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【微笑む女】
しおりを挟む《オトコの作法を教えます》
まぎれもなく、その貼り紙にはそう書いてあった。
大きな筆文字の達筆な書体だった。
おでん好きの母が、導いてくれたのかもしれない。
その日真由美は、母からお使いを頼まれて、おでんの具を専門に売っているお店に足を運んだ。
ちくわやらがんもどきやら、はんぺんだのつくねだので買い物袋を膨らましての帰りがけだった。
真由美はちょっと近道をしていこうと思った。
それで商店街から脇道へとそれて、複雑に枝分かれした細い小路へと入っていった。
貼り紙を見つけたときは、信じられなかった。
よくもまあ、こんな貼り紙を裏道とはいえ、こんな所に掲げる度胸があったものだ。
そう真由美が思った矢先に、真由美の真向かいに若い女性がふらりと現れた。
着物を着た女性だった。
その女性と目があった瞬間、真由美は思わず、負けた! と思った。
深い意味はない。ただ一人の女性として、目の前にいる女の方が、何から何まで優(すぐ)れているような気がしたのだ。
理屈では説明できない。
目と目があった瞬間、火花が散るというか背中に電流が駆け抜けた感じがしたのだ。
完敗だった。
もちろん何も負けてはいない。
それでもやはり、負けたような気がした。
論理的に考え、パーセンテージで見積もると、明らかに20パーセントぐらい彼女の方が高いような気がする。
それが何なのか。真由美には全く理解できない。
でも負けたのだ。
20パーセントは、目の前の女の方が私より勝るものを持っている。
目が合った時、女は微笑みながら、真由美に会釈した。
そして、例の貼り紙を掲げた家の玄関の扉を開け、中に入っていった。
その場で真由美は呆然としたまま、もう一度貼り紙を見上げた。
〈続く〉
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