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18 エーミールの事情
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エーミールは俺に抱きついて、ひたすらに「ごめんなさい」と泣きじゃくった。俺としては、エーミールの悪いところがよく分かる。だって俺もオメガで、エーミールの友達だからだ。エーミールのやったことは、あまりにも自分勝手だ。
そしてだからこそ、マニュエル様にも腹が立つ。エーミールが思い詰めてしまった理由はよく分からないけど、だからといって、応えたマニュエル様もマニュエル様だ。
どっちが良いとも悪いとも思えなくて、俺は悶々とした。
「いいよ、エーミール。一個ずつだ」
だから昔、弟のフランクを叱った時と同じように、話の中身を整理していくことにした。
エーミールは、マニュエル様が好きだということ。
マニュエル様に告白したこと。それを受け入れてもらったこと。
エーミールがヒートになったこと。その時、番になってほしいと頼んだこと。
そして全てが終わった後、エーミールが、ぜんぶなかったことにしたがったこと。
マニュエル様は、それを拒んだこと。
マニュエル様は嫌がるエーミールを連れて、朝食の場に向かったこと。
そしてマニュエル様はエーミールとの結婚を宣言して、家の相続を放棄しようとしていること。
そうすると、だんだんエーミールの呼吸が落ち着いてくる。深く息を吐いて、エーミールは「ごめんね」と呟いた。これまでとは違って、ちゃんと反省と後悔のこもった、混乱のない声色だった。
「僕が悪い。この件は、ちゃんとマニュエル様と、話し合わなくっちゃ」
俺はなんとも言えなくて、エーミールの背中を叩いてやるしかできない。俺はマニュエル様が、家督争いから抜けたがっていたと知っている。
エーミールは、それを知っているんだろうか。
確かめたいけど、それをしたところで、何になるんだろう。結局これは、エーミールと、マニュエル様の間の問題で……。
俺がぐるぐる考え込んでいる間に、扉がノックされた。俺はエーミールをそっと離して立ち上がり、扉をそっと開ける。
立っていたのはルイ様だった。その後ろには、マニュエル様も立っている。二人とも頭がぼさぼさだった。よく見ると、服もよれている。
「何があったんですか?」
俺が低く声をひそめると、ルイ様は「気にするな」と首を横に振った。はぁ、と間の抜けた返事をすると、ルイ様はとんとんと指で扉を開く。声をひそめて、俺にしか聞こえないように話した。
「エーミールに聞いてくれ。マニュエルが、お前と話したがっているんだが、相手をしてくれるかどうか」
それはどうだろうか。エーミールは二つ返事で「はい」と言うだろうけど、今この二人だけで話をさせるのは、危ない気がする。
俺が首を傾げると、ルイ様はすべて心得ているように、頷いた。
「俺が仲介役をする。お前も、話し合いに同席しろ」
俺は少しびっくりして、「え」と声を漏らしてしまった。踵も少しだけ浮く。
その様子に、ルイ様は「平等じゃない」と人差し指を立てた。
「俺はエーミールの味方のつもりだが、エーミールからしたら、俺はマニュエル側の人間だろう。エーミールだけの味方が、落ち着いた話し合いには必要だ」
それは本当に、俺でいいんだろうか。
悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。エーミールだ。
彼は真っ直ぐルイ様を見上げて、「何かご用ですか」と尋ねる。
ルイ様は片眉をひょいと上げて、唇をニッと引き結んだ。
「マニュエルが、お前と話したがっているんだ、という話だ」
俺の心臓が、少しだけ跳ねる。エーミールは深呼吸をして、俺を見た。青い瞳は澄んだまま、俺に向かって、にこりと微笑みかけた。
「アンジュ。同席してくれると、嬉しいな」
「俺でいいの?」
「うん。君以外にいないよ」
おねがい、と囁かれて、俺は自分の頭をかいた。
だけど、友達の頼みだ。ここで話を無碍にしないくらいには、俺は友達としての甲斐性のある奴でいたい。
「分かった」
俺の返事に、エーミールはほっとしたように、肩の力を抜いた。
マニュエル様をちらりと見る。彼はずっと不安げな表情で、エーミールを見つめていた。
そしてだからこそ、マニュエル様にも腹が立つ。エーミールが思い詰めてしまった理由はよく分からないけど、だからといって、応えたマニュエル様もマニュエル様だ。
どっちが良いとも悪いとも思えなくて、俺は悶々とした。
「いいよ、エーミール。一個ずつだ」
だから昔、弟のフランクを叱った時と同じように、話の中身を整理していくことにした。
エーミールは、マニュエル様が好きだということ。
マニュエル様に告白したこと。それを受け入れてもらったこと。
エーミールがヒートになったこと。その時、番になってほしいと頼んだこと。
そして全てが終わった後、エーミールが、ぜんぶなかったことにしたがったこと。
マニュエル様は、それを拒んだこと。
マニュエル様は嫌がるエーミールを連れて、朝食の場に向かったこと。
そしてマニュエル様はエーミールとの結婚を宣言して、家の相続を放棄しようとしていること。
そうすると、だんだんエーミールの呼吸が落ち着いてくる。深く息を吐いて、エーミールは「ごめんね」と呟いた。これまでとは違って、ちゃんと反省と後悔のこもった、混乱のない声色だった。
「僕が悪い。この件は、ちゃんとマニュエル様と、話し合わなくっちゃ」
俺はなんとも言えなくて、エーミールの背中を叩いてやるしかできない。俺はマニュエル様が、家督争いから抜けたがっていたと知っている。
エーミールは、それを知っているんだろうか。
確かめたいけど、それをしたところで、何になるんだろう。結局これは、エーミールと、マニュエル様の間の問題で……。
俺がぐるぐる考え込んでいる間に、扉がノックされた。俺はエーミールをそっと離して立ち上がり、扉をそっと開ける。
立っていたのはルイ様だった。その後ろには、マニュエル様も立っている。二人とも頭がぼさぼさだった。よく見ると、服もよれている。
「何があったんですか?」
俺が低く声をひそめると、ルイ様は「気にするな」と首を横に振った。はぁ、と間の抜けた返事をすると、ルイ様はとんとんと指で扉を開く。声をひそめて、俺にしか聞こえないように話した。
「エーミールに聞いてくれ。マニュエルが、お前と話したがっているんだが、相手をしてくれるかどうか」
それはどうだろうか。エーミールは二つ返事で「はい」と言うだろうけど、今この二人だけで話をさせるのは、危ない気がする。
俺が首を傾げると、ルイ様はすべて心得ているように、頷いた。
「俺が仲介役をする。お前も、話し合いに同席しろ」
俺は少しびっくりして、「え」と声を漏らしてしまった。踵も少しだけ浮く。
その様子に、ルイ様は「平等じゃない」と人差し指を立てた。
「俺はエーミールの味方のつもりだが、エーミールからしたら、俺はマニュエル側の人間だろう。エーミールだけの味方が、落ち着いた話し合いには必要だ」
それは本当に、俺でいいんだろうか。
悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。エーミールだ。
彼は真っ直ぐルイ様を見上げて、「何かご用ですか」と尋ねる。
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「マニュエルが、お前と話したがっているんだ、という話だ」
俺の心臓が、少しだけ跳ねる。エーミールは深呼吸をして、俺を見た。青い瞳は澄んだまま、俺に向かって、にこりと微笑みかけた。
「アンジュ。同席してくれると、嬉しいな」
「俺でいいの?」
「うん。君以外にいないよ」
おねがい、と囁かれて、俺は自分の頭をかいた。
だけど、友達の頼みだ。ここで話を無碍にしないくらいには、俺は友達としての甲斐性のある奴でいたい。
「分かった」
俺の返事に、エーミールはほっとしたように、肩の力を抜いた。
マニュエル様をちらりと見る。彼はずっと不安げな表情で、エーミールを見つめていた。
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