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【不忍池のほとりで】
しおりを挟む辺りを見回してみると、道の隅っこや、目立たない場所にはすでに人が住んでいて、
リヤカーが止まっていたり、ビニールシートで覆(おお)われた小屋ができている。
当てもなくうろうろしていると、上野公園の夜の闇が、目の前で、ますます深まっていくように感じられ、
それが目の回りをぐるぐると渦巻き、身に染みてくる。
辺りの木々の緑が闇に包まれ、冷たく静止しているようにも感じる。
静止しているものは、木だけではなくて、不忍池の水も、暗闇に寄り添う人たちの影も、
神社の屋根も、真っ直ぐ伸びる道も、古びた階段もどれも止まっている気がする。
その中で自分の鼓動だけが動いているのが分かる。
街の灯が、夜空にぽっかり浮いて見える。
街と空が遊んでいるように、夜と静けさが戯(たわむ)れているように、
優吾という一個人と、この先待っているであろうホームレス姿の優吾は、お互い楽しむように距離を縮めながら、
一人に重なっていくようである。
当てもなくうろうろしているのにも疲れ、再び不忍池のほとりに戻り、その場で屈(かが)みこんだ。
鼓動がやけに近づいてきて、鼻先で響く。
優吾は辺りを見回した。
とにかくどこかで休みたかった。
道の真ん中ではなく、もっと落ち着ける場所がいい。
ふいに向こうに立っているやけに太い木の幹が目に飛び込んできた。
彼はそこまで這っていった。
木の下まで行き、太い幹に背を寄せる。
そうしていると、心地良い気分になった。
そのまま彼は、うとうとしはじめた。
それからというもの、この場所が優吾の寝る場所になった。……
〈続く〉
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