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とあるモブ生徒の独白
しおりを挟むエヴァ・ヴィリエは入学当初から、一般生徒でありながらこの学園で知らないものは居ないほどの有名人だった。
生徒会長でありこの国の第1皇子でもある、アルベール殿下の婚約者。実家も太くかなりの権力のある家の息子だが、その性格はかなり悪いらしく男好きらしい。
入学式のパーティーでヴィリエを見た時まるで漆黒の蝶の精霊だと誰もが見惚れた。人形のように美しい顔、青い瞳はキラキラと光り宝石のよう、真っ白い肌に黒いゆったりとしたドレスシャツを羽織っていた。折れてしまいそうな程細い腰は男ならば誰もが掴んで揺さぶりたいと思ってしまう。
赤い唇は目に毒で、彼の、エヴァの特別になりたいと。その悪い噂を聞いても尚、出会った人間なら誰もが思ってしまう。
寧ろ悪女のような彼に弄ばれたいと考えてしまう程に魅力的だった。
だがそんな俺の淡い恋心も、エヴァが会長の親衛隊に加入した事で儚く散る。
エヴァの悪い噂は本当だったようだ。生徒会に関わろうとする生徒に非道な制裁を加えているという話。制裁の内容に苦言を呈する訳では無い、それ程までに会長を思っているというエヴァの心に、俺の恋心は散ったのだ。
だから会長との婚約破棄の噂が流れた時に、少し希望を見いだしてしまったのは仕方がない。
親衛隊を除隊され、エヴァへ不満を持っていた生徒達がここぞとばかりに嫌がらせを始めた。
殆どは会長に好意を持っていた者や、制裁された生徒の復讐によるもの。
奇跡的にエヴァの隣の席だった俺は、エヴァの憂いを帯びた表情を見る度にその身を抱き寄せたくなった。弱ったエヴァに取り入るなら今だ。
その細い体を抱きしめて、俺が守ると、俺は味方だと囁けば。エヴァと釣り合わない俺でも、望みはあるかもしれない。そう考えた。
勇気をだして話しかけたんだ。その日はめずらしくエヴァが小袋から取り出したクッキーを食べていたから。
邪険にされると思った、俺のような底辺貴族なんかに話しかけられて機嫌を損ねるかと。
「これ、僕が作ったの。上手く出来たんだ食べてみる?」
口元に近づけられたクッキーに思わずかぶりつく。その時、エヴァの指も食んでしまった。驚いたエヴァは急いで指を離していたけれど、俺はその感触が名残惜しく感じた。
ふわりと口の中に広がる甘さ。まるでエヴァのようだ、なんて考えてしまう。
「どう、美味しいでしょ?」
そう言って微笑むエヴァを可愛らしいと思ってしまった。
もしかしたら俺でもエヴァに近づけるかもしれない。そう思った。
けれどエヴァが登校する度、気だるそうに腰を擦り、艶やかな吐息を吐く度、エヴァが会長以外の男に慰めてもらっているのだと分かった。
俺が慰めなくても、エヴァの周りには沢山の男がいるのだと。そう分かった瞬間、愛おしさと同時に憎さも溢れ出す。
こんなにも近くにいるのに触れることが出来ない。
本当に蝶のようだ、ひらひらと舞い男を魅了するくせして、手を伸ばせばあっという間にすり抜けてしまう。
あの笑顔を一人占めしたい。
エヴァ・ヴィリエという存在にどうしようもなく焦がれている。そして、そんな欲望を抱えている生徒は俺だけでは無かった。
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