夜行列車ー冥土往還記

B.H アキ

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夜行列車ー冥土往還記

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第一章 夜行列車

夜の帳が静かに降り、深い闇を裂いて夜行列車が走っていた。
金属の車輪が、遠い世界の鼓動のようにかすかに響いている。
車内は驚くほど静かで、吊られたランプの灯が淡く金属の壁を照らしていた。
誰の声も聞こえず、ただ私だけがその座席に座っていた。

自分の名を思い出そうとしても、なぜか霞がかったように掴めない。
私は、どこへ向かっているのだろうか。
不安とも安堵ともつかぬ心地に包まれながら、窓の外へ視線を移した。

    外の景色は、奇妙に美しかった。
 闇の向こうに、あり得ぬほど鮮やかな
    花畑が広がっている。
 花々は風もなく、ただ光そのもののよ
    うに揺らめいていた。
 列車が進むたび、川を渡り、霧の森を
    抜け、どこか懐かしい町並みが遠ざか
    っていく。

――まるで、「生」と「死」の狭間を旅しているかのようだ。

私は胸の奥で、静かにそう感じた。
窓の外を流れる景色には、かすかな記憶の断片が混じっていた。
 誰かが笑っていた。
 誰かが泣いていた。
 幼い日の自分が駆け回る声まで、遠い
    響きのように聞こえてくる。

やがて、車内の灯が一度ゆらめいた。
空気が変わる。
列車が、どこか見えぬ場所に近づいているのを、肌で感じた。
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