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一章
第十二話 エルフの里~懐かしき友との再会~
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何故人間とエルフは相いれないのか。
それは人間がエルフにした仕打ちと、エルフが人間にした復讐から始まる。
人間はエルフを捕まえた。そんな人間をエルフは殺した。
気づけばエルフは一つの地域に集まるようになり、それは次第に巨大な国へと変わる。そしてエルフの国と人間の国は対立する形で、別の世界のように関わらないようになった。
エルフの里は森の奥地にある
そこまでの移動には半日近くかかるらしく、俺たちがそこに向かったのは次の日となってしまった。
朝早く出発し、ティーファの案内の下、森の中を歩く。
そしてたどり着いたのは木の柵に囲まれた村だった。
元々エルフの里はエルフの国に取り込まれなかった地域の総称であり、このエルフの里ひいては村に名前があることをティーファは教えてくれた。ただその肝心の名前自体は教えてくれなかった。
エルフの村の門は閉鎖されており、歓迎されていないことが雰囲気から出ていた。
ティーファは親元に返すべきだ、は親ならば分かってくれると思ったからだ。
ただ、如何に難しいことなのかが、今になって気づいてしまう。
やはりエルフと人間は相いれない。
そしてその二つの種の血を引くティーファはどちらにも向かい入れてくれないのだ。
俺は勇気を振り絞って門を数度叩く。
すると矢が上空から一本降り注いできた。それは俺の足元に突き刺さる。
「帰れ」
「ティーファを知っているだろう?」
「帰れ」
「ティーファの母親はこの里にいるらしいんだ。知らないか?」
「帰れ」
会話が成り立たない。
強行突破しても関係が悪くなるだけだ。
どうするべきか、考える中、ふいに知った声が聞こえた。
「×××××」
それにエルフがその言語で反論する。
「×××!」
「×××××××××」
人とエルフが使う言葉ではない。
いれてやれ。ですが。わたしのしりあいだ。と彼らは会話をした。
懐かしい声。
「入れ」
しばらくしてエルフの村の門が開いた。
エルフの村の中は小さな建物だけだった。
数多くのエルフが睨むようにして歓迎してくれる。その視線の中を俺たち三人は歩く。
懐かしい声の正体は分かっていた。
「フェンリル!」
村の中央に知り合いの姿があった。
フェンリル。俺が吸血鬼の王の力を手に入れるきっかけを作った張本人だ。
真っ白な毛をなびかせて。フェンリルは地面に寝転がっていた。その隣に他のエルフとは違う、だいぶ年老いたエルフの姿が。
小さな話し声が聞こえる。
「彼は何者だ?」
「何故フェンリル様と親しく会話をする?」
フェンリルはその神秘的な見た目から、神聖な生き物として扱われている。何より強い。ファイアー・ドレイクやカルルなどでは話にならない。
そのため、エルフの村においてフェンリルの存在は大きいらしく、彼の言葉にエルフたちは逆らえず、俺たちは中に入ることができたみたいだ。
「ひさしいな」
「どうしてお前がここに?」
「わたしの土地は人間たちに侵されたからだ」
「そして行き場がなくなって、エルフの村に向かい入れてもらったのか?」
「そうだ」
俺が吸血鬼の王を殺した冒険者に復讐したいように、フェンリルもまた人間たちに怒りを覚えている。
だから人間の街ではなくエルフの村か。
「その後ろの人間たちはなんだ?」
フェンリルがリーリアとティーファを見る。
リーリアはファイアー・ドレイクの時みたいに畏縮していた。ただティーファは違った。俺のすぐ隣まで歩み寄ってきて。
「フェンリル様。初めまして。私はティーファと申します。エルフと人間のハーフです」
そうお辞儀をした。
リーリアの方を見る。
「リーリアちゃん。あなたも」
「…………どうして、平気なの。何なの、その化け物は」
「化け物じゃない。フェンリル様よ。神聖な方よ」
リーリアは俺のすぐ後ろに来た。
「…………初めまして。フェンリル様。私はリーリアです」
その二人の言葉にフェンリルは何も反応を見せない。
俺の方を見た。
「それで、イツキ。何用で来たんだ?」
「そうだ。ティーファの母親だ。ティーファの母親を知らないか? 親元で過ごせないか交渉に来たんだ」
「彼女ならもういませんぞ」
フェンリルのすぐ隣に立っていたエルフが答えてくれた。
「彼女はもう亡くなった」
「亡くなった?」
「精神的な病の一つです。彼女の過去はあまりにも悲惨だった。そしてティーファのことが重なってしまった」
その言葉に俺はムッとなる。
ティーファのこと。そもそもティーファを追い出したエルフ側が何を言っているんだと俺は思った。だから聞くことにした。
「一つ良いか」
「何でしょう?」
「何故ティーファはエルフの村から追い出されたんだ?」
「ご存知でしょう? 人間の血があるからです。赤子であるティーファを追い出すような真似は流石にしない。ですが大人となり一人前になったティーファを流石に村に残すことはできなかった。だから母親の手から無理やり引っ張り追い出した」
「どうしてそこまでのことをする? 何故ティーファを人間ではなくエルフとして見ることができないんだ? それほど人間という種が嫌いか?」
「我々エルフが人間に対して持つ憎悪は特別なのですよ。元人間であるあなたには理解し難いかもしれませんが」
そのエルフははっきりと答えた。
「フェンリル様の言葉となれば、ティーファを向かい入れましょう。あくまで向かい入れるだけですが」
「つまり、俺のしようとしたことは元々不可能だったのか」
「別に良いではないか。イツキ」
フェンリルが言った。
「あの方がお前を向かい入れたように、お前もその子を向かい入れれば良い。人生をかけてな。それで良いではないか? 少なくとも、あの方はお前のために人生を棒に振るった」
フェンリルが言った。
確かにそうだ。
「悪かった。ティーファ」
俺はティーファの方を見る。
ティーファはキョトンとした様子だった。
リーリアが聞いてくる。
「つまり、どういうこと?」
「ティーファの親元へ返す目的は失敗に終わったから、俺がティーファの面倒を見ることになった」
「つまり、私はイツキさんの妻になったということです」
「そういうことじゃないからな!?」
なんて笑って、俺はふとカルルのことを思い出す。
「そういえば、カルルはどうしてエルフの里に入ることができたんだ?」
するとフェンリル隣のエルフが教えてくれた。
若干怒りを込めて。
「あの男は無理にでもエルフの村に入るような男でした。どれだけ我々が拒んでも、それに対抗できる力があった」
「あ、そうだったのか」
確かにカルルならできそうだ。
「そうだ。イツキ」
「どうした。フェンリル」
「お前が今までどこにいたのか。何をしていたのか知りたい。もちろん、今日はこの村に泊っていくのだろう?」
「いや、もうすぐにでも出発するよ。時間は有限だからな。少し近くの街に居すぎた」
「そうか。いや何、それで良い。お前の目的はわたしも待ち望んでいる」
そうフェンリルは言って、立ち上がった。
そして俺に顔を近づけて。
「だが、お前のその復讐が何も生まないことはすでに分かり切っていることだ」
「ん?」
最後の言葉は意味が分からずじまいになった。
エルフの村を出た俺たちは、リーリアを街に送ることにした。
しかし。
「しょうがないわね。私も特別に着いていってあげる」
「いや、なんで」
「私も親がいない独り身だからね」
「リーリアちゃん。もしかしてイツキさんのことが好きになったのですか?」
「はあ? そんなわけないでしょ? でも少しはあなたたち二人のこと好きになったわよ」
リーリアは街の方を見て。
「私の目的はすでに意味を成してないから。あの街に居続けることも必要ないからね。だから今日、着いていく気満々でちゃんと荷物をまとめてきてるわよ?」
そう言って、リーリアは手荷物を見せてきた。
確かに、大きいなとは思ったけども。
「さあ、行きましょ。どこの街に行くの?」
「レフがいる街だ」
「レフ? 誰ですか?」
「そういえば、あんたさっき話してたけども。あんたの旅の目的って何なの?」
「秘密だ」
「仲間に秘密はいけないことですよ、イツキさん」
「そうよ。ティーファ良いこと言う。さあ、話しなさい。あと、あんたの人間以外の血も」
「秘密だ。というか、それだけ秘密だらけなのによくもまぁ着いて来ようと思ったな」
「だって楽しそうだから」
「単純なんだな」
すると怒ったようにリーリアが剣の柄で叩いてくる。
ほんの少しだけ笑いが起きた。
旅はまだ始まったばかりなのだから。
それは人間がエルフにした仕打ちと、エルフが人間にした復讐から始まる。
人間はエルフを捕まえた。そんな人間をエルフは殺した。
気づけばエルフは一つの地域に集まるようになり、それは次第に巨大な国へと変わる。そしてエルフの国と人間の国は対立する形で、別の世界のように関わらないようになった。
エルフの里は森の奥地にある
そこまでの移動には半日近くかかるらしく、俺たちがそこに向かったのは次の日となってしまった。
朝早く出発し、ティーファの案内の下、森の中を歩く。
そしてたどり着いたのは木の柵に囲まれた村だった。
元々エルフの里はエルフの国に取り込まれなかった地域の総称であり、このエルフの里ひいては村に名前があることをティーファは教えてくれた。ただその肝心の名前自体は教えてくれなかった。
エルフの村の門は閉鎖されており、歓迎されていないことが雰囲気から出ていた。
ティーファは親元に返すべきだ、は親ならば分かってくれると思ったからだ。
ただ、如何に難しいことなのかが、今になって気づいてしまう。
やはりエルフと人間は相いれない。
そしてその二つの種の血を引くティーファはどちらにも向かい入れてくれないのだ。
俺は勇気を振り絞って門を数度叩く。
すると矢が上空から一本降り注いできた。それは俺の足元に突き刺さる。
「帰れ」
「ティーファを知っているだろう?」
「帰れ」
「ティーファの母親はこの里にいるらしいんだ。知らないか?」
「帰れ」
会話が成り立たない。
強行突破しても関係が悪くなるだけだ。
どうするべきか、考える中、ふいに知った声が聞こえた。
「×××××」
それにエルフがその言語で反論する。
「×××!」
「×××××××××」
人とエルフが使う言葉ではない。
いれてやれ。ですが。わたしのしりあいだ。と彼らは会話をした。
懐かしい声。
「入れ」
しばらくしてエルフの村の門が開いた。
エルフの村の中は小さな建物だけだった。
数多くのエルフが睨むようにして歓迎してくれる。その視線の中を俺たち三人は歩く。
懐かしい声の正体は分かっていた。
「フェンリル!」
村の中央に知り合いの姿があった。
フェンリル。俺が吸血鬼の王の力を手に入れるきっかけを作った張本人だ。
真っ白な毛をなびかせて。フェンリルは地面に寝転がっていた。その隣に他のエルフとは違う、だいぶ年老いたエルフの姿が。
小さな話し声が聞こえる。
「彼は何者だ?」
「何故フェンリル様と親しく会話をする?」
フェンリルはその神秘的な見た目から、神聖な生き物として扱われている。何より強い。ファイアー・ドレイクやカルルなどでは話にならない。
そのため、エルフの村においてフェンリルの存在は大きいらしく、彼の言葉にエルフたちは逆らえず、俺たちは中に入ることができたみたいだ。
「ひさしいな」
「どうしてお前がここに?」
「わたしの土地は人間たちに侵されたからだ」
「そして行き場がなくなって、エルフの村に向かい入れてもらったのか?」
「そうだ」
俺が吸血鬼の王を殺した冒険者に復讐したいように、フェンリルもまた人間たちに怒りを覚えている。
だから人間の街ではなくエルフの村か。
「その後ろの人間たちはなんだ?」
フェンリルがリーリアとティーファを見る。
リーリアはファイアー・ドレイクの時みたいに畏縮していた。ただティーファは違った。俺のすぐ隣まで歩み寄ってきて。
「フェンリル様。初めまして。私はティーファと申します。エルフと人間のハーフです」
そうお辞儀をした。
リーリアの方を見る。
「リーリアちゃん。あなたも」
「…………どうして、平気なの。何なの、その化け物は」
「化け物じゃない。フェンリル様よ。神聖な方よ」
リーリアは俺のすぐ後ろに来た。
「…………初めまして。フェンリル様。私はリーリアです」
その二人の言葉にフェンリルは何も反応を見せない。
俺の方を見た。
「それで、イツキ。何用で来たんだ?」
「そうだ。ティーファの母親だ。ティーファの母親を知らないか? 親元で過ごせないか交渉に来たんだ」
「彼女ならもういませんぞ」
フェンリルのすぐ隣に立っていたエルフが答えてくれた。
「彼女はもう亡くなった」
「亡くなった?」
「精神的な病の一つです。彼女の過去はあまりにも悲惨だった。そしてティーファのことが重なってしまった」
その言葉に俺はムッとなる。
ティーファのこと。そもそもティーファを追い出したエルフ側が何を言っているんだと俺は思った。だから聞くことにした。
「一つ良いか」
「何でしょう?」
「何故ティーファはエルフの村から追い出されたんだ?」
「ご存知でしょう? 人間の血があるからです。赤子であるティーファを追い出すような真似は流石にしない。ですが大人となり一人前になったティーファを流石に村に残すことはできなかった。だから母親の手から無理やり引っ張り追い出した」
「どうしてそこまでのことをする? 何故ティーファを人間ではなくエルフとして見ることができないんだ? それほど人間という種が嫌いか?」
「我々エルフが人間に対して持つ憎悪は特別なのですよ。元人間であるあなたには理解し難いかもしれませんが」
そのエルフははっきりと答えた。
「フェンリル様の言葉となれば、ティーファを向かい入れましょう。あくまで向かい入れるだけですが」
「つまり、俺のしようとしたことは元々不可能だったのか」
「別に良いではないか。イツキ」
フェンリルが言った。
「あの方がお前を向かい入れたように、お前もその子を向かい入れれば良い。人生をかけてな。それで良いではないか? 少なくとも、あの方はお前のために人生を棒に振るった」
フェンリルが言った。
確かにそうだ。
「悪かった。ティーファ」
俺はティーファの方を見る。
ティーファはキョトンとした様子だった。
リーリアが聞いてくる。
「つまり、どういうこと?」
「ティーファの親元へ返す目的は失敗に終わったから、俺がティーファの面倒を見ることになった」
「つまり、私はイツキさんの妻になったということです」
「そういうことじゃないからな!?」
なんて笑って、俺はふとカルルのことを思い出す。
「そういえば、カルルはどうしてエルフの里に入ることができたんだ?」
するとフェンリル隣のエルフが教えてくれた。
若干怒りを込めて。
「あの男は無理にでもエルフの村に入るような男でした。どれだけ我々が拒んでも、それに対抗できる力があった」
「あ、そうだったのか」
確かにカルルならできそうだ。
「そうだ。イツキ」
「どうした。フェンリル」
「お前が今までどこにいたのか。何をしていたのか知りたい。もちろん、今日はこの村に泊っていくのだろう?」
「いや、もうすぐにでも出発するよ。時間は有限だからな。少し近くの街に居すぎた」
「そうか。いや何、それで良い。お前の目的はわたしも待ち望んでいる」
そうフェンリルは言って、立ち上がった。
そして俺に顔を近づけて。
「だが、お前のその復讐が何も生まないことはすでに分かり切っていることだ」
「ん?」
最後の言葉は意味が分からずじまいになった。
エルフの村を出た俺たちは、リーリアを街に送ることにした。
しかし。
「しょうがないわね。私も特別に着いていってあげる」
「いや、なんで」
「私も親がいない独り身だからね」
「リーリアちゃん。もしかしてイツキさんのことが好きになったのですか?」
「はあ? そんなわけないでしょ? でも少しはあなたたち二人のこと好きになったわよ」
リーリアは街の方を見て。
「私の目的はすでに意味を成してないから。あの街に居続けることも必要ないからね。だから今日、着いていく気満々でちゃんと荷物をまとめてきてるわよ?」
そう言って、リーリアは手荷物を見せてきた。
確かに、大きいなとは思ったけども。
「さあ、行きましょ。どこの街に行くの?」
「レフがいる街だ」
「レフ? 誰ですか?」
「そういえば、あんたさっき話してたけども。あんたの旅の目的って何なの?」
「秘密だ」
「仲間に秘密はいけないことですよ、イツキさん」
「そうよ。ティーファ良いこと言う。さあ、話しなさい。あと、あんたの人間以外の血も」
「秘密だ。というか、それだけ秘密だらけなのによくもまぁ着いて来ようと思ったな」
「だって楽しそうだから」
「単純なんだな」
すると怒ったようにリーリアが剣の柄で叩いてくる。
ほんの少しだけ笑いが起きた。
旅はまだ始まったばかりなのだから。
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