悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

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哀訴 ー助命嘆願ー

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「久しいな、ヴァール」
 沙汰さたの前に王への目通りが許されたヴァールを前に、何ら感情の色を乗せず、玉座ぎょくざよりアレクセイは呼びかけた。

「王におかれましてはご健勝けんしょうのご様子、臣としてお喜び申し上げます」
 右手は左肩に、下げた左手は手のひらを向け、ヴァールは王に対してハルキの王宮礼にのっとり臣下の礼をった。

「幸いにな。しかしわれを王と呼び、自らを臣と称するか、ヴァールよ」
 アレクセイは皮肉げにヴァールを見下ろした。
「沙汰が下されるまでは、いましんでありますれば」
 悪びれなく応えるヴァールにアレクセイは問う。

「ならば、何故今さらわれに目通りを願った。命乞いのちごいいは聞かぬと通達したはずだがな」
 冷たく言い捨てる王に対し、ヴァールは膝を折り、手をつき、床にひたいりつけてさけんだ。

「曲げて、……曲げて、お願いしとう存じます。王の弟君おとうとぎみを、リシェール様を!どうかお救いくださいませ!!」

 キリ、……とアレクセイは歯を食いしばった。 

是非ぜひに及ばず」

「曲げて、お願いいたします。此度こたびの大逆はリシェール様に一切の責なし!全ては臣らが始めたこと!」
「身の程をわきまえないその口を閉じろっ!!その様なこと、わざわざそなたに言われずとも知れている!
 リシェールがわれを裏切り事を起こしたと、われが信じたことがあるとでも?ーーこの10年、ただの一度たりとて姿を真遠まどおに見ることさえ叶わずとも。…………刹那せつなの時とてわれは弟を疑ったことなどない!!
 だがその方らは寄ってたかって何をしてきた?!」

 ヴァールの言をさえぎる勢いでアレクセイは言い放ち、そして宣告せんこくした。

事由じゆう如何いかを問わず。旗印はたじるしとなった者に死をたまわらぬすべなどはないと知れ。お前に分かるか? リシェールにせき無いことを知りながら、断罪せねばならぬわれの気持ちが!!そなたらが、われより弟を奪ったのだーーもっともそれは、が方の臣らも同罪だがな!!」
 激昂げきこうしてアレクセイは吐き捨てたが、ヴァールは重ねてうた。

「それでも……それでも、曲げて、曲げてご寛恕かんじょくださいませ。
 全てはリシェール様の才に目がくらみ、更には前王が病に倒れたことに乗じ門閥もんばつの利権を望んだ、おろかかなる臣らの不明によるもの。
 このしわ首ひとつでは到底あがないに足りないことは重々承知しております。ですが、何卒なにとぞ、何卒、お許しくだされ。
 どうかあなた様の弟君を、リシェール様の命をお救いくださいませ」

「ヴァールよ」

 アレクセイは艶然えんぜんと笑う。

「何故、最初はじめに我をリシェールに殺させなかった。ーー我が弟なら、我を殺せたぞ」
 そして凄絶せいぜつに言い渡す。

「な……7の、……7御子みこでございますぞ!」
 ふるえながら、ヴァールは反論を試みる。

「“才に目がくらみ”、と言ったな。そう言いながらその方らはリシェールをあなどり、飼い殺した」
  
 アレクセイは、遠くを見るように虚空こくうを見ながら語る。

「私が手ずから教えた。私を追い……そして、程なくして私を越えてみせた、きらめくダイヤモンドアダマスーー“私の、リシェール
 ヴァール。そなたらは何としても、一番先にわれを殺すよう、リシェールに仕向けなければならなかった。それができないと言うなら、はなから反逆などす事を起こすべきではなかった。更にリシェールを、戦なかばまで飼い殺しておくなど……、以外の何だと言うのだ」

 さげすみを込めて告げた後、アレクセイは長く沈黙した。



「ーー命だけだ。それ以上は期待するな」
 そう言い残すと、アレクセイは玉座ぎょくざから降り、後はヴァールには一瞥いちべつもくれず、身をひるがえした。



 程なくして、ヴァールは刑場に送られ首を切られた。
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