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一章

第五話 リザードマン

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 リザードマンは本来洞窟に住む生き物だ。ただ住処を追われたらしく、森に現れるようになった。駆け出しの冒険者では討伐が難しく、また一般人も訪れる森に現れるのは街を治める者たちからすると大きな問題だ。そのため、この依頼が発注された。
 体長は2メートルから3メートル前後。個体によって依頼の難易度は異なる。ただ、5を超えることはないらしい。
 余談だが、現れるからと森に入らない一般人、駆け出し冒険者はいない。生活が懸かっているのだから少しの危険は見て見ぬふりをする。熊がいる森に入る日本人と変わらない。

「リザードマンの匂いは独特だから、多分すぐに見つかると思うよ」
「匂い?」
「そう、匂い」
「犬みたいな探し方をするのだな」
「イヌみたい? イヌって何?」
 リーリアが不思議そうにする。
 犬もボアみたいに名前が違うのかもしれない。覚えておこう。
「それよりも、すぐに見つかりそうか?」
 そう聞くと、リーリアは首を横に振った。
「広い森の中を探すのだから、今日中に終わらない可能性もあるよ」
「そういえば、不思議に思っていたけども、仮に依頼を受けることなく、ボアを捕まえてギルドに持っていったらどうなるんだ?」
「依頼完了は可能だけども、無断で仕事を行ったとしてあまり良い評価は受けないよ。評価を上げないと報酬の高い依頼を受けることができないから、皆その辺りは守るから。まあ、だからリザードマン討伐も他の冒険者が勝手にすることはしないよ。報酬がいらないとかいうもの好きがいたらお終いだけど」
「その時はいなかったと報告すれば依頼は終わりか」
「一応、依頼は三つまで受けることができるから、今から街に戻って、ボア捕獲の依頼でも貰ってきたら?」
「できればそれは街を出る前に教えてほしかった」
 なんて会話をしていると、リーリアの表情が険しくなる。
 しっと静かにするよるよう言って、中腰になったため、俺も同じように中腰になる。
 目の前を一体のリザードマンが通った。

 リザードマンは目は悪いが耳は良い。
 だからリザードマンは俺たちに気づく。
 ささやかな会話、服のかすれる音。すべてがリザードマンに筒抜けだ。
 リザードマンが自身の手にある剣を構えた時、リーリアは飛び出した。
 細い剣でリザードマンの胴体を突き刺す。硬い鱗を貫通し、真っ赤な血があふれ出す。
 怒りを見せ、剣を振り回すリザードマンの攻撃を避けて、もう一度リーリアはリザードマンの胴体を剣で突き刺す。そして避ける。
 戦いなれた姿だ。何より、避けることに関して、リーリアは優れていた。
 宙を舞いながら、リーリアは何度も何度もリザードマンを攻撃する。そうやってリザードマンの体が血まみれになった時、リザードマンは倒れた。
「すごいな」
「見直した?」
「見直した。見直した」
 リーリアはリザードマンの体の一部を採取する。それが討伐完了を意味するらしく、集めないと報酬はもらえないらしい。
「まだ他にいるかもしれないから、イツキはあたりを警戒して」
「りょーかい」
 なんて言っても、辺りにリザードマンは見当たらない。
 一体何体いるのだろうか。
 10体や20体を考えなくてはいけないかもしれない。
 報酬は良いのだが、その分面倒な依頼だ。
「さてと」
 俺は辺りを見渡す。
 匂いを少し嗅いでみる。
 リーリアはリザードマンの匂いは独特だと言っていた。
 血に五月蠅い吸血鬼も匂いには敏感。だからリザードマンの匂いを知れば、実はリーリアみたいに。いやリーリア以上の精度でリザードマンを探すことが出来たりする。
 ふいに、わずかな別の匂いがした。
 人間に近い。そしてそのすぐ近くにリザードマンの匂い。
 どういうことだ?
「危ない事が起きてる気がする」
 こっちか。
 俺はリザードマンの匂いがする方角を見定める。
「ちょ!?」
 リーリアが驚いた表情をするがお構いなしに俺はその方角へ向かった。

 しばらく走ると、甲高い悲鳴が聞こえた。
 それが人間とは微妙に違うことも何となくだが分かる。
 エルフだ。
 いや、エルフと人間のハーフだろうか?
 とにかく、そんなエルフが襲われていた。リザードマンに。
 だから俺はすぐに飛び出した。
「伏せて!」
 叫ぶとエルフの子は言葉通りに頭を下げてくれる。俺はつかさずリザードマンの胴体に自身の武器である長い棒を突きつけた。
 一瞬リザードマンがよろめく。
 その瞬間。
 俺は高速で振り回し、リザードマンの首を落とした。
 何が起きたのか理解できないみたいで、エルフの子は驚きと恐怖と、そして喜びが混ざったような何とも複雑な表情だった。
「ありがとうございます」
 ただ、次第に状況がつかめてくると、今の状況が分かったみたいで、喜びの表情へと変わってくる。
「良かった。間に合って」
「あの!」
 エルフの子が聞いてきた。
「お名前は?」
「イツキです」
「イツキ様?」

 これがティーファとの出会いだった。
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