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【二羽のカラス 】
しおりを挟むその日の夕方、優吾は一人で散歩に出た。
西の空が朱色に染まっている。
ホアンの家から、しばらく坂を上がって行くと、軒並が段々と、まばらになっていく。
どの一軒家を覗いても、家の横には小さな畑があった。
畑は、にんじんの葉やさつまいもの蔓(つる)でいっぱいだった。
そこから更に坂を上がって行くと、広いトウモロコシ畑が見えてくる。
そこまで行くと、とても見晴らしがいい。
下の斜面には、煙突から煙を吐いたレンガ屋根が小さく見える。
レンガ屋根の向こうの高原の広がり。
その中にちらほらと見える木々や大きな巌(いわお)。
西の空に沈んでいく夕陽を眺めながら、優吾はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
そのうちに、後ろで誰かが話している声が聞こえてきた。
「どうだい、この変わり果てた姿は。この国はもう終わりだね」
「えっ。そうかな。何も変わってないように見えるけど」
「あーあ。これだから五感の鈍い奴はやだね。少しは感じろよ」
「何を? ああ、そうか。夕焼けきれいだね。まったく、いいね! 」
「これだから、メスって奴は困るんだ」
優吾は後ろを振り向いた。
ずっとトウモロコシ畑が広がっている。
人影らしいものは見えない。
ただ二羽のカラスがすぐそばの畑のなかで、クチバシを突っつき合っている姿がある。
優吾は、まさかと思った。
しかし、次の瞬間には、カラスのクチバシの動きに合わせて、また先ほどの声が、聞こえてきたのだった。
〈続く〉
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