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「……こういうの、使ってるのか」
斎藤の声はかすれていた。
軽蔑されていたらどうしよう、という考えが真っ先に頭をよぎった。だけど全部手遅れだ、とすぐに悟った。
どう答えるのが正解だろう。黙っていたら、勝手に斎藤が答えを出してくれないか。
斎藤はひたすらに、俺の顔をまっすぐに見つめる。
「これはお前が、一人で使っているのか? それとも誰かと使っているのか?」
「せ、セクハラだって……」
かすれた声でなんとか反論すると、「それは後で詫びる」と頓珍漢な返答があった。
「答えてほしい」
俺の頭全体が熱くなって、ゆだったように頭が回らない。心臓がどくどくうるさく鳴って、喉がからからに乾いていく。
「お、俺がひとりで使ってるけど。なんか悪い?」
開き直った言葉が口から飛び出していく。
情けなくて、恥ずかしくて、いたたまれなくて、涙がにじんだ。
「恋人もいないのに尻の穴使ってオナる変態だけど、わ、悪かったな。もういいよ……」
「坂部」
斎藤が俺を呼ぶけど、俺はゆっくりと後ずさった。顔を見ていられないし、気まずい。
俺がだれを想いながら使っていたかって、そりゃあ、こいつに決まっているんだから。
「ごめん。ひ、引いただろ。今日はもう、帰ってほしい……」
明日からのことなんか何も考えずに、俺は斎藤を追い出すことにした。
だけど斎藤はあろうことか、逃げ出そうとする俺の足首を掴む。
「待て。坂部、俺が悪かった。すまない」
本当に自分が悪いと思っている、切羽詰まった声だった。
俺はいよいよ涙腺が決壊する。斎藤の掌の熱ささえみじめだ。じわじわと涙があふれて、頬をつたっていった。
「いや……いいよ。気になるよな、同僚がこんなの使ってたら。こっちこそ冗談流せなくてごめん」
「違う。坂部、傷つけてごめん。そういうんじゃないんだ」
「じゃあ、どういうのだよぉ……」
俺はすすり泣きながら斎藤をにらんだ。
斎藤は深く息を吐いて、俺へ向き直った。俺の足首を掴んでいた手が膝へと置かれる。正座をして、へたりこんだ俺と向き合った。斎藤の方が視線が高くて、俺は見上げる形になる。
「妬いたんだ」
「やいた……? なにを?」
言葉をうまく頭の中で変換できなくて、首をかしげる。
斎藤は赤い顔をますます赤くして、うなった。
「お前が他の人と、これを使っているのかと思って、妬いた。それでお前に変な質問をして……傷つけて、ごめん」
そして深々と頭を下げられる。俺はぼんやりと、その右巻きのつむじを見つめていた。
「……斎藤って、もしかして、俺のこと」
「好きなんだ」
血のにじむような声で、斎藤が告白する。
俺もなんとなく正座をして、居住まいを正す。
斎藤は頭を下げたままだ。
「頭あげてよ」
それでもまだ、頭はあがらない。俺は「いいから」と焦れて、彼の肩を叩いた。
「そりゃあ斎藤の質問、めちゃくちゃデリカシーなかったし、失礼だったし、最悪だけど」
「はい……」
俺の罵倒を、斎藤は甘んじて受け入れてくれるようだった。
どうしたものかと考えながら、俺は思い切って斎藤の上へ覆いかぶさってみた。
「……なんだ?」
斎藤のつむじの上に頭を乗せて、腕を組む。ぎゅうぎゅうと奴の頭を下へ抑え込んだ。
「いいよ。斎藤になら」
俺の口から、ぽろりと本音がこぼれた。斎藤の頭がぐんと持ち上がって、ひょろがりの俺は弾き飛ばされる。床の上にぺちょっと倒れた。
だけど斎藤の手が、俺の腕を引いて起こした。斎藤は俺の肩に手を置いて、じっと顔を見つめてくる。
「それはなんでだ?」
言わせないでほしいとうんざりする。だけど言わなきゃ分からないんだろうと観念して、俺はため息をついた。
「さ、……斎藤が、すきだから」
どもってしまったし、小声の告白だ。
だけど斎藤は聞き逃さなかったみたいで、俺を抱きしめる。そのぎゅうぎゅうと強い力に俺は思わず笑った。
「なんだよ、もう……」
「いや。まさか……そんなことがあるなんて……」
「うん、そうだよな。お前って女の子にモテるもんな」
「そうじゃなくて。それに今、それは関係ないだろ」
俺たちは微妙にかみ合わない会話をしながら、お互いの身体を抱きしめた。密着すると、お互いにどきどきしているのがよく分かる。
こんなのは初めてだ。頭がふわふわする。俺が黙って斎藤の首筋へ懐いていると、ふと身体が離れる。
顔が近づいて、唇へやわらかくて温かい感触があった。
斎藤が気の抜けた顔で笑う。
「キスだよ。嫌だった?」
「いや、では……」
今度は俺から顔を近づけた。斎藤から顔を近づけてくれて、はじめての俺でも難なくキスできた。
斎藤の声はかすれていた。
軽蔑されていたらどうしよう、という考えが真っ先に頭をよぎった。だけど全部手遅れだ、とすぐに悟った。
どう答えるのが正解だろう。黙っていたら、勝手に斎藤が答えを出してくれないか。
斎藤はひたすらに、俺の顔をまっすぐに見つめる。
「これはお前が、一人で使っているのか? それとも誰かと使っているのか?」
「せ、セクハラだって……」
かすれた声でなんとか反論すると、「それは後で詫びる」と頓珍漢な返答があった。
「答えてほしい」
俺の頭全体が熱くなって、ゆだったように頭が回らない。心臓がどくどくうるさく鳴って、喉がからからに乾いていく。
「お、俺がひとりで使ってるけど。なんか悪い?」
開き直った言葉が口から飛び出していく。
情けなくて、恥ずかしくて、いたたまれなくて、涙がにじんだ。
「恋人もいないのに尻の穴使ってオナる変態だけど、わ、悪かったな。もういいよ……」
「坂部」
斎藤が俺を呼ぶけど、俺はゆっくりと後ずさった。顔を見ていられないし、気まずい。
俺がだれを想いながら使っていたかって、そりゃあ、こいつに決まっているんだから。
「ごめん。ひ、引いただろ。今日はもう、帰ってほしい……」
明日からのことなんか何も考えずに、俺は斎藤を追い出すことにした。
だけど斎藤はあろうことか、逃げ出そうとする俺の足首を掴む。
「待て。坂部、俺が悪かった。すまない」
本当に自分が悪いと思っている、切羽詰まった声だった。
俺はいよいよ涙腺が決壊する。斎藤の掌の熱ささえみじめだ。じわじわと涙があふれて、頬をつたっていった。
「いや……いいよ。気になるよな、同僚がこんなの使ってたら。こっちこそ冗談流せなくてごめん」
「違う。坂部、傷つけてごめん。そういうんじゃないんだ」
「じゃあ、どういうのだよぉ……」
俺はすすり泣きながら斎藤をにらんだ。
斎藤は深く息を吐いて、俺へ向き直った。俺の足首を掴んでいた手が膝へと置かれる。正座をして、へたりこんだ俺と向き合った。斎藤の方が視線が高くて、俺は見上げる形になる。
「妬いたんだ」
「やいた……? なにを?」
言葉をうまく頭の中で変換できなくて、首をかしげる。
斎藤は赤い顔をますます赤くして、うなった。
「お前が他の人と、これを使っているのかと思って、妬いた。それでお前に変な質問をして……傷つけて、ごめん」
そして深々と頭を下げられる。俺はぼんやりと、その右巻きのつむじを見つめていた。
「……斎藤って、もしかして、俺のこと」
「好きなんだ」
血のにじむような声で、斎藤が告白する。
俺もなんとなく正座をして、居住まいを正す。
斎藤は頭を下げたままだ。
「頭あげてよ」
それでもまだ、頭はあがらない。俺は「いいから」と焦れて、彼の肩を叩いた。
「そりゃあ斎藤の質問、めちゃくちゃデリカシーなかったし、失礼だったし、最悪だけど」
「はい……」
俺の罵倒を、斎藤は甘んじて受け入れてくれるようだった。
どうしたものかと考えながら、俺は思い切って斎藤の上へ覆いかぶさってみた。
「……なんだ?」
斎藤のつむじの上に頭を乗せて、腕を組む。ぎゅうぎゅうと奴の頭を下へ抑え込んだ。
「いいよ。斎藤になら」
俺の口から、ぽろりと本音がこぼれた。斎藤の頭がぐんと持ち上がって、ひょろがりの俺は弾き飛ばされる。床の上にぺちょっと倒れた。
だけど斎藤の手が、俺の腕を引いて起こした。斎藤は俺の肩に手を置いて、じっと顔を見つめてくる。
「それはなんでだ?」
言わせないでほしいとうんざりする。だけど言わなきゃ分からないんだろうと観念して、俺はため息をついた。
「さ、……斎藤が、すきだから」
どもってしまったし、小声の告白だ。
だけど斎藤は聞き逃さなかったみたいで、俺を抱きしめる。そのぎゅうぎゅうと強い力に俺は思わず笑った。
「なんだよ、もう……」
「いや。まさか……そんなことがあるなんて……」
「うん、そうだよな。お前って女の子にモテるもんな」
「そうじゃなくて。それに今、それは関係ないだろ」
俺たちは微妙にかみ合わない会話をしながら、お互いの身体を抱きしめた。密着すると、お互いにどきどきしているのがよく分かる。
こんなのは初めてだ。頭がふわふわする。俺が黙って斎藤の首筋へ懐いていると、ふと身体が離れる。
顔が近づいて、唇へやわらかくて温かい感触があった。
斎藤が気の抜けた顔で笑う。
「キスだよ。嫌だった?」
「いや、では……」
今度は俺から顔を近づけた。斎藤から顔を近づけてくれて、はじめての俺でも難なくキスできた。
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