悠久の Madrugada〈マドゥルガダ〉 -蒼い闇- 《本編完結》「後日譚」連載開始しました

桜楽-sakura-

文字の大きさ
64 / 66

粛正 6 ー断罪ー # R18

しおりを挟む
 # R18 は保険です。処刑に関して、エグいと言えばエグい……でしょうか。ご注意ください。



 §



「それで? 言った通り水だけ与え、1週間絶食させたか」

 鼻先でせせら笑いながら、アレクセイは問いただした。

「は……、お命じの通りに」
 震える侍従書記がこたえた。

「陛下……よろしいか」
 供回ともまわりの侍従武官が重々しく、アレクセイに発言の許可を求める。

「何だ?」
 アレクセイは、なかば、侍従武官からの問の内容を予想しつつ、進言を許した。

「そこまで……なさる必要があったのですか。娘御むすめごの首まで候の目の前に据え置くなど。本人の首を切り、城外にさらすだけでは足りませなんだか」

 アレクセイは、予想通りの問い掛けに声を立てて笑った。

「足りぬ」

「陛下! 恐怖でしんを縛り、如何いかとするおつもりか!」

「どうもせぬよ」
 それで終わり、とばかりに、アレクセイはにべもなくこたえた。

「陛下!!」

 ーーどうもならぬ。そう、アレクセイ冷笑する。

すでに我れは、ヴァールら叛徒はんとの首を切り、城外にさらしたな。そして、首はどこぞへ打ち捨てた」

 そこで一旦口をつぐむと、アレクセイは、“だが”、とおもむろに続けた。

「一滴のみにさえ、ならなかったろう? そなたらには」

 面白そうに笑うアレクセイには、武官を震え上がらせるすごみがあった。

「そ……っ、そん、な…………」

 くすくす笑ってアレクセイは更に続ける。
「足りぬのさ、そなたらには」

 アレクセイは侍従書記を振り返り、新たに命令を下した。

「絶食させたのがまことならば良い。後は、直腸を洗浄させ……」

 アレクセイの眼があやしく光る。

「ーーやり殺せ」

 侍従書記にも、武官にも、アレクセイの言ったことが理解できなかった。

「…………は?」

「最重労の苦役くえきが科されている者共の牢へぶち込め」

「…………」

「あやつった者は、苦役は3日免除。口腔こうこうへのしゃも同日免除。ああ、もうあやつに水も与えずとも良い。飲みたければ、誰ぞに飲ませてもらえば良いからな」

「陛……下……」

「洗浄だけは徹底しておけ。疫病えきびょうでも流行はやらされては困る」

「は……仰せ……の通り、に……」

 それから、と、アレクセイは、武官を振り返った。

秘匿裁判ミスティシリヤ陪審ばいしんに課された沈黙を守るならば、以後は不問に付す。……それ相応の覚悟を持って周知せよ」

「……陛下の、おおせの通りにいたしましょう」

 それきり口をつぐんだ武官に、アレクセイは告げる。

「我れをじょう無きものとそしりたくば、そうしろ。裏で何を言おうとそこまではとがめぬ。沈黙を約すならば、き王として振る舞いもしようよーーただ」

 無駄と知りつつ、言葉を重ねる。

「我れを怪物とするのは、いつなりと我れからじょうを取り上げた、その方らと知れ」

 その時、武官は良くも悪くも口をつぐみ、自身の命をながらえた。

 ーー“逆賊ぎゃくぞく”を退しりぞけることの、何が不当なのかーー

 アレクセイは、武官の内心を読むーー読むまでもない、知れているからだ。
 “逆賊”とそしられるリシェールうばわれたのは、彼は7歳……10歳にも届かない時。
 誰も彼もが、その事実には斟酌しんしゃくせず、そして

 私室に戻り、かたわらひかえているであろうシャドウを除き、一人となった時、アレクセイひとちる。

「人のじょううばっておきながら、王として善たるを望み、じょうを与えよとは、いささか強欲が過ぎないか……? 怪物たる身には解らぬな、人のことは」

 アレクセイの王たる善が決壊けっかいすることなど、考えたこともないだろう。
 いまだ、根拠なく盲信もうしんするしんらに、いつかアレクセイ復讐ふくしゅうするだろう。ーー他人事ひとごとのように、アレクセイは未来を思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...