黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

休息日

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「スーパーガール! これ食えよ、俺の国で人気のチョコなんだ」
「……」
 敵のハイオークを仕留めて一夜明けてからずっとこんな調子……。

「スーパーガール、君たちのおかげで仲間が命拾いした、本当にありがとう、あの時は悪かった」
 あの時アリスが踏み付けた兵士が仲間を引き連れてそんな事を言いに来た。
 その後も何故か色々持ってくる。
「陣が繋がったから追加物資が入ってきて結構贅沢出来るんだ、このバーガーもおすすめだから食ってみな」
 大きい…………。
「スーパーガール、ドーナツも美味いぞ、これも食えよ」
 多い…………。
「チキンも良い味してるから食ってみろよ」
「あら、結構美味しいのね」
 アリスは順応してる……私はついていけない……。

「あんな化け物をナイフ一本で倒しちまうなんてすげぇ戦闘スキルだ、今度教えてくれよ」
 こんなのの訓練見るよりワタルに訓練したいんだけど……まぁしばらくここで立て直すらしいから少しなら、いいのかな……。
「ちょっとだけ――」
「おぉ、Thank You! ははっ、スーパーガールの技を覚えられるぞ!」
 スーパーガールってなんだろう……異界者の言葉はたまに分からない。

「覚える前に投げられちまうんじゃねぇのか?」
「うっせぇな、死ぬ気で覚えるんだよ、あの時のスーパーガールは最高だったぜ!」
「ああ、シビレたよな!」
 勝手に盛り上がってる……兵士たちが付いてくるせいでワタルが逃げちゃうし……めんどくさい。

「大鎌も凄かったよな、砲弾すら防ぐクリスタルをスパスパ切っちまってさ、ゴーレムが解体されたところなんか最高だったぜ! 異世界の武器すげぇな!」
「ふふん、これはミシャが私の為に作ってくれた特別製だもの」
「ミシャって大樹を作ってたキャットガールか? ワンダフル!」
 わん……? 犬……? ミシャは猫。
「よくそんな大きな物振り回せるよな、もしかして軽いのかい?」
「別に重くはないと思うけど、持ってみたら?」
「shit!」
 嫉妬……? アリスがアダマスを兵士に手渡したらすぐに落とした。
「おいおい、いくらなんでもそりゃねぇだろ、ダセェな――ぬ、お? おぉ!? なんだこれ重っ!」
 アダマスは加重の紋様は入ってないから持てるはずだけど――。

「軽い」
『えぇぇぇえええええっ!?』
 私がアダマスを片手で拾い上げたら愕然としてる。
「そうね、フィオのアル・マヒクはこの十倍くらいだしこんなの重い内に入らないわ」
『いやいやいやいや!』
「スーパーガールのって前に引き摺ってたあれか!? この鎌の十倍ってそんなの扱えるのか!?」
「使える」
『…………』
「スーパーじゃなくてアメイジングガールだな……」
 また意味の分からない言葉を……。

「NOoooooooooooo!」
 アル・マヒクの重さが気になったらしくて渡してみたら地面に落として微動だにしない。
「む、無理だ、こんなの持ち上がるわけねぇ……」
「普通に振れるわよね」
「ん」
 アル・マヒクを構えて軽く振ってみる。
 敵を叩き潰す為に加重してあるけど重いと騒ぐほどじゃない、むしろ振る時に良い感じに重さが乗る具合の良さ。

『OH MY GOD……』
 言葉の意味が分からなくて私とアリスは同じように首を傾げた。
「さっきからあなた達の言葉よく分からないわ」
「Oh、Sorry――翻訳されてるって聞いてたんだけど駄目な単語があるのかもな――とにかく君たちの行動にひたすらに圧倒されたという感じだよ、君たちは本当にアメイジング――You are G.O.A.T!」
 日本人の言葉もたまに分からない事があるけどそれ以外だと余計に分からない……。

「NOoooooooooooo!」
「流石アメイジングガール……」
 どうしてもって言うから少し組手に付き合ったけどやっぱり技術はあっても基本的な身体能力が私たちには到底及ばない。
 超兵の下っ端くらいなら拮抗出来るかもしれないけど……そう考えるとワタルは本当に成長した。
 兵士をやって常に訓練をしてる同じ世界の人間よりも強くなってるんだから。

「動きが目で追えやしない、確かにこれなら銃弾を躱せるのかもな……」
「躱す必要は無い」
「Why?」
「……」
 私とアリスはまた首を傾げた。

「ええっと、なんで避けないんだ? アメイジングガールの体は鋼だなんて言わないよな?」
「だって弾き落とせるもの」
「冗談だろ……?」
「試してみれば?」
 アリスが兵士が身に着けてる銃を指さした。

「馬鹿言うな! なんで君たちに銃を向けないといけない!」
「あら、この前は抜こうとしたのに凄い心境の変化ね」
「それは……申し訳ない……」
「俺ブラックサンダーと自衛隊の覚醒者の模擬戦を見たけど日本人に出来るならアメイジングガールたちも出来るのかもな」
 自衛隊の模擬戦……?
 惧瀞の事かな? ……あれを避けるとなると、ブラックサンダーはワタルの事?

「やるの?」
「え、あ~……」
「別に死なない、問題無い」
 納得し切れないみたいだけど野次馬が増えてきて兵士の一人が仕方なく銃を抜いた。
「本当に大丈夫なのか?」
「そっちこそ撃つのは一人で良いの?」
「複数で撃てって言うのか!? 馬鹿言うな! 俺たちは君たちを殺したいわけじゃないんだぞ!」
「そんな言葉はフィオに当ててから言いなさいよ」
「当てたら駄目だろ!」
「だから当たらないってば、ねぇ?」
「ん」
「……左手の側を撃つ、いいか、左手だぞ」
 別に言う必要はないんだけど。

 兵士が構えたあとに銃特有の音が響いた。
 弾丸は当然当たる事はなくてガントレットを付けた手の内にある。
「どう、なったんだ……?」
「取った」
『OH MY GOD……』
 手を開いて見せると全員が同じ反応をした。
 どういう意味なんだろう?

「信じられない、銃弾を掴むなんてありかよ!? 手は大丈夫なのか?」
「問題無い」
 ティナが注文してくれたオリハルコン製装備は伊達じゃない。
 まぁ気を付ければ素手でも出来るかもしれないけど。
「次は俺がやってもいいか?」
 さっきまで騒いでた兵士たちとは違う一団が銃を手に近付いて来た。

「やめとけアメイジングガール、チャイニーズは色々無茶苦茶だからな」
 ちゃい、チーズ? どの辺がチーズ……?
「どうした、怖いか?」
 めんどくさい……。
 私がさっきの位置に立つと複数の兵士が銃を構えた。
「おい一人じゃないのか!? いくら凄くても相手は女の子だぞ!」
「別にいい」
「でも――」
 さっきの兵士が制止するよりも先に構えた一団が発砲した。
 私はその全てをタナトスとアゾットで切り刻んだ。
 驚きのあとにムキになって、連射を始めたけどその尽くを刻んで一部は蹴り返した。

「っ!?」
「まだやるの?」
 蹴り返した銃弾が顔を掠めた事で発砲は止んだ。
「もういい、もう十分だろ? 彼女はアメイジングだ! 我々の想像を超えた存在だ!」
 あめりかの兵士が野次馬に言い放つと歓声が上がった。
「君たちのおかげで仲間が命拾いした、本当にありがとう! 君たちは最高だ! アメイジングガールズ万歳!」
 騒がしくなってきた……。
「戻る」
「ああ、Thank You Very Match!」
「ねぇフィオ、向こうの世界って大変ね、国が違うだけで言葉も文字も違って私よく分からない言葉が結構あったわ」
「私も分からない」
「ハイエルフの力で言葉が通じるようになってるらしいけど万能じゃないのね」
 経験のない言葉の壁という現象に私たちは首を傾げながらワタルたちのところへ戻った。

「フィオぉ~、アリスぅ~? あなた達随分と人気者になったみたいね?」
 戻ると意味ありげな笑みを浮かべたティナに迎えられた。
「ええ、私たちを馬鹿にした連中もみんな感謝してたわ」
 馬鹿――。
「へぇ~? なら騒ぎを起こしたって話は本当なのね?」
 ティナの笑顔が怖い感じに……。
「あのねぇ! 何か問題を起こせば私たちを率いてるワタルの印象が悪くなるのよ? 今回は挽回出来たみたいだけどそうそう上手くいくとは限らないんだからもっと気を付けなさい!」
『はい……』
 怒られた……。

「ワタルは?」
「ワタルには話してないわ、でもまたこんな事があったら分かってるわね?」
『はい……』
「ワタルは今ミシャの護衛に行ってるわ、まぁワタルにも護衛が付いているのだけれど」
 ミシャもう聖樹の再生始めたんだ。
「行くの?」
「ん」
「じゃあ私も行くわ」
「私も――ていうか今日から始めるなら言ってくれればいいのに、私だって昨日めちゃくちゃミシャの心配したのよ」
 アリスは唇を尖らせて少し拗ねた表情を見せた。
「本当は明日からの予定だったのよ、でもミシャが早い方がいいからって」
 結界の管理者は倒したから大きな心配は無いと思うけど、昨日は凄く不安だったから離れるなら教えてほしかった。

「うにゃ? ティナ達までどうしたのじゃ?」
「フィオとアリスがミシャの事心配だからって」
「にゅ~、別に妾そこまで弱くないのじゃ」
「知ってる、でも心配」
「うにゃぁ……旦那様もみんなも心配性なのじゃ」
「みんなミシャを大事に思ってるから心配するんだ、別に邪魔しないんだからいいだろ」
「ふにゃ!? う、にゃん、あぅ……」
 ワタルのそれは確実に邪魔になってる気がする……尻尾をもふもふされてるミシャは悶えながら聖樹を成長させてる……。

「だ、旦那様ぁ……」
「あぁ癒やされる……」
 ナハトとティナが凄い目で睨んでる……。
「人前でいい加減にしないか、イチャつきたいなら私がしてやる」
「いやこのもふもふはミシャ限定の個性だから他じゃ満たされない、みんなも触ったら絶対虜になるって」
「みみ、みんなでなんてダメなのじゃ!」
 羨ましい……するのもされるのも。
 私も一度くらい触ってみたいけど決定的にミシャに嫌われそうだからやらない。

『きゅうきゅう』
「ありがとう」
 羨ましそうにミシャを見てたのに気付いたもさが肩に乗って尻尾を差し出してきた。
 もさのはもさもさ……ミシャのはどんな触り心地なんだろう?
 ワタルがあんな幸せそうな顔をする手触り……。

 聖樹の再生はその日の内に終わって仮設宿舎に戻るとミシャは泥のように眠った。
「お疲れ様」
「うにゃ~ん……」
 ワタルに撫でられて一瞬気持ち良さそうにしたもののすぐに丸くなって寝息を立て始めた。
 その様子をワタルは少しだけ不安そうに見つめていた。
「ワタル?」
「まだ一つ目なんだよなって……」
 今回の戦いで少なくない被害が出た。
 死者もそれなりに、やっぱり気にしてるんだ。

「そろそろ俺たちも寝よう、フィオもゆっくり休めよ」
「ん」
「ってこっちに来るのかよ……」
 寝台に入ったワタルに付いて懐に潜り込む、落ち着く……大丈夫だよ。
 ワタルと家族は私が守るから。
「狭いなもう……」
 そう言いつつも私がはみ出さないようにしっかり抱き寄せてくれる。
「おやすみ」
「ん」
 絶対に勝って帰ろうね。
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