悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

文字の大きさ
45 / 66

密言6 ー王と影 4ー

しおりを挟む
 足元に座る弟を、兄は自分の膝に引き上げ跨がらせた。

「に……さま」

 兄はこたえず、弟を抱き、額に、頬に、唇に幾度いくども口づけた。

 そして、耳を食みながら告げる。
「兄を……独りにしてくれるな
「ーー…………」

 弟の、止まった筈の涙がまたーーこぼれ落ちた。

「……命令、してください…………そうしたら、リシェ……忘れ……ない、から……」

 弟は唐突とうとつに理解した。兄には、日陰シェイドが、シャドウひかえている。信頼するには足る臣も、今ならば多くを望めずとも在るだろう。だが、それで十分だなどと、言える筈がない。ーー兄は常に孤独なのだ。

「では、命じよう……兄を独りにするな」
「はい……、兄さま。ーー……ごめ……ん、なさ……ごめん、なさい……兄さま…………」


 §



 意識を失くした弟を、兄はかきいだく。

「泣き疲れて……それに、緊張の糸が切れたのでしょう」
 日陰シェイドが、弟の顔をき、頬に軟膏ローションり直した。

「……あるじ、リシェ様をうつ伏せて、寝かせてあげてください」

 兄は、日陰シェイドの言葉を聞いていないかのように、弟をぎゅ、と抱き締めた。

「や……っと…………、ーーちた」

 顔を伏せた兄の瞳から、一筋涙が伝う。

 日陰シェイドが、ふっと息をいて言った。
「リシェ様は、迷います。この先も」

 その言葉に兄は顔を上げたが、日陰シェイド表情かおは穏やかだった。

「消えない罪に苦しみ、迷う。あるじがリシェ様の罪を負った、それも含めて。ーーでもリシェ様は、己れの命の所有者がご自身でないことを理解された。大丈夫です、あるじ

 日陰シェイドの言に、ようやく、兄は弟を抱く力をゆるめた。

「しかし、あそこまで露悪的ろあくてきに語らずともよろしかったのに」
「……事実だからな。致し方なかろうーーだが、リシェには伝わった。それでい」
  
 日陰シェイドは苦笑しつつ、頷いた。

さとい方ですから。あるじの意図はお分かりでしょう」
 兄がどれ程、酷い言葉を浴びせても。弟はその意図を汲む。

「本当は、俺の方が余程よほど……筆舌に尽くしがたい……えげつないことをしてきている」
 兄が自嘲じちょうめいたように言うと、日陰シェイドはそうですね、と応じた。

「その通りかと。しかし、あるじのところで国と民を優先しています。お立場だけの差でしかないそれがーー大きい」

「“ギリギリ”な。言ってくれる」
「……他に、どう言えば。さ、あるじ、いい加減にして、リシェ様をおはなしください」
「……いやだ」

 兄は、弟を渡すまいという振る舞いを見せたが、日陰シェイドは、歯牙にかけなかった。

「ひとつ。頑是がんぜない真似まねは、おやめください。
 ふたつ。そろそろ本当に時間切れです。どなたかに乗り込まれない内にお戻りください。
 みっつ。あるじ容赦ようしゃなく打ったリシェ様のお尻を、日陰に手当てさせてください。ーー腫れが引かなければ、あるじ同衾どうきんさせられません」

 兄は、渋々といったていで、弟を日陰シェイドまかせた。

「ーーあるじ王宮カッコウが騒がしいのは事実。……如何様いかように?」
 弟の手当てをしながら、日陰シェイドは事も無げに問う。

しばし待て。いずれ動く」
「ーーあるじが?」
「俺は待つだけだ」
「ーー承知」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...