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渚のリッチな夜でした
その8
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果たして。
『それ』の湛える眼差しからは、確たる意志の光は既に消え果てていた。
底光りするその眼光から放たれるのは、野生の獣すら怯え出すまでの夥しい妄執である。
『それ』は最早、人ではなく、獣でもなかった。
それらが苦手とするものは只一つ。
眩いばかりの陽の光である。
それも今や水平線の彼方に沈み込もうとしている。
辺りが完全な闇に閉ざされる直前、浜辺をうろつく幾つもの影が『それ』の瞳に映り込む。闇色に染まった角膜が極度に広がった異形の眼が、浜辺に屯する人影にぴたりと据えられていた。
西日が徐々に赤みを帯びて行く。
弱り行く昼の光が告げている。
狩りの時間が来た事を。
これまで塗り潰されて来た太古の記憶がいつの間にか増殖し、理性の蓋を破って『それ』の意識に俄かに立ち昇る。
衝動。
衝動。
数え切れない程の無数の衝動。
己の内に脈打つ何かに従い、『それ』は松林の翳りの中から身を起こした。
口元に覗く鋭い歯が斜陽の光に煌めいた。
弱肉強食。
食うか食われるかの世界に身を置いている野生の生き物達は、不意に生じた殺気にも素早く反応する。たとえそれが我が身に向けられたものではなくとも、獰猛な捕食者の発した衝動には鋭敏に反応するのだ。
この場合も例外とはならなかった。
波間が俄かにざわめき始めた。
海面近くを泳いでいた小魚の群が、相次いで水面から飛び跳ね出したのである。
何かに追われて、或いは何かに怯えて事であろうか。夥しい数の小魚が、夕映えの海を忽ち搔き乱した。
砂浜に立った美香の目の前で、それは唐突に起こった事であった。
「えっ!?」
突然の異変に、美香も、その隣に立つ亮一も驚きの表情を浮かべた。
そこへ、異様な雄叫びが届く。
「くいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」
黄昏に響いた叫びに押されるようにして、波間から更に多くの小魚が飛び出した。水の搔き乱される音が、穏やかな潮騒を俄かに塗り潰した。
美香が、驚いて辺りを見回す。
「何? 何、今の?」
「あっ! 後ろ!」
亮一が、美香の肩越しに後方を指し示した。
反射的に美香が振り返った先に、こちらへと突進して来る人影が認められる。
美香は、だが、咄嗟に訝るたのであった。
あれが、本当に人の影だろうか。
斜陽の光に半身を照らされて砂浜を駆けて来る何ものかは、確かに人型の輪郭を有している。然るに、全身の輪郭線は所々が歪み、人としての均整を欠いていた。
乱れ切った頭髪と衣類は、まだ説明も付くだろう。
だが、砂浜を猛然と走る何かの顔や腕は疣に覆われているかのようにおかしな起伏を形作っており、その異様に凸凹した体表が、横手からの日差しを受けてぎらぎらと輝くのであった。
まるで、鎧でも纏っているかのように。
怪訝な面持ちで、突然かつ異様な闖入者を見定めていた美香の手を、亮一が引いた。
「何だか判らないけど、逃げよう! ほら! 青柳さん!」
「う、うん……!」
そうして、美香もまたその場から走り去ろうとした間際の事であった。
二人の横手に不意に影が差した。
思わず見上げた美香の左手に、あの異形の人影が肉薄していた。
砂浜を在り得ないまでの速度で走り寄って来たのである。
その刹那、美香はそれの面立ちを間近から目の当たりにする。
大まかな顔形は歳を経た人間のそれである。
然るに、相手の左右の眼球はほぼ全体が真っ黒に染まり、口が耳の近くまで大きく開いている。
「くいいぃぃぃ……!」
奇声の漏れる口元からは、山切りになったような薄く鋭い歯がずらりと並んでいるのが垣間見えた。
およそ人の相貌ではない。
そして、腕や首筋などの衣服から覗く肌をびっしり覆うのは、あれは無数の鱗だろうか。
対象を半ば呆然と仰いだ美香の前で、異形の人影は片腕を猛然と振り上げた。間髪を入れずに打ち下ろされた腕が、傍らの亮一を殴り飛ばした。
「ちょ……宮沢君!」
砂浜に俯せに倒れた少年を見遣った美香の前で、異形のものは奇声を上げる。
「くいっ! くいっ! きゅいいいいいいいいいいいいいッ!!」
それは歓喜の声であると同時に、獲物を手に入れんと欲する獣の咆哮であった。一欠片の知性も見当たらぬ眼差しが、怯える一人の少女へと据えられる。
「くいいッ!!」
けたたましく叫ぶのと一緒に、異形のものは美香へと躍り掛かった。
確かに躍り掛かろうとした。
その瞬間瞳を閉ざしてしまった美香は、だが数秒を経ても何の変化も訪れない状況を訝るて恐る恐る瞼を開く。
果たして、彼女の目の前に異形のものは尚も立っていた。
鱗の覗く全身を痙攣させ、如何にも苦しげに、それは少女の眼前で躍り掛かろうする姿勢のまま全身を固まらせていたのであった。
「え……?」
思わず呟いた美香の声を、異形のものの後ろから届いた声が重ね塗る。
「……全く、公の場で不純異性交遊なぞに現を抜かしているからこういう目に遭う」
海の彼方で弱まり行く日差しと通ずる所のある、実に億劫そうな物言いであった。
美香は顔をずらし、既に判別の付いている声の主へと眼差しを向けた。
果たして彼女の予想と期待の通り、異形のものの後ろに佇んでいたのは痩身の孤影であった。異形のものの足元から伸びる、西日に引き伸ばされた影を踏み付けて、たったそれだけの事で彼は相手の挙動の一切を封じていたのだった。
「センセ……!」
美香の顔が途端にぱっと明るくなる。
対して、リウドルフは冷ややかな眼差しを教え子に送った。
「つくづく要領の悪い奴だな。それこそ前世の行ないでも祟ってるんじゃないのか?」
「……何それ? もうちょっと気の利いた事言えないの?」
窮状を救いながらも平然と素気無い態度を取る相手へ不満を漏らしつつ、美香は打ち倒された亮一を肩に担ぐとリウドルフの後ろへと回る。
周囲では異状に気付いた他の生徒達が遠巻きにリウドルフ達を眺め、キャンプファイヤーの準備に当たっていた教師達も腰を上げ始めていた。
その渦中で一人、リウドルフは湿った息を吐く。
「……ま、衆人環視の事でもあるし、飯時を前におかしな精気を吸いたくもない。ここは一つ穏便に済ませるか……」
言って、彼は異形のものの影を踏んでいた足を離した。
途端、文字通り弾かれたように、それはリウドルフへと振り返る。
「くいッ! くくッ! くいいいッ!」
黒いだけの目を広げ、異形のものはリウドルフへと猛然と掴み掛かった。食事を邪魔された苛立ちか、はたまた見るからに軟な相手を見縊っての事であろうか。
他方、猛り狂う異形へとリウドルフは緩やかに人差し指を突き出したのであった。相手の額へ向け、躊躇い無く真っ直ぐに。
同時に、朗々たる声がその口から発せられる。
「風は薫るか? 波は詠うか? 然り。其処に真の安息在り。此処に汝の安寧無し」
「くッ! くいッ! くいい……!」
無駄に鮮やかなアロハシャツを着た実に貧相な男に指先を突き付けられただけで、ただそれだけで異形なるものは今や完全に動きを封じられていた。つんのめるような姿勢のまま苦しげな吐息を漏らす異形へと、リウドルフは穏やかながらも鋭い眼差しを遣す。
「然れば疾く其処へ戻る可し。汝、此れに抗う事能わず……!」
その言葉の直後、異形のものは不意にがっくりと膝を折り、その場に崩れ落ちたのであった。
夕時の風が蜩の声を乗せて砂浜を通り抜けた。
穏やかな漣の音だけが、再び辺りの空気を震わせる。
亮一を担いだまま美香は小首を傾げた。
「……どうしたの?」
「見た所獣憑きのようなのでな、野性を鎮める術を使った。有体に言えば耳から浸透する麻酔薬みたいなものだ。衝動に支配された連中には根が単純であればある程この手の術式も通り易い。頭に血の昇った奴程薬の回りも早いと言う事だ」
「ふーん……」
リウドルフが背中越しに遣した気の無い説明に、美香は取り敢えず頷いて見せた。
と、その時、美香の顔の横で担がれた亮一がうっすらと目を開く。
「あ……」
昏倒し掛けた意識が戻ったのか、亮一は辺りを見回し、程無くして自分の前に立つ男の背中に気が付いた。
「……何だ……また、あんたかよ……」
何やら恨めしげに呟いた少年をリウドルフは肩越しに一瞥した後、眼差しを宙に持ち上げた。
「……どうにも折り合いが悪いようだな」
やはりつまらなそうに言い捨ててからリウドルフは膝を曲げると、自分の足元に倒れ伏した『もの』を改めて見つめた。
大まかな輪郭だけを見れば、それは確かに『人間』であった。
白髪交じりの乱れ切った頭髪。
所々が汚れて綻びた衣服。
だが、その袖口や裾から覗く皮膚には、銀色の微かな光沢さえ持った鱗のようなものが覗いている。皮膚に何らかの病変を起こしている事は一目瞭然であった。
細い顎先に手を当て、リウドルフは細めた目を脇へと逸らす。
「……そう言えば住民が一人行方不明だとか言っていたな。これと何か関係があるのか?」
そうしてリウドルフが再び見下ろした先では、砂浜に俯せに横たわった何ものかは角膜の極度に肥大した目を喝と見開いたまま微動だにせず、既に深い眠りに落ちているようであった。
黄昏の潮騒はその間も淡々と繰り返す。
蜩の高く澄んだ声がその狭間に鳴り響き、遥かな西日へ向けて通り抜けて行った。
『それ』の湛える眼差しからは、確たる意志の光は既に消え果てていた。
底光りするその眼光から放たれるのは、野生の獣すら怯え出すまでの夥しい妄執である。
『それ』は最早、人ではなく、獣でもなかった。
それらが苦手とするものは只一つ。
眩いばかりの陽の光である。
それも今や水平線の彼方に沈み込もうとしている。
辺りが完全な闇に閉ざされる直前、浜辺をうろつく幾つもの影が『それ』の瞳に映り込む。闇色に染まった角膜が極度に広がった異形の眼が、浜辺に屯する人影にぴたりと据えられていた。
西日が徐々に赤みを帯びて行く。
弱り行く昼の光が告げている。
狩りの時間が来た事を。
これまで塗り潰されて来た太古の記憶がいつの間にか増殖し、理性の蓋を破って『それ』の意識に俄かに立ち昇る。
衝動。
衝動。
数え切れない程の無数の衝動。
己の内に脈打つ何かに従い、『それ』は松林の翳りの中から身を起こした。
口元に覗く鋭い歯が斜陽の光に煌めいた。
弱肉強食。
食うか食われるかの世界に身を置いている野生の生き物達は、不意に生じた殺気にも素早く反応する。たとえそれが我が身に向けられたものではなくとも、獰猛な捕食者の発した衝動には鋭敏に反応するのだ。
この場合も例外とはならなかった。
波間が俄かにざわめき始めた。
海面近くを泳いでいた小魚の群が、相次いで水面から飛び跳ね出したのである。
何かに追われて、或いは何かに怯えて事であろうか。夥しい数の小魚が、夕映えの海を忽ち搔き乱した。
砂浜に立った美香の目の前で、それは唐突に起こった事であった。
「えっ!?」
突然の異変に、美香も、その隣に立つ亮一も驚きの表情を浮かべた。
そこへ、異様な雄叫びが届く。
「くいいいいいいぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」
黄昏に響いた叫びに押されるようにして、波間から更に多くの小魚が飛び出した。水の搔き乱される音が、穏やかな潮騒を俄かに塗り潰した。
美香が、驚いて辺りを見回す。
「何? 何、今の?」
「あっ! 後ろ!」
亮一が、美香の肩越しに後方を指し示した。
反射的に美香が振り返った先に、こちらへと突進して来る人影が認められる。
美香は、だが、咄嗟に訝るたのであった。
あれが、本当に人の影だろうか。
斜陽の光に半身を照らされて砂浜を駆けて来る何ものかは、確かに人型の輪郭を有している。然るに、全身の輪郭線は所々が歪み、人としての均整を欠いていた。
乱れ切った頭髪と衣類は、まだ説明も付くだろう。
だが、砂浜を猛然と走る何かの顔や腕は疣に覆われているかのようにおかしな起伏を形作っており、その異様に凸凹した体表が、横手からの日差しを受けてぎらぎらと輝くのであった。
まるで、鎧でも纏っているかのように。
怪訝な面持ちで、突然かつ異様な闖入者を見定めていた美香の手を、亮一が引いた。
「何だか判らないけど、逃げよう! ほら! 青柳さん!」
「う、うん……!」
そうして、美香もまたその場から走り去ろうとした間際の事であった。
二人の横手に不意に影が差した。
思わず見上げた美香の左手に、あの異形の人影が肉薄していた。
砂浜を在り得ないまでの速度で走り寄って来たのである。
その刹那、美香はそれの面立ちを間近から目の当たりにする。
大まかな顔形は歳を経た人間のそれである。
然るに、相手の左右の眼球はほぼ全体が真っ黒に染まり、口が耳の近くまで大きく開いている。
「くいいぃぃぃ……!」
奇声の漏れる口元からは、山切りになったような薄く鋭い歯がずらりと並んでいるのが垣間見えた。
およそ人の相貌ではない。
そして、腕や首筋などの衣服から覗く肌をびっしり覆うのは、あれは無数の鱗だろうか。
対象を半ば呆然と仰いだ美香の前で、異形の人影は片腕を猛然と振り上げた。間髪を入れずに打ち下ろされた腕が、傍らの亮一を殴り飛ばした。
「ちょ……宮沢君!」
砂浜に俯せに倒れた少年を見遣った美香の前で、異形のものは奇声を上げる。
「くいっ! くいっ! きゅいいいいいいいいいいいいいッ!!」
それは歓喜の声であると同時に、獲物を手に入れんと欲する獣の咆哮であった。一欠片の知性も見当たらぬ眼差しが、怯える一人の少女へと据えられる。
「くいいッ!!」
けたたましく叫ぶのと一緒に、異形のものは美香へと躍り掛かった。
確かに躍り掛かろうとした。
その瞬間瞳を閉ざしてしまった美香は、だが数秒を経ても何の変化も訪れない状況を訝るて恐る恐る瞼を開く。
果たして、彼女の目の前に異形のものは尚も立っていた。
鱗の覗く全身を痙攣させ、如何にも苦しげに、それは少女の眼前で躍り掛かろうする姿勢のまま全身を固まらせていたのであった。
「え……?」
思わず呟いた美香の声を、異形のものの後ろから届いた声が重ね塗る。
「……全く、公の場で不純異性交遊なぞに現を抜かしているからこういう目に遭う」
海の彼方で弱まり行く日差しと通ずる所のある、実に億劫そうな物言いであった。
美香は顔をずらし、既に判別の付いている声の主へと眼差しを向けた。
果たして彼女の予想と期待の通り、異形のものの後ろに佇んでいたのは痩身の孤影であった。異形のものの足元から伸びる、西日に引き伸ばされた影を踏み付けて、たったそれだけの事で彼は相手の挙動の一切を封じていたのだった。
「センセ……!」
美香の顔が途端にぱっと明るくなる。
対して、リウドルフは冷ややかな眼差しを教え子に送った。
「つくづく要領の悪い奴だな。それこそ前世の行ないでも祟ってるんじゃないのか?」
「……何それ? もうちょっと気の利いた事言えないの?」
窮状を救いながらも平然と素気無い態度を取る相手へ不満を漏らしつつ、美香は打ち倒された亮一を肩に担ぐとリウドルフの後ろへと回る。
周囲では異状に気付いた他の生徒達が遠巻きにリウドルフ達を眺め、キャンプファイヤーの準備に当たっていた教師達も腰を上げ始めていた。
その渦中で一人、リウドルフは湿った息を吐く。
「……ま、衆人環視の事でもあるし、飯時を前におかしな精気を吸いたくもない。ここは一つ穏便に済ませるか……」
言って、彼は異形のものの影を踏んでいた足を離した。
途端、文字通り弾かれたように、それはリウドルフへと振り返る。
「くいッ! くくッ! くいいいッ!」
黒いだけの目を広げ、異形のものはリウドルフへと猛然と掴み掛かった。食事を邪魔された苛立ちか、はたまた見るからに軟な相手を見縊っての事であろうか。
他方、猛り狂う異形へとリウドルフは緩やかに人差し指を突き出したのであった。相手の額へ向け、躊躇い無く真っ直ぐに。
同時に、朗々たる声がその口から発せられる。
「風は薫るか? 波は詠うか? 然り。其処に真の安息在り。此処に汝の安寧無し」
「くッ! くいッ! くいい……!」
無駄に鮮やかなアロハシャツを着た実に貧相な男に指先を突き付けられただけで、ただそれだけで異形なるものは今や完全に動きを封じられていた。つんのめるような姿勢のまま苦しげな吐息を漏らす異形へと、リウドルフは穏やかながらも鋭い眼差しを遣す。
「然れば疾く其処へ戻る可し。汝、此れに抗う事能わず……!」
その言葉の直後、異形のものは不意にがっくりと膝を折り、その場に崩れ落ちたのであった。
夕時の風が蜩の声を乗せて砂浜を通り抜けた。
穏やかな漣の音だけが、再び辺りの空気を震わせる。
亮一を担いだまま美香は小首を傾げた。
「……どうしたの?」
「見た所獣憑きのようなのでな、野性を鎮める術を使った。有体に言えば耳から浸透する麻酔薬みたいなものだ。衝動に支配された連中には根が単純であればある程この手の術式も通り易い。頭に血の昇った奴程薬の回りも早いと言う事だ」
「ふーん……」
リウドルフが背中越しに遣した気の無い説明に、美香は取り敢えず頷いて見せた。
と、その時、美香の顔の横で担がれた亮一がうっすらと目を開く。
「あ……」
昏倒し掛けた意識が戻ったのか、亮一は辺りを見回し、程無くして自分の前に立つ男の背中に気が付いた。
「……何だ……また、あんたかよ……」
何やら恨めしげに呟いた少年をリウドルフは肩越しに一瞥した後、眼差しを宙に持ち上げた。
「……どうにも折り合いが悪いようだな」
やはりつまらなそうに言い捨ててからリウドルフは膝を曲げると、自分の足元に倒れ伏した『もの』を改めて見つめた。
大まかな輪郭だけを見れば、それは確かに『人間』であった。
白髪交じりの乱れ切った頭髪。
所々が汚れて綻びた衣服。
だが、その袖口や裾から覗く皮膚には、銀色の微かな光沢さえ持った鱗のようなものが覗いている。皮膚に何らかの病変を起こしている事は一目瞭然であった。
細い顎先に手を当て、リウドルフは細めた目を脇へと逸らす。
「……そう言えば住民が一人行方不明だとか言っていたな。これと何か関係があるのか?」
そうしてリウドルフが再び見下ろした先では、砂浜に俯せに横たわった何ものかは角膜の極度に肥大した目を喝と見開いたまま微動だにせず、既に深い眠りに落ちているようであった。
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