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エピローグ
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あの嵐のような行為の後、二人は同じ寝室で眠った。
そして満月も沈みかける頃だ。レオポルトは、ふと目を覚ました。隣ではエリックが、健やかな寝息を立てて眠っている。長旅の疲労に、謁見の緊張や先ほどの行為が重なったせいか、眠りは随分と深そうだ。
長らくぶりの、自室で過ごす夜だった。身体を起こして、天蓋を開け、ベッドから降りる。傾いた月明かりがさっと差し込み、部屋の中を照らした。
レオポルトはぼんやりと、その光景を眺めた。
木材の端が傷んだ、優美なつくりの家具。空っぽで、埃を被ったアクセサリー入れ。主人のいないクローゼット。
それらへの愛着や執着の全てを過去にして、レオポルトは、これからを生きることにした。
ベッドの方から、衣擦れの音がする。見れば、エリックが寝返りを打っていた。かわいくて、愛しくて、何度見ても笑ってしまう。
これからレオポルトが、守っていかなければならない、大切な人だ。
エリックの側は、今までのどこよりもずっと、レオポルトにとって息がしやすい場所だった。
母親の最期を思い出す。太い血管を自ら切って、血の海に沈みながら、レオポルトに恨み言を吐いた。子を残さない親不孝者だとか、故郷の人々に顔向けできないだとか、気持ち悪いだとか、泣きながらレオポルトを責めた。
そして最期の最期、まともに産んであげられなかったと詫びながら、彼女は手当の甲斐なく死んでいった。
本当はレオポルトに、あんなことを言いたくなかったかもしれない。そんな甘い期待を、何年経っても捨てられないでいる。だってたしかに、彼女は、レオポルトを愛してくれていたのだから。
でなかったら、レオポルトに、季節の花を見せなどしなかっただろう。愛する故郷の話もしなかっただろう。
レオポルトが感性を殺さずに育つことができたのは、母親のおかげだ。
痛む胸を押さえて、レオポルトは窓辺に立つ。西の空に浮かぶ月を見上げた。
(だけど、母さん。俺はこういう風に生まれたから、エリックと出会えて、愛し合えたんだよ)
目を閉じて、亡き母親に思いを馳せる。
優しい人だった。故郷に残っている家族や、友人や、彼女の老いた母のことをいつも心配していた。
そんな愛すべき人が、あんな死に方をしていいはずがない。そう思い続けて、これまでを生きてきた。母親の無念を晴らすために生きて、自分の命でもって、償わなければいけないと思った。
だけどこれからは、そうではない。レオポルトはカーテンを閉めて、ベッドへ戻った。健やかな寝息を立てるエリックの横に寝そべって、安らかな寝顔を見つめる。
「かわいいな……」
そして頼もしく、向こう見ずで勇敢な、レオポルトの大切な人。
頬を指の背で撫でると、ふにゃりと笑った。
「子猫みたいだ」
はやく朝が来てほしいと思う。あの金色の瞳でレオポルトを見つめて、おはようございますと言ってほしい。そんな生活をずっと続けたい。
そうして、いつまでも、二人で幸せに暮らしたい。
できるかな、と自問する。やるしかないだろう、と、すぐに答えが出る。
レオポルト自身はどうなったって構わない。だけどレオポルトが幸せにならなければ、エリックは苦しんでしまうだろう。エリックも、母に負けず劣らず、優しい人だから。
レオポルトが、日の当たる場所が似合うエリックを、こんなところにまで引き込んでしまったのだ。だからエリックを幸せにするのが、レオポルトの義務だ。
ちゃんとレオポルトも幸せにならなければいけないのが、難しいところだった。なぜならレオポルトはこれまでに、散々汚いことをやってきたからだ。罪も償わずに生きてきたからだ。
しかし、ドミニクを倒す以外に、生きる理由を見つけてしまった。ならば、そう生きるしかない。
布団をかぶって、目を閉じる。エリックの手を握りしめた。
エリックをレオポルトの人生に巻き込んで、手放してやれる機会は、きっともう訪れない。その気もない。
手放してやろうかと真実を話しても、エリックは、怯みもしなかった。
それがどうしようもなく嬉しくてたまらなくて、レオポルトは諦めることを諦めたのだ。
足掻いて、足掻き切って、二人で幸せになる。これまでやこれからのしがらみが追いかけてこようとも、逃げ切ってやる。
それが今のレオポルトの、たったひとつの行動原理だ。
ちいさな手に指を絡めて、あいしてる、と呟く。その言葉は胸の中で大きな炎となって、いつまでも燃え盛っている予感がした。
もぞもぞとエリックが身じろぎをする。ゆっくりと瞼が開いて、金色の瞳がのぞいた。
「……レオポルト殿下?」
「すまない、起こしてしまったか」
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。本当に猫のようだった。
エリックはレオポルトの手を解いて、抱きついてくる。甘えたな仕草に、思わず笑い声が漏れた。
「なんだ。甘えん坊だな」
からかうように言うと、「はい」と素直に認める。たまらなく愛しくなって、レオポルトは丸い頭を撫でた。
エリックが唇を寄せてくる。それを自ら迎えに行って、キスをした。ちろりと舌で舐められて、目を丸くする。
彼は恥じらうように、目を伏せた。
「ごめんなさい。したくなっちゃって……」
かわいいおねだりだ。レオポルトはたまらなくなって、エリックの上に被さった。エリックも自ら腕を伸ばし、レオポルトに抱きつく。
野犬公とその愛人の夜は、まだまだ終わりそうにない。
-------------
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
面白かったら感想などいただけますと、大変励みになります。
そして満月も沈みかける頃だ。レオポルトは、ふと目を覚ました。隣ではエリックが、健やかな寝息を立てて眠っている。長旅の疲労に、謁見の緊張や先ほどの行為が重なったせいか、眠りは随分と深そうだ。
長らくぶりの、自室で過ごす夜だった。身体を起こして、天蓋を開け、ベッドから降りる。傾いた月明かりがさっと差し込み、部屋の中を照らした。
レオポルトはぼんやりと、その光景を眺めた。
木材の端が傷んだ、優美なつくりの家具。空っぽで、埃を被ったアクセサリー入れ。主人のいないクローゼット。
それらへの愛着や執着の全てを過去にして、レオポルトは、これからを生きることにした。
ベッドの方から、衣擦れの音がする。見れば、エリックが寝返りを打っていた。かわいくて、愛しくて、何度見ても笑ってしまう。
これからレオポルトが、守っていかなければならない、大切な人だ。
エリックの側は、今までのどこよりもずっと、レオポルトにとって息がしやすい場所だった。
母親の最期を思い出す。太い血管を自ら切って、血の海に沈みながら、レオポルトに恨み言を吐いた。子を残さない親不孝者だとか、故郷の人々に顔向けできないだとか、気持ち悪いだとか、泣きながらレオポルトを責めた。
そして最期の最期、まともに産んであげられなかったと詫びながら、彼女は手当の甲斐なく死んでいった。
本当はレオポルトに、あんなことを言いたくなかったかもしれない。そんな甘い期待を、何年経っても捨てられないでいる。だってたしかに、彼女は、レオポルトを愛してくれていたのだから。
でなかったら、レオポルトに、季節の花を見せなどしなかっただろう。愛する故郷の話もしなかっただろう。
レオポルトが感性を殺さずに育つことができたのは、母親のおかげだ。
痛む胸を押さえて、レオポルトは窓辺に立つ。西の空に浮かぶ月を見上げた。
(だけど、母さん。俺はこういう風に生まれたから、エリックと出会えて、愛し合えたんだよ)
目を閉じて、亡き母親に思いを馳せる。
優しい人だった。故郷に残っている家族や、友人や、彼女の老いた母のことをいつも心配していた。
そんな愛すべき人が、あんな死に方をしていいはずがない。そう思い続けて、これまでを生きてきた。母親の無念を晴らすために生きて、自分の命でもって、償わなければいけないと思った。
だけどこれからは、そうではない。レオポルトはカーテンを閉めて、ベッドへ戻った。健やかな寝息を立てるエリックの横に寝そべって、安らかな寝顔を見つめる。
「かわいいな……」
そして頼もしく、向こう見ずで勇敢な、レオポルトの大切な人。
頬を指の背で撫でると、ふにゃりと笑った。
「子猫みたいだ」
はやく朝が来てほしいと思う。あの金色の瞳でレオポルトを見つめて、おはようございますと言ってほしい。そんな生活をずっと続けたい。
そうして、いつまでも、二人で幸せに暮らしたい。
できるかな、と自問する。やるしかないだろう、と、すぐに答えが出る。
レオポルト自身はどうなったって構わない。だけどレオポルトが幸せにならなければ、エリックは苦しんでしまうだろう。エリックも、母に負けず劣らず、優しい人だから。
レオポルトが、日の当たる場所が似合うエリックを、こんなところにまで引き込んでしまったのだ。だからエリックを幸せにするのが、レオポルトの義務だ。
ちゃんとレオポルトも幸せにならなければいけないのが、難しいところだった。なぜならレオポルトはこれまでに、散々汚いことをやってきたからだ。罪も償わずに生きてきたからだ。
しかし、ドミニクを倒す以外に、生きる理由を見つけてしまった。ならば、そう生きるしかない。
布団をかぶって、目を閉じる。エリックの手を握りしめた。
エリックをレオポルトの人生に巻き込んで、手放してやれる機会は、きっともう訪れない。その気もない。
手放してやろうかと真実を話しても、エリックは、怯みもしなかった。
それがどうしようもなく嬉しくてたまらなくて、レオポルトは諦めることを諦めたのだ。
足掻いて、足掻き切って、二人で幸せになる。これまでやこれからのしがらみが追いかけてこようとも、逃げ切ってやる。
それが今のレオポルトの、たったひとつの行動原理だ。
ちいさな手に指を絡めて、あいしてる、と呟く。その言葉は胸の中で大きな炎となって、いつまでも燃え盛っている予感がした。
もぞもぞとエリックが身じろぎをする。ゆっくりと瞼が開いて、金色の瞳がのぞいた。
「……レオポルト殿下?」
「すまない、起こしてしまったか」
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。本当に猫のようだった。
エリックはレオポルトの手を解いて、抱きついてくる。甘えたな仕草に、思わず笑い声が漏れた。
「なんだ。甘えん坊だな」
からかうように言うと、「はい」と素直に認める。たまらなく愛しくなって、レオポルトは丸い頭を撫でた。
エリックが唇を寄せてくる。それを自ら迎えに行って、キスをした。ちろりと舌で舐められて、目を丸くする。
彼は恥じらうように、目を伏せた。
「ごめんなさい。したくなっちゃって……」
かわいいおねだりだ。レオポルトはたまらなくなって、エリックの上に被さった。エリックも自ら腕を伸ばし、レオポルトに抱きつく。
野犬公とその愛人の夜は、まだまだ終わりそうにない。
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