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本編
epilogue
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『六月の花嫁は、幸せになれる』なんてジンクスは、喪女を自認するあたしにはまったく無縁の、関係ないどこか遠い国の御伽噺だと思ってた。
けれども。
心のどこかでは、『いつか、王子様が』なんて夢見ていたのかも知れない。
実際には“白馬に乗った王子様”ではなくて『異世界の皇帝陛下』が、あたしの前に跪いてプロポーズしてくれている事に胸をときめかせているのだから。
※ ※ ※
【創都祭】の最終日。
今日は夜に晩餐会があるだけだから、のんびり寝ていようと思ってたのに。
夜明けと共に強制的に叩き起こされて、強引に朝風呂に放り込まれて。
待ち構えていたのは、全裸になっての全身マッサージだった。
これには、ガチで悲鳴を上げた。
異世界転移させられ、この皇国にご厄介になり始めの頃に、侍女さん達によるお風呂あがりの全裸になっての香油の全身マッサージは、一体何の羞恥プレイかと愕然とした。恥ずかしくて恥ずかしくて、あたしの常識からはかけ離れていたからだ。そして半泣きで頼んだ。羞恥で耐え切れないからと。渋るデーボラさんを説得して、どうしても外せない儀式がある時は香油入りのお風呂に入る事で勘弁してもらってたのだ。それなのに…っ!
徹底抗戦したが、何故かデーボラさんも譲らなかった。
「今日は絶対にさせて頂きます。本日は大切な一日なのですから。」
と。
そうしてあたしは朝っぱらから貧相な身体を他人様に晒すと云う羞恥プレイに耐える羽目に陥ったのだった。まあ、マッサージそのものはお肌がしっとりスベスベになって、二度寝しそうになる程気持ち良かったけどね! その代わり、精神はゴリゴリに削られたけどねっ!!
そうして着替えさせられたのは、これまた朝からは絶対に着ないような水色のドレスだった。チュールレースをふんだんにあしらった、袖口と裾がスクエアカットされた優雅なシルエットのデザイン。髪も丁寧に梳かれアクアマリンの髪飾りを付けられて。朝食もその用意をしながら摘まむ事の出来るサンドイッチのみだ。ここに至って俄然不安になってしまったあたしは、あたしを飾り付ける気満々のアデラやクラリッサに問い質したのだが。彼女たちはニコニコと微笑むだけで何にも教えてはくれない。
サンドイッチを流し込む珈琲が急に味気なく感じてしまった。
しかし、そんな鬱屈を吹き飛ばす出来事が待っていた。
デーボラさんに案内されて、漆黒の正装の陛下が姿を現したのだ。
うん、朝から安定の麗しさだね!
そうして陛下にエスコートされて、庭に出たのだが。
着いたのは『立ち入り禁止』を言い渡されてた一角だった。
「…庭師がやっと、品種改良に成功したのだ…」
そこに咲いていたのは、初めて見るバラの花だった。
大輪の花を咲かせて、かぐわしい芳香を放っている。
「…このタイミングで成功するとは…地母神の加護かも知れんな…」
陛下の呟きを他所に、あたしはそのバラに魅入られてた。
グラデーションが何とも言えずに美しいバラだ。
根本(?)は白なのに、白から薄いピンクへ。
ピンク色から濃いピンクへ。そうして、花弁の先は真紅なのだ。
何とも不思議な色合いの綺麗なバラだ。朝露に濡れた様は、一際美しい。
しかし、見惚れていると、陛下はとんでもない事を言い出した。
「…ナツキ…このバラの名前は、【レジーナ・ナツキ】だ。
…そなたが“降臨”してから…私が秘かに造らせていた…」
あまりの事に呆けていると、それ以上の出来事が起こった。
あたしの前に跪いたかと思うと、プロポーズの言葉を発したのだ。
「…ナツキ…改めて、私の皇妃になってくれないか…?」
と。
嬉しい反面、哀しくなった。
……そうか……あたしは、ベルナルディーノが認めた皇妃だもんね……
結局、政治的な意味合いが強い皇妃にしかなれないのだ、と。
けれども、あたしの表情に何を見たのか、陛下は更に言葉を重ねた。
大切な事を言いそびれた、と。
「…ナツキ…貴女は、私の一目惚れした女性なのだ…
…ずっと好きだった…ずっと貴女だけを愛していた…
…ナツキ…どうか私と結婚して、皇妃となって欲しい…」
ドレスの裾を少し上げてキスを落とされるが、反応が出来ない。
陛下の言葉が聞こえるが、脳に正しく伝達してないみたいだ。
水色の瞳で見上げられても……反応に困惑するばかりだ。
あたしのあまりの無反応さに、陛下は懐からある物を取り出した。
「…早く良い返事をもらえないと…これを貴女の左の薬指に嵌める事が出来ないのだが…」
―――それは、指環だった。
ピンク色の綺麗なバラが咲いた、繊細で素敵な指環。
「…バラを型取った紅水晶の指環なのだ…貴女の世界では、正式なプロポーズの時に婚約指環を贈るのだろう…?」
……酷く頭が混乱していた。
この世界では……と言うかこの皇国では、婚約や結婚の時に指環を交換すると云う習慣がない。結婚する二人はお互いの瞳の色をどこかにあしらったアクセサリーを贈り合うのが習わしだ。ブレスレットでもネックレスでもイヤリングでも、勿論、指環でも良い。
だからあたしも、アクアマリンのネックレスを貰った。
宝石箱の中に入れたままになってるが。
代わりに陛下にはオニキスをあしらったブレスレットを贈った。
これまた一度もしてるのを見た事ないが。
ちなみに。
結婚式は人前式だ。神殿で行うのは一部の富裕層と貴族達だ。
その時もお互いの瞳の色のドレスやタキシードもどきを着用するだけだ。
純白のウェディングドレスなど、存在しない。
勿論あたし達は結婚式など挙げてはいない。
いつの間にか【神子】が皇帝の皇妃として認識されていたに過ぎないのだ。
「…噓…っ、…だったら、どうして側室達の処に通ってるの…っ!
…初夜だって、すっぽかしたくせに…っ!!」
……いつしか、あたしは泣いていた。
泣いて叫んで陛下を責めていた。
切なかった。
悲しかった。
辛かった。
苦しかった。
辛くて苦しくて、どうしようもなかった。
そんな言葉、信じられる筈がない…っ!!
気が付けば、抱き締められていた。
いつの間にか立ち上がった陛下の腕の中で号泣してた。
謝罪の言葉と共に顔中にキスされるが、いやいやをして抗った。
そうして思い切り泣いて、泣いて泣いて。
ようやく泣き止んだ後、陛下から打ち明けられたのは、俄かには信じられない世界の秘密とも言える、創世神話の裏側の事情だった。……信じられない……信じられないけど……陛下の行動の全てに一々納得がいくし、ベルナルディーノ様が現れた時に聴こえた気がした“声”が紡いだ言葉の内容にも納得出来てしまうのだ。
そうして教えてくれた。
側室を迎えても、彼女達の実家のパワーバランスを考えて厳選していた事。
側室の下に通ってはいたが、一度も抱いた事がなく、一緒に眠ってもいない事。
どうやって誤魔化していたのかと聞いたら、とっておきの秘密を教えてくれた。
と、 次の瞬間。
『【収穫祭】の彼』が、眼の前に現れたのだ。
銀色の長い髪が、茶色の短髪に。
水色の瞳が、氷青の瞳に。
美麗な容貌が、何の変哲もない一般的な容貌に変化していたのだ。
「…これが、“幻視”の魔法だ…信じてくれるか…?」
信じられない思いで彼の顔を凝視していると、容貌は瞬く間に陛下の顔に戻った。眼の前で起こった事を信じられないではいられなかった。すると急に陛下が、眉間に皺を寄せて表情が歪んだ。
「…勿論、ある程度の演技はした…閨の教育は受けていたし…手も触れてないとか、キスもしてないなんて綺麗事は言わない…だが、“抱いた”と錯覚させる為に、“幻惑”の魔法を使った…苦しかった…頭の中では、彼女らを抱く想像の操作をしなければならないのだから…例え想像の中でも、貴女を裏切りたくはなかったのに…」
その告白はあたしの精神の、陛下と彼への後ろめたさを完全に消し去ってくれた。
……あたしも苦しかったけど……彼はそれ以上に悩み苦しんでいたのだと……
ましてや彼は、世界の秘密と云う重い、途轍もなく重い十字架を一人で背負って、苦しみ悶え罪悪感に苛まれていたのだ。
―――ああ。
ベルナルディーノ様がおっしゃっていたのは、この事だったのだ―――
そう思ったら自然と両腕が彼の……ヴィオの背中に回っていた。
ビクリと彼の身体が震えるが、構わずに抱き締めた。
……ああ……ヴィオが愛しくて、胸が痛い……
……愛しさで胸が張り裂けそうになるって、あるんだな……
だから言った。
「…婚約指環…嵌めて頂けますか…?」
と。
※ ※ ※
【レヴィ大神殿】
一般人は立入禁止の聖域に、各国の王族達と皇国の大貴族達が参列している。
大神官様がおいでの祭壇の前には、黒い燕尾服姿のヴィオが待っている。
あたしは神官に手を取られて静々と進む。
あたしが纏うのは、純白のウェディングドレスだ。
レースのハイネックで、ドレープとプリーツのバランスが美しい。
綺麗に結い上げた髪にティアラとベールを付け、持っているのは白百合のブーケだ。
長いベールとトレーンは介添人さんがサポートしてくれてる。
ここ数日、デーボラさん達が忙しそうだった理由が判明った。
このウェディングドレスとヴィオの燕尾服は、完徹三日、今朝まで掛かってお張り子さん達が仕上げたと云う力作だ。皇室御用達のお店を始めとする王都中の洋服屋と仕立屋が一致団結してくれたらしい。『神子様と皇帝陛下の御ためならば!!』と。まあ、元が元だから、馬子にも衣裳になっててくれれば有り難い。そんな事、口が裂けても言わないけどね! メイクは宝塚やハリウッドもビックリの完全武装のフルメイクだ。ちなみに、あのデーボラさんに悲鳴を上げさせたあたしの泣き腫らした顔は、慌てて冷やして温めてを繰り返したが。それでもダメだったのだけど、ヴィオが手を触れたら一発だった。便利だな、魔法!
列席者の中には、フレドの姿も見える。
フレドは唯一の、ヴィオの理解者であり協力者だ。
現在までの彼の行動や言葉の謎がようやく解けた。
だから、フレドの笑顔が嬉しい。
けれど、何よりも。
ヴィオの蕩けそうな表情が、一番嬉しい。
手を取られて、微笑み返して。
大神官様の進行の下、婚姻の儀式は粛々と進む。
―――ねえ、陛下。
あたし、異世界に来れて、良かった。
この皇国に来れて、本当に良かった。
あなたに出会えて、本当に幸せ。
今、ハッキリと言えるわ。
あたしは、この異世界であなたに出会い、愛し合うために生まれてきたの。
ねえ、天国のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん。
見える?
あたしの旦那さま、とっても素敵でしょ?
きっと見ててくれてるわよね、あたしの晴れ姿。
あたしはこの男性と結ばれるために孤児に生まれて。
八道の家に引き取られたの。
証拠だってあるのよ。
多分、もう知ってるわよね。
ああ、お墓とお位牌は、ヴィオが何とかしてくれるって。
だから、安心して、ゆっくり休んで。
そして異世界の、本当のお父さんとお母さん。
あたしを産んでくれて、ありがとう。
捨ててくれて……送り出してくれて、本当にありがとうございました。
きっと、決死の覚悟だったのでしょう。
万が一の希望を託して。
でも、安心して?
ほら、御神体の貴石も眩く輝いてて。
レヴィとベルナルディーノ様と、あの御方が祝福して下さるのが、理解るから。
八道七都姫。
異世界で、必ず幸せになる事をここに誓います。
FIN
けれども。
心のどこかでは、『いつか、王子様が』なんて夢見ていたのかも知れない。
実際には“白馬に乗った王子様”ではなくて『異世界の皇帝陛下』が、あたしの前に跪いてプロポーズしてくれている事に胸をときめかせているのだから。
※ ※ ※
【創都祭】の最終日。
今日は夜に晩餐会があるだけだから、のんびり寝ていようと思ってたのに。
夜明けと共に強制的に叩き起こされて、強引に朝風呂に放り込まれて。
待ち構えていたのは、全裸になっての全身マッサージだった。
これには、ガチで悲鳴を上げた。
異世界転移させられ、この皇国にご厄介になり始めの頃に、侍女さん達によるお風呂あがりの全裸になっての香油の全身マッサージは、一体何の羞恥プレイかと愕然とした。恥ずかしくて恥ずかしくて、あたしの常識からはかけ離れていたからだ。そして半泣きで頼んだ。羞恥で耐え切れないからと。渋るデーボラさんを説得して、どうしても外せない儀式がある時は香油入りのお風呂に入る事で勘弁してもらってたのだ。それなのに…っ!
徹底抗戦したが、何故かデーボラさんも譲らなかった。
「今日は絶対にさせて頂きます。本日は大切な一日なのですから。」
と。
そうしてあたしは朝っぱらから貧相な身体を他人様に晒すと云う羞恥プレイに耐える羽目に陥ったのだった。まあ、マッサージそのものはお肌がしっとりスベスベになって、二度寝しそうになる程気持ち良かったけどね! その代わり、精神はゴリゴリに削られたけどねっ!!
そうして着替えさせられたのは、これまた朝からは絶対に着ないような水色のドレスだった。チュールレースをふんだんにあしらった、袖口と裾がスクエアカットされた優雅なシルエットのデザイン。髪も丁寧に梳かれアクアマリンの髪飾りを付けられて。朝食もその用意をしながら摘まむ事の出来るサンドイッチのみだ。ここに至って俄然不安になってしまったあたしは、あたしを飾り付ける気満々のアデラやクラリッサに問い質したのだが。彼女たちはニコニコと微笑むだけで何にも教えてはくれない。
サンドイッチを流し込む珈琲が急に味気なく感じてしまった。
しかし、そんな鬱屈を吹き飛ばす出来事が待っていた。
デーボラさんに案内されて、漆黒の正装の陛下が姿を現したのだ。
うん、朝から安定の麗しさだね!
そうして陛下にエスコートされて、庭に出たのだが。
着いたのは『立ち入り禁止』を言い渡されてた一角だった。
「…庭師がやっと、品種改良に成功したのだ…」
そこに咲いていたのは、初めて見るバラの花だった。
大輪の花を咲かせて、かぐわしい芳香を放っている。
「…このタイミングで成功するとは…地母神の加護かも知れんな…」
陛下の呟きを他所に、あたしはそのバラに魅入られてた。
グラデーションが何とも言えずに美しいバラだ。
根本(?)は白なのに、白から薄いピンクへ。
ピンク色から濃いピンクへ。そうして、花弁の先は真紅なのだ。
何とも不思議な色合いの綺麗なバラだ。朝露に濡れた様は、一際美しい。
しかし、見惚れていると、陛下はとんでもない事を言い出した。
「…ナツキ…このバラの名前は、【レジーナ・ナツキ】だ。
…そなたが“降臨”してから…私が秘かに造らせていた…」
あまりの事に呆けていると、それ以上の出来事が起こった。
あたしの前に跪いたかと思うと、プロポーズの言葉を発したのだ。
「…ナツキ…改めて、私の皇妃になってくれないか…?」
と。
嬉しい反面、哀しくなった。
……そうか……あたしは、ベルナルディーノが認めた皇妃だもんね……
結局、政治的な意味合いが強い皇妃にしかなれないのだ、と。
けれども、あたしの表情に何を見たのか、陛下は更に言葉を重ねた。
大切な事を言いそびれた、と。
「…ナツキ…貴女は、私の一目惚れした女性なのだ…
…ずっと好きだった…ずっと貴女だけを愛していた…
…ナツキ…どうか私と結婚して、皇妃となって欲しい…」
ドレスの裾を少し上げてキスを落とされるが、反応が出来ない。
陛下の言葉が聞こえるが、脳に正しく伝達してないみたいだ。
水色の瞳で見上げられても……反応に困惑するばかりだ。
あたしのあまりの無反応さに、陛下は懐からある物を取り出した。
「…早く良い返事をもらえないと…これを貴女の左の薬指に嵌める事が出来ないのだが…」
―――それは、指環だった。
ピンク色の綺麗なバラが咲いた、繊細で素敵な指環。
「…バラを型取った紅水晶の指環なのだ…貴女の世界では、正式なプロポーズの時に婚約指環を贈るのだろう…?」
……酷く頭が混乱していた。
この世界では……と言うかこの皇国では、婚約や結婚の時に指環を交換すると云う習慣がない。結婚する二人はお互いの瞳の色をどこかにあしらったアクセサリーを贈り合うのが習わしだ。ブレスレットでもネックレスでもイヤリングでも、勿論、指環でも良い。
だからあたしも、アクアマリンのネックレスを貰った。
宝石箱の中に入れたままになってるが。
代わりに陛下にはオニキスをあしらったブレスレットを贈った。
これまた一度もしてるのを見た事ないが。
ちなみに。
結婚式は人前式だ。神殿で行うのは一部の富裕層と貴族達だ。
その時もお互いの瞳の色のドレスやタキシードもどきを着用するだけだ。
純白のウェディングドレスなど、存在しない。
勿論あたし達は結婚式など挙げてはいない。
いつの間にか【神子】が皇帝の皇妃として認識されていたに過ぎないのだ。
「…噓…っ、…だったら、どうして側室達の処に通ってるの…っ!
…初夜だって、すっぽかしたくせに…っ!!」
……いつしか、あたしは泣いていた。
泣いて叫んで陛下を責めていた。
切なかった。
悲しかった。
辛かった。
苦しかった。
辛くて苦しくて、どうしようもなかった。
そんな言葉、信じられる筈がない…っ!!
気が付けば、抱き締められていた。
いつの間にか立ち上がった陛下の腕の中で号泣してた。
謝罪の言葉と共に顔中にキスされるが、いやいやをして抗った。
そうして思い切り泣いて、泣いて泣いて。
ようやく泣き止んだ後、陛下から打ち明けられたのは、俄かには信じられない世界の秘密とも言える、創世神話の裏側の事情だった。……信じられない……信じられないけど……陛下の行動の全てに一々納得がいくし、ベルナルディーノ様が現れた時に聴こえた気がした“声”が紡いだ言葉の内容にも納得出来てしまうのだ。
そうして教えてくれた。
側室を迎えても、彼女達の実家のパワーバランスを考えて厳選していた事。
側室の下に通ってはいたが、一度も抱いた事がなく、一緒に眠ってもいない事。
どうやって誤魔化していたのかと聞いたら、とっておきの秘密を教えてくれた。
と、 次の瞬間。
『【収穫祭】の彼』が、眼の前に現れたのだ。
銀色の長い髪が、茶色の短髪に。
水色の瞳が、氷青の瞳に。
美麗な容貌が、何の変哲もない一般的な容貌に変化していたのだ。
「…これが、“幻視”の魔法だ…信じてくれるか…?」
信じられない思いで彼の顔を凝視していると、容貌は瞬く間に陛下の顔に戻った。眼の前で起こった事を信じられないではいられなかった。すると急に陛下が、眉間に皺を寄せて表情が歪んだ。
「…勿論、ある程度の演技はした…閨の教育は受けていたし…手も触れてないとか、キスもしてないなんて綺麗事は言わない…だが、“抱いた”と錯覚させる為に、“幻惑”の魔法を使った…苦しかった…頭の中では、彼女らを抱く想像の操作をしなければならないのだから…例え想像の中でも、貴女を裏切りたくはなかったのに…」
その告白はあたしの精神の、陛下と彼への後ろめたさを完全に消し去ってくれた。
……あたしも苦しかったけど……彼はそれ以上に悩み苦しんでいたのだと……
ましてや彼は、世界の秘密と云う重い、途轍もなく重い十字架を一人で背負って、苦しみ悶え罪悪感に苛まれていたのだ。
―――ああ。
ベルナルディーノ様がおっしゃっていたのは、この事だったのだ―――
そう思ったら自然と両腕が彼の……ヴィオの背中に回っていた。
ビクリと彼の身体が震えるが、構わずに抱き締めた。
……ああ……ヴィオが愛しくて、胸が痛い……
……愛しさで胸が張り裂けそうになるって、あるんだな……
だから言った。
「…婚約指環…嵌めて頂けますか…?」
と。
※ ※ ※
【レヴィ大神殿】
一般人は立入禁止の聖域に、各国の王族達と皇国の大貴族達が参列している。
大神官様がおいでの祭壇の前には、黒い燕尾服姿のヴィオが待っている。
あたしは神官に手を取られて静々と進む。
あたしが纏うのは、純白のウェディングドレスだ。
レースのハイネックで、ドレープとプリーツのバランスが美しい。
綺麗に結い上げた髪にティアラとベールを付け、持っているのは白百合のブーケだ。
長いベールとトレーンは介添人さんがサポートしてくれてる。
ここ数日、デーボラさん達が忙しそうだった理由が判明った。
このウェディングドレスとヴィオの燕尾服は、完徹三日、今朝まで掛かってお張り子さん達が仕上げたと云う力作だ。皇室御用達のお店を始めとする王都中の洋服屋と仕立屋が一致団結してくれたらしい。『神子様と皇帝陛下の御ためならば!!』と。まあ、元が元だから、馬子にも衣裳になっててくれれば有り難い。そんな事、口が裂けても言わないけどね! メイクは宝塚やハリウッドもビックリの完全武装のフルメイクだ。ちなみに、あのデーボラさんに悲鳴を上げさせたあたしの泣き腫らした顔は、慌てて冷やして温めてを繰り返したが。それでもダメだったのだけど、ヴィオが手を触れたら一発だった。便利だな、魔法!
列席者の中には、フレドの姿も見える。
フレドは唯一の、ヴィオの理解者であり協力者だ。
現在までの彼の行動や言葉の謎がようやく解けた。
だから、フレドの笑顔が嬉しい。
けれど、何よりも。
ヴィオの蕩けそうな表情が、一番嬉しい。
手を取られて、微笑み返して。
大神官様の進行の下、婚姻の儀式は粛々と進む。
―――ねえ、陛下。
あたし、異世界に来れて、良かった。
この皇国に来れて、本当に良かった。
あなたに出会えて、本当に幸せ。
今、ハッキリと言えるわ。
あたしは、この異世界であなたに出会い、愛し合うために生まれてきたの。
ねえ、天国のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん。
見える?
あたしの旦那さま、とっても素敵でしょ?
きっと見ててくれてるわよね、あたしの晴れ姿。
あたしはこの男性と結ばれるために孤児に生まれて。
八道の家に引き取られたの。
証拠だってあるのよ。
多分、もう知ってるわよね。
ああ、お墓とお位牌は、ヴィオが何とかしてくれるって。
だから、安心して、ゆっくり休んで。
そして異世界の、本当のお父さんとお母さん。
あたしを産んでくれて、ありがとう。
捨ててくれて……送り出してくれて、本当にありがとうございました。
きっと、決死の覚悟だったのでしょう。
万が一の希望を託して。
でも、安心して?
ほら、御神体の貴石も眩く輝いてて。
レヴィとベルナルディーノ様と、あの御方が祝福して下さるのが、理解るから。
八道七都姫。
異世界で、必ず幸せになる事をここに誓います。
FIN
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