婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ

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義弟が宰相代理になったけど、彼は賢いので何か考えがあるのでしょう

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 その知らせは、私の起き抜けにやってきた。
 二日酔いで痛む頭を抱えていると、お付きのメイドであるメアリーが駆け込んできたのだ。

「お嬢様、大変です。宰相閣下が急に倒られてしまいました!」
「まあ……。エドガーは王宮勤めだから、今頃とても大変でしょうね」

 そんな中、出戻りのようなことをしていて申し訳ない。私がベッドの上で膝を抱えると、「いえ、まだこの話には続きがあって」とメアリーが続ける。

「エドガー様が、宰相代理になられたのです」

 私は、窓の外にゆっくり目をやった。空は青く晴れ渡り、のんきなちぎれ雲がぽつぽつと浮かんでいる。

「気つけが欲しいわ。ウォッカを」
「はい」
「冗談よ」

 ふう、とため息をついてベッドから降りる。メアリーはいつもの調子で私の服を用意してくれた。実家にいるときは、いつも落ち着いた淡い色合いのドレスを着ている。

 着替え終わって食堂に向かうと、既に両親が先にいてあれこれと喋っていた。エドガーの姿はない。

「たしかにエドガーは優秀な子だが、まさか二十一歳でここまで出世するとはなぁ」
「ええ。ローラン家の立派な跡取りになるのだと、幼い頃からがんばっていましたもの」

 よよよ、とお母さまが目元を抑える。その肩をお父さまが抱いて、そっと叩いた。

「無理をしていないか心配したものだが、杞憂だったなぁ。ロゼ、ロゼ、と後をついてまわっていたあの子が……」
「本当に、自慢の息子ですこと」

 そして、見つめ合う。私は気にせず「おはようございます」と挨拶をして、自分の席についた。おお、と両親が微笑んでこちらを向く。
 お母さまがお父さまから身体を離して、少し私の方へ身を乗り出した。

「おはよう、ロゼ。話は聞いたかしら?」
「ええ、伺っております。エドガーが宰相代理になったんですって?」

 それを聞いた両親はわざわざ立ち上がり、私をひしと抱きしめた。お父さまが私に頬擦りするけれど、立派な髭が当たってくすぐったい。

「そうだ。本当に、エドガーは立派だなぁ」

 お父さまの言葉に、そうねぇと私ものんびり同意する。お母さまは「だけど、それもロゼのおかげよ」と私の背中をさすった。

「エドガーがこんなに立派ななったのは、ロゼがいてくれたからよ」
「私?」

 驚いた声を上げると、ええ、と頷く。

「養子に来たばかりのエドガーときたら、新しい親になる私たちのことを全然信用してくれなくて、全然口をきいてくれなくて」

 くすくすと、懐かしむように笑う。もう十年も前なのね、と彼女はしみじみ呟いた。

「それが、ロゼを見た瞬間に『あのかわいい子は誰』と言ったのよ。それからずっと、ロゼにふさわしい男になるのだとがんばってきたの。すごい子ね」

 お父さまは腕を広げてお母さまを引き寄せ、「すべて、お前たちのおかげだ」と涙ぐんだ。

「私は愛しい妻、愛する娘と息子に恵まれて幸せ者だ」
「もう、あなたったら。私もそうですわ」

 なんだか、酒カスの行き遅れ娘で申し訳ない。私が二人の背中を宥めるように叩いていると、結構な勢いで扉が開いた。

「ロゼ! お父さま、お母さま!」

 エドガーが飛び込んできた。さっと両親は私を離して、代わりに彼が私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「はあ、ロゼ……会いたかった。君のいない俺の視界は灰色だよ。君がいないのに残業ばかりの職場を、何度爆発させてやろうと思ったか」
「まあまあ。滅多なことを言ってはいけないわ」

 エドガーはとても賢くていい子だけど、こういう大袈裟な言い方が玉に瑕だ。

 そういえば、ついさっき聞いた話を忘れていた。彼は宰相代理になったのだ。
 私は慌ててエドガーに向き直り、背伸びをして頬に口付ける。彼に大変なことがあったとき、こうして慰めるのが私たち姉弟の習慣だった。

「宰相代理になったんですって? 大変ね。あまり無理しないでね」
「ううん。このために頑張ってきたというか……」

 すごく晴れやかな顔だ。このために頑張ってきたということは、こうなることを予測していたのだろうか。
 いや、賢い義弟のことだ。私には分からないけれど、きっと深い考えがあるのだろう。
 エドガーも身をかがめ、私の頬に口付ける。ちゅ、という湿ったリップ音が恥ずかしくて頬を染めると、彼の大きくて熱い手が私を撫でる。

「りんごみたいでかわいい。もう少しだけ、待っていてね」

 エドガーが、うっとりした顔で言う。

「俺が法律を変えられるようになったんだ。そうしたら、俺とロゼで幸せになれるよ」

 どうやら、義弟は私を幸せにしようと頑張ってくれているらしい。それがどういう方法かはちょっと分からないけれど、きっと深い考えがあるに違いない。

 だけど、と私は思った。

 このまま私が独身で居続けたら、私だけではなく家族の世間体が危ない。
 それにエドガーが結婚したとき、私がその新婚生活を邪魔するのは絶対に嫌。だってエドガーは、血が繋がっていないとはいえ、私のかわいいかわいい弟なのだから……。

 なぜかつきんと胸が痛んだけれど、私はエドガーを真っ直ぐに見上げる。その蕩けるような表情の色っぽさに、一瞬くらりとした。
 なんとか姿勢を立て直して、私はエドガーに宣言する。

「よく分からないけれど、私もあなたたちのために頑張るわね」
「ううん。ロゼには、俺だけを応援してほしいな」

 うーん? と、私は首を傾げた。なんだか、また話が噛み合っていない気がする。

 だけど、賢い義弟の言うことだ。きっと何か考えがあるのだろう。

 私はその次の日、新たな縁談を求めて出かけていった。エドガーには、もちろん内緒で。
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