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【より純粋に自分の求めるものを追求する】
しおりを挟むほんの二ヶ月前のことだった。
男と別れたその日、真由美は蚊に刺されまくった。
あの日、極端にイライラしていたのはそのせいではないだろうか。
何しろ前日の夜中に、右足の親指先と足の裏、それから左手の甲と左足のふくらはぎの四ヵ所を刺されたのだ。
足の裏は特にかゆかった。
その夜、耳のそばを掠める蚊の鳴く音に飛び起きて、飛び回る三匹の蚊を追い回したけど、結局は殺すことができなかった。
その日に限り、なぜ三匹も部屋の中に舞い込んだのだろう。
今年の蚊は、呆れるほど、すばしこく、威勢がいい。
それで明け方、真由美は耳のそばでうなる蚊に、腹を立て、飛び起きては、身体は中にキンカンを塗りたくる羽目になった。
きっと蚊にも言い分があるのだろうけど、今の気持としては、もう二度とつきまとうな! と激(げき)を飛ばしたいくらいだ。
でも蚊は、指の先で殺してしまえるほど 小さな虫なので、脳も小さく真由美の感情などは気にしなくて当たり前なのだ。
いくら人間が刺されてかゆがってみせても、彼らは彼らなりに本分を全うして生きているのだろうし、憎らしいけど、より純粋に自分の求めるものを追求するあたりに、同感すらしてしまう。
その自分自身への忠実さがうらやましい。
というわけで、蚊は昼にも真由美にしつこくつきまとった。
パソコンのインストラクターをしている真由美は、午後の二時に遅い昼食をとった。
コンビニでパンを買い、そのまま近くの公園に足を運ぶ。
〈続く〉
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