【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

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9 恋愛初学者、恋バナをする

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 僕たちは、部室のすみっこで作戦会議をした。
 そして鈴木くんは、サッカー部の桂木くんが好きらしい。お互いに好きな人を知っていないとフェアじゃない、と言って、鈴木くんから打ち明けてくれた。

「中学校が同じで、それからずっと好きなんだ。あ、憧れの人で」

 まさか、知り合いの知り合いだったとは。僕が驚いていると、鈴木くんは、ちらりと僕を見る。その瞳には、どこか怯えた色があった。

「へ、変だと思った? 僕みたいな男が、あんなかっこいい人が好きだなんて、気持ち悪いと思う……?」

 僕は首を、迷わず横へ振った。驚いた様子を見せてしまったから、勘違いさせてしまったかもしれない。
 変だなんて、思うわけなかった。

「まさか。鈴木くんは、すごく素敵な人だよ。気持ち悪いわけない。お互いがんばろうね」

 胸の前で拳をちいさく上げ下げすると、鈴木くんは少しだけ、ほっとした顔をする。
 安心してほしくて、大きく頷いた。

「君が僕の話を聞いてくれたみたいに、僕は君の話を聞きたいな」

 鈴木くんは、ほんのり笑った。そのはにかんだ顔に、僕もほっと息をつく。
 僕たちは顔を見合わせて、お互いに大きく頷き合った。

「鈴木くん。桂木くんの、どこが好きなの?」

 僕から口火を切ると、鈴木くんは照れながら、あれこれと教えてくれた。優しいところや、正義感が強いところ。それから、照れ屋なところ。
 その話を聞いているうちに、不思議と心がぽかぽかとあたたまってきた。いつになく照れた様子の鈴木くんは楽しそうで、見ていて幸せな気分になる。

「……といったところかな。ハルくんは、須藤くんのどこが好きなの?」
「ええ?」

 恥ずかしくなって、ちょっと顔を背ける。鈴木くんは「フェアじゃないぞ」と、僕の脇腹を肘でつつく。
 僕は顔を手で覆いながら、リョウちゃんの好きなところを白状した。

「優しくて、かしこくて、かっこよくて……とにかく一緒にいると、ドキドキするんだ」

 この手の気持ちの言語化をしたことがないから、言葉がおぼつかない。だけど鈴木くんはにこにこしながら、いいね、と頷いてくれた。

「なんだか、嬉しいな。好きな人の話が、こうやってできるって」

 しみじみとした口調に、なんでか僕は胸がいっぱいになった。
 結局、僕の原稿はまったく進まなかったけど、いろんな話ができた。満足感がすごい。
 部室を締める時間になって、部員たちが外へ出ていく。僕は鈴木くんが鍵を締めるのを待って、職員室へ鍵を返すのについていった。
 二人で並んで歩いているけど、お互いにだんまりだ。これ以上、今日はこれ以上話すことがないくらい、たくさん話せたから。でも不思議と、離れがたかった。

 職員室へ入ろうと扉を開けたところで、背の高い男子と鉢合わせる。あっ、と鈴木くんが声をあげた。

「桂木くん」
「やっほ。鈴木くんも部活あがり?」

 僕はそれとなく、鈴木くんの肩を叩いた。振り向く彼に目配せをして、手を振る。

「僕、用事を思い出したから、先に帰るね」

 そして鈴木くんは、ちょっと顔を赤らめて頷いた。僕はそっと、桂木くんを見上げる。
 桂木くんは、じっと鈴木くんを見ていた。その目つきからは、僕を見るときのリョウちゃんのそれと、よく似た熱を感じる。
 だとすれば少なくとも、桂木くんは、鈴木くんにいい印象を抱いているんだろう。それは間違いない。
 健闘を祈りつつ離れようとすると、さらにもう一人、職員室の奥から出てきた。

「リョウちゃん」

 僕が思わず声をあげると、彼はとろけるように甘い笑みを浮かべる。

「ハルくん、偶然だね」

 彼は颯爽と、僕の方へ歩み寄ってきた。部活終わりのユニフォーム姿は、眩しいくらいにかっこいい。
 そのかっこよさを、さっきまで、鈴木くんと散々語り合っていた。恥ずかしくなって俯くと、のっしりとした重みが肩へ加わる。

「どうしたの? そっぽ向いて」
「そんなことしてないよ」

 慌てて歩き出す。ちらりと振り向くと、桂木くんが職員室の前に立って、鈴木くんが駆け足で職員室へ入っていった。

「鈴木くん、慌てなくていいよ。待ってるから」

 あちらの二人も、一緒に帰るんだろうか。僕は友達の恋路を応援しつつ、リョウちゃんを見上げた。リョウちゃんは目を細めて、僕を見下ろしている。

「桂木が気になる?」

 どきっとした。ここでうかつなことを言ってはいけない。聡いリョウちゃんは、僕が気がかりに思っていることを――つまり、鈴木くんの持つ桂木くんへの特別な気持ちや関係に、気づいてしまうかもしれないから。
 それは友達への不義理だ。いや、僕の考えすぎかもしれない。
 僕はしばらく考えてから、ぱっと微笑んだ。

「……全然ちがうよ!」

 逆に不自然だったかもしれない。この笑顔でごまかされてくれないだろうか。
 リョウちゃんもにっこり笑いつつ、僕の肩へ手を回した。引き寄せられて、どきりと胸が高鳴る。

「じゃあ、帰ろうか。コンビニ寄ってく?」
「う、うん」

 誤魔化せたらしい。僕はほっと息をついて、連れられるままに歩き出した。
 身体が離れて、リョウちゃんが一歩先を行く。大きな歩幅でぐんぐん進むから、僕はいつもより速足で歩かなければいけなかった。

「リョウちゃん、ちょっと速いよ」

 ぴた、と急に立ち止まった。リョウちゃんは「ごめんね」と少しだけ慌てた様子で、僕の隣へ並ぶ。

「行こうか」

 そして今度は、ゆっくり歩き始める。僕は首を傾げて、リョウちゃんの隣に並んだ。

「どうかしたの?」
「ううん。なんでもないよ」

 リョウちゃんは、あくまでなんでもないようにしている。僕は「ふうん」と鼻を鳴らして、前を向いた。深くは掘り下げないけど、ちょっと気になる。
 僕たちは昇降口から出て、駅へと向かった。途中のコンビニに寄るまで、僕たちはずっと無言だった。
 というか、僕はリョウちゃんへの気持ちを自覚してから、彼とまともな会話ができていない。恥ずかしいし、照れくさいし、万が一気持ちがばれてしまったらと思うと……。
 ミルクティーをセルフレジでお会計して、ストローをもらって出る。ちらちらとリョウちゃんを見上げていると、目が合った。

「どうかした?」
「ううん。なんでも」

 身体が火照る。うつむくと、リョウちゃんはまた僕と肩を組んだ。大きな手のひらが背中から脇腹へ通って、引き寄せられる。その体温の高さに、ますます肌が汗ばんだ。
 リョウちゃんは、僕の耳元でそっと囁く。

「なんでもないって顔じゃないけど」
「ひえ」

 思わず固まると、リョウちゃんは僕を引っ張って、駅へと連れていった。手は身体から離れたけど、触れていたところが、まだじんじんと疼くみたいだ。
 改札を通って、ホームに並んで立つ。同じ高校の生徒もたくさんいる中で、僕たちは隣り合って、電車を待った。
 リョウちゃんを見ながら、女子の集団がひそひそと何かうわさしている。彼女たちがちらりと僕を見たところで、リョウちゃんが僕の前に立った。ちょうど、彼女たちが僕へ向ける視線を、遮るみたいに。

「ハルくん。次の登校日の帰りも、俺を迎えに来てね」

 リョウちゃんが僕を見つめて、微笑む。僕はなんでか胸がいっぱいになって、そっぽを向いた。

「決まってる。迎えに行くよ」

 ちらりと見上げたリョウちゃんの横顔は、嬉しそうだった。
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