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【近づいてくるもの 】
しおりを挟む石の坂を上がりきると、鼻先に空があった。
頬に吹き上げる風は、目の前に広がる高原を渡ってくる。
高原の向こうの山の傾斜に、真白い家々の壁や赤レンガの屋根が見える。
あれが優吾が目指していた幸福という名の村なのだろう。
優吾は高原を歩き出した。
しきりに向かい風が、優吾の髪をなびかせる。
草原の広がりの所々に、ぬかるんだ土肌が見える。
近づいていくと、泥濘(ぬかるみ)も2種類あることに気がつく。
ただの湿った土の所と、水たまりのように完全に水浸しになった所と。
ぬかるみを迂回(うかい)しながら、何気なく水面を横目に眺めると、時折小魚の影がゆらめくのが分かる。
こんな所にも魚がいるんだなと優吾は少し感心する。
そのまま草原の中を歩いて行くと、頻繁(ひんぱん)に石に足を取られて転びそうになる。
石は、緑の覆(おお)いを被(かぶ)りながらうずくまっているから、歩いていてもなかなか気がつかない。
下を向いて石に気づかいながら歩いているうちに、いつの間にか、目の前に山の麓が近づいて来ていた。
村までもうすぐだ。
優吾は顔を上げ、村に向かってゆっくり歩いていくうちに、
村のほうから何か動物らしいものが一匹こちらに近づいてくるのが遠目に見えた。
はじめは犬だと思い込んで、特に気にしないでいた。
でも村に近づいていくうちに、犬にしてはかなり大きいことに気がついた。
何なんだろう。
優吾はしきりに目を凝らして、よくその動物を観察する。
四つ這いの恰好。大きな体格。
その白と黒のムクムクとした毛並み。
そののっそりした歩き方。
優吾は思わずカザフ族の青年の言葉を思い出す。
「幸福村モ、昔ハ、パンダガイタラシイヨ」
村の前まで来て、その動物を間近で目にした時、優吾は思わず声をあげた。
〈続く〉
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