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【風の中で 】
しおりを挟むやっぱりパンダだ。
冷静に考えてみると、ここは中国だしパンダがいてもおかしくはないのだが、
それにしてもこんな辺鄙(へんぴ)なところにいるということ自体に、違和感を覚えずにはいられない。
第一、あの今にも石や岩が転がり出しそうな危険な坂を、どうやってここまで登って来たというのだろう。
それともずっと大昔からここで生まれて、暮らし、死んでいたのだろうか?
外側に向いた黒い耳、毛並みの黒い、両手足。
それが段々と細くなりながら背の中央へと伸びていく。
シッポは、丸くて短い。そして胴体の白色。
これをパンダと言わなければ、一体どんな動物がパンダだというのだろう。
動物の体をまじまじと観察していた目を、優吾はふと、その顔に向ける。
その時、一瞬、目が合った。
パンダは大きな黒目で覗くように優吾の目を見つめる。
優吾は見つめ合ったまま、目が離せない。
突然、耳のそばで、うなるような風の音がした。
気がつくと、呼吸ができない。
全身に痺れがはしり、意識が急激に遠のいていく。
風の流れが見える。
それは、木々の合間をぬいながら、小川のように流れていく。
風には色がある。
緑っぽい色に、多少黄色やオレンジが混じっている。
風の色は薄くなったり濃くなったりしている。
それはあたかも流れに緩急が生じるように、風にも深みや浅瀬があることを教えてくれる。
優吾は風に乗っている。
いや、風になっていると言ったほうが正しいだろう。
風の中で優吾の身体は風と同じ色をしている。
絵の具が滲むように風の中で優吾の身体は曖昧になり、流れていく。
木々の合間を抜け、山の斜面を這うように翔(か)けのぼる。
〈続く〉
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