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一章

第十一話 決闘後

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 この戦いを一言で言うと酷いものだった。
 それは俺自身が何より分かっていた。
 復讐をするために始めた旅。
 その最初の相手として俺はカルルをいじめただけにすぎない。
 それもたくさんの人の前で。
 カルルと戦っている間、俺はずっと考えていた。
 俺の復讐心は誰に向けるべきなのか。
 その答えは少なからず出ていた。
 カルルは違う。その相手ではない。カルルは悪人ではないからだ。その善人を殺した時、俺の方が悪になってしまう。
 いや、復讐を考えている時点で俺は悪なのか?
 そんなことはまだ考える時期ではない。
 今俺が考えるべき相手、俺が倒すべき相手は0の冒険者だ。

 勝負が終わった後。
 カルルの元に大勢の男たちが近寄る。
 カルルが仲間の肩を借り、起き上がった時。
 俺は申し訳ない気持ちが少なからずあった。
「いやぁ、強いな君は」
「すまない。感情的になった」
「いや、こちらから勝負を吹っ掛けたのだから。君は悪くない。でもどうして。感情的に?」
「それは」
「まあ、良い。あれに少しだけ執着しているのは分かっている」
 あれが吸血鬼の王のことだと分かる。
 カルルは遠くの病院へと向かった。
 大きく深呼吸をして、俺は鉄の棒を背中に背負った。そしてリーリアとティーファの方を向いた。そしてエミリアさんの方を見る。
 俺は静かに歩み寄った。
「イツキ様はお強いのですね」
「すみません。エミリアさんに酷い光景を見せてしまいました」
「いえ。決闘を見ようとしてしまった私に落ち度がありますし。それにカルル様をお相手に手を抜いて勝つ方が難しいはずです。これは仕方がなかったことです」
 エミリアさんはそうはっきりと言ってくれた。
 その言葉に少しだけ救われる。
「ちょっとイツキ。どうして最初にエミリアさんなの?」
「だってエミリアさんだから」
「意味が分からないわ。仲間である私に喜びを伝える方が先でしょ?」
「喜び?」
「だって、あのカルルに勝ったのよ? あのカルルよ? どうしてイツキが勝てたのか不思議で仕方ないのだけれども」
 リーリアはそう言った。
 俺はこの戦いを酷いものと表現したが、他の人たちは違うらしい。
 そうか。
 復讐ではなく、一つの決闘として見ていたのだから。
 俺は復讐として見ていたから、酷いものと思ったのか。
「イツキさんはやっぱり強かったです。勝ってくれてうれしいです」
 なんて思っていると、ティーファが俺に抱き着いてくる。
「リーリアちゃん。やっぱりイツキさんが勝ちました。決闘前に小さく小言で私に話しかけていましたよね。どっちが勝つって。リーリアちゃんはどちらに投票しましたっけ」
「うっ…………カルル」
「では、私とリーリアちゃんの賭け勝負。その勝者である私はリーリアちゃんに一つお願いごとができるわけですね」
「お前らそんなことしていたのか」
 まさか決闘でどちらが勝つかを賭けていたとは。
「何にしましょう。イツキさんに近づくな? は別に問題じゃないですし」
「それよりも、ティーファ。先に良いか?」
「何ですか、イツキさん?」
「俺は今日にでも街を出たいつもりだ」
 その言葉にティーファが首を傾げる。
「今日、ですか?」
「ちょっと、どうして今日なの?」
「ただの気まぐれだ」
「今日、0の冒険者について聞いてきましたが、それが何か関係があるのですか?」
「そうです。そして俺が街を出るためにはティーファの問題を解決しないといけない」
 その言葉に今度は三人が首を傾げた。
「問題とはなんですか? ああ、そうだ。私言っていませんでしたね。イツキさんが街を出ることを知った時、私は着いていく気になりましたよ?」
「ティーファならそう言いそうだと思っていた。でもダメだ。ティーファを旅に連れていくことはできない。だから親元へ返そうと思ってる」
「どうしてですか?」
 ティーファは納得がいかない様子だった。
「俺の旅は危険だから」
「大丈夫です。イツキさんが助けてくれますから」
「いや、おそらく助けることができないぐらい危険だ」
「何故、そう言い切れるのですか? それに無理です。私を向かい入れてくれません」
「ティーファもどうしてそう言い切るんだ?」
「命を懸けてもそう断言できますよ」
 ティーファははっきりと言った。
 困ったように俺はエミリアさんを見るが、助けてくれるわけがない。エミリアさんは今の会話を何一つ理解していないのだから。
 するとリーリアが前に出てきた。
「ティーファ。私もイツキの言葉に賛成する。ティーファはティーファ自身の人生を、そしてイツキの人生を壊そうとしている。絶対に良い結果にはならないよ」
 その言葉にティーファは考え込んだ。
 そして小さく分かりましたと頷いた。
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