野犬公の愛人

鳥羽ミワ

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16.5 睦言

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 エリックのローブを脱がせる指先の震えが、いやに気になった。

 レオポルトは脱がせたローブの布地をゆるやかに引っ張り、几帳面に畳んで、ベッドヘッドへと置く。その丁寧な仕草がくすぐったい。

「エリック」

 名前を呼びながら、レオポルトがエリックのシャツの裾に指を入れる。
 ひゃ、と声を上げると、「かわいい」とレオポルトがうわごとのように言った。

「触っていいか?」

 今更だ。エリックがくすくす笑うと、「いいんだな」と言って、レオポルトが腹を撫でた。

「んう、ん」

 エリックの腰が、ひくりと揺れる。レオポルトはぎこちない手つきでエリックの腰のベルトを外し、放り投げた。
 ズボンの留め具を外し、そっと下へ引く。そのわずかに擦れる布地の感触にすら、エリックは動揺した。

 レオポルトはさらに、震えるエリックの首筋に手を伸ばした。指の腹で何度も動脈の上を往復して、「かわいい」とまた呟く。

「かわいく、なんか」

 反抗するようにぼそぼそと呟くと、キスで唇を塞がれた。今度は舌を差し出されて、エリックは必死でそれを吸った。水音が耳の内側に反響して、おかしくなりそうだ。

 その間にも、レオポルトの手が身体を這う。あちこち触られている間に、気づくとエリックはほとんど裸になっていた。

 シャツはかろうじて手首に引っかかっていて、下半身に着ているものは靴下だけだ。思わず叫ぶ。

「これじゃ、変態みたいじゃないですか!」

 抗議すると、「かわいいぞ」とまたキスで口封じされた。
 エリックは諦めて目を閉じ、レオポルトの唇と舌を味わう。レオポルトの方はと言えば、多少髪型が崩れているくらいで、衣服の乱れはない。

 それが気に食わなくて、エリックは薄目を開ける。制服の襟元を、手探りで指に引っ掛けた。くいくいと引っ張ると、あちらも意図を察したらしい。

 レオポルトは、自ら制服を脱ぎ始めた。禁欲的なマントやジャケットは無造作に脱ぎ捨てられ、やがてたくましい裸体がエリックの前に現れる。

 カーテン越しの昼の光に、一糸まとわぬその肌は、眩しいくらいだった。思わず目を逸らすエリックの手を取って、レオポルトは笑う。

「ほら、エリック。見てくれ」
「や、はずかしい……」

 つまり自分の身体も、これくらいはっきり見えているということだ。恥じらって俯くエリックの頬に、レオポルトの唇が触れる。

「俺は恥ずかしくない」
「そりゃあ、あなただったら、そうでしょうけど……」

 いっそ密着したら、見られなくて済むのだろうか。えいと抱き着くと、レオポルトが固まった。

「ん」

 触れ合う素肌の温度や、少し汗ばんでいるせいで、ぴったりと吸い付くような感触が気持ちいい。エリックはとろとろと目を閉じて、レオポルトの身体にしがみついた。
 下腹部に違和感があって目を開けると、レオポルトがエリックの肩口に唇で触れた。

「ひん」

 さっきから、情けない悲鳴ばかり上げている。ぼんやりしながらも恥じらうエリックをよそに、レオポルトはその肌をむさぼるように舐めた。皮膚を這いずり回る舌の、ぬるつく生々しい感触に、エリックはひくひく震えることしかできない。

「ふへ、お、おいしい、ですか……?」

 ごまかすように笑えば「おいしい」と真剣な声で返される。エリックは何も言えなくなって、口をつぐむしかなかった。

 レオポルトは、一心不乱にエリックの身体を愛撫した。
 肌を舐め、胸の尖りを指の腹でこねる。まんべんなくエリックを撫でさすり、耳元で「かわいい」と囁く。

 そのたびにエリックの身体は跳ねて、あんあんと情けなく喘いだ。

「あ、も、もぉ……」

 すすり泣いているのか、笑っているのか、エリック自身にもよく分からなかった。
 エリックの股間のものはぷっくりと勃起して欲を主張していたし、レオポルト自身もそうなっていた。

 内腿にその熱が触れるたびに、エリックの腰が反ってしまう。

「これは、気持ちいいか?」

 きゅう、と乳首をつまんで、軽くひねられる。エリックは甲高い嬌声をあげた。涙が一粒、目じりからころりと落ちる。

「は、はい」

 エリックが感じていることを確認するたび、レオポルトは満足げにした。エリックはその表情を見るたびに、胸が甘く疼いて仕方ない。

 レオポルトは、延々エリックの身体をいじった。エリックが快感を得ていることを確認すれば、さらに強い刺激を加えた。
 そのおかげでエリックは、股間のものを触られていないのに、何度か達してしまっていた。腹の上は出したものでぐちゃぐちゃだ。

 そして相変わらず、レオポルトは乱れるエリックを見て、うっとりと目を細める。

「どこもかしこも敏感で、かわいいな……」

 エリックはなんとか身体を起こして、腕をレオポルトの股間へ伸ばした。レオポルトはわずかに逃げるが、腰を掴んで引き寄せる。

「あなたばっかり、ずるいです」

 そう囁いて、エリックはレオポルト自身をしっかりと掴む。先走りですっかり濡れそぼったそこに、思わず息をのんだ。

「濡れてる……」
「言うな」

 拗ねたようなレオポルトの声に、思わず笑ってしまった。

「さっきまで、散々僕をいじめていた人が、何を言うんですか」
「いじめてなどいない」
「いじめてましたよ」

 エリックはくすくす笑いながら、ゆっくりそこを扱く。レオポルトのものは、エリックのものより、ずっと大きかった。

「ふとい……おっきい……」

 うわごとのように呟くと、それはますます硬くなり、天を向く。
 あからさまだと笑えば、キスで口をふさがれた。

「んむ、ふ、んふふ」

 レオポルトの手が、エリックのものに触れる。そして包まれて、ゆっくりと扱きはじめた。エリックのつま先がきゅうと丸まって、甘い声が漏れる。

「あ、も……ぼく、いま、いそがし」
「俺は身体を刺激されるより、お前がそうなっているのを見る方が、気持ちいい」

 そんなことを言われたら、たまらない。エリックはべとべとに汚れた身体をレオポルトへ寄せて、腰を誘うように振った。レオポルトの腰も揺れて、二人の腰がぶつかり合う。お互いの先走りが混じって、卑猥な水音が立った。

 エリックの胸が、きゅうと切なくなる。どくどくと心臓が脈打ち、これまで感じたことのない高揚があった。

「いき、そ」

 そのうわごとを食べるように、レオポルトがキスをした。エリックも必死でその唇へ吸いつく。二人は必死に、お互いの手の中へ腰を振った。

 先に達したのはエリックだった。くぐもった悲鳴を上げて、レオポルトの手の中へ精を吐き出す。それを追うようにレオポルトも達した。

 エリックの掌の中で、レオポルトのものが脈打つ。ぱたぱたと下腹部へ落ちて混じり合う精を眺めて、エリックは全身の力を抜いた。ベッドへ沈みこむように、深く息を吐く。

 それを追うように、レオポルトはエリックへと覆いかぶさった。キスをねだられて、エリックは口を開ける。レオポルトが、きゅうと目を細めて笑った。

「かわいい」

 別にかわいくなんてない。エリックの反論は、レオポルトに食べられてしまった。
 二人は午後の光の中、どこまでもお互いを求めあった。
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