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本編
No,29 【シルヴィオ陛下SIDE Ⅶ】
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デルヴァンクール王国の年に一度の、首都で開催される【収穫祭】。
ナツキが脱走をやらかした祭り。
彼女の鬱憤が爆発した日。
あの日。
“影”の報告を受けて。
咄嗟に自分に“幻視”の魔法をかけて、後を追った。
催し物や特設市場を瞳を輝かせて見つめる彼女。
私は知っている。
このような城下町の祭りの市場が、彼女の異世界での“日常”であった事を。
その証拠に。
彼女の瞳の中には、隠しようもない羨望と憧憬の色が存在したから。
ナツキが小休止をした噴水広場で声を掛けた。
当然だが、彼女は私には気付かなかった。
容姿は変えても声色だけはどうしようもない。
それが心配だったのだが、私の心配は杞憂に過ぎなかった。
そうして、一緒に回る事を半ば無理矢理了承させたのだが。
それからは正しく、私の夢の時間だった。
……こんなすぐ傍に、彼女の笑顔がある。
何の憂いも飾り気もない、眩い程の笑顔。
笑顔が傍らにある事が、嬉しくたまらなく幸せだった。
そうして、二年目のあの日。
特に約束を交わした訳ではないけれど、噴水広場で再会出来た幸福をあの女性には決して理解らないだろう。
※ ※ ※
「…久し振り…元気そうで良かった…」
「…貴方も元気そう…何か良い事、あった…?」
「…お祭りだからね…浮かれて見えるだけだろう…」
私が贈った組紐をしてくれている事に、心秘かに浮かれる。
私の瞳の色と、彼女の瞳の色が組み合わされた組紐。
特別な【レヴィの神子】ではない、ナツキと彼女の地球での“日常生活”を垣間見る事の出来る、特別で大切な一日。
私はデルヴァンクールの特産品・葡萄酒の今年の新酒を。
そうしてナツキは、コーヒーを片手に店を見て回る。
どの店を覗いても、ナツキは楽しそうで嬉しそうだ。
食べ歩きをするが、何を食べても美味そうに食べる事を純粋に楽しんでる。
笑顔が輝いている。
【収穫祭】にいる誰よりも。
その傍らに存在を許されている事が、こんなにも心楽しく幸せだ。
軽いカクテルを勧めてみたが、どうやら正解だったようだ。
催し物も大道芸にも心からの笑みを浮かべてくれる。
どうやら互いの感性が似ているらしい事に、こんなにも浮かれる。
異世界での祭りを楽しんでくれれば、こんなに嬉しい事はない。
祭りの最大の目玉である催しには何の興味もない。
が、もしも。万が一、異世界のデルヴァンクール王国に彼女が生を受けていたら、と考えて。『【地母神】の化身』と云う栄誉を求めてナツキが出場していたら。
濡れ羽色に輝く豊かな黒髪。魅惑的に朱く濡れて光る唇。何よりも、貴石のように神秘的に輝く瞳。間違いなくナツキが選ばれて、フレドの眼に止まっていた事だろう。デルヴァンクール王宮で婚約・結婚相手として、フレドに紹介される場面を想像したら、たまらなくなってしまった。よくぞ私の神子として召喚に応じてくれたと、今更ながら感謝の念が湧き上がる。ナツキは、私の唯一の運命の神子なのだ。埒もない問題は、頭の中から放り出して、祭りを楽しむ事に改めて専念する。
こんな高揚感は他人とは決して味わえない。
その昔、フレドと回った時には決して感じる事のなかった感情。
ナツキと一緒でしか味わう事の出来ない、興奮と高揚感。
……幸せだ。
……こんな幸せな日々を手に入れる為にも、私に失敗は許されないのだ。
ナツキに離縁を願い出られた時の絶望感を思い出す。
無理もない。
あんな粗雑な扱いを受けていたら、誰だって嫌になってしまうに違いない。
冷静な態度をかろうじて保てた事は奇跡に近い。
離宮で暮らす日々の報告をデーボラやダリオから聞かされて、かろうじて正気を保っていられたのだ。ナツキのリラックスした様子を聞かされて。
―――実行する。
必ず成し遂げてみせる。
他でもない。
大切な愛するただ一人の女性の為に。
※ ※ ※
……驚いた。
驚愕したと言っても過言ではないのだが。
冷静に考えれば、私と離縁したら異世界に戻ってしまうのだから、この祭りに出るのも最後だと覚悟していても少しもおかしくないのだが。
ただ。
私と離縁しても、この【収穫祭】では毎年必ず会えると勘違いしてしまっていた。
ここまでの決意をさせてしまった事に、ひたすらに申し訳ない思いが募る。
しかも別れの礼に、自分で描いた絵画を持参してくるなど。
この小さな絵画だけで、一体いくらの値がつくのか空恐ろしい。
そんな物をポンと寄越してしまえる神経が理解らない。
……いや、理解りたくない。
だから、たまらずに叫んだ。
駆け去る背中に向かって。
万感の思いを込めて。
「…明日の夜の花火を一緒に見て、なんて言わないから…っ、
…来年も会うって約束してくれ…っ」
「…来年も、あの場所で待ってる…っ、…待ってるから…っ!」
きっと成功させる。
成功させてみせる。
ナツキに、こんな哀しい決断をさせるものは私が全力で排除する。
そなたの憂いは、私が全力で取り払ってみせる。
走り去る小さな背中に、私は固く固く誓ったのだった。
ナツキが脱走をやらかした祭り。
彼女の鬱憤が爆発した日。
あの日。
“影”の報告を受けて。
咄嗟に自分に“幻視”の魔法をかけて、後を追った。
催し物や特設市場を瞳を輝かせて見つめる彼女。
私は知っている。
このような城下町の祭りの市場が、彼女の異世界での“日常”であった事を。
その証拠に。
彼女の瞳の中には、隠しようもない羨望と憧憬の色が存在したから。
ナツキが小休止をした噴水広場で声を掛けた。
当然だが、彼女は私には気付かなかった。
容姿は変えても声色だけはどうしようもない。
それが心配だったのだが、私の心配は杞憂に過ぎなかった。
そうして、一緒に回る事を半ば無理矢理了承させたのだが。
それからは正しく、私の夢の時間だった。
……こんなすぐ傍に、彼女の笑顔がある。
何の憂いも飾り気もない、眩い程の笑顔。
笑顔が傍らにある事が、嬉しくたまらなく幸せだった。
そうして、二年目のあの日。
特に約束を交わした訳ではないけれど、噴水広場で再会出来た幸福をあの女性には決して理解らないだろう。
※ ※ ※
「…久し振り…元気そうで良かった…」
「…貴方も元気そう…何か良い事、あった…?」
「…お祭りだからね…浮かれて見えるだけだろう…」
私が贈った組紐をしてくれている事に、心秘かに浮かれる。
私の瞳の色と、彼女の瞳の色が組み合わされた組紐。
特別な【レヴィの神子】ではない、ナツキと彼女の地球での“日常生活”を垣間見る事の出来る、特別で大切な一日。
私はデルヴァンクールの特産品・葡萄酒の今年の新酒を。
そうしてナツキは、コーヒーを片手に店を見て回る。
どの店を覗いても、ナツキは楽しそうで嬉しそうだ。
食べ歩きをするが、何を食べても美味そうに食べる事を純粋に楽しんでる。
笑顔が輝いている。
【収穫祭】にいる誰よりも。
その傍らに存在を許されている事が、こんなにも心楽しく幸せだ。
軽いカクテルを勧めてみたが、どうやら正解だったようだ。
催し物も大道芸にも心からの笑みを浮かべてくれる。
どうやら互いの感性が似ているらしい事に、こんなにも浮かれる。
異世界での祭りを楽しんでくれれば、こんなに嬉しい事はない。
祭りの最大の目玉である催しには何の興味もない。
が、もしも。万が一、異世界のデルヴァンクール王国に彼女が生を受けていたら、と考えて。『【地母神】の化身』と云う栄誉を求めてナツキが出場していたら。
濡れ羽色に輝く豊かな黒髪。魅惑的に朱く濡れて光る唇。何よりも、貴石のように神秘的に輝く瞳。間違いなくナツキが選ばれて、フレドの眼に止まっていた事だろう。デルヴァンクール王宮で婚約・結婚相手として、フレドに紹介される場面を想像したら、たまらなくなってしまった。よくぞ私の神子として召喚に応じてくれたと、今更ながら感謝の念が湧き上がる。ナツキは、私の唯一の運命の神子なのだ。埒もない問題は、頭の中から放り出して、祭りを楽しむ事に改めて専念する。
こんな高揚感は他人とは決して味わえない。
その昔、フレドと回った時には決して感じる事のなかった感情。
ナツキと一緒でしか味わう事の出来ない、興奮と高揚感。
……幸せだ。
……こんな幸せな日々を手に入れる為にも、私に失敗は許されないのだ。
ナツキに離縁を願い出られた時の絶望感を思い出す。
無理もない。
あんな粗雑な扱いを受けていたら、誰だって嫌になってしまうに違いない。
冷静な態度をかろうじて保てた事は奇跡に近い。
離宮で暮らす日々の報告をデーボラやダリオから聞かされて、かろうじて正気を保っていられたのだ。ナツキのリラックスした様子を聞かされて。
―――実行する。
必ず成し遂げてみせる。
他でもない。
大切な愛するただ一人の女性の為に。
※ ※ ※
……驚いた。
驚愕したと言っても過言ではないのだが。
冷静に考えれば、私と離縁したら異世界に戻ってしまうのだから、この祭りに出るのも最後だと覚悟していても少しもおかしくないのだが。
ただ。
私と離縁しても、この【収穫祭】では毎年必ず会えると勘違いしてしまっていた。
ここまでの決意をさせてしまった事に、ひたすらに申し訳ない思いが募る。
しかも別れの礼に、自分で描いた絵画を持参してくるなど。
この小さな絵画だけで、一体いくらの値がつくのか空恐ろしい。
そんな物をポンと寄越してしまえる神経が理解らない。
……いや、理解りたくない。
だから、たまらずに叫んだ。
駆け去る背中に向かって。
万感の思いを込めて。
「…明日の夜の花火を一緒に見て、なんて言わないから…っ、
…来年も会うって約束してくれ…っ」
「…来年も、あの場所で待ってる…っ、…待ってるから…っ!」
きっと成功させる。
成功させてみせる。
ナツキに、こんな哀しい決断をさせるものは私が全力で排除する。
そなたの憂いは、私が全力で取り払ってみせる。
走り去る小さな背中に、私は固く固く誓ったのだった。
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