ジャイアントパンダ伝説

夢ノ命

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【医師のオラン・ウータン 】

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「そうだったのか……人間を助けるのも楽じゃないってわけだな」

「そういうこと、さあ、あたしたちも行きましょう。こうやってカレーを作ったりして、人間の好みに合わせて料理してくれることなんか、めったにないんだから。食いっぱぐれたら大変よ」

配給所のテーブルに走っていくケイコの後ろ姿が、一瞬だけ、何かの動物の背中のように優吾には見えた。


******

上野動物園内にある動物病院には、今、3人のホームレスが入院している。

動物病院なのに人間が入院しているというところが可笑しい。

本当は入院というほどのことはなくて、ただベッドを借りているといった方が正しいのだが、カルテには、3人とも『重度栄養失調につき、保護』とある。

カルテといっても、通常の病院のものとは大違いで、動物病院の前のコンクリートがカルテ代わりになっていて、そこへ3人の症状を医師のオラン・ウータンが石をチョーク代わりにして、殴り書きに書いているのだ。

いったい動物たちのコミュニケーション機能は、どのような発展をとげて、今に至るのであろうか。

カルテと称(しょう)して、地面の上にこのような人間には分からない絵ともつかない線の記号のようなものをスラスラと書き上げてしまうのだから、驚くばかりだ。

だいたい優吾には動物の言葉が分からない。

医師のオラン・ウータンがどんなに診察と称して、優吾の手を握ってきても、なんだか背筋が寒くなるばかりだ。

そうこの愛するべき医師は、手を握って人間の症状が分かるらしいのだ。

他に入院している2人にも聞いてみたが、やはり、動物の言葉は分からないらしい。

ただ、相手の動物がこう思っているようだ。こう感じているみたい。

とは、うすうす分かる気がするのだそうだ。

例えば相手が機嫌が良いかそうでないかはすぐに分かる。

と、ケイコは言っている。

ゴリラが胸を叩く時のドラミングや、フクロウがまばたきをする回数や、

キリンの様々な首のもたげ方や姿勢から、何となく動物たちの感情や意思の方向性を推察できると自負しているのは三上さんである。

三上さんとは、優吾やケイコと一緒に入院している40歳位の丸眼鏡をかけたおじさんだ。

動物病院に入院しているのは、優吾も含めたこの3人だ。



〈続く〉
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