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一章

第十話 カルルとの決闘

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 火の王の一件を終え、サラマンダーの被害はなくなった。
 リーリア、そしてティーファは話を広めるような真似はしなかった。仮にしたとしても信じる者はいない。だからこの一件を解決した人間は誰かとなった時、おそらくカルルが選ばれることになる。
 それでいい。
 そうでなくてはいけない。

 それからしばらく日が経った。
 またお金を稼ぐ毎日。
 何故その日にしたのかはただの偶然だ。
 俺はその日、ギルドを訪ね、エミリアさんに一つのことを聞いた。
「エミリアさん。シモンという男を知っていますか?」
 その言葉にエミリアさんは目を丸くして。
「0の冒険者の一人ですが、どうかなさいましたか?」
「ただ確認したいだけです。ちなみにですが、その男は今、どの街にいるかも知っていますか?」
「いえ、ご存知ありません」
 エミリアさんは首を横に振った。
 シモンは0の冒険者である。ならば、吸血鬼の王を討伐した一人になる。
 俺の復讐の相手であるし、サラマンダーにこの街を襲わせた張本人だ。どんな目的があったのかは知らないが探し出さないといけない。
「すみません。ありがとうございます。それともう一つ良いですか?」
「何でしょうか?」
「他の0の冒険者の名前、いえ住んでいる街を教えてもらっても良いですか?」
「はい。結構ですが」
 エミリアさんは不思議そうな表情をした。
 当たり前だ。どうして0の冒険者をそこまで気にするのか、不思議で仕方ないと思う。
 エミリアさんに教えてもらった0の冒険者、シモン含め13人、うち居場所が分かったのは5人である。その一人レフが近い街にいることが分かった。
 もうそろそろしたら頃合いかもしれない。
 お金もある程度貯まった。もうこの街に用はない。
 しかし、一つ気がかりがある。
「イツキさん。何をなさっているのですか?」
 そうティーファだ。結局のところここに戻ってしまう。
 良い解決策が思いつかないのだ。
 さてどうしたものか。
 なんて思っているとエミリアさんがふと疑問を聞いてきた。
「何時も気になっていたのですが、何故彼女はフードを常にかぶっているのですか?」
 すると、ティーファは俺の腕にしがみついてきて、エミリアさんをにらむ。
「それに、何故イツキ様に抱き着く姿をよく見かけますが、もしかして彼女ですか?」
「いえ。そういうわけじゃ」
「妻のようなものです」
「妻? つまり結婚を?」
「いや、していません。していませんよ?」
 そんな会話になると、遠くでリーリアが笑い出した。
「依存しているみたいだね」
 何時もと変わらない日常。
 そう思っている時、ふと聞いたことがある声。
 カルルが俺たちの後ろに立っていた。
「カルル様。何時戻ってこられたのですか?」
「ついさっきです」
 カルルはそう答えた後俺の方を見てきた。
「それで。イツキ、だったかな? ありがとう。その子は君が保護していたのか」
「保護?」
「それと、サラマンダーもありがとう」
 エミリアさんが疑問符を思い浮かべる。
 何故カルルが知っている?
 俺は表情に出すまいと想いながら、ただ何故知られたのかだけを考えた。
「君だろう? サラマンダーの被害を止めてくれたのは? ファイアー・ドレイクに聞いた」
 ふと思い出す。ファイアー・ドレイクはこの街をカルルの街と呼んでいた。つまり。
「ファイアー・ドレイクとは親友でさ。あいつに呪いが掛かっていることを知った僕はエルフの里を訪ねて呪いを解く術を探していてね。でも、まさか先に解かれるとは思いもしなかった。ありがとう。君のおかげでこの街、そしてファイアー・ドレイクは助かった」
 カルルは俺に握手を求めてきた。
 エルフの里?
 それはティーファが追い出された里なのだろうが、何故人間であるカルルが行けるんだ?
 少しエルフと人間の仲が分からなくなる。
「そして、できれば僕と戦ってくれないかい? 強いのだろう。君は?」
 握られた手を離そうとしない。
 何が起きているのか、やっとで理解したエミリアさんは、駄目ですと声を荒げた。
「何故戦うことになるのですか? それにイツキ様ではカルル様には」
「何故、勝てないと決めつける。サラマンダーの依頼は2の価値があるものだった。それを彼は一人で行った。それだけの実力がある」
 カルルについて少しだけ分かってくる。
 この男の根は子供なのだ。無邪気と欲で満たされている。
 そうでなければ納得できない。
「なあ、良いだろう?」
「ああ、分かった」
 俺は頷くことにした。
「イツキさん?」
「大丈夫。大丈夫」
「大丈夫だとは思っています。ですが、彼は」
「ああ、分かっている」
 保護。
 つまりカルルはティーファがエルフと人間のハーフだと知っている。
 ただ、カルルがそのことを広めるような男ではないことは、直感的に分かっていた。


 ギルドの外、広場まで移動した俺とカルル、そしてリーリア、ティーファ、エミリアさんを含む大勢の冒険者たち。
 俺とカルルが聞こえていたらしく、騒ぎは大きなものへとなっていた。
 カルルの武器は剣が二つ。
 俺の武器は鉄の棒。
 リーリア、そしてティーファが心配そうな表情をしている。
「さてと」
 カルルが呟いて、剣を構えた。
 そして斬りかかってくる。
 後ろに下がりながら、それを何度も何度も棒で受け止める。硬い金属がぶつかり合った衝撃で、金属音が辺りに響く。
 戦いが始まった時点で、俺は吸血鬼の王の力を使っていた。
 それはカルルの強さを認めるものである。最もまだ本気には程遠い。
 吸血鬼の王の力を振るに使うことはそもそもできないし、血文字をまだ使っていない。
 いや、使って良いのかを考えていた。
 これは一つの仮説だ。
 エミリアさんは親しい人に、吸血鬼の王について教えてもらったと言っていた。
 その親しい人はカルルではないだろうか?
 0の冒険者を筆頭に、1の冒険者、そして2の冒険者が参加をしていたとしてもなんら可笑しくはないし、ましてそれだけの冒険者を集めなければ人間ごときが吸血鬼の王に勝てるわけがないのだ。
 そう。つまり、カルルは血文字を知っている可能性があることになる。
 だから俺は控えることにする。
 それと同時に。
 カルルもまた復讐の相手ではないかと考える。
「すごいじゃないか」
 カルルが喜びの声をあげた。
「でも、戦っているから分かる。まだ本気じゃないだろう?」
 カルルはそう言って、一度距離を取った。
 剣で地面に魔方陣を描き始めた。その魔方陣が光り輝いたと思ったら、カルルはふぅとため息をつき、そして突進をしてきた。
 さっきとはくらべものにならない速度で。
 魔法によるアシスト。身体能力の向上。これが魔法の最も多い使用方法である。
 俺はカルルの攻撃を防ぐが、押し負ける。
「ほら、早く!」
 閃光のような剣捌き。
 それを防ぐ。防ぐ。防ぐ。
 流石に厳しくなってきた。
 今、吸血鬼の王の力の使用率は一割ほど。二割に引き上げることも可能だがそれはできれば止めたい。気性が吸血鬼に近くなってしまう。
 そして王の血に眠っている記憶が呼び起されてしまうからだ。
 ただ、そんなことは言っていられないのかもしれない。

「一ついいか?」
「なんだい?」
 俺は鉄の棒でカルルの剣を捌きながら聞いた。
「あんたは吸血鬼の王を討伐に行った一人か?」
 その言葉にカルルはああと小さく頷いた。
「何故、君が知っている?」
「そうか。いや、気にするな。些細なことだ」
 そう些細なことだ。
 カルルが復讐の相手だとしても。
 ただ俺はカルルをどうやって痛めつけるかだけを考える。
 その考えが隙を生む。
 俺の鉄の棒がカルルの剣によって遠くに弾かされた。鉄の棒が地面を跳ねた時、カルルの剣が俺の首元を狙おうとしたその瞬間。
 俺はその剣を片手でそれぞれ掴んだ。剣の刃が俺の手に押し込まれる。
「ひっ」
 ティーファの悲鳴。
 溢れる血がその怪我を物語っている。
 しかし俺に痛みはない。
 少しずつ吸血鬼の気性が現れようとしていた。
「ついに本気かい?」
「いや」
 俺は首を横に振り、思いっきりカルルを蹴り飛ばした。
 カルルが痛そうに腹をさする。俺の手の傷はすでに治りかけているが、血で染まった手の傷がないことに気づく者はいない。
 俺は鉄の棒を拾う。
 そして。
 投てきを行った。
 鉄の棒がすさまじい速度でカルルの元へ向かう。狙うはカルルの頭。それを寸前で首を横に動かす形でカルルは回避をした。
 いや、回避できる速度で投げたが正しいのかもしれない。
 俺は投げた鉄の棒をカルルの後ろで掴んだ。
「な!?」
 カルルは何が起きたのか理解できない様子だった。
 俺は鉄の棒でカルルを思いっきり薙ぎ払う。
 はるか遠くへ飛ばされたカルル。
 それを追撃する。
 地面を転がるカルルを追いかけて、再び鉄の棒を振るった。今度は先ほどとは段違いの力で。でも意識を失わない程度で。
 赤子のように。
 転がしまわそうと。
 吸血鬼の記憶が呼び起された俺はカルルをそうやって倒そうとしか思っていなかった。
 何度も。何度も何度も。
 俺はカルルに棒を振るった。
 血が辺りに飛び散る。
 何回目だろうか。ついにカルルが起き上がる様子はなかった。
 誰も信じられないと言った様子で、静寂なまま俺は勝利を収めた。
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