【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

文字の大きさ
16 / 28

16 図書館デート未満

しおりを挟む
 僕の執筆は、風のように進んだ。
 リョウちゃんといつも通り帰宅して、解散して、夜ご飯を食べる。その後、自分のパソコンでテキストエディタを立ち上げた。エッセイを書こうと思った。タイピングを始めたら、止まらなくなった。
 お風呂に呼ばれて一時中断したけど、すぐに上がって再開した。お父さんも、お母さんも、僕を放っておいてくれた。

 とはいっても、さすがに一晩で書き切ることはできなかった。僕は明け方になって気絶するように眠って、昼頃に起き出す。蝉の鳴き声がうるさくて、よく途中で目が覚めなかったものだと思った。
 お父さんはとっくに仕事へ行っている。お母さんは書斎に引きこもって執筆中だろう。
 冷蔵庫に残っていたチャーハンを、電子レンジでチンした。食べ終わって食器を洗いながら、ぼんやりと外を眺める。
 いつもより、世界が輝いて見えた。徹夜明けで目が疲れているせいかもしれない。

 脇に置いたスマホが震える。メッセージの通知だ。
 開くと、リョウちゃんからのDMだった。

 うちの近くの図書館で、夏休みの課題をしないかってお誘いだ。今リョウちゃんは、図書館にいるらしい。僕は慌てて服を着替えて、「行く」と手短に返信した。

「お母さん、僕出かけるから!」

 書斎からお母さんが顔を出す。僕はさらに「あそこの図書館!」と付け足して、家を飛び出した。自転車を漕いで十分足らずの場所に、市立図書館がある。駅の街中にある図書館と比べると古くて暗いけど、静かで落ち着く、僕たちの憩いの場だ。

 自転車を駐輪場へ止めて、リョウちゃんへ「着いたよ」と送る。足早に自動ドアをくぐると、リョウちゃんは、入ってすぐそこに立っていた。

「ハルくん」

 ひらりと手を振る、その姿に、どきんと心臓が跳ねる。ちょっと気まずくて、うつむいてしまった。だってさっきまでの僕は、リョウちゃんへの気持ちを赤裸々に綴ったエッセイを書いていたんだから。
 よく冷房の効いた館内で、僕の肌が冷やされていく。リョウちゃんは僕へ歩み寄って、「お疲れ」と微笑んだ。

「課題まだ終わってないから、進めようと思って。来てくれてありがとう」
「ううん。こちらこそ、誘ってくれてありがとう」

 落ち着かない。僕は張り付いた前髪を払いつつ、顔に流れる汗をハンカチで拭いた。
 リョウちゃんはいつも通り、自習コーナーに向かって歩き出す。僕はその後に続いた。
 ねむい。さっきまで炎天下を自転車で走ってきたのに、冷房に冷やされると、眠くなる。プールあがりみたいなだるさだ。
 机について、課題を広げる。僕は比較的数学が苦手だから、まだその問題集が残っていた。

「ハルくん。残ってるのは、それだけ?」
「うん」

 リョウちゃんは、国語と数学が残っているみたいだ。でもリョウちゃんのことだから、きっとすぐに終わるんだろう。

「課題、計画的に進めてて、えらいね」
「ふふ。ありがとう」

 リョウちゃんに褒められると、やっぱり嬉しい。僕がクネクネしていると、リョウちゃんは頬杖をついた。

「俺ばっかり、ハルくんを独り占めしちゃってるかも。いいのかなぁ」
「ええ?」

 その発想はなかった。首を傾げて、腕ぐみをする。考え込むうちに、どんどん頭が傾いていった。

「むしろ、それは僕の台詞っていうか……。リョウちゃんを、僕が独り占めしていて、申し訳ないくらいだよ」

 ちらりと、桂木くんのことを思い出した。リョウちゃんが、好きかもしれない人だ。
 本人の話じゃなくて、噂話を信じるなんて、最低だ。なのに、僕の理性は、その魔力に抗えない。

「りょ、リョウちゃんって、他の人と遊ばないの……」

 ひとりじめしたい。そんな幼稚な欲求から、束縛するみたいなことを言い出してしまった。リョウちゃんは目を丸くしている。そして僕は、止まれない。

「その……一緒に遊んだり、えっと、デートする人、とか」

 踏み込んだことを、もごもごと不恰好に質問してしまった。恐る恐るリョウちゃんを見ると、口元を手で押さえて、目をそらしている。

「ごめんね、変なこと聞いて。忘れて」

 早口になって誤魔化したけど、頬が熱い。なんだか、みじめだ。きっと眠いせいで、口を滑らせてしまった。そうに決まってる。
 意味もなく問題集のページをめくっていると、リョウちゃんが、口元を覆ったまま僕をみた。

「……ハルくんは、俺がどんな人と遊んでるか、興味があるの?」
「な、ない」

 嘘だ。だけど素直に「ある」だなんて言えるはずなかった。
 うつむいて、ノートを開く。ハルくんの大きな手が、視界の端で、ゆるく握られた。

「俺は、ハルくんがどんな人と遊んでるか、興味あるよ」

 思わず、顔をあげた。リョウちゃんは熱っぽい目つきで、僕を見ている。
 その視線に射抜かれたみたいだ。身体が動かなくて、火照っていく。

「えっと、その……!」

 僕は慌てて、あちこちに視線をさまよわせた。リョウちゃんはじっと僕を見つめている。

「ハルくんがどんな人と付き合いがあって、一緒に遊ぶのか、気になる」
「それは、なんで?」

 リョウちゃんの顔を、なんでか見られなかった。うつむいて手元を見ると、リョウちゃんが浅く息を吐く音が聞こえる。

「なんでだろう。どう思う?」

 こっそり、リョウちゃんの表情を盗み見た。手で顔を覆っていて、どんな顔をしているかは分からない。
 僕はすっかりどぎまぎしてしまった。ちらちらとリョウちゃんを見ながら、もう、と言ってみせる。

「僕に聞かないでよ」

 そこでやっと、リョウちゃんは手を顔から離した。ふっと笑って、そうだね、と頷く。
 僕は逆に、恐る恐る、尋ねた。

「ねえ、リョウちゃん。なんでこんなに、僕へ構ってくれるの?」

 リョウちゃんは、目を丸くして「え」と言った。僕は慌てて、でも、言葉を撤回することはしない。

「恋を教えてもらうって話も、その……リョウちゃんは、好きな人が、いるらしいのに。だ、大丈夫なのかなって」

 思い切った。声はほんの少し震えて、顔はうつむきがち。だけど視線だけはあげて、リョウちゃんを見つめた。
 リョウちゃんは呆然としているように見える。しばらく経って、彼は、長く息を吐き出した。

「……俺に好きな人がいるか、気になる?」

 その低く掠れた声に、背筋がぞくぞくした。僕が思わず頷くと、リョウちゃんは、にこりと笑う。

「そう。俺は、それだけで十分だよ」

 答えになっていない。僕はじっとりとリョウちゃんをにらんだ。

「もう、……ちゃんと、こたえてよ……」

 そして、意識が限界だ。うつらうつらと船を漕ぎ始めた僕に、リョウちゃんが「大丈夫?」と声をかける。

「ん。ねむ……」

 目を擦る。リョウちゃんは頷いて、「無理しないで」と僕へ手を伸ばした。

「送ってくよ。今日、自転車?」
「うん」

 たしかに、図書館は居眠り禁止だ。ここで寝てはいけない。
 僕はなんとか立ち上がり、ふらふらしながら駐輪場に向かった。僕が自転車の鍵を開けると、リョウちゃんがハンドルを握ってスタンドを蹴る。

「自転車、危ないからよしといた方がいいね。……ハルくんの家より、うちの方が近いな。うち、来る?」
「うん……」

 リョウちゃんが何か言っている。僕は夢うつつのまま、こくりと頷いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

処理中です...