトの故郷を後にした。
「まったく……手助けをしに来たはずの人間がどうして誘拐なんてされているのかしら」
「姫よ、すまない……全ては私の不徳の致すところだ。ワタルにはなんの非もないのだ、責めは私が受ける」
不満を漏らしたソフィアにナハトが深々と頭を下げた。
「どうなさるのですか姫様? ダークエルフの長の御令嬢にこのような事をさせたとなれば――」
「な、ナハト様頭をお上げください、わ、私は……」
老騎士の言葉に慌てたソフィアは言葉を詰まらせて喘ぐようにしながら視線を彷徨わせる。
一緒に居る事があまりにも当たり前になってたから忘れてた。
ティナも、そしてナハトもエルフの土地では立場のある存在だって事を、そして交流のなかった人間たちからしたらエルフは魔物を封じて平穏を守っていた存在、だからこその慌てよう。
「ナハトさんすいません、ソフィアも色々あってあまり余裕が無いんです。航の救出には最大限助力するのでさっきの事は聞き流して貰えると助かります」
「元より問題にするつもりなど無い、全ては私の不注意が招いた事だ。お前達にはお前達の都合があるのにすまない」
ナハトは冷静さを取り戻した分自分の責任に押し潰されそうになってるみたいで微かに震えてた。
「うにゅ~……やっぱり妾だけ留守番なのじゃ?」
出港準備が整って船に乗り込んだ私達を見たミシャが寂しそうに俯く。
「ごめんねミシャちゃん、今は少し増援を頼めない状況なんだ。だから出来ればもしもに備えて集団を拘束出来る能力を持ってる君には俺の代わりにソフィアの護衛を頼みたいんだ」
「ふみゅ……仕方ないのじゃ、旦那様の親友の頼みを無下にする訳にはいかぬのじゃ! リオも姫も纏めて妾が守るのじゃ」
不逞の輩ってものはどこにでも居る、でもチンピラ程度ならあの老騎士が簡単に退けるはず、だって天明を鍛え上げた人だから。
老いてるとは言っても纏う空気が他と違うのは簡単に分かる、相当の実力者。
だからこそソフィアの傍に控えてるんだろうし、そんな騎士が居ても尚ミシャにも護衛を頼む理由……思い付くのは旅の前に聞いた王族同士の争い――もしかしたら、私たちは既にその争いの中に居るの?
「フィオちゃん……絶対に無茶をしないでください、フィオちゃんに何かあったらワタルが――」
「ん、分かってる。ワタルに苦しいのなんか与えない、ちゃんと連れて帰って来るね」
耐えるようにして目を伏せたリオから視線を外して海の先を睨む。
冷静に、今の自分の出来る範囲の最大を敵に叩き付ける。
出港して一日、日が完全に昇る頃に引き返してきたティナと合流した。
「おい……ワタルは、どうしたんだ……?」
戻って来たのはティナ一人、そこから最悪の事態を想像したナハトが震えながら縋り付く。
「居なかったわ」
「そんなはずないだろ! ――寄越せっ! ――ほら見ろ、印は消えてない。ワタルは生きている、生きてるじゃないか……無事な、はずだろう?」
生きているのは間違いない、なのにティナはワタルを連れていない。
それが何を意味するのか……ナハトの頭の中には嫌なものが広がったんだと思う。
声は上ずり、震えはもはや誰が見ても明らか、そして涙が溢れ出す。
それを冷めた私が見つめてる。
違う、考えたくなくて、必死に平静を保とうと抗ってる。
ティナは顔を伏せて表情を読み取れない。
「ティナさん、居ないというのは?」
天明の質問に私とナハトが大きく震えた。
「言葉通りよ、地図が示す場所まで行ったけれど船の影も形もなかったのよ。その周囲も回ってみたけれど島らしきものなんかも見当たらないし能力の限界も考えたら一度戻ってワタルに直接連絡を取ってみる方が良いと思ったの」
生きてるけど、見つからない……?
だとしたら確実に覚醒者が関わってる、それを破る方法の無いまま進んでも無駄な時間を使うだけになる。
「天明……船を戻して」
「そうだね、少し人員を整える必要がありそうだね」
今の私やナハトは少しの事でも簡単に動揺してしまうからこうやって冷静に判断してくれる天明が来てくれたのは助かった。
途中まで船で戻って残りは回復したティナの能力で天明より一足先に港町に戻ってそこから陣を経由してナハトの故郷へ向かう。
「おぉナハト、よく戻ったな。それでどうだ? そろそろ婿殿と良い仲になったりは――」
「父様……助けて、ください……」
「っ!? ど、どうした? 何があったというのだ? お前が涙を流すなど!? もしや婿殿の身に何かあったのか?」
帰郷に同行してるのが私たちだけって事に気付いた族長が慌て始める。
「ワタルは、悪い人間たちに攫われて……」
「ミトス様、今すぐにワタルに声を送って欲しいの。地図で確認する限り生きてはいるみたいなのだけど示された場所には居なかったの。覚醒者の能力で隠れているのか、或いは能力で海中に潜んでいるのか、どちらにしてもワタルの状況を確認したいの」
「ふむ、状況はおおよそ察した。婿殿に繋いだら私の手を取りなさい、そうすれば皆も交信出来る」
娘と私たちの表情から状況を察した族長はすぐにワタルとの交信を始めてくれた。
(婿殿、婿殿ー……ふむ、通じておるはずなのだが)
族長と手を繋ぐと頭の中に声が響き渡る、そしてその声がワタルの元へ送られているのが感覚的に分かる。
これが能力を使うって事……なんだろう、今までに無い感覚で落ち着かない。
(この声、族長? なんですか?)
っ! 今度はワタルの声が頭の中に響いた。
良かった、声の感じからしても衰弱してる風じゃない。
(おぉ、婿殿。今どこに居る? ナハトが泣きながら帰って来おったぞ)
(ワタル! ワタル無事なのか!? 無事だと言ってくれ、頼む)
私もティナもワタルの声で一応の無事は理解したけど自責の念で冷静さを失ったナハトは叫ぶようにして声を送ってる。
(無事ではないな、人形状態だ)
人形……あの女が私から身体能力を抜き出した事を考えれば、もしかしたら身体の自由すら奪うことが可能なのかもしれない。
(人形状態!? 一体何が――)
(ナハト煩い)
奴隷の話をして脅かしたせいか混乱して騒がしいナハトを族長の方に押しやる。
無事は分かった、なら次にすべき事は助け出す為に必要な情報を貰うこと、取り乱してる時間すら惜しいんだから。
(この声はフィオ? フィオもそこに居るのか? 無事か? 身体の調子とかは大丈夫か?)
攫われたのは自分なのにすぐに私の心配をしてくれる、そんなワタル気遣いに胸が熱くなる。
そして同時に悔しさが溢れ出した。
(平気……ワタル、ごめん)
(何で謝ってるんだよ、謝る事なんかないだろ)
(油断したせいでワタルもワタルの能力も奪われた)
(しょうがないって、あんな能力が二つもあるなんて思わないし、フィオだけでも逃げられて良かったよ)
大切なものを奪われておいてしょうがないじゃ済まされない、今回は命は無事だったけど、もしこれが命の奪い合いだったら?
助けるなんて機会すら無いまま終わってた。
(それで婿殿、どこに居る? 地図上では何も書かれていない場所に居る事になっているのだが、もしや海の中か?)
(地図? って、ああっ! そうか、地図があるから追って来れるじゃん。早く助けてくれ)
(ワタル、行ったのよ。フィオに話を聞いてすぐに私の能力で追ったのだけど、地図が示す場所には何も無かったのよ。それで能力の限界が近くなって、どうしようもなくなって引き返したの。そこはどういう場所なの? 海の中?)
(いや、普通の島だ。能力者が隠してるから普通には辿り着けないらしいけど……そういえば航海中の船も隠してるとか言ってたかも)
やっぱり覚醒者の能力による隠蔽……能力の無効化に関しては天明に心当たりがあるらしいから手配は任せてあるけど……港町に戻る頃に準備が出来てるといいけど……。
(そう、なら能力を無効化させる必要があるのね)
(ああ、あとこっちに来たら船長と副船長の能力には気を付けてくれ。あれから能力以外にも視覚やら触覚、声なんかも奪われてる)
それで人形……。
冷静でいよう、そう思ってた決意があっさり崩れて怒りが溢れてくる。
ワタルから奪った敵……ワタルから奪われた愚かな私、もうどっちに対しての怒りかも分からない。
絶対に元に戻す――もし戻せなかったら――。
(じぇったい、じぇったいすぐに助けに行くからもう少しだけ我慢してくれ)
感情の枷が外れたのかナハトは嗚咽が止まらなくなってる。
(ナハト泣き過ぎだ…………)
(私が目を離したせいだ、ってずっとこの調子なのよ。大勢連れて跳ぶわけにもいかないから船を調達してからになるけど必ず行くから待っててね)
安心させるように努めて柔らかい声音で話しかけるティナだけど――目は笑ってない。
族長すらも顔を強張らせる程の怒気を孕んで拳を握り締めてる。
「さぁ行きましょ、ほらナハトもいつまでも泣いてないの! そんなんだとワタルが心配しちゃうでしょ? さっさと助け出して謝る、そして思いっきり抱き締める。これが今すべき事よ!」
「ああ……その通りだ。私は、何があろうとももう止まらないぞ――っ!? なんだフィオ」
炎を纏い立ち上がったナハトの足を踏み付けた。
「殺すのは駄目、忘れたの? 覚醒者が死んだらワタルを戻せなくなるかもしれない」
「わ、忘れるものか」
「…………」
「……すまない、落ち着いた。もう大丈夫だ」
はぁ……みんなそれぞれワタルの事が好きだけど、ナハトはのめり込み具合が違うというか、猪突猛進みたいな……私もあんまりナハトの事言えないけど。
「じゃあ行きましょ、ふらふらして危なっかしい旦那様を迎えに」
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