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16 修羅場
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俺は思わず、「は?」と目を剥いた。エーミールはとうとう瞼を閉じる。そして俯いて、手で顔を覆った。
そのうなじには、ばっちり、噛み跡があった。
どう考えても、アルファに――マニュエル様に、噛まれたんだろう。
「この野郎ッ……!」
俺は吠えた。俺は、エーミールの友達だ。友達が泣いているところを見過ごせなんかできない。思わず飛び出していきそうになった俺の肩を、ルイ様がはがいじめにする。エーミールは「違うんです」と、涙をぼろぼろこぼしながら言った。
「僕はたしかにずっと、マニュエル様をお慕いしていました。だけどそれだけです、今すぐにだって身を引けます。昨晩の思い出さえあれば十分です、だからどうか、マニュエル様を……」
「エーミール。それは聞けない。これは私のエゴだ。私だって、君を思っているんだから。君も頷いてくれただろう」
「だって、……本当に噛むだなんて、思わないじゃないですか! あなたみたいな高貴なお方が、僕なんかの、うなじを!」
「あれは私の気持ちを、君がやっと、信じてくれたと思ったんだ!」
頭に来ることばかりだ。俺は助走もつけずにテーブルを飛び越えて、マニュエル様とエーミールの側に立った。エーミールを抱き寄せて、マニュエル様をにらむ。
マニュエル様は穏やかに微笑んで――だけど、その目つきは、どこまでも冷ややかだった。
「エーミール。こちらへおいで」
エーミールは、怯えたように後ずさる。俺は半歩前に出て、庇ってやった。
それにまた、マニュエル様の表情がひくりと引きつる。
「アンジュ。そこをどいてくれ。これは私と、彼の問題だ」
「そちらこそ、エーミールが怯えているのが見えないんですか?」
アルファは怖い。俺よりずっと身体が大きいし、力も強いし。
だけど俺だって負けるものかと思う。怯えて震えている人を見て、放っておくなんて、できるわけない。
ルイ様も向こう側から回ってきて、マニュエル様に「落ち着け」と声をかけた。
もう朝食どころじゃない。俺はエーミールの肩を引き寄せて、耳元で囁いた。
「ごめんね、勝手に。どうしたの?」
エーミールは、僕にすがりついた。ごめん、と囁く。
「あのね、アンジュ……僕はマニュエル様に、むりやりされたわけじゃない。僕が、望んじゃったんだ……」
マニュエル様が、みるみるうちに顔をしかめる。だけど怒っているわけじゃなくて、ものすごく悲しくて、後悔しているって顔だ。
ルイ様はため息をついて、マニュエル様の手を引いて、部屋から出ていった。僕も、領主様ご夫妻をちらりと見る。二人とも呆然として、どこか遠くを見ていた。
「……エーミール。俺たちも行こう」
俺が手を引いて歩き出すと、エーミールは大人しくついてきてくれた。
先を行っていたルイ様が、俺たちに振り向く。
「俺はこの馬鹿を連れて別の場所に行く。お前たちは、俺の書斎を貸してやるから、そこで話し合え
俺は頷いて、エーミールの手を引いた。やっぱりエーミールは、大人しくついてきてくれた。
そのうなじには、ばっちり、噛み跡があった。
どう考えても、アルファに――マニュエル様に、噛まれたんだろう。
「この野郎ッ……!」
俺は吠えた。俺は、エーミールの友達だ。友達が泣いているところを見過ごせなんかできない。思わず飛び出していきそうになった俺の肩を、ルイ様がはがいじめにする。エーミールは「違うんです」と、涙をぼろぼろこぼしながら言った。
「僕はたしかにずっと、マニュエル様をお慕いしていました。だけどそれだけです、今すぐにだって身を引けます。昨晩の思い出さえあれば十分です、だからどうか、マニュエル様を……」
「エーミール。それは聞けない。これは私のエゴだ。私だって、君を思っているんだから。君も頷いてくれただろう」
「だって、……本当に噛むだなんて、思わないじゃないですか! あなたみたいな高貴なお方が、僕なんかの、うなじを!」
「あれは私の気持ちを、君がやっと、信じてくれたと思ったんだ!」
頭に来ることばかりだ。俺は助走もつけずにテーブルを飛び越えて、マニュエル様とエーミールの側に立った。エーミールを抱き寄せて、マニュエル様をにらむ。
マニュエル様は穏やかに微笑んで――だけど、その目つきは、どこまでも冷ややかだった。
「エーミール。こちらへおいで」
エーミールは、怯えたように後ずさる。俺は半歩前に出て、庇ってやった。
それにまた、マニュエル様の表情がひくりと引きつる。
「アンジュ。そこをどいてくれ。これは私と、彼の問題だ」
「そちらこそ、エーミールが怯えているのが見えないんですか?」
アルファは怖い。俺よりずっと身体が大きいし、力も強いし。
だけど俺だって負けるものかと思う。怯えて震えている人を見て、放っておくなんて、できるわけない。
ルイ様も向こう側から回ってきて、マニュエル様に「落ち着け」と声をかけた。
もう朝食どころじゃない。俺はエーミールの肩を引き寄せて、耳元で囁いた。
「ごめんね、勝手に。どうしたの?」
エーミールは、僕にすがりついた。ごめん、と囁く。
「あのね、アンジュ……僕はマニュエル様に、むりやりされたわけじゃない。僕が、望んじゃったんだ……」
マニュエル様が、みるみるうちに顔をしかめる。だけど怒っているわけじゃなくて、ものすごく悲しくて、後悔しているって顔だ。
ルイ様はため息をついて、マニュエル様の手を引いて、部屋から出ていった。僕も、領主様ご夫妻をちらりと見る。二人とも呆然として、どこか遠くを見ていた。
「……エーミール。俺たちも行こう」
俺が手を引いて歩き出すと、エーミールは大人しくついてきてくれた。
先を行っていたルイ様が、俺たちに振り向く。
「俺はこの馬鹿を連れて別の場所に行く。お前たちは、俺の書斎を貸してやるから、そこで話し合え
俺は頷いて、エーミールの手を引いた。やっぱりエーミールは、大人しくついてきてくれた。
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