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初雪のふる日

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朝、目覚めると、スノットさんは、空気を明るく感じました。


体を起こして、ベッドの上から、部屋の中をゆっくりと見回して見ると、壁も机も洋服ダンスも、何もかもが輝いて見えます。


スノットさんは、天窓を見上げました。


音もなく、雪が天窓の上に積もり、ガラスが白く染まっています。


『はつゆきですか』


スノットさんは、さっそく、朝食をすませ、歯を磨いて、念入りに顔を洗った後、グレーのスーツに着替えました。


いつもの川沿いの公園のお散歩やカフェめぐりは、今日は中止です。


初雪の降る日。


それが、毎年やってくるスノットさんの仕事はじめの日です。



思えば、長い長い休暇でした。


いちばん桜が咲いた日から、初雪が降る日まで。


スノットさんは、この長い休暇を毎年決まった過ごし方をします。


午前は、景色のいい公園や面白そうな街に出向いて、お散歩しました。午後になると、カフェで一息ついて、読書をします。


そして、夕食の時間まで、雪の結晶化の仕組みや保存方法についての研究に時間を使いました。……


スノットさんは家をでると、数センチ積もった雪の上を歩きながら、鼻歌を歌いはじめました。


~初雪が降る
~緑が白く染まる

~吐息が熱く
~鼓動が鳴り響く

~時が、やってくる!
~またとないチャンス!

~導いて雪よ
~吹雪に迷わないように

~標(しる)して足跡に
~白い恵みに染まる道


~雪の階段をあがろう
~虫も魚も動物も


~白い恵みに染まりゆく
~雪の街はすぐそこさ



スノットさんは、いつの間にか真っ白な階段を登っていました。雲の上へと上がっていく雪の階段です。


登っているうちに、降りしきる雪が、空へとゆるやかに昇ってゆく白竜になりました。


白竜は、その長くて大きな体をくねらせながら、スノットさんのまわりを飛び回ると、シッポの先をスノットさんの目の前につきつけました。


すると、シッポの先が大きく割れて、トンネルの入り口が出来ました。


その中へ、スノットさんが乗っている雪の階段がずんずんと上がっていきます。


スノットさんは、雪の階段の上で立ち止まり、階段が上がっていくのに身をまかせました。


雪の階段は、雪のトンネルをくぐり抜け、スノットさんを、どこか遠くの世界へ運んで行くようでした。



〈続く〉
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