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【上弦の月に照らされて】
しおりを挟むしばらくして、優吾は歩きはじめた。
木々の合間を抜け、坂を下ると、木々に両側を囲まれた広い道に出た。
優吾はだんだんと、いま、自分の歩いているところがどこだか理解することが出来た。
ここは、桜の並木道だ。
ずっと向こうまで続いている。
ここの桜の木々は、枯れてはいたが、不思議に倒れたり折れたりという損傷の痕(あと)は見えない。
優吾はふと、立ち止まる。
前方に何かの気配がしたのだ。
優吾は、前方に目を凝らす。
やはり、誰かが立っているようだ。
大きい影が、岩のように動いている。
その様子からして、かなりの大男らしい。
優吾は、警戒しながらもうすこし前に近づいていく。
ようやく大きな影の輪郭(りんかく)がハッキリと見えてきた。
近づいてみると、大きな影は、人間ではなく、動物のようだ。
その大きな黒い影は、道の両側の木々の間を行ったり来たりしている。
そして時々、木のすぐそばで二本立ちになり、木に向かって片手を振り上げながら、飛び上がる。
目のふち、耳、手足、尻尾が黒く、他の部分は白色。
それはまぎれもないジャイアントパンダの姿だった。
片手を振り上げてジャンプしているその様子は、まるで踊りでもおどっているようだ。
何をしているのだろう。
優吾は、興味を覚えた。
思わず木の裏側に身を隠して、その様子をもっとよく見ようとした。
その時だった。
突然、空がパッと明るくなった。
隠れていた月が、顔を出したのだ。
上弦の月が出た。
ずっと闇にまぎれていたせいだろうか、降り注ぐ月明かりは、眩しいくらいだった。
並木道は銀色に輝いてきた。
一匹のジャイアントパンダが、その輝きの中に浮かび上がる。
〈続く〉
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